蓮の謝罪
二人肩を並べたまま海の方を黙って眺めていると、蓮は力の抜けた声で言った。
「俺さ、もうダメかも。頑張り過ぎて心がもたないみたい……」
「もうダメって? 病気じゃなかったんでしょ。この前暴露したじゃん」
「そっちじゃねーよ。……ってか、一度病気から離れよう」
「違うの? じゃあ、何の話?」
梓は首を傾げて質問すると、蓮は寂しそうな瞳を向けて言った。
「実は去年のクリスマスにお前をここへ連れて来る予定だった」
「確かあの日は浮気の件で喧嘩しちゃったから、待ち合わせ場所からそのまま真っ直ぐ家に帰った気がする」
「本当はこの場所でクリスマスプレゼントを渡すつもりだった」
「そっか……。プレゼントを用意してくれてたんだね。受け取れなかったけど、ありがとう」
梓は過去の話に胸がざわつき始めたので手を離すと、蓮は切実な目を向けて言った。
「今更だけど……。浮気してごめん。俺が悪かった」
月明かりが二人の姿をほんのりと照らす中。
蓮は過去の過ちを謝罪して梓の手を引き寄せて抱きしめた。
まるで、棒磁石のN極とS極が巡り会えたかのように強く抱き寄せられると、蓮は耳元で囁いた。
「別れたくなかった……。浮気した事に後悔してる。俺の一番は今も昔もお前だけ。近くにいないと苦しくなる」
蓮は自分勝手。
今さら浮気の謝罪をしても何も変わらないのに……。
最近、友達として関係がうまくいってたのに、今になってどうして話を蒸し返してくるの?
何かが弾けそうになった瞬間、両手で蓮の身体をドンっと突き放した。
「その話ならもう聞きたくない……。私達、もう終わったんだよ」
「お前が高梨と結婚するなんて無理だから」
「結婚って何の話よ。まだ婚約すらしてないし」
「でも、お前もあいつも年齢的にいつだって結婚出来る。先の事は誰にもわかんないから、先ずは俺の話を聞いて欲しい」
「話が先走り過ぎじゃない? 訳分かんない……。もう帰るっ」
感情的になった梓がプイッと背中を向けて帰ろうとすると、蓮は後ろから追いかけて手首を掴み上げた。
「お前は肝心な話になるとすぐ逃げ出すからいつまで経ってもまともに話せない。今日こそきちんと話し合おう」
と、いつになく真剣な蓮。
別れ話をした時よりも、引けを見せない強気な姿勢に私の理性は奪われていく。
「それならっ……。どうして浮気を繰り返したの? 許してあげた途端、また浮気。私がどんな気持ちで二回の浮気を許したかわかる? なのに、別れたくなかったなんてどのツラ下げて言ってるの」
気付いた時には感情を爆発させていた。
自分でも歯止めが効かないくらいに……。
バカみたい。
蓮が浮気をしたのはとっくの昔なのに、今さら熱くなっちゃって。
もう、ワケワカンナイ。
でも……、どうしてこんなに胸が苦しいのかな。
私は5か月前から先生と交際していて、蓮とは友達になったはず。
お互い別々の道を歩んでいるから、ドライに突き放せばいいだけの話。
しかも、こんな言い方をしたら過去形じゃなくて、現在進行形みたい。
それよりも気になるのは……。
私は今どうして泣いてるのかな。
蓮の事なんてどうでもいいはずなのに。
蓮の気持ちなんて放っておけばいいのに……。
自分でもよくわからないけど涙が止まんないよ。
「……っ」
梓は両目から滴る涙を右手の甲で拭っていると、蓮は驚いて目を丸くした。




