離婚の計画Ⅱ 皇太子の慰問の旅と事件Ⅳ 密輸摘発のその時
フェレ皇女のアテナイスの逃亡を助けたハインリッヒ皇太子とフロレンティーヌが次に退治するのは?
密輸船の摘発
しばらくホテルに滞在した大叔父はアテナイスを連れて質素な馬車を用意し、逃亡先へ出発する日が来た。
僕とフロレンティーヌは人目につかないように部屋で二人と別れる。
「元気でね。アテナイス」
簡単なフェレ語でお別れの挨拶をする。
「ありがとうお兄様」
いままで見た事もないほどの天使の笑顔を振りまいた。
子供らしさにほっとする。
「アテナイス」
フロレンティーヌは彼女を強く抱きしめた。
言葉はなかったけれどアテナイスも言葉以上のなにか大切な物をもらったかのように感じている様子だった。
「では皇太子殿下。
私達は失礼します」
大叔父はそう言ってアテナイスの手を引いて部屋を出ていった。
二人っきりになった後、なんとも言えない安堵感とふんわりした空気感が僕を包んでいる。
何故だか?
なんの抵抗もなく何も考えず、思わずフロレンティーヌの肩を抱いていた。
いや触れていたと言っていいかもしれない。
しかしこのほんわりしたひと時は本当にひと時だけだった。
翌日には軍需物資と大量の最新兵器を納めた倉庫から密輸船に積み込まれる。
倉庫はすでに特定している。
出航日が迫っていた。
その船が出航するのは七日後、出航したら海軍でしか追跡出来ない。
そうなれば開戦も視野に入ってしまう。
僕はフロレンティーヌに逮捕の指揮を執る話をし、その間は部屋で待機し絶対に外に出ないように念を押してホテルを出た。
彼女に何かあったらお母様に申し訳ないし何より僕が嫌だから。
摘発当日フロレンティーヌは少し心配そうに送り出してくれる。
初めの頃よりもだいぶ落ち着いてくれているようだ。
愛さない宣言も発布取り消ししてほしいと最近特に思う。
さあ話を戻そう。
陸で確保するのが大事だ。
停泊する船は特定で出来ている。
現在は警察隊と衛兵を適切に配置出来ているので人手が足りない事はない。
あらかた船に積み込む荷物を隠し倉庫に人を張る。
船着き場には目立たないように船乗りに成りすました警察隊が配備されている。
「十一時摘発」を事前に連絡している。
昼食前の浮いた気分を突いてやる作戦だ。
倉庫は禁制品が山積されているので、広域に警察隊を派遣しなだれ込むように一気に確保した。
ほとんど港に行っているらしく、残っている者は全員逮捕した。
港が重要だ。
出航できないように湾岸には数席の軍艦船を見えない位置に配備した。
僕の指揮で空砲を鳴らす予定だ。
僕は数名の側近と近衛兵を同伴の上、港に到着した。
港は活気で満ちている。
行き交う恰幅のいい船乗り、荷下ろしの車、馬車がぶつかりそうになりながら行き交っている。
すでに出航予定の密輸船はただの商船を装い港に停泊して出航の準備をしている。
船は大量の荷物を積み込んでいるようで、見た目他の船よりも深く海に沈んでいるように思われる。
警察隊の各配置の報告を受ける。
船の廻り、甲板と同じ高さの建物の上層階には銃部隊を、船内では十数名の諜報員と狙撃隊をすでに忍ばせている。
「では十一時同時に開始」
皆手に懐中時計を握りしめ、その針とそれぞれの持ち場を何度も確認してその時が来た。
パン パンパン パン
銃部隊は狙いを定めて、引き金を引き激しい白煙と銃声が鳴り止まない。
ドンドン ドンドン
人が踏み込む音。
ガシャン ガシャン ガシャ
何か金属ががぶつかる音。
そして遠くから爆音と共に放たれた軍艦船からの空砲の音。
あらゆる場所から聞こえる激しい音をかき分けて、僕は近衛兵と共に船内へ潜入する。
敵味方関わらずそこかしこで格闘戦が繰り広げられている。
入るなり、筋肉質な男達が僕達をめがけ突進してくる。
それを剣でうまくかわし、剣で一突きして先を目指す。
この船の構造は周知している。
事前に諜報員を潜伏させていたからだ。
準備が全てだ。
