皇太子妃内宮の儀式から初夜へ
一通り家族に紹介してもらったフロレンティーヌは正式に皇太子妃になるための儀式から結婚そして披露宴へ。
エルディア大陸の各国の風土と環境、風俗、文化は違うけれど、宮廷の雰囲気はどこも同じのようなものだが、オルファンの気候と同じくらい宮廷の皇族、貴族達は開放的で社交的大らかさがある宮廷は他には存在しないだろう。
しかし儀式は別だ。
権威の証として世に知らしめるための者である為に王朝が長ければ長いほど細密に決められ忠実に再現しようとする。
今日オルファン帝国の宮殿の謁見の間でまさに新しい皇太子妃を正式に迎える事を内外に示す
「皇太子妃内宮の儀式」
が行なわれます。
さすがの私もかなり緊張して手が小刻みに震えて止まりません。
多くの王侯貴族達が着飾り、密集してその場に平伏しながら、オルファン帝国に皇太子妃が長くいなかった為に久しく行われてこなかったこの儀式を珍しそうに見ているようだった。
ようだったという言葉は私が顔を下に向けているから気配で感じるしかないからだ。
ざわついた様子はないもののいる者の吐息すら熱気となり儀式の間を充満させている。
その視線の先の私に注がれて極度な緊張が押し寄せる中深紅のクッションにひざまずいている。
私の前に威厳を讃えた様子の皇帝皇后陛下と夫となる皇太子殿下、そしてオルファンのディア大神殿の大神官がその脇にひかえてる。
フェレイデンの皇族ではあるけれど大公家であったために宮中行事にはそれほど精通していなかったし。
ましてやここは外国だし。
知らない土地、知らない人、ディア女神信仰も同じ信教ではあるものの風土を大切にする信仰なのでその手順などいろんな違いがある。
全ての宮廷人の視線を感じながら心臓は今にも口から飛び出さんとしそう~~!
無音の中、大神官が静かに私に近付くなんだか怖い。
急に私の前でたち止まり、思わず心臓がギュッとなり落ち着かせるためにごくりと唾を飲みこむ。
完全に借りて来た猫状態である。
私の額の前で左手を翳しながら神官の持つ聖杯から右手を漬けて聖水を私の頭に振りかけられた。
冷水にビクッとなる。
「女神ディアの祝福を受けし者 大公妃フロレンティーヌ・エルミア・ディア・フォルディス
ここオルファン帝国のハインリッヒ・ディア・オルファンの皇太子妃として立つ」
と唱え薬指で私の額にスズランのエッセンスとオイルを混ぜた香油をつけた後元の場所に移動した。
鼻からスズランの清々しい香りがして、少しだけ緊張を和らげる。
その後皇帝陛下が玉座から立ち、侍従から皇太子妃のティアラを受け取り私の頭の上に翳し言った。
「女神ディアに祝福を受け
ここにフロレンティーヌ・ディア・オルファンとして皇太子妃として迎える
女神の加護を永遠に受ける者 ここオルファンに永遠に」
そして私の頭に皇太子妃のティアラを乗せた。
金と銀、宝石が取付されたその冠は本来の重さよりも更に重くを感じる。
一年後離婚しますが、なんだか責任感のようなこの重さを感じるのは青い血だからでしょうか?
そんな真反対の感情が心の中で渦巻いて変な感覚を味わっていた。
謁見の間に初めて歓声が上がる。
「オルファン帝国 皇帝陛下 万歳」
「皇帝皇后陛下 万歳」
「皇太子殿下 皇太子妃殿下 万歳」
怒涛の歓声が身体から湧き上がる青い血が騒めき、身体中を熱と荒波が引いては返す様に駆け巡る。
吐きそうな緊張感の中で高揚感でこの騒めきの中に溺れそうになる。
儀式を終えて、両陛下と皇太子や大神官が退席して、私は侍女達に付き添われて謁見の間を退出する。
無意識に大きく息を吐いてしまった。いけない……。
今大神殿での結婚式を控え、オルファンの民族衣装を着て皇太子と共に馬車に乗り向かう。
馬車といってもオルファンではオープンタイプの馬車は治安の良さと気候のせいだろう。
これにはテンションが上がる。
皇太子のエスコートで手を引かれ馬車に乗り込む。
こう時でも冷静さを保てるのはさすが皇太子私は慣れない。
大神殿は徒歩でも行ける距離だそうだが、ここは儀式の一つだそうだ。
「大丈夫だよ。」
皇太子は始終穏やかで私にニッコリと微笑んだ。
あまりに明るいその笑顔にまた私の少しの罪悪感が心の奥底から湧き上がる。
あぁ~せめて性格が悪かったらよかったのに。
心でそう思いつつ、そんな顔を見せる事は出来ないのでめいいっぱい微笑んだ。
皇太子はそのままの笑顔を国民に向けている。
私も負けじとにっこりと微笑む。
歓声があがる。
オルファンの国民は熱狂的に私を歓迎してくれている。
以前は敵対する者同士だったなどとは思えないほどに。
伯母様の力量で貿易額が大幅に増え国民はほとんど税を納めないですむようになったという。
すごすぎる伯母様、そんな切れ切れの伯母様相手に私は見事に離婚を獲得できるのだろうか?
