オルファン帝国の危機 浪費家の皇太子妃Ⅵ 百合の皇后と奇蹟の皇太子妃
やっと感染症の特効薬を見つけたフロレンティーヌ達。
帝都の皇后に危険がせまっているのをどう助けるのか?
大神殿に併設された孤児院の一番高い塔の先にいるのは母上とフロレンティーヌ。
「聞くがいい。
こちらにいらっしゃるエリザベート皇后陛下は慈愛の皇后であり。
万人の太陽の母である。
誰が犯せよう。
これを見よ。
これは女神ディアの薬草
これこそ皆を死から遠のける女神からの贈物
女神ディアの薬草
この度の病から皆を救う薬草です
女神ディアの祝福を
もう大丈夫です
この薬草で皆を救うのです」
フロレンティーヌが孤児院の塔の上から落ち着いた低い声でその元に聴衆に向かって言った。
僕はそれを震えながら聞いている。
塔の下で斧や鎌を持った市民が大挙して押し寄せた民衆が食い入る様にその話を聞いている。
僕は茫然とそれを見ている。
あぁ~~。僕はなんて無力なんだろうか?
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シャルロッテ院長様と別れた後、急いで研究所に戻る。
南下したエレナ達の話によると下流にいくほど小川の汚染度が激しくなっていたが、特に今回の疑問の答えを見つける事は出来なかったという事だった。
「私はこれから帝都に行くわ。
騎士団長に伝えて、早馬の用意を。
帝都の皇后陛下のいらっしゃる大神殿の孤児院に行くわ。」
説明をマリアに任せて、私は私室に旅の用意をする。必要最小限だ。
「妃殿下!
団長がいつでも出発できるそうですよ。
団長自らがお供するそうです」
下の階からフリップの声が聞こえた。
よし!
スカートをひるがえし、部屋を出てすぐに団長の馬に跨った。
伯母様を助けに行く。
女神ディアの薬草を手にして、オルファンの希望になるこの薬草を。
絶対に伯母様を助ける。
団長は途中の村で名馬を選び乗り換えながら順調に帝都のすぐそばまでたどり着く。
「妃殿下。
帝都の正門である城門はすでに閉鎖されており、妃殿下がいらっしゃったとわかれば現状暴動がおこり
ます。
大神殿へ行くのに秘密の裏道がございます。
そちらへ向かいますので、しばらく迂回いたします」
「わかったわ。任せたわ団長」
この前の暴動で私の評判は低下いや。最上級にどん底だ。
正面突破したら、団長も巻き込まれるし、なにより伯母様を助けられない。
それは駄目!!
オルファンに来てからの伯母様の優しさと皇后としての性質、役割、威厳全てが今は素晴らしいと思っている。
そんな伯母様に会えないかもしれないなんて絶対にいやだ。
そう絶対に。
団長は帝都への続く道と右手の道をとり城壁沿いの坂道を歩む。
その先には細いほぼ獣道に繋がり、森の中を分けながら入りひたすら進む。
どのくらい進んだかわからないくらい道沿いに少しだけ口を開けた洞窟が見えた。
「ここが大神殿と繋がっています」
緊張で身体が固くなる。
しっかりしないと。
ぱっくり割れた洞窟に全てをゆだねる。
馬は躊躇なく洞窟に入る。薄暗い空間に岩がゴロゴロと転がっている。
しかし馬が通れるほどなので広さはそこそこあるようね。
どこからか水音がする。
もう暑くなってきているオルファンで肌寒ささえ感じる。
「そんなにかかりません。
怖いでしょうが。
我慢なさってください」
「はい」
平坦な場所で馬はゆっくり進む。
しばらくすると小さな光の点が見え始める。
それは進むごとに大きくなり、やがて。
目も開けられないほどの日差しが降り注ぐ。
出たのだついに。
大神殿の裏手にその出口があった。
馬は歩みを止めて、団長は降り私を抱き下ろした。
「妃殿下。
大神殿の裏庭です。
皇后陛下は左の建物の中においでです。
今からだと、裏側の神官用の出入り口から地下に移動します。
地下は孤児院の地下と繋がっていますから。
そのまま皇后陛下は地下の避難所においでです。」
「ええ。行きましょう」
私は覚悟する絶対にここから伯母様と一緒に出ていく。
大神殿の内部を団長と入り、礼拝堂の地下にいく螺旋階段を下る。
闇の中を下る感じはぞくっと寒気がするこれから訪れるだろう命がけの訴えに身震いする。
階段を下りきると、細い廊下が現れて、それをさらに進む。団長が先頭を歩いてくれているので安心。
細長い階段を抜けると。明らかに石畳の違う壁がでてくる。隣の孤児院に入ったようだ。
更に奥に進むと突き当りに木の扉があった。
団長が振りむいて頷いた。
扉をノックする。
「皇后陛下。
皇太子附属騎士団長です。
フロレンティーヌ皇太子妃殿下をお連れしました」
扉が開く。
まずは私が扉の奥へ入る。
目の前には侍女と一緒に刺繍を刺している伯母様がいた。
思わず走ってその腕に抱きついた。
何も考えずその温かい胸はいろんな出来事が起こりすぎ緊張していたのか、思わず泣き出してしまう。
そういえばよく伯母様の胸で泣いている。
恥ずかしくもなく。自分でも不思議だ。両親の前ではほぼ泣かないのに。変な感じ。
「フロレンティーヌ。
久しぶりね。」
柔らかい伯母様の声、優しく、艶っぽい、不思議な人を癒す声質なのか?私は大好き。
「伯母様。
ごめんなさい」
何に謝罪なのか?
