身に沁みる先生の優しさ
ーー学校が始まって初めての週末。
今日は空気が澄んでいて空が青々しい。
先生と二人きりで会うのはクリスマス以来。
私はいつものように自宅付近まで迎えに来てくれた先生の車に乗り込んだ。
今日は先生とお別れをするつもりでいる。
本当の気持ちに気付いてしまったからにはケリをつけなければならない。
私の決意など知らずにいつも通り県境に向けて運転をしている先生。
別れたいなんて言ったら、どんな反応をするかな……。
どうやって話を切り出そうかな。
どうすれば先生が少しでも傷つかなくて済むかな。
私は心の中で葛藤を繰り返しながら、窓の奥の景色を眺めていた。
車内に沈黙が続く中、普段から立ち寄るサービスエリアに到着。
高梨はシートベルトを外して、後部座席に置いてあるひざ掛けを片手で取って梓の膝に敷いた。
「スカートだから足元が冷えて寒いよね。気付かなくてごめん……」
「ううん、ありがとう」
先生はいつも通り優しい。
自分でも気付かないところを気にしてくれる。
優しさが身に沁みる分、余計に切り出しづらい。
どうしよう……。
こんなに大切に思ってくれてる先生に、いきなり別れたいだなんて。
しかも、その理由が蓮の事が好きだからって。
やっぱり、言えない……。
先生の優しさに触れた瞬間、今日までの思い出が蘇った。
秘密のメモを送って胸をドキドキさせながら密会したり。
いつも可愛くいて欲しいからと言って服を買ってくれたり。
蓮にヤキモチを妬いたり。
一緒に校長室に呼ばれて関係を疑われたり。
私に喜んでもらおうと思って、1ヶ月前からサーカスのチケットを用意してくれたり。
私の嘘をバカみたいに信じていたり。
特別な日に美味しいものをご馳走してくれたり……。
たった半年間の交際だけど、両手では抱えきれないほどの思い出が詰まっている。
勿論、気持ちは一つに固まっている。
でも、先生を傷付けてまで身勝手な気持ちを押し進めてもいいのかわからなくなった。
交際した男性は蓮しかいなかったから、当然別れ方も一つしか知らない。
先生は、『ちょっと待ってて』と言って車から降りて、自動販売機で暖かいコーヒーを買って冷え切った私の両手に握らせた。
「今日は口数が少ないけど何かあったの?」
「ううん、何でもない」
今ここで先生と別れたとしても、来週になればまた学校で顔を合わせる。
逃げたくなっても逃げられない関係。
それが教師と生徒。
だから、答えを出す事が余計慎重になっていた。
結局迷いに迷った挙句、別れ話を切り出せなかった。
いつでもどんな時でも優しく接してくれる先生を傷付けたくなかった。
穏やかに満ち溢れている笑顔を壊したくなかった。
臆病者……?
いや、違う。
私は偽善者。
結局、何だかんだ理由をつけて自分に都合のいいように殻に閉じこもっているだけ。
だから、未だに蓮のファンから嫌がらせを受けているのかもしれない。