一抹の不安と恐れとは関係なく大神殿での結婚式は儀式に乗っ取って進められた。
すでに両陛下、主だった参列者は着席していいて、私達の登場を待つばかりのようだ。
大神殿前に皇太子と二人揃って入場する。
両側に両国の使者とオルファン帝国の皇族、王族、貴族達が立ちながら拍手をして歓迎してくれる。
オルファン式だそうだ。
皇太子は私の緊張を和らげる様に天使の微笑みを惜しみもなく私に注ぐ。
痛いです。
本当に心の底から罪悪感に苛まれます。
顔がゆがんで笑えているか不安です。
自分でも不自然です。
誰か誰か助けてと思いますが助けてもらえないのも知っています。
祭殿の前には大神官が立っています。
皇太子と私はその前に二つのクッションの上に跪き手を前でクロスしてその時を待ちます。
大神官は後ろを向いてクリスタルの女神像に向かって二度跪づいた後、再び立ち上がり私達の前に立ちました。
「女神ディアの祝福と幸い
このオルファン帝国の皇太子
ハインリッヒ・ディア・オルファンと
フェレイデン帝国大公女
フロレンティーヌ・ディア・フォルディスの婚姻を
女神ディアの元ここに結ぶ
女神ディアの祝福を ここに」
大神官のその言葉を最後の合図として、大神殿の塔に提げられた金の鐘が一成に鳴り響く。
同時に外ではその音に驚いて薄い青空に向かい鳥が羽ばたき飛んでいった。
外から祝福の歓声が大神殿からも聞こえてくる。
あぁ~~神様を欺いたら地獄行ですね……私……。
ブルーな気持ちの中大神殿から再び宮殿に戻った時の記憶がない。
次に自分の意識がはっきりした時には披露宴のまっただなかだった。
やっ~~ばい!!聞いてないのでは?
いやぎり大丈夫のようだった。
覚えきれないほどの宮廷人の紹介を受けていたようだが。
現時点でもはや覚えていない。
隣の皇太子は微笑んで私を見ているし、周りにいる貴族達も不審に思う様子はないが。
「しかし素晴らしい儀式でしたな。
皇太子妃冊封はオルファンの長い歴史でも約百年ぶりですからね。
めでたい限り。
誠におめでとうざいます皇太子並びに皇太子妃殿下」
少し恰幅の良い温和そうな一人の男の貴族が嬉しそうに言った。
「ありがとうメディルス公爵」
皇太子が嬉しそうにはにかみながら言った。
私はとりあえず話を合わせないといけないのでにっこりと微笑む。
確かメディルス公爵家はオルファン家に次ぐ名家二代目前の公爵夫人は確か皇族だったかしら。
「皇太子殿下
是非我が娘を皇太子妃殿下にご紹介させていただきたい。
我が娘もお会いできるのを楽しみにしておりまして」
皇太子は頷き、私の顔をいいかな?という表情をして私を見ている。
別にいいですけど。
「是非」
小さな声で答えた。
するとメディルス公爵の隣に私達の死角になる場所からすーと人影がしたと思ったら、私と同じ年くらいの女性が目に入った。
小麦色の肌はきめが細かく黒髪は艶やかに後ろで緩く結ばれすらりと背も高い。
ダークブラウンのくりくりした瞳は一瞬鋭く光ったがすぐに温和な装いを纏う。
鼻筋が通りぷっくりとして官能的な唇と胸元は細いものの豊満な胸、それとは逆の
括れた腰と細い足がドレスの切れ目から覗いている。
まさに男性の望む女性の姿がそこにあるように思うと同時に、自分のコンプレックスを知られたのではないかと何故だか思った。
「御機嫌よう。今日は楽しんでくださいな メディルス公爵令嬢」
「お初にお目にかかります。リアディーヌ・ディア・メディルスでございます
この度はご結婚おめでとうございます」
少し頭を上げて挨拶した。
「あとがとう。
共に女神ディアの祝福を」
私は儀礼に基づいてメディルス公爵令嬢に言葉をかけた。
かと思うと私達に近寄る影二つ。
基本的には高貴な人物から声掛けをして初めて臣下は話が出来る。
私にはその人物がどういう人物なのか?
皇太子はすっと歩み寄り人懐こく声をかける。
「大叔父上
御機嫌よう この度はご出席ありがとうございます」
大叔父上つまり父の叔父だ。隣には私より若干年下の少女がドレスの裾を広げてお辞儀をした。
「アマーリエ・ディア・ダルディアン大公女 御機嫌よう
狩猟大会以来だね。」
「はい殿下 御機嫌よう」
私よりも若干若くはつらつとした表情に太陽の様な明るい笑顔が印象的な少女。
一瞬目が合い、お互い目を細めた。なんだかそうなんだかちょっと変な感じがする。
何がと言われると困るけど。
「さあ。では皇太子妃。
行こうか」
皇太子は右手をかかげると音楽隊が伝統的なリュートと笛を奏でて音楽が鳴り始めた。
私の手をとり、宴会場の中央に二人で進む。
向き合い手をとり合う。
オルファンの伝統的なダンスはすでに取得済み。
後は緊張との戦いだ。
さすがに皇太子はリードがうまい。
フェレイデンの踊りよりもさらに動きが激しい。
熱気も感じるほど。やはり気候がいいと情熱的な様式を好むのでしょうか?
これはこれで楽しい~~ダンスはなんでも楽しいわ~~オルファンに来て初めての嬉しい出来事。
しかし知る由もない。この後に待ち構える。
最大の難関「床入れの儀式」を突破しないといけない。
次回は冒頭の続き初夜の一夜が…。
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