これが俺の異世界無双だ!
俺に向けられる、驚愕と恐怖が入り混じった目。
それを、俺は不快半分愉快半分で見返した。
民衆相手に強圧的な態度で迫り、自分勝手な振る舞いで迷惑を掛けるクソッタレ共。自分が絶対的に正しいと、なんの根拠も無く頭から信じているゴミクズの集まり。
不快の分は、こいつらが元居た世界のいわば『勝ち組』と呼ばれる手合いにダブって見えたこと。
愉快の分は、そんな奴らをこの俺が怖がらせているという事実だ。
「な、な、なんだ貴様は!? 我々に歯向かって、ただで済むと思っているのか!?」
「あーはいはい、お決まりのセリフは良いから」
俺は足元に倒れている兵士のひとりを掴むと、軽々とそれを持ち上げた。
「ひっ!?」
「とっととこの村から出ていけよ、オマルさんよ」
「誰がオマルだ!? 私はオバル――!?」
みなまで言わせなかった。
俺は担ぎ上げた兵士の身体を、思いっきりあの肥えたブタみたいな役人野郎に向かって投げつけた。チート能力で強化された身体能力によって、兵士は一直線にブタ野郎目掛けて飛んでゆく。
「ぎゃあああ!!?」
汚い濁声が辺りに響き渡る。ブタ野郎は逃げる間も無く、武装した兵士の下敷きとなった。
「きゃっ!?」
弾みで、ブタ野