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離婚の計画Ⅱ 皇太子の慰問の旅と事件Ⅲ 密輸と謎の少女を巡って

迷子になって皇太子に呆れられ離婚を計画したフロレンティーヌに待っていたのは本当の迷子だった。その時に出会った少女と新たな展開があります。


日差しが眩しいだろとカーテンを閉めようとした時だ。


フロレンティーヌの瞼がぴくりと動いてその瞳が開く。

しばらくぼんやりしている様子で反応が薄い。


「おはようフロレンティーヌ」


穏やかかに出来るだけ穏やかに言った。


「おはようございます殿下」


ふぉわ~とした声が返ってくる。


しかし言い終えるとばつの悪そうな顔に変わっていく。



「ねぇ。どうしてあの路地にいたの?

 ねぇ。その子はだあれ?」


僕の問いかけに動揺した様子だが、更に動揺したのは「その子」発言だったようだ。


挿絵(By みてみん)

フロレンティーヌが少し顔を傾けると隣ですやすや寝ている少女を不思議そうに見ている。


はぁ話が長くなりそうな予感がするな。


フロレンティーヌは

昨夜の夕日を見に行って侍女と騎士と離れた事。

人混みに流されて迷子になった事。

様子がおかしそうだから馬車に隠れた時に少女と出会った事を順序よく話した。


僕は真剣な様子で終始頷いたり、瞳を見開いたりして聞いている。


「なるほどね。

 所でその様子がおかしい?という話は?」


 「よくわからない会話だったのですが、……じゃ

  あ…荷はこれで全部」


「それで…まあここのは…ダミー…」


「たいした…もん…じゃない」


「…それより…三日後…れいの場所…最新の軍需品が」


「……ダロッダ…で…再び…あおう…」

 

フロレンティーヌが聞いた穴だけの会話に自分の頭の中のピースとはめる。

僕は驚いて身体が微動だにしなくなった。


そしてため息を一つついて、おもわず思わずフロレンティーヌの肩を抱きしめていた。


「でかしたフロレンティーヌ」


自分の瞳がキラキラしているのがわかる。


フロレンティーヌは失敗したといった顔つきで僕を見ている。 


虚無感が押し寄せているようだった。


僕の声で隣の少女がガサガサと身体を動かして起きてしまったようだ。


目をごしごし両手でこすり私達をぼんやりと見たと思ったら急に泣き始めてしまった。


そりゃそうだ。見知らぬ人と見知らぬ場所不安になるだろう。


フロレンティーヌはその少女の身体を抱きしめる。


「大丈夫よ。何もしないわ。

 もう安心よ。あなたを安全であなたの望の場所へお送りします」


優しく語り掛ける事を心がけて話す様子が素敵だ。


少女は溢れる涙がなくなるまで泣いた後は少し落ち着いたようだった。


「朝ごはんにしよう。

 ここにもってくるよ」


僕はそういって侍女に指示した後、食事が運ばれ三人で寝室で朝食をとる。


なんか変な感じだ子供が出来たらこんな感じだろう。


この子よく見るとオルファンでもなくフェレイデンでもない。


明らかに外国人だ。

フロレンティーヌもそう思っているのかさっきからこの少女の顔を本人にわからないようにちらみしている。


プラチナの光沢のある豊かな髪、ライトベージュの艶やかな肌、瞳はアーモンドアイの琥珀色の瞳。いくつだろうか?七、八歳くらい?


この特徴はフェレ人でしかも皇族の特徴と一致する。

フェレ皇国は近親婚を繰り返したため遺伝的に大きな特徴がある。

まさにその特徴の人物だ。


少女はお腹が満たされたのか。ふと独り言を言った。


「美味しい」


それはオルファン語、フェレイデン語でも、共通言語のディア語でもなかった。

フェレ語だ。


総合的に考えてこの子はフェレの皇族と言ってほぼ99%いいだろう。

あるいは降嫁した皇女の末裔か。


だとしたら大ごとだ。

関係悪化は避けられない。

外交問題という最重要問題事項を引き起こしたのではないか?


