政争勃発 三大派閥の激突Ⅱ 離宮での波紋
感染症がある程度落ち着き夏の避暑地イスファハンへ向かう。二人の距離感はギクシャクとしている。
離宮では皇室の家族団欒のひと時にほっこりする。
でもこんな静かな場所で事件が!
最近はなんだかフロレンティーヌに避けられている気がする。
夏至の日の狩猟大会からなんだかフロレンティーヌ変だ。
僕が皇太子妃宮へ行くと病気だ。
体調が悪い。
薬草園に行って不在だと侍女に伝言され馬車は皇太子妃宮にある。
理由をつけては会ってもらえない。
かといって視線を感じる時にあるし。
公けの場では完全に目線を外して、少し距離を置こうとしている。
何におこっているのだろうか?
何かいけない事をしたのか?
それとも本当に嫌いになったのか?
二人になろうとしないのでなんだかもどかしい日が続きている。
はぁ~~女心とは本当にわからない。
僕は頭をかかえる日が増えた。
政治と恋にと大きな問題をかかえたまま、恒例に夏の離宮イスファハンへと家族で保養に出かけた。
先頭の馬車には両陛下と未婚の妹達、そして僕の馬車、体調が良くないからと一人で乗りたいといって後ろのフロレンティーヌの馬車。
脇は近衛兵が、後方には侍従、侍女と荷馬車が続く。
イスハファンまでの道のりには沢山の帝国民が歓声をあげて私達を歓迎してくれている。
特にフロレンティーヌの馬車に向けられる拍手は空を突き破るほどだ。
やはり今回の感染症の功労者は彼女だ。
しかも大神殿の孤児院の演説が伝わり、奇跡の皇太子妃と噂になっている。
フロレンティーヌも心から嬉しそうに手を振っている。
本当に可愛い人だ。誇らしい。
あぁ~~あの日以来ハインリッヒ殿下となんだか気まずい。
大公女と何を話していたんですか?
お二人はどんなお付き合いなんですか?
私に待つっていっていましたよね。
あれはなかった事になってますか?
今も大公女の事好きですか?
聞けたらいいけど。
怖すぎて聞けない。
あの二人そういう関係だったんだ。
なんだかそう思うだけで睡眠があんまりできないし。
なんだか泣きそうに悲しくなっちゃう。
てっゆうかこれってやった~~と喜ぶ話のはずなのに。なのに。
なんでモヤモヤした気持ちでいるんだろう。
なんで?なんでなのよ?!
私本当に変。変自分でも変だと思う。
誰か!よきアドバイスを!!
ガタガタと揺れる馬車の中と各領主の邸宅てま宿泊を繰り返しながら、鬱々とした気分で過ごしイスファハンに到着した。
皇帝陛下が必ず夏の一か月の避暑地としてこの地で過ごす。
町中皇室の訪問を歓迎し、皆沿道で手を振っている。
「皇帝陛下」
「皇后陛下」
「皇太子殿下」
「皇女殿下」
「オルファン万歳」
「わぁ〜」
「奇跡の皇太子妃様だ!」
「わぁ〜〜」
「皇太子様きやぁ~~」
まあぁピンク色の声援も聞こえてくる。
まあ~一般的に美男でしょう。
「皇后様綺麗」
男女にかかわらずうっとりとした溶けそうな瞳を投げかけている。
「皇女殿下!可愛い~」
投げかけられにっこりと満面の笑顔で声援に応えた。
手を振りながら私は思う。
最初の決意から何か違う方向にいっているように……と思いながらも、離宮の門を抜けて宮殿に入った。
私の目まぐるしい離宮での一か月が始まる。
着いたそうそうここで問題が次々起こる事をこの時は知らなかった。
離宮は帝都の宮殿とは違い家族団欒の宮殿という事で、皇帝夫妻と皇女殿下は三階の同じ部屋を使用し、私達皇太子夫妻は二階をあてがわれた。
つまり四六時中同じ空間にいる事になる。
もうぅ~~~~聞いてないよ!
