悲劇の幕開け
「ははっ……。ちょっと勘違いしちゃったけど、こいつは俺の大切なモノ……いや、大切な人です!」
蓮はマイク越しにそう伝えると、会場は一瞬にしてどよめきに包まれた。
しかも、自分の言動に対して恥ずかしそうに頭をかいている。
あの……さ。
全校生徒の前で何言ってるの……。
後夜祭の雰囲気に酔いしれて、遂におかしくなっちゃったの?
帰宅した人もいるけど、会場には本校の生徒がほとんど残ってるんだよ。
先生達だって傍で見てるし、高梨先生も教室からこの後夜祭のステージを見ているのに……。
だが、一度点火した炎は更に燃え盛りを見せる。
「ねぇ、ちょっとマイク貸してっ」
「へっ?」
蓮は司会者からマイクを奪い取ると、私の身体を自分側へ向けた。
そして、スーッと大きく息を吸い込み、こう言った。
「梓、俺とやり直して欲しい! もう一度付き合って下さい! お願いします」
スピーカーから伝わる力強い声が会場内を包み込むと、会場は和やかムードから一転してシンと静まり返る。
次の瞬間、生徒達の視線は一斉に私へ。
集まる目の数はおよそ数百。
プレッシャーと重圧的な空気に耐えきれなくなると、怖くなって一歩後ずさりをした。
バカバカ、何言ってんの。
ここに連れて来られただけでもいっぱいいっぱいなのに、ステージ上でいきなり私に愛の告白?
気は確か……?
梓は動揺しつつも現実に戻ってもらおうと思って、軽く蓮の腕を引き寄せた。
「やっ、やだな……。いきなり何言って……」
「お願いします!」
蓮は私の気持ちなど無視して被せるように声をかき消すと、深々と頭を下げた。
もう、どうしようもなかった。
これが夢か冗談であって欲しいと願うばかり。
場所は後夜祭で借り物競争のステージの上。
ほとんどの全校生徒が残っている中で、彼は前触れもなく一世一代の賭けに出た。
当然、生徒達の視線が一点集中している私に逃げ場などない。
キャンプファイヤーの炎が燃え盛り、枯れ木が弾けてパチパチと響き渡っている後夜祭会場。
前方には私に向けて90度も頭を下げる蓮。
それは、今まで見た事がないくらい真剣な眼差し。
生徒達から寄せられる期待の目。
それによって煽られる気持ち。
半端ないプレッシャーに押し潰されると、自然と身震いがした。
返事待ちの雰囲気に耐えられずに目を泳がせていると、頭を下げている蓮の口元から何か小さくボソボソ言っているのが聞こえてきた。
「……えっ、何? 聞こえないよ」
私は会場のみんなに聞こえないくらいの小声で返事をした。
すると……。
「……頼む。お前が努力するはずの10パーセントを今してくれ。ここで俺を断るなら、明日から学校行かない」
ステージ上で前向きな返事を催促してくる彼は、まさかのストライキ宣言。
勿論、私にとってメリットは一つもない。
「急にステージに連れて来られた上に、告白後にいきなり10パーセントを努力してと言われても困るよ」
「10パーセントとは言わずに15パーセントでもいいから」
「減るどころか、どうして増えてるのよ……。家電量販店の割引率じゃないんだから増えても嬉しくないし」
「頼む……」
重苦しい雰囲気に包まれながら、目線で釘をさしてるかのような生徒達に聞こえないくらい小さな声でやりとりしている蓮はいつになく必死だ。




