怒りの原因
静寂に包まれた室内をそのまま右回りで見渡してみると、クラスメイトは深刻な空気に包まれている。
みんなは愛想が良くてバカな蓮しか知らないから、急変した態度に驚かされたのだろう。
この瞬間まで自分が犯人だと名乗り出る者などいない。
そのせいもあって、蓮は怒りのバロメーターが最高潮を迎えると、目を光らせて掃除用具入れのロッカーに目を向けた。
ま……、まさか。
ロッカーの中からほうきを出して凶器にして振り回すつもりなの?
ひと暴れして、犯人を突き止めようとする作戦でも考えているの。
嘘……。
辞めてよ。
教室に迷い込んだ虫一匹にすら意識が向けられないほど緊迫した室内。
前代未聞の最悪な状況は、嫌な予感以外思い描けない。
梓は蓮の行動を先読みして、掃除道具入れのロッカー前に回り込んだ。
「だだだ、大丈夫……。そっ……そう、私なら大丈夫だから、もうお弁当箱の事は忘れて」
「お前が許しても、俺が許さねぇから……」
蓮の怒りは収まりそうにない。
でも、犯人が名乗り出る様子もない。
蓮、ダメだよ。
気持ちを抑えて……。
そんなに怒ったら血圧が上がってもっと寿命が縮まっちゃうよ……。
しかも、原因は私の弁当一つ。
蓮の18年間の人生からすると、弁当の問題なんて全然大したことない。
私の為に先の短い人生を犠牲にしないで。
ブレザーが湿りそうなほど冷や汗でビッショリになった梓は、莫大なストレスは命と引き換えになってしまうのではと思い、宥める事に徹した。
「ほっ……ほら、もう忘れよう。落ち着いて、怒りを鎮めて。ストレスを貯めると蓮がぶっ倒れちゃう」
「はぁあ? お前の弁当が床にブチまけられてんのに許せる訳ねぇだろ」
「私ならもう大丈夫だから」
「俺が大丈夫じゃねぇよ。梓の弁当箱ぶちまけたヤツ出てこいよ。俺が相手してやっからよ!」
もうダメだ。
蓮の腰にしがみついても暴走は止まらない。
まるで一本のネジが外れてしまったかのように……。
梓は騒動を止められるのは自分しかいないと思って蓮左腕を掴み、蓮のカバンを机から取ってから教室を走り出て行った。