いきなりの二人っきり。
部屋は広く寝室と居間が一緒になっている。
宮殿は比較的装飾は控えめでありながらも大理石や黒檀の調度品が飾られ、クッションやふわふわの肘掛など過ごしやすい内装に整えられている。
私は居間でそわそわとなんだか落ち着かずに部屋中をキョロキョロ見渡す。
皇太子はこちらを見ながら、嬉しそうにしている。
ちらちら見る私の仕草が面白いんだろう。
なんか腹が立つ!!
自分勝手なのはすごくわかってる。
なんだかいたたまれない。
身体中に虫が這っている嫌な嫌な感じ………がする。
「さあ 父上達の部屋に行こうか。
ここでは家族が一緒になって過ごすのが目的だ
よ」
ハインリッヒ殿下が肘を曲げて私の腕を待っている。
私は覚悟を決めて腕を差し出して彼の肘に絡める。
静かに部屋を出て廊下を過ぎ、階段を上がり皇帝の私室へ入った。
皇帝陛下は普段着の上下続きのダボッとしたオルファンの民族衣装をお召しになっている。
生地は麻だが金糸や銀糸を使い刺繍がほどかされている。
クッションに腰を降ろして茶をお召しだ。
くつろいだ姿も威厳に満ちて穏やかさもあり、親近感も相まって普段よりも接しやすい気がする。
お辞儀をしようとすると。
「ここは家族だけの空間だ。
それにイスファハンは避暑地だ。
休暇だよ皇帝もお休みだ」
微笑んだ顔が優雅で目がチカチカする。
「さあ。フロレンティーヌにこちらへ」
伯母様が手まねきして自分の横に座らせる。
当然ながらその隣はハインリッヒ殿下だ。
ふたり大きなクッションに腰を降ろし侍女の差し出すティーカップを手にする。
なんだか緊張するなれない家族暖欒。
伯母様の隣と皇帝陛下の膝の上には未婚の皇女殿下がちょこんと座っている。
上のエルイシア皇女殿下は皇帝陛下によく似ているし、伯母様の隣のルナ皇女殿下は伯母様によく似ている。
「お兄様。
あかちゃんはいつ見せてくれるの?」
エルイシア皇女殿下が子供ながらの危険な言動を容赦なく私達に浴びせる。
「私もあかちゃん見たい!」
つかさずルナ皇女殿下も私に期待の眼差しをキラキラさせて熱望する。
口に含んだ紅茶を思わず吹き出してしまった私。
ハインリッヒ殿下はかなりの衝撃で妹の言動に目がキョロキョロしてかなり動揺している。
目の焦点があっていない。
「エルイシア ルナ そのうち見せてくれますよ。
女神ディアにお祈りしましょうね。
そしたら届けてくれますよ
その時に可愛がってくださいね
ねっ。フロレンティーヌ」
「は~い母様」
「ルナ可愛がる」
「わたしも」
くったくのかい可愛らしい小悪魔達に私はタジタジだ。
伯母様はなだめるようにエルイシア皇女殿下に言った後、私の方をじっと見つめた。
怖いです伯母様!!
「んっ…。」
なんとも言い難い変な沈黙の後、皇帝陛下が話題を変えてくれた。
「ここはね。
子供達がまだ生まれる前に避暑地として滞在した
場所で。
あの頃から幸せを少しづつ感じるようになった。
全てエリザベートのおかげだ。
本当に幸せだ。
だからハインリッヒにも幸せになってほしい。
勿論フロレンティーヌにもね。」
ぼそりと言った皇帝陛下の瞳には慕情とも追憶とも、懐かしさの中にわずかに悲哀もあり、当時を想像する事は難しいが多難にあった生涯だと聞いていた。
伯母様は皇帝陛下の手を握りしめ。
「私も幸せ。
あの頃より。あの頃も幸せでした。
今はもっと幸せですよルードヴィヒ」
本当に幸せそうに皇帝陛下の肩に寄り添った。
私は両親のこんな穏やかそうな風景は少なくとも経験がない。
私の記憶のないだけかもしれないが。物心つく頃には父の母への溺愛は尋常ではなかったので、穏やかな愛と接するのは無縁だった。
仮面夫婦よりはましだろうが……。
ハインリッヒ殿下の穏やかな性格はこのお二人からだと思うとちょっとうらやましいし少し嫉妬する。
まだ幼い皇女達と人形遊びをしながら遊ぶ。
よく妹とやったっけ?
