まさかの10名様
蓮に教室から連れ出された後、階段を駆け降りて、昇降口を出て、校庭を走らされてから借り物競走のステージの壇上へ向かった。
ステージに上がれるのは先着十名様だけど、猛ダッシュで壇上に上がったせいか、そのまさかの十名様に食い込んだ。
壇上の右側に立てかけられているテーマの掛け軸を見ると、お題は蓮が言ってた通り【大切なモノ】と書かれている。
つまり、大切なモノを借りてこいと。
他の参加者が気になってざっと見回してみたけど、人を連れて来たのは蓮一人だけ。
そのせいで、手をつないで並んでいる私達に黄色い声援が飛び交う。
当然ブーイングもセットで。
皆が手にしている【大切なモノ】を横目で見てみると、腕時計、手帳、好きな人の写真、そしてどこから借りてきたか分からない人のカツラまで……。
後夜祭実行委員の司会者は、ツッコミ満載の蓮の前へ行き、早速マイクを向けた。
「えー……。先ほど、イケメン部門で3年連続優勝した柊くん。今回の借り物競走のテーマは、人から借りた大切なモノですよ。覚えてますか?」
「大切な者だろ。合ってるじゃん」
「柊くん……。そうじゃなくて、大切な物ですよ」
「えっ、わかんねぇ」
蓮のすっとぼけた返事に会場は大爆笑。
賑わっていた後夜祭が更に盛り上がりを見せた。
司会者の進行で先着順にマイクを回して【大切なモノ】を披露していく生徒達。
まさか、蓮が私を校内から探し出して借り物競争のステージに立たせるとは思いもしなかった。
順番が来たら何て言うのかな。
恋人の高梨先生から私を借りて来たなんて、さすがに言わないとは思うけど、バカ正直なところもあるから突然何を言い出すかわからないよ。
冬の一歩手前で肌寒いのに、冷や汗がビッショリと湧き出てくる。
そんなこんなで、あっと言う間に自分達の番へ……。
司会者は再びニヤけながら蓮にマイクを向けた。
「柊くんは、誰から大切なお連れさんをお借りしてきたんですか?」
嫌みたらしい質問に口元を緩ませる司会者。
そして、蓮の答えに息を呑む生徒達。
司会者め……。
こっちは蓮が先生に宣戦布告をしたせいで気持ちが追い詰められたままこのステージに連れて来られたと言うのに。
しかも、先生だって教室からこの様子を見てるのに、意地悪な質問しないでよ。
それに、蓮はその質問に対してどう答えるのよ。
まさか、大丈夫だよね。
本当の事を言わないよね……。
梓は額から滝のような汗を流しながら蓮の方に目線を向けると……。
気付いた蓮は、まるで心を見透かしているかのように不敵な笑みを浮かべてこう言った。
「こいつの両親から借りてきました」
「あっ、ご両親から……。そーゆー意味ね」
質問を受けてから生きた心地がしなかったけど、その答えを聞いた瞬間雪崩のようなため息が出た。
イジワルトリオの蓮でも、さすがにそこまでイジワルじゃないよね。
お陰で一旦気持ちのピークは去ったけど、本当の悲劇の幕開けはこれからだった。