まったりとした潮風が僕を撫でる。
久しぶりの剣裁き楽しくて仕方ない。
用心棒らしき男達が多い軍人はいないのでやりやすいが、半面何をしてくるかわからないからそこは注意しないと。
一人一人倒しながら、船底を目指す。
船の奥底は金属と部品の隆起地帯で迷い込んでしまいそうだ。
もう後を追ってくる輩はいない。
近衛兵の一人が船内の地図を片手に、迷路のような場所を小走りで進む。
ポタポタと排水溝から落ちる水の音がうす暗い光景は恐怖さえ感じる。
突き当りに巨大な鉄の扉を三人で横にスライドさせる。
三人かなり力を入れてギーギーと神経を刺激する嫌な音を立てながらその奥が姿を現す。
巨大な空間を埋め尽くすほどの最新版の中型の軍需品の数々、薬らしき袋、木箱に入れられたおそらく金銀など所狭しと並べられている。
これらが敵国に渡らなくてよかったと思う一方、もし渡っていたらと恐怖心が襲う。
「殿下。やりましたね」
「あぁ」
目覚ましい成果だ。
ひとまず船底から離れ、甲板に出ると船はすでに制圧しており、次々と拘束の報告を受けた。
トラップを降りる。
さっきまで銃撃戦をしていたとは思えないほど人々は働いている。
活気が満ち溢れ僕は責任感と重圧から
解放されてほっとした。
そう油断したのだ。少年とすれ違った時だ。
その少年の短剣に気付けなかったんだ。
そうその短剣に気が付いた時には、すでにその刃の先は僕ではなく。
何故か何故かそのにフロレンティーヌがいて。
なんでいるの?
あんなに外に出るなと言って聞かせなのに。
空いた口が塞がらないし、思考回路は絡まって答えが出ない。
フロレンティーヌのドレスの腕部分が切り裂かれて、そこから鮮血が噴き出してフロレンティーヌは人形のように崩れ落ちた。
身体中の血の気が引く。
フロレンティーヌを抱き上げてすぐに馬車に乗せてホテルへ帰る。
車内で簡単な止血をして、意識のないフロレンティーヌの顔は真っ青で唇は紫色だ。
早く医師に見せないと。
僕はワナワナと震えが止まらない。
死んだらどうしよう。
どうしよう。どうしよう。
いやな脂汗が流れる。
心臓は飛び散ってしまうのではないかと思うくらいの動揺が身体を支配する。
馬車は勢いよく走るがそれさえ遅いように思う。
早く着いてくれ!
ホテルに到着してすばやく馬車を降り、フロレンティーヌのだらりとして動かない身体を抱きかかえホテルへと急いで入る。
部屋にはすでに宮廷医師を待機させていたので寝室に運んで僕は部屋の扉の前で待つ。
どうしよう!!どうしようそれしか考えられない。脳内は考える隙間がない。
こんなことは初めてだった。
どのくらい時間が経ったかわからないがようやく部屋の扉が開いた。
「殿下。どうぞ」
医師の声が聞こえた。
寝台にはフロレンティーヌが横たわっている。
フラフラと寝台の傍に来た僕の様子があまりに悲痛な顔をしていたのだろう。
すぐに医師が話始める。
「応急処置が素晴らしかったのです。
残念ながら傷跡は残りますが、命に別状はありま
せん。
ご安心ください。
あと小一時間で目を覚まされるでしょう」
安心させるように医師が軽く微笑んで、礼をしその場を去った。
寝台の横に置かれた椅子に腰かける。
なんで来たんだ?
港に?
なんで?
本当に予測困難な人だ。
こんなに顔をじ~と見たのは初めてかも。
こんなに衝動的で、突拍子もない女性は初めてだった。
そう初夜にあんなことをいう人だ。
正直な人だと思う。
そう。僕が待てばいいだけだ。
そう。
この後、フロレンティーヌは殿下が心配になって港にいったと侍女が報告してきた。
本人は船を見たかったから忠告に背いたのよと言ってきかなかったが……。
可愛いんだな。
そういう素直じゃないとこ。
僕は好きかもフロレンティーヌ。
宮殿に戻った二人の距離感は?
次回また離婚計画が練り直されます。
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