離婚の計画 ホームシック作戦の結果は 皇太子妃鉄拳を奮う
下女達を使い宮廷の状況を把握して大粛清をおこなうフロレンティーヌの活躍をお楽しみください。
私は自分のやった事の重要性をこの話を聞きながら噛みしめていた。
ただ単純にこの国を出てフェレイデンに帰る事しか考えていなかった。
そうしたらどうなるか?
その後の事なんか全然考えていなかった。
そうだ精神的に弱い皇太子妃なんて非難の対象だ。
残ったあの優しい伯母様の事を考えていなかった。
この後どう自分の部屋に帰ったのか覚えていなかった。
気付いた時には部屋で侍女にあれこれ指示していた。
頭で考えて行動したというより、本能であれこれ思いついた事を指示していた。
まずは下女頭を呼びつけて、担当所属先に関係なく下女達全員に下女達にはほしくても手に入らない贈物を贈った。
それはそれぞれの事情にあった金や宝石でない物たとえば貴族でないと入手出来ない家族の薬、施設への入所、希望してる者には教育の斡旋や就職も含まれる。
下女頭は寡黙な人柄だったが、それぞれの事情に精通して何が必要か教えてくれたからだ。
何を贈るのが効果的か伝授してくれた。
そして最後に下女に贈物をする貴人などいないと言って、感心して私に深々と頭を下げて退出した。
至急侍女長に必要な品を手配して、早々にそれぞれの下女に届けさせその後もそれは定期的に行った。
そのかわりに内宮の隠れた情報を手に入れる。
夜集合する夜勤の待機場に名前毎にメッセージ付きの贈物を置いておくだけ。
後は置いていった者にこっそり話の内容と様子を報告させるだけだった。
彼女達の情報は的確でなんせ忖度、依怙贔屓いっさいなしの情報だったので信憑性が極めて高い。
普段気にも留めない下女達が自分達の会話や宮廷の様子など関係ないだろうといてもいなくても侍女達は会話を止めない。
おかげで確実な情報やほしい情報が手に入る。
オルファン帝国は現在経済で財政が潤ってはいるが、フェレ連合国を抜けたばかりで依然フェレを支持っする一派もある。
それがメディルス公爵家で一大派閥を形成している。
そして皇帝と皇后の支持する貴族派
主に新興貴族で地方貴族中心とした一大派閥で中産階級とも繋がりが強く、これが帝国民の平民に支持母体として大きい。
最後にダルディアン大公家、オルファンの皇統の一派で皇位継承権を持つ中道派と呼ばれる一大派閥を形成している。
このトライアングルの関係が均等をとりながら帝国の土台になっている。
概ね帝国の勢力図を確認出来た。
要はその上を叩かない限りここは切り崩せない。
勢力図はそのまま内宮にも影響するから。
せめて内宮のパワーバランスを保たないといけない。
私に原因があるからまずは私が動かないと。
女性貴族達の集まる機会を作らないと。
この状況で私が主催者で宴を催しても欠席者が出てかえって権威を失墜させてしまう。
それは避けないといけない。
それにはやはり伯母様に動いていただかないといけない。
伯母様に会い女性貴族だけの宴の開催を主催してもらう。
私の出席は伏せて、ドラマティックな演出で登場する予定だ。
女性貴族だけの招待
皇后主催の歌劇会と夜会が開催された。
夕暮れ時に皇后宮の庭園で人気の歌劇団を招いての歌劇は大歓声の中幕を閉じる。
演目は双子の兄妹の乗る船が難破して、それぞれ辿り着いた都市で互い男女を偽りながら、生活し同性と思われている相手への恋心と恋愛をコミカルに展開しながら恋愛が成就するという内容だ。
招待者は感動で興奮し楽しんだ。
その後場所を移動し、皇后宮の宴会場で夕食をすませて招待客は歓談の場にいる。
さあ今夜の最後のクライマックスが開演する。
オルファンの主だった有力貴族の夫人や令嬢が一堂に普段は皇后宮の舞踏の間に派閥毎に歓談している。
皇后は久しぶりに宮殿を訪れたダルディアン大公女の一派やメディルス公爵一派が代替わり替わる皇后を囲み会話を楽しんだ。
「私はそろそろ失礼したほうが気兼ねせずに楽しんでちょうだい。
皆様 今夜は存分に楽しんでくださいな。
この後の事はよくよくおもてなしするように言い聞かせていますの
良き夜を」
皇后はそう言って女官長を連れ舞踏の間を退出された。
私はこっそり中の様子を伺いながら、今回のターゲットを探す。
下女達の評判で一番公爵家の汚れ役の腰巾着の伯爵家のラファント伯爵夫人とその取り巻き達だ。
いた!