自分でもわからないが、多分全部なのだろう。
「伯母様
私。見つけたの。
皆で。
伯母様も外へ安全に出られるように。
大丈夫!」
不思議そうに見つめる伯母様は本当ににっこり微笑んで私の髪を撫でながら額に口づけた。
「信じているわ。
愛しているわ。フロレンティーヌ」
魔法の言葉、白魔法、白魔術。
伯母様の声は。
「そうだわ。
シャルロッテ院長様が皇后陛下によろしくと伝言を頼まれました」
伯母様は一瞬わからなかったのか、しかしすぐにパッと表情を変えて懐かしそうに言った。
「お会いしたのね。お懐かしいわ」
「はい。
この病の特効薬を見つかったのです。
伯母様大丈夫です」
自分ながらよくも言えたものだとも思ったけれど、ほぼ間違いない確信を持っていた。
いやこの場で伯母様を助けたいという思いだけだった。
「さあ。塔の上にいきましょう
そこから皇后陛下、皇太子妃ここにありと宣言するのです。
大丈夫。
私に名案があります。
皆で陛下の元へ参りましょう伯母様」
伯母様はケラケラと楽しそうに笑う。
「女官長
侍女に髪を整えて」
「かしこまりました」
その時は近づいている。
皆の安全を考慮して私と伯母様だけ屋上に出る事にした。
伯母様と手を繋ぎ地下の部屋を出る。
二人の息使いだけが聞こえる。
緊張で胸が絞めつけられるほど痛かったけど、伯母様の強い温かい手が私に力をくれる。
一階、二階どんどん上がる。
息が乱れるが歩みは止められない。
途中休憩しながら一番屋上に出た。
「百合は皇后の証!」
「病は皇后のせいだ」
「皇后を廃位しろ!」
「皇后はいらない」
「廃位だ!」
「皇后はいらない」
「皇后はいらない」
怒号はやまらない。
さあ。舞台は整った。
まだ民衆に私達の姿は見えない。
伯母様と瞳を合わせ抱きしめ合う。
「必ず安全に正門から退出させてみせます」
そう必ず。
「伯母様はただ立っていてください。
私が演説します。
但し全身である必要はありません。
少し顔が見える程度の場所で大丈夫です」
伯母様は何の心配もしていないと優しい眼差しで私を見ている。
私もなんだかこの生命の危機的状況で変に興奮しているのか?
冷静なのかよくわからない。
でもこれだけは言えた。
絶対生きてここを出ていくと。
伯母様が民衆が見える程度の場所で立ち、私もその斜め前に立つ。
私を見つけた民衆がさらにヒートアップさせた。
「皇太子妃だ」
「薬草園を作ってこの病気を広めた奴だ」
「皇太子妃だ。
奴も廃位だ。
廃位だ」
「疫病神」
怒号は賞賛だと思うんだ。自分に言い聞かせる。
私は優雅に塔の上から民衆に向けてスカートの裾を摘んで優雅にお辞儀をした。
おそらく彼らはお辞儀をしたことはあっても、されたことはほぼないだろう。しかも自国の皇太子妃に。
怒号が途切れたのを見計らい。
私はゆっくりと大きな声で話始めた。
「敬愛なる我が民。
オルファン帝国の光、源。
オルファンそのもの。
聞くがいい。
こちらにいらっしゃるエリザベート皇后陛下は慈愛の皇后であり。
万人の太陽の母である。
誰が犯せよう。
これを見よ。
これは女神ディアの薬草
これこそ皆を死から遠のける女神からの贈物
女神ディアの薬草
この度の病から皆を救う薬草です
女神ディアの祝福を
もう大丈夫です
この薬草で皆を救うのです」
そう言ったあと、薬草を伯母様に渡し伯母様はそれを掲げる。丁度太陽が薬草と重なり民衆には薬草の背後に太陽がある光景はまるで太陽神と女神ディアと重なる。しかもこの薬草の名は「女神ディアの薬草」
興奮する彼らを鎮めるのには十分だったようだ。
民衆は静まり返った。誰も異論は出ない。出てもおかしくはなかった。
女神ディアの薬草はほとんど知られていなかったから。
それでもこの出来すぎた印象的な出来事は民衆に衝撃を与えたことだろう。
十分だったようだ。
「皇太子妃殿下
皇后陛下」
「女神ディアの祝福を」
「わわぁ~~助かるのか」
「皇后陛下 万歳」
「皇太子妃殿下 万歳」
「女神ディアに幸あれ」
「WAWAWA~~~」
あれほどの罵声を浴びせていた民衆は一転賞賛の嵐となって塔を包む。
「エリザベート皇后陛下の忠誠を」
「フロレンティーヌ皇太子妃殿下に祝福あれ」
拍手も鳴りやまず、皆手を振り歓声が上がる。
二人手を振り歓声に答えた。
私達の勝利だ。
下の木陰でこちらを見ているハインリッヒ殿下を見つける。
こちらをほっとした様子で見ている。
目が合って手を振った。自然に無意識に。
この後勿論安全に外へ出た。
これからが忙しかった。
オルファン中の綺麗な川でこの女神の薬草の栽培が開始される。
すぐには育たないので病が鎮静するまで年数はかかるが、帝国民は安心を手に入れる事が出来たゆとりで暴動がおこる事はなかった。
私はしばらくは薬草園を離れられない日々が続いたが、時々ハインリッヒ殿下がやってくる。
しばらくなぜか拗ねている様子もあったけど…。
そういえばハインリッヒ殿下がある時言った。
あの暴動を扇動した男が場末の路地で刺殺されて発見されたそうだ。
犯人は特定されていない。
どうやら貴族で公爵派の子爵だったそうだ。
なにやらきな臭い。
あれ??
私何か忘れてない??
あれ完全に忘れているね??
次回はパンデミック後の落ち着いた夏至の日狩猟大会が開催されます。
この時事件が!さあどうするフロレンティーヌ
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