「まずはこれからの事を考える。

 この子はフロレンティーヌが保護して。

 大丈夫。何とかするよ。

 まずはこの子の保護を頼む」


そう言って寝室を出ていった。


フロレンティーヌは侍女に着替えを頼み、子供用の衣類、遊び道具を用意させ着替えて私の居間で一日遊んでいたそうだ。

次第に緊張もほぐれ、木組みのおもちゃで遊んで日々を過ごしたりするうちに打ち解けた少女は自分の名を語り始めたが、それ以上は話さなかったと報告を受けている。


それはまるで誰かに話さないようにと強く言われているほどの警戒心だ。

そりゃ今は敵国の同盟国のオルファンだ。そうそう話さないように言われて当然だ。

しかしどこにやるのもどうしたらいいのか情報がなければどうする事の出来ない。

ただおえるのはおそらくフェレ皇国へ帰国するのはないだろうという憶測だけは出来る。


フロレンティーヌの話ではようやく最近名前を名乗るようになった。


「わたしの名前はアテナイス」


フロレンティーヌは少しフェレ語を習ったという。

ある時少女はフェレ語に訳された物語を読みながら語った。と、出来るだけ優しく頷いたのだと僕に話した。



「アテナイス 良い素敵な名前ね。

 私はフロレンティーヌよ。

 よろしくね」


といったのだそうだ。


フロレンティーヌの気配りと才能にはには驚かされる。細部に心配りが出来る人だ。



アテナイスはあまり騒いだりはしゃいだりせず、物静かで落ち着いている。

あまり子供らしい生活をしてこなかったのがわかる。

フェレ皇国は他国以上に男尊女卑で、皇王は非常に厳しい人物で厳格に法を重視する国家でその刑罰も非常に厳しいので有名だ。

自分を守るために慎重になるのはわかる。

皇族といえど些細な罪で死刑もあるというのだというから。


アテナイスは相変わらず自分の事は話さないが、今の環境には慣れたようで当初のような緊張している様子はない。


その夜はいつものように二人で就寝する時にアテナイスはフロレンティーヌに抱きついて眠りつくのが最近の日課になっている。





さて僕は最近あまり熟睡できていない。

フロレンティーヌの情報でヴェルダロッダ地区にある密輸品を保管出来そうな場所を一つずつ潰すために寝室の傍らで部下の報告書に目を通すことが多いからだ。


その地区は元々治安が良くない。

少しでも地区外の人間が寄り付くとすぐにわかってしまい噂が広がる。

それぞれの地区には事前に諜報員を派遣させているが、指示も報告も細心の注意が払われる。




もう深夜さすがに寝ないと。

僕は寝台に横になり天井を向いた。

なんだか不思議な感覚だ。

最近は一人で寝る事が少なくなったせいか、隣に人がいないのが居心地が悪い。


一人でクスッと笑う。

睡魔がゆっくりとゆっくりとウトウトして意識を手放そうとふあふあした感覚を何度となく繰り返し眠りについた。


どのくらい経ったかいつもとは違う違和感を覚えて目が覚める。

なんだようか?奇妙ないやな予感がする。


特に物音を敏感に感じられるように耳をすますと、わずかだが天井の上の方からミシッ!ミシッ!とわずかだが音が聞こえてた。

普通の人なら聞き逃しそうなほどの雑音だ。


しかし音はわずかだがこれは動物でも自然現象でもなく完全に人間の物だ。


なんだ?

強盗か?窃盗か?まさか?

音のする方に瞳を移動させていくと明らかに自分の部屋を目指していない。

その音の先は……。


やばい!