皇女殿下達と遊ぶ様子をハインリッヒ皇太子は優しく見ている。
その光景を両陛下はとても嬉しそうにみている。
久しぶりのくつろぎに癒された一日を柔らかな微笑みの陽だまりの中で過ごした。
伯母様が皇帝陛下に耳打ちしたようだ。
「意外とそんなに遠くない未来があるかもしれませんね」
皇帝陛下の口元が緩んで。
「そうだね」
というものだった。私は知らないが。
一週間は旅の疲れもあり、この後は静かに過ごした後、家族で近くの池にピクニックに訪れる。
裏庭の奥にある池で風光明媚な場所だ。
湖畔に竹が敷き詰められていて、その上にふわふわのクッションが置かれている。
すでに私達が到着する頃には皇帝陛下は伯母様の膝の上でウトウトと眠っていた。
私達に気づいた伯母様は柔らかな表情で私達を迎えてくれる。
「最近の政務でお疲れなのですよ。
大公殿下の反発が多くなったようで。
何かあったのか?
冷静で何事も芯の通った方なのに。
どうかされたのか?
分別なく反対されて。
良い事はありません。
各派閥に今微妙な緊張感が出来ています。
困った事」
ハインリッヒ殿下もよく知るのか、伯母様の手をとり頷いた。
皇女殿下もあまりに気持ち良い天気に二人すやすやお昼寝している。
本当に天使。
「そこの脇道に山道があります。
距離はありませんから。
イスファハンを見ていらしゃい」
「はい」
ハインリッヒ殿下が私の手をとり歩き出す。
無言だが、頬は紅潮し晴やかで嬉しそうな顔をしている。
二人で脇道に進み山道を歩き始める。
山道と言ってもやや傾斜している程度でなだらかだ。元々やや中腹にある池なので、登山というものでもない。
「足元に注意してフロレンティーヌ」
「はい」
季節は夏だが、ここは避暑地帝都とは5度ほど気温が違うらしいので楽な道のりだ。
青々した緑の中、木漏れ日と涼しい風が心地良い。
二人っきりだが、森の癒し効果なのかあまり意識しなくなっていた。
「危ないから手を」
大きな男らしい手が差出される。
一瞬躊躇したけど、勇気を振り絞って右手を差し出す。温かいハインリッヒ殿下の手が身体を温めて心を温めてくれる感覚が生まれる。
優しい方だわ。
本当にこちらが罪悪感を感じるほどに。
木立の先にようやく見えた頂上は小さな屋根付きの東屋が建つ。
ハインリッヒ殿下はなれた手つきで私を東屋に誘導し、小さな椅子に腰をかけた。
二人並んで東屋からイスファハンの街並みが見える。山々を背に開かれた平野に保養地ならではの歌劇場や温泉施設、貴族の別荘や宿泊施設が立ち並ぶ。かといってすぐ傍に池や湖、森が点在した自然豊かな地だと思った。
「父上は幼い頃から心に傷をおっておられ、母上と
結婚するまで、不幸の連続だったんだ。
いつも母上に感謝して敬う姿を見て、僕もそうあ
りたいと思っているんだ」
柔らかなその声、彼が優しいのはそんな敬愛する両親の影響なのだと初めて知った。
きっと事実に違いない。彼の優しさに偽りなどないのだ。
私はこの時に事実と向き合わなかったのは自分の方だと気が付く。
やはり事実を伝えなくては向き合わないと。
私はこのままではいけない。
「わた…私……ハインリヒ殿下に………」
話し始めた時だ。
「殿下!
皇太子殿下!
大変です。
陛下が。皇帝陛下が」
侍従の声が私の告白を遮った、
ハインリッヒにようやく素直になれそうなフロレンティーヌ。
しかしそこに侍従の邪魔が、でも邪魔だと思われたその侍従が告げた言葉は衝撃の一言だった。
次回はついに政争が激化する。
物語は最終回に向けてクライマックスに!
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