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政争勃発 三大派閥の激突Ⅲ 拿捕された皇太子

ハインリッヒとフロレンティーヌがいい関係を築こうとした時突然呼びに来た侍従。

どうやら皇帝陛下に何かあったようで。

どうなる?


侍従に呼ばれ丘を降り輿に乗り急いで離宮に戻った。


僕とフロレンティーヌは三階の父上の寝室に入る。

寝台に横たわり意識のない父上はかすかな息をしているものの顔は青冷めている。


枕元には母上が父上の手を握りしめ、上半身を寝台に預けるようにうすわくまって動かない。


「母上。

 父上の具合は?」


僕はまだこの状況を理解出来ずにいる。

さっきまで、母上の膝の上で気持ちよさそうに昼寝をしてらしたのに。


顔色が青白い。

今はまるで…いまにも想像したくないが。

今にも崩御されそうな様子だ。


母上は僕達に気がついたのか、顔をあげて僕を悲し気に見つめた。

目は泣きはらしたのか腫れている。

そういえば母上の泣いている姿は初めて見る。

どんな時でも冷静で感情的な姿をあまり見せてこなかった。

少なくとも僕の前では。


「あれから一度目を覚まされて、立ち上がった瞬間

 失神されて。

 すぐに離宮にお運びしたのですが。

 宮廷医長がいうには度重なる心労と」


母上は涙ぐみ目頭を押さえる。


「伯母様」


フロレンティーヌが母上の肩を抱きしめ、愛おしそうにしている姿は実の親子のようだ。


ようやく顔をあげた母上は深く息を吐き言った。


「ハインリッヒ。

 父上の意識が戻らない間はお前が摂政殿下として政務を行うように。

 但し表向きは私が倒れ父上が看病をしている。

 政務は侍従長を通じお前に伝令している事にします。

 今大公派も流動的な不安定な政治状況です。

 公爵派に隙を与えるような状況は作れない。

 丁度皇室派の重鎮達がイスファハンに来ていますから。

 極秘に徴集します。

 わかりましたね。

 ハインリッヒ摂政殿下」


突然の母上の命に頭が追い付かない。

さっきまであんなにお元気だったのに。

皇帝陛下の意識混濁などと…なんの前兆もなかった。

にも関わらず。

誰が想像出来たろう。

あまりに急速すぎる。

僕は頭が混乱して震えが止まらない。


皇太子といっても皇帝に比べるとその重責は何でもないように思える。

しかも帝国は皇室派、大公派、公爵派と三大派閥を形成している。

概ね皇室派と公爵派は対立関係にあり、大公派が中道派とし絶妙なバランスで政務をとってきた。

しかしここにきて何故か大公派は公爵派になびきつつある。


この複雑な状況で僕はうまくやっていけるだろうか?