僕は布団を払いのけて急いで剣を手に部屋を出る。

扉の警護兵に臨戦態勢を敷くように部下に伝達してその音の方向を追う。

そこは明らかにフロレンティーヌの寝室だ。

僕はフロレンティーヌの部屋の扉の前に立つ。


後ろには近衛兵が控え位置につく。息さえ物音に感じる緊張感で、身体は身震いする。


後は部屋になだれ込むわけだがそのタイミングだ大事だ。


扉の向こうの音を頼りに人の気配を感じる事に集中する。


部屋の窓の開く音、誰かがその窓から入る音、後から続く人の入る音、そして部屋を移動するわずかな足音。

静かだが扉越しに明らかに人の動く気配が感じる。

どう見ても四人はいるようだ。

こちらが八人だが、もしフロレンティーヌに危険がおよんでは困る。

素早く行動しないといけない。


丁度全員が部屋に入り、どうやら寝台と扉側に人が配置されたようだ。


フロレンティーヌの部屋は鍵をかけていない。

最上階を貸し切っているので扉の外に近衛兵が控えさせていたからだ。


声を立てずに近衛兵隊長に扉付近の侵入者を始末させ、僕と副隊長で寝台の侵入者を確保する。

声を出す代わりに手振り身振りで指示を出し一気に扉を開く。


フロレンティーヌが飛び起きそうに身体を起こそうとしたが、状況をすぐ察知してアテナイスを抱えて布団の中に隠れる。


暗くても部屋の位置はわかるので、まず扉側の侵入者は近衛兵隊長が剣の鞘で相手のむぞうちを強打する。

相手はうめき声をあげて床に腹部を押さえながら倒れこんだ。


隊長はつかさず縄で両手を縛る。


副隊長は急所を外しつつ二人を立て続けに切りつけ鮮血が床を汚した。

男の叫び声が部屋に響く。


傷みで二人は床に這いつくばってもがき苦しんでいる。


僕は残る一人の首を寝台から引離して床に叩きつけて押さえつけ身体を拘束する。


「WA~~~」っと叫び声を聞いた後、その声をどこかで聞いた気もした。


侵入者が拘束されたと見計らった頃合いでフロレンティーヌが起き上がり、近くの燭台を持ってきてこちらに来た。


「殿下。

 侵入者ですか?」


フロレンティーヌが意外と冷静でほっとする。


「あぁ。」


フロレンティーヌの手にある燭台を受け取って僕が拘束した侵入者の顔に近づける。


「え!!」


僕は浮かびあがるその侵入者の顔を信じられない。何故なら何故なら大叔父の顔が浮かび上がっていたからだ。

呆然と動きが取れない。


「大叔父上」

「ダルディアン大公」


僕とフロレンティーヌの声が同時に出た。






どうやら侵入者は大叔父たちだった。

三人の怪我の手当をして、居間に場所を移って僕とフォロレンティーヌと大叔父がソファーに座る。


「大叔父上

 何故侵入を?」 


僕が呟くように問う。


大叔父はバツが悪そうにそれでいて諦めた様に話始めた。


「実は皇太子妃殿下が姫を連れて行ってしまったので。」


「えぇ?私のせい?」


「フロレンティーヌが?」


「えぇ。あの時姫を連れて逃亡をする手助けをする為に、荷台に姫を木箱に入れて移動する所でした。

 ところが目的地へ連れていこうとして荷台の木箱を開けるといなくて。

 八方手をつくしてあの時いた者をかたっぱしらから調査しました。

 そしたら「ヴァレディエ侯爵夫妻」の名が出てきました。

 殿下達だとすぐ分かりましたが。

 この話をしてよいかどうか。悩みもあり。」


「アテナイスがフェレ皇族だという事をですか?」


「あぁやはりわかったか」


「えぇ。あの容貌ではすぐに」


「変装させればよかったかな」


「そうですね。

 でもフロレンティーヌはそれでも連れてきたで

 しょう」


「あんな場所に幼い子が閉じ込められていたら助ける人です」


「あぁ。そうだね」


「叔父上 何故フェレの皇族を」


大叔父は珍しく青白い顔で明らかに動揺しているが、静かに語り始めた。


「あの子は前フェレ皇王の第十四皇女。

 実はアテナイスは皇王の実の娘ではない。

 フェレ皇王の第三皇妃と侍従の間にできた娘。