狙った獲物は逃さない。
その場に行くまでも私に気つかない公爵家の支持者達がおしゃべりに夢中です。
こいつらは雑魚なので後でガツンとお仕置きするとしてまずは………。
「さすがわ。皇后陛下よくご存じね」
「ああゆう所が恐ろしいとお父様がおっしゃっていました」
「機転がおききになるから。
先回りされて先手を打たれるのでしょう」
「でも今は姪の皇太子妃殿下がああいう状態ですもの」
「えぇ。」
「一国の皇太子妃殿下ともあろう方がホームシックなど子供じゃああるまいし。いかがでしょう」
「皇后陛下の見立てが違っていらしたのね」
「本当に困った方ね」
「あの方に。内宮を統率できるのかしら」
「フェレイデンに帰国するのも時間の問題ね」
それらの会話が急に止まり沈黙が支配する。
私はその会話の中になんと先ぶれの案内もなく、舞踏の間に胸を開いて真っすぐに堂々としかし優雅にその輪に入っていったからだ。
艶やかな髪、力強い意志を持った瞳、紅潮した頬はほんのりピンク色に染まって病人のそれとはあきらかに違っていた。
この日の装いはあえて白色のシフォンのドレスでデザインはシンプルながら金糸で文様を描いたオルファンの伝統的な衣装だ。
皆が色とりどりな宝石をちりばめたドレスとは一線を敷いて装身具も極めてシンプルでかつ質の極めて高い物で揃えた。
皆おどおどとどうしていいかわからないでいる。
寝室で籠ったきり出てこないと聞いている皇太子妃がいるのだ。
皆目を丸くして無言で身体は固まって微動だにしない。
さすがにはっとして気付いた招待客は頭を低く遅いお辞儀をした。
私の悪口を言っていた者達の中で明らかに皇族への批判が聞こえたと思った者は後退りし会場を去っていった。
とりあえずはいい感じの出だしだ。
私は相手にわかるように冷たい微笑みで答える。
いわゆる笑っているが、瞳は死んでいる表情で全てを黙らせる。
少しずつ私に気が付く者、気付かない者が分かれ始める。
そして私を気付かない者の元へわからないように近付く。
「これでフェレイデン派は大人しくなるでしょう
あんなに押した皇太子妃殿下が籠ってしまって皇后陛下には心痛いかばかりか」
そう言いながらも口元は緩んでいる。
明らかにいい気味といわんばかりだ。
「皇太子妃殿下にも困った亊ね」
「子供のようにホームシックって。皇太子妃殿下としていかがなものでしょ」
「場合によってはフェレイデンに返されるのでは?」
「まぁ。良い事もありますわ。
アディーヌ様に内宮の主導権が移れば。
皇后陛下の次席。悪くはございませんね」
「ダルディアン大公女も内宮にいらっしゃる事もなくなり。
今回は久しぶりの内宮入りですもの
どうせなら我らがリアディーヌ様側におつきになればよいのですわ。」
「そうよね。
中道派の大公家とメディルス公爵派が共同戦線を組めば……」
はいこのタイミング待っていました。
この時点でようやく私に気付いたこの会話をしていたのは。
「マルティア・ディア・ラファント伯爵夫人
マリーナ・ディア・ガルディアン子爵夫人
レイ・ディア・フォルティ男爵令嬢
ファナ・ディア・ナシオ子爵令嬢
ルナ・ディア・ミシャ伯爵令嬢
内宮にそのような政治的な話題を。
しかも皇后陛下の主催の会で良く言えたのですね」
この五人は事前にレクチャー済。
メディルス公爵派の一派で特にひどいリアディーヌ公爵令嬢の金魚の糞連中だ。
私は今日の招待客にわかるようにこの間を支配するように大きな声で叫んだ。
五人はぎょっとして小刻みに震えている。
口元は開いたものの声は出せず、何とか腰を折りお辞儀をするのが精一杯のようだった。
顔は青白く血の気が引いている。
しかも会場中に私の声が響いて招待客の注目の的になってしまった。
「口が聞けないの?
皇太子妃が問うているのですよ」
「……いぃ…で…っ殿……下」
「聞こえない!ラファント伯爵夫人!
貴方は若い者の教育も出来ないの!」
射抜くような容赦ない視線の針を浴びせつつ、伯爵夫人の傍により掌を掲げ、その頬をめがけ平手打ち。
鈍い炸裂音がした後、伯爵夫人はその場に倒れ込んだ。
赤く爛れた頬を手で押さえ、私の前に這いずるように寄ってしゃがみこんで泣きじゃくり始めた。
「おっぁお許しを」
「私も……愚かでございました」
「私も…」
「皇太子妃殿下 お許しを……」
「皇太子妃殿下……」
他の金魚の糞四は大粒の涙を流しながら謝罪し私のドレスの裾を冷たい指で握り額につける。
オルファンでは絶対服従の仕草だ。
勿論赦しませんよ。
私がすりよる必要はありませんからね。
「御慈悲を皇太子妃殿下…」
「御慈悲を…」
「御慈悲を…」
「御慈悲を…皇太子妃殿下」
「御慈悲を…皇太子妃殿下」
号泣して最大限の謝罪する五人と私の前に黒い霧を纏いながらリアディーヌ公爵令嬢が現れる。
さあ?どうする?庇う?それとも?