自問自答するが答えは否定的な事ばかりだ。


狼狽しているその時母上を抱きしめながら、青ざめたフロレンティーヌの顔が見える。

彼女は僕の心細そうにする姿が目に入ったのか。

母上の額にキスをした後、僕の傍によってきてその柔らかい両手を僕の頬を覆う。


「ハインリッヒ摂政殿下

 必ずや。出来ますとも。

 全てうまくいきます。

 皆を信じましょう。

 大丈夫ですわ」


彼女自身も不安でしかたないだろう。

もし公爵派が宮廷を牛耳れば自身の身が危うい。

彼女の手もわずかだが震えている。

こんなふうじゃいけない。

僕がしったりしないと……。


自然と瞳に力が入る。


僕は覚悟した。

何が起こってもその準備はしておくべきだ。

突然とは。

そもそも物事は突然起こる物だと、自身に言い聞かせた。


離宮の一階に設けられた舞踏会会場に机を持ち込み避暑に来ていた。

皇室派の重鎮達が直ちに離宮に集められた。

詳細を伝言されないまま一同テーブルにつき僕が入室する。


「挨拶は良い。

 皇帝陛下が倒れられた。

 重体ではないものの、まだ意識の回復はなされていない。

 これより私ハインリッヒ・ディア・オルファンが摂政として政務をとる。

 しかし表向きは陛下は侍従を通じ、皇命を私に伝令されるとする。

 今政務は非常に困難な状況にある。

 皆の終結と同意がかかせない。

 どうか私に力添えを。

 この通りお願いする」


僕は頭を下げた。

最初で最後だ。

この政治状況では皇室派の鉄の結束は欠かせない。


皆騒めいた。

皇族が臣下に頭を下げるなど前例はない。

それほど貧窮しているのだと理解した。


皇室派の最重鎮者バラディン公爵が瞼を閉じて僕の話を聞いていた。

齢六十三歳の皇室の寵臣だ。


「殿下。

 頭をお上げくださいませ。

 私達は前皇帝から嫌われ、蟄居を命じられた者達です。

 それを惜しいとおっしゃり現皇帝陛下がお召しくださった。

 なんでその御恩を。恩寵を裏切るなどという事がございましょうか。

 摂政殿下。

 どうか命がけで私達は殿下をお支えする所存でございます」


皆これに大きく頷いた。


「我がファルドル侯爵家も軍事力を警戒され私は蟄居させられました。

 忠誠をお誓いいたします」


「我がロディーエン侯爵家も交易でオルファンに貢献していないと私は蟄居させられました。

 お誓いいたします」


「我がランファ伯爵家も財産を差し押さえられ私は蟄居させられました。

 お誓いいたします」


「我がディルラ伯爵家も娘を愛人に差し出さないと私を蟄居させられました。お誓いいたします」


概ね皇室派を形成する重鎮達は僕についてきてくれる。

なんて力強い事か。

最初は母上が倒れられたという事にしようと僕は思ったけど。


フロレンティーヌから「重鎮達には真実を言うべきだ」と進言された。


後でばれた時、これが発端で信頼関係が崩れるのは問題だと主張したのだ。

よく考えればそのとおりだ。

いずれ私が即位した際に彼らからの信頼は重要だからだ。


フロレンティーヌの言葉通り、重鎮達からは信頼される者にならないといけないと改めて思い知らされた。




********************************************





イスファハンの近郊

ダルディアン大公家の別邸があり、大公は秘密裏にこちらに滞在していた。

深夜その邸宅を訪問する客がいた。

誰にも知られずに使用人が使う裏のみすぼらしい裏門を黒のマントに身を包む男が衛兵に遮られもせずに通って邸の中へ入る。


調理場を通り、細い廊下を歩く足取りは素早い。

年の頃は三十半ばか細身で背の高い男はなれたかのように二階にある大公の居間の扉を叩いた。

深夜で誰とも会わずに邸宅を訪問するなどただ事ではない。

ノックもせず滑るように中へ入った。


大きな窓の傍に扉に向かい立っていた。


「遅かったなディルラ伯爵」


大公はその男に向かい低い声で言った。

そうあの皇室派の重鎮達の一人だ。


「ダルディアン大公閣下。

 会合が遅くなり、それよりも大変な事が」


大公の耳元でディルラ伯爵がぼそぼそと話始めると、大公の瞳が大きく開き困惑しているのが見てわかる。


「………わ…わかっ…では話を………進めよう。

 好機だ…」


と同時に大きな肩で息を吐く。


大公はもう引き返せないと覚悟する。

いろんなことがあった。

これからもあるだろう。


大公はディルラ伯爵に手紙を渡し耳元で囁いた後後ろを向いた。


ディルラ伯爵はその手紙を受け取り、無言のまま部屋を後にして、イスファハンにある自身の別荘に帰っていった。


大公は窓から漏れる満月を見ながらどんなに暗い夜も照らす存在であるべきだ。

それが大公家の役割だと考えて行動して来た。



では自分はどうなのか?


太陽になりたいのか?

月になりたいのか?