 彼女は皇王の元に入宮したものの宮廷では冷遇されていた。

 辛かったのもあり常に近くにいた侍従とそういう関係になったそうだ。」


「で今何故?」


「フェレの第一皇女が事実を知り皇女を消そうとしていた。

 第一公女は次期皇王の座を狙っていて醜聞は消し去りたいのだ。

 フェレの刺客が放たれた。

 彼女の乳母と生母の侍女が密かにたよりをよこしたのだ。

 丁度オルファンに向かう密輸船があったのでな。

 彼女を荷台の木箱に隠して亡命させる手はずだった。」


「っでもなんで大叔父が」


「彼女の生母は私の恋人だった。彼女を産んで一年前に病死したが。」


大叔父の震える声は後悔の念が感じられる。


「なくなる少し前娘の行く末を案じで一度手紙をよこしてきてな。

 不憫で彼女の境遇は私が原因でもあるし」


「え?」


「私と第三皇妃は若い頃歌劇場で知り合い恋に落ちた。

 ふたりともお互いの身分は知らなかった。

 お忍びだったからな。

 お互いの身分を明かした際も将来を誓ったが、彼女の両親に知られた。

 逃避行を試みたけど、捕まってな。

 彼女は国に返されて、すぐ皇王の宮廷に入った」


いつも冷静で思慮深く、大叔母が亡くなってからも後妻も迎えず愛人さえいなかった。

そんな大叔父のロマンスを想像出来ただろう。

何か赤の他人の醜聞にしか聞こえてこない。


「辛い日々だったろう。

 私のせいだ。

 だから今回救出するために帝都をたったのだ」


隣のフロレンティーヌは涙目で両手を強く握りしめていた。


「大叔父様が帝都を去ったのは知っていました。

 ただ違う理由だと」


僕は確信した。実は大叔父が早くに秘密裏に帝都を去ったのは今回の密輸に関りがあるのではと。可能性を探ったためだ。

この大叔父の告白は嘘ではないと信じる。何故なら大叔父の瞳は偽りの眼差しを一粒も感じなかったからだ。


「密輸の黒幕と思ったろう。

 姫が乗った船はそうだからな。

 疑われてもしかたないさ。

 だが、わたしではない」


「えぇ。信じます。

 この子は落ち着くまでこちらで預かります。

 その後大叔父様出立の準備が整ったらお連れした

 らいい。

 行き先は中立国のハシャルバードですか?」


「ああっ。あそこが一番安全だ。

 どこの要求にも応じないだろうから」


「賢明です。

 皇女一人行方不明になろうが。

 フェレは気にしないだろうし。

 あちらでも暮らしの準備は万全で?」


「ああ 郊外に屋敷と召使、それ相応の生活に困らないだけの資金、ハシャルバードには

 護衛の依頼をしている」


私達の話が終わる頃にカチャッとドアノブを回す音がした。


目線を落とす。

アテナイスだ。


大叔父を見つけると、私達に見せた事のない可愛らしい日向のような笑顔で大叔父を見つめ駆け寄った。

両手を広げて警戒心の微塵も見せない安心しきった子供らしい顔をしている。

大叔父は当然の様に優しくアテナイスを抱きしめている。

はたから見るとほのぼのとした親子の図にしか見えない。


ほっとする。


大叔父は優しく大きな胸に抱き寄せて抱き上げる。

アテナイスの腕が大叔父の首に絡みつく。不安だったのだろう。


「フランソワ叔父様

 会いたかった 」


一つ不思議な事がある。

彼女は何故会った事のない大叔父を素直に受け入れたのか!だ。

不思議そうに眺めている僕とフロレンティーヌにはにかみながら大叔父は言った。



「第三皇妃が私の肖像画を常に見せて語っていたそうだ。

 何かあったら助けてくれる方と」


フロレンティーヌは大叔父をまっすぐに見て言った。


「第三皇妃様も喜んでおいでですよ。」


大叔父はポタリと涙を流しアテナイスを抱きしめて言った。


「本当に娘だったらよかったのに」と。




この後軍需品の密輸現場へ乗り込むハインリッヒ皇太子は?

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