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虫の皇  作者: ムルコラカ
8/11

解放軍

 俺たちは一丸となって立ち上がり、反体制の声を上げた。


 そして、他の村々へ俺たちに加わるよう呼びかけた。


 数こそ本当の力。あのイナゴどもの襲来を経て、俺はそう悟ったのだ。いくら俺にチート能力があろうと、このままファント村の住民だけで直行しても返り討ちに遭うのがオチだ。だが、その数をもっと増やせれば――勝機はぐっと上がる。


 案の定、俺たちの呼びかけに次々と他の村々が応えた。見る見るうちに参加を表明する人々が増えて、短い間にその数は千以上になった。


「目指すは領主の住む街、バードウォール! 行くぞお前ら!!」


 俺たちは挙兵し、開戦の火蓋は切られた。


 バードウォールへ進軍する道すがらでも、馳せ参じてくる人々は後を絶たなかった。それだけ、この国の圧政に苦しんでいた奴らが多かったってことだ。道行く途中で話を聞いた限りだと、到底払えないような重税を最初から吹っ掛けられて搾取され尽くしていたり、遊び半分に捕らえられて拷問や処刑をされていたり、耳を疑うような仕打ちを受けているケースも少なくなかった。ファント村は、まだずっとマシな扱いだったと分かって、俺の中からためらいの感情は完全に消えた。


 女神の言ったとおり、この世界には救済が必要だ。それを与えてやれるのが俺だけなのだとしたら、これほど痛快なことは無い。俺こそが、唯一の救世主だ!


「見えたぞ、領主の城だ! 事前の手筈通り、二手に分かれて攻撃する! 俺たち正門攻撃隊が相手の注意を引いているうちに、別働隊は裏に回れ!」


 バードウォールは開けた街だ。周囲を壁で取り囲んでいるわけでもなく(”ウォール“という名なのにな)、防備は薄い。難なく街に雪崩込んだ俺たち『解放軍』は、瞬く間に領主の居城に迫り、そのまま攻撃を開始した。


「反乱軍め! ここは通さん! 返り討ちにしてやれ!」


 城を守っている兵士は、ざっと見たところ二百前後といったところだった。千人を超える俺たちを見てどの兵士も驚いた顔をしていたものの、気圧されている様子は見られない。


 それもそうだ。きちんと武装した二百人と、武器も防具もまちまちな烏合の衆千人では、実数通りの勝負とはならない。いくらこちらの士気が盛んだったところで、あえなく蹴散らされるのがオチだ。――普通なら。


「《ファイア・トルネード》!!」


「うわああああ!!?」


 俺が唱えた呪文と共に、兵士たちの断末魔が上がる。正門を守っていた兵士たちは、突如現れた炎の大渦に呑み込まれて無残に焼け死んでいった。


「ま、魔法だと!? 敵に魔法を使える奴が――ギャアッ!?」


 かろうじて炎を逃れた敵兵のひとりを、俺の剣 (オバルの部下から分捕った)が仕留める。血しぶきがあがり、返り血が顔にかかるが気にしない。


「死にたくなかったらよォ、とっとと武器を捨てて降参しなァ! 俺たちにブチ殺される前によォォォ!!!」


 大音声でのたまいながら、俺は城の中へ直進した。すぐ後に、解放軍が続く。


 怒りと殺気にまみれた集団の、怒涛のような狂宴が始まった。


 途中で立ち塞がる敵兵は、片っ端から殲滅して――。


 部屋という部屋を隈なく荒らして――。


 見つけた物資や財宝を、尽く掠め取って――。


 そしてついに、俺たちは領主の元へ辿り着いた。


「な、なんじゃあ貴様ら! ここ、こんなことをして、無事に済むと思っておるのか!?」


 怠惰なブタのようにぶくぶくと肥え太った醜い領主が、ガタガタと震えながらも懸命に虚勢を張る。嘲笑ってやりたい衝動を必死に抑えて、俺は奴の前に進み出た。


「自業自得だ、クソ領主。権力に任せて、自分たちを支える民衆を蔑ろにし続けた結果がこれなんだよ。もう、身勝手なお偉いさんに従うのはやめだ。今度は俺たちの番だ。お前たち卑劣な権力者どもから、何もかもを奪い尽くしてやる!」


「ふ、ふ、ふざけるな! 国王陛下や他の貴族たちが黙っておると――」


 それが、腐りきって汚物に成り果てた男の、最後の言葉だった。


 領主が全て言う前に、俺は手に持った剣を一閃させた。


 領主の首が胴から離れ、無様に床を転がった。頭を失った身体が、伐採される木のようにどうと倒れた。


「全て壊す。俺たちを踏みつけるような存在は、何もかもこの世から消してやるよ」


 物言わぬ骸に、俺はそう吐き捨てたのだった。

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