リアディーヌは五人を蔑むように睨みつけて言い放つ。
「皇太子妃殿下
いかようにも処分すべき者達です。
しかも我が家門も許しがたい。
こんな者達を信頼して親しくしていた私も愚かでございました」
そう言うと一番年長者のラファント伯爵夫人の頬を引っかくように平手打ちした。
擦り傷が出来、血が滲んで伯爵夫人は呆然と息をするのも忘れているようだった。
リアディーヌ公爵令嬢は私の前に立ち真剣な憐れんでほしいといわんばかりの表情で、両手を握り締めポロポロと涙を見せる。
えげつない役者だ。
絶対心底でないのは歴然としているが、この状況で自分の取り巻きが罠に嵌められているにも関わらず助ける所か。
蹴落としにかかるとは。そら恐ろしいやつ。
しかしこれも想定内。
「リアディーヌ公爵令嬢
あなたに免じてこの者達を許しましょう。
但し三ヶ月間は内宮に上がる事を禁じます。
伯母様には私からお話します」
冷静に事務的に淡々と文章を読むように話す。
リアディーヌの顔が少し驚いているのがわかる。
そうそんな事でいいの?
しかしそんな事などでは済まないんだな。
私はリアディーヌに向かって明らかに勝ち誇ったように言った。
「これで終わりよ」
いえ終わりの始まりに過ぎません。
リアディーヌの両肩を両手で囲い軽く抱きしめる。
顔は見えないが身体が、肩が手が、あらゆる所が小刻みに震えている。
怒りで……。
ざまあみろと思いつつ、寛大な皇太子妃殿下を演じられて大満足っです。
そうそう私の悪口を言って消えていった連中には制裁の予定です。
事前に不倫や賭博、三股恋愛の暴露、年下に貢まくって遊ばれているのを暴露、夫に両親に秘密の借金などなど暴きまくってあげました。
いい気味です。
余裕の微笑みで作り笑顔でシャンパングラスを掲げて言った。
「さあ~皆様にはご心配をおかけしましたわ。
今日は体調も良いので皇后陛下にお願いしておもてなしをさせていただきますわ。
楽しんでいらして」
特に宮廷は長い物には巻かれろ感は半端ない。
まだ皇太子妃殿下で皇后は伯母、皇太子の信頼もそれなりにある。
どちらについたらいいかなど考える隙もない。
皆先ほどの事がなかったかのように私の周りを囲い皆機嫌を取ろうと挨拶を始める。
リアディーヌ公爵令嬢は頃合いを見計らいイラついた表情で彼女の側近の侯爵夫人や伯爵令嬢達を連れて退場したようだ。
私はしばらくフェレイデン派の新興貴族令嬢や夫人と歓談し、大公家の支持者の婦人達ともたわいのない会話を楽しんだ。
丁度大公の支持者の侯爵令嬢と伯爵夫人のグループと話している所にダルディアン大公女が登場した。
腰を下げてドレスの裾を手でつまみ、お辞儀をする仕草はまさに王族のこうは出来ないくらいに所作が美しい。
「先ほどは大きな声を出して失礼しました。」
あえてこの話題を出してみる。
ダルディアン大公女の瞳が笑う。
「とんでもない事でございます。
あのような席であのような会話。
オルファンの恥でございます。
これでしばらくは宮中も大人しくなるでしょう」
この大公女もなかなか出来る人だ。
今宵はそのまま何事もなく、楽師達を招いて音楽の鑑賞会を開催して閉幕した。
すべてが終わり私は夜があけるかあけないかの夜明け前に自室に戻る。
何やってんだろう。
自分で蒔いた種を育てる途中で抜いてしまったような馬鹿な事を…。
深い息を吐く。
窓を開けてみると、外から風に乗り白い小さな花弁が舞い込んだ。
白い小さな花弁は風に舞い散り暗がりと青い空の間を雪のように待っている。
あぁ~フェレイデンの雪のように。
宮殿の積もった雪で雪ダルマや雪投げを姉弟でした記憶が蘇る。
「はぁ~~。」
訳もなく涙が流れた。
止まらない……。
無性に母が父が弟が妹が恋しくなった。
「ふぁああぁ~~~~~~」
どうやら本当にホームシックになったみたいだ。
夜は明け朝焼けの太陽が昇って来たのに。
しばらく涙が止まらなかった。
皆元気でいるのかな?
私の事寂しがっていないかな?
私何しているの?
「わぁ~~~~~~!!」
青黒い白さも混じったその空にフロレンティーヌの叫び声が木霊する。
仮病を装いホームシックになって追い出されようとしたのに変な正義感とプライドで大どんでん返ししたフォロレンティーヌ。
結局三ヶ月を無駄にして次回はエリザベート皇后の作戦で帝都から旅に向かいます。
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