と。


わずかに風で窓のガラスが軋む音が聞こえる。

まるで今の自分のようだと少し苦笑する。



翌日深夜ダルディアン大公はイスファハンのメディルス公爵の別荘へ向かう。


青白い空の下メルディス公爵の別荘に到着した。

鬱蒼とする深い森の中に建つ別荘は護衛兵が十分に配置されるほどの警戒ぶりだ。


執事が玄関口で待っており、公爵の私室に案内した。


「公爵様

 大公殿下がお見えになりました」

執事が扉の前で言った。


「入ってもらいなさい」


ドアノブが廻って、中へと入ってく。


公爵は普段着で執務室で待っており、大公を目に席を立った。


中央のテーブルに案内しクッションの上に二人座る。


「公爵。

 大変な事が起こった。

 皇帝陛下が倒れられた。

 今昏睡状態で予断を許さないという。

 皇室はこの事を内密にするつもりだ。

 皇太子殿下が摂政になられる。

 木は熟したのではないのか?」


「我らに運が向いてきた」

公爵は満足そうににやりと笑う。


「大公閣下

 皇帝陛下亡き後のお覚悟は確かなのでしょうね」

公爵が厳しい顔つきで念押しする。


大公は諦めに似た表情の後言った。

「娘には手出ししないでくれるのだな。

 それと引き換えだ。

 娘の安全を確約してくれれば。

 皇位を目指す」


公爵はにんまりと得意げに含み笑いをした後、大公に軽く礼を行った。


「我々公爵派は大公閣下の即位を心より願い一丸となりまする。

 ダルディアン朝オルファン帝国の新皇朝を建国しするためにこの命差し出す事を約束致します」


途端に上機嫌だ。

大公は緊張の中にいた。

これでいい。そうこれでいいのだ。

自分にいいきかせた。


「さて公爵。

 ついては今が好機だ。

 皇帝陛下がご病気の中動けない。

 皇后共に幽閉すればいい。

 問題は皇太子夫妻だ。

 なんといっても人気が高い。

 これからも大きなたんこぶだ。

 ここは皇太子の暗殺は必須ではないか?」


もっとも意見だった。

否定する理由が見当たらない。


「では裏の事は私にお任せくださいませ我らの皇帝

 陛下。

 私の命をかけて」




**********************************************




その日は元々皇太子夫妻がお忍びで訪れると予定の外出。

いまから変更など返って怪しまれた。

お忍びといっても皇族の安全を考慮され、事前に打合せの上計画的に訪問する。

知らないのはあくまで現場の人に対して。

だからこそサプライズ感が上り、皇室への敬愛に繋がる。

昼下がりイスファハンの郊外にある温泉施設に併設された老人介護と身体障害者施設を慰安する。


馬車は天候の悪さから屋根付きの物が用意され、馬も思い車を引けるだけの6頭立てだが質素な物が選ばれた。


降り始めた雨は小雨ではあったが空はどす黒い雨雲が広がりつつあった。

ちらりと隣に座るハインリッヒ殿下の顔を覗き見る。

ハインリッヒ殿下は皇帝陛下が倒れてから神経が張り詰め通しで隣で見ていて痛々しい。 

今日も私と目が合うと微笑むものの、その瞳の奥には影が射しているように見えた。


私は隣で彼の手に自分の手を重ねる。

細く長い冷たい指を自分の指の温度を彼に伝える。

言葉ではなく私はここに隣にいると知らせたくて。

これが自分の今出来る精一杯の事をと思うから。


彼は私の思いを理解したかのように精一杯笑顔を作る。

悲しみを隠すように。


私も彼も慰問した施設では入所している人達と施設での生活、楽しかった合唱大会や、孤児院との交流会の様子を語り明かし、職員達とは日頃の苦労を労った。

出会った人々は感涙し、喜んでくれる。

そこには嘘も体裁も何一つなかったと心から思えた。


彼を見て、どんなに自身が悲しく辛く困難な事があろうとも、それを隠し人々を慈愛に満ちた姿を見せないといけない存在が。

彼のそして自分の十字架を知った瞬間だった。


いままで大公女の地位には重荷しかないと思っていた。

そんな考えはたたの甘えや現実を知らない世間を知らない。

知ろうともしれない愚か者だったと思い知らされた。


恥ずかしのあまり隠れる所があれば隠れたい。

しかしそれすら恥ずべき事だった。


精一杯明るい皇太子妃としてそれを皆が民が望むなら喜んで行えた。


時はあっという間に過ぎていく。


馬車に乗り立ち去る私達に姿が見えなくなりまで、手を振る人々に報われた気がした。


「ハインリッヒ殿下。

 また来たいわ」


「ああ。そうしよう」


余韻が私達を包む。



帰路は降り始めていた雨は勢いを増し、大粒の水が天から落ちてくるかのように激しく馬車を叩きつける。

馬車はその速度をドンドン上げていく。


「かなり酷い雨だ。

 急がずに安全に……」


ハインリッヒ殿下がそう言いかけ御者の姿を見た時に殿下の身体が一瞬動きが止まる。

その手に激しく上下に鞭を馬に打ち明らかに何かに追われ目は血走っている。


その姿に殿下は少し顔を後方に少しだけ傾けるとその顔は凍り付いている。

しばらくの沈黙。

はっと意識を戻されると私の手を握り言った。


「この馬車は狙われているようだ。

 後ろから十数人の兵士が馬で追ってきてる。

 この重い馬車ではすぐに追いつかれてしまう。

 まだ間隔は一Kあるからいいかい。

 馬車はここで止めて君は御者と共に離宮へ戻れ!

 後の兵士を倒してから僕も帰るから」



「そんな!殿下を置いてはゆけません。

 私も戦います」


自身術も含めある程度剣は使える。

実践はないけれど。

ハインリッヒ殿下のその瞳に相当の状況が厳しい事がわかる。


戦場で多くの合戦を交わったろう。その腕を信じない訳ではないが、一人で十数人と戦えるだろうか?

だから私も。


ハインリッヒは大きく首を左右に振る。


「二人共命はない」

私は不安の為に涙が溢れて止まらない。

恐怖からかまた殿下と離れる悲しさなのか?わからない。

ただ涙が止まらないのだ。


「いいかい!

 君がいても足手まといだ。

 二人とも助かるにはこうしないといけない。

 僕は大丈夫。

 フロレンティーヌ」


「ハインリッヒ」

初めて敬称なしで呼んだのが、こんな状況なんてひどい妻。


そんな私を勇気づけるかのように額にキスをした。


「待っていてくれるなら嬉しい。

 好きだよ」


私は涙が止まらない。


窓から御者の座る場所へ移動して鬼の形相の御者の手綱を取り上げて馬車を止める。

御者を説得し馬を車から離した。


「さあ行くんだ」


御者の後ろに私が乗り、ハインリッヒが馬のお尻を叩くと、鳴き叫び馬は力ずよく土を蹴り、ドンドンと足取りを速めて去っていく。


私は涙で彼の姿が見えないが後ろをひたすら眺めながら彼が見えなくなるまで見ていた。


あぁ~助けを呼ばないと……。

「助けを呼ぶわ。

 だから生きて生きて!」


残った僕は剣を手に馬に股張り、追ってに向かい進む。


一キロあった距離見る見る縮まり今はすぐ傍まで来ていた。


僕は心に強く誓う。

絶対に命に変えてもこの連中をさきには進ませない。


剣を右手に六頭の中でもっともすぐれた馬を選び脇を蹴り進める。


「わぁ~~~」


人数として十五ぐらいだろうか?

明らかに暗殺者とわかる風体をしている。

その剣のかまえ方から相当の力があるのがわかる。

先頭の者と剣を交じ合う。激しい金属音が耳元で鳴る。


接近戦で力任せに相手の剣を振り払い、その勢いで相手は馬から落ちる。


背後から剣を振りかざす者を振り向きながら剣で振り払う。


血吹雪が舞う。

相手は馬から転倒する。


しかし多勢に無勢だ。なんど振りかざしても終わりが見えそうにない。


「ヴゥ…」


思わず剣が飛ぶ。

馬上から転げ落ちてしまった。

「ウッ…」

頭を強く打ち付け鮮血が散る。

鉄の匂いがしたと思った後意識が飛ぶ。


フロレンティーヌは今頃無事に離宮に戻ったろうか?

あぁ~~逃がしてよかった。


……………。そのまま誰かに抱きかかえられたような感覚が襲った後完全に気を失い意識が飛んだ。








突然の襲撃にハインリッヒは掴まる。

次回は遂に物語はクライマックス

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