言い出せない環境
「あのねぇ、私と大和は違うの。……ま、あんたに相談してもしょうがないか」
「独り身になったんだから蓮とやり直せばいいのに」
「そう簡単にはいかないの」
「ふーん。でも、独り身って結構楽だよ。誰からも束縛されないし」
「はぁ……っ。束縛されないって事は、誰からも愛されてない証拠でしょ? だから、あんたに話したくなかったんだよ」
結局、最終的には解決しない恋愛相談。
ズカズカと聞いてくるけど、他人事に考えている。
最終的に独自の恋愛観を突き付けてくるから、正直相談したくない。
ずっと話を聞き続けていたら、大和みたいに永遠と独り身になっちゃうよ。
「クリスマスパーティのカラオケ後に、蓮と愛の逃避行するなら先に言えよ。あの後、紬と一緒に30分くらいお前らを探したんだよ」
「愛の逃避行じゃないのになぁ……」
大和には、紬の為に敢えて二人きりにしたとは言えなかった。
意図的に仕組んだと言ったら、さすがの大和も紬の気持ちに気付いてしまうはず。
紬の為にこの件は口を噤んでおこうと思っていたけど……。
「紬の唇、柔らかかったなぁ」
大和は突然耳を疑うような爆弾発言を口にした。
その瞬間、私の思考は一時停止する。
「えっ?!」
「あいつさぁ、チューしたら震えてて。顔を見たら真っ赤になっててさ。見ている俺まで照れ臭くなるって言うか……。見た目以上にピュアなんだな」
「まさか、大和……。あんた……」
何っ?!
大和が紬にチューしたって?
正気なの?
大和だって紬の友達でしょ。
あんたの使い捨て彼女とは違うんだよ。
紬はあんたに本気なのに……。
しかも、紬からその報告を聞いてないんだけど……。
「カラオケ店でお前らが消えて探した後、俺ら二人だけになったからどうしようかと思ったんだけど、そのまま飲みに行くって事になって……。とにかく、あの日は二人とも酔っ払っててさ」
「紬はともかく、あんたは酔わないタイプでしょ。蓮から何もかも聞いているし」
「あはは、バレてた? あの日の紬の化粧は七五三みたいだったし、手作りのカップケーキなんて作ってきちゃって、カワイイなと思って」
「ちょっと! 紬に手を出さないでよ! 純粋純白な紬を、あんたのドス黒い毒牙にかけないで欲しいわ」
紬の気持ちも知らずに軽く扱っている大和にムカついて、肩にグーでパンチした。
大和は殴られた部分を手で覆うと、不服そうな顔をする。
「いってぇ! お前、俺のこと相当嫌いなんだな。でも、お前のダメはOKって意味なんだよな? 蓮から聞いた事がある」
「は? そんな訳ないでしょ。蓮の屁理屈を鵜呑みにしないで。紬に本気じゃないならキスなんてしないでよ」
「そんなのまだわかんないよ。これから紬を好きなるかもしれないし」
「ロクに人と付き合おうとしていないのに、どの口が言ってるんですか〜?」
梓は大和のほっぺたをギュッと強く捻ってから、足早で教室へと戻って行った。
教室に着くと、紬はスマホを操作しながら購買に行った私の帰りを待っていた。
向かいの席に座ると、早速キスの件について問いただした。
「ねぇ、紬。大和とキスしたって事をどうして話してくれなかったの?」
「えぇっ! それは……。梓が毎日泣き腫らした目で登校してたから自分の話をする余裕がなくて……」
紬の中で大和とのキスは一大事件だったはずなのに、言い出し辛い環境を作り出してしまった自分は、相変わらず自分の事しか考えていなかった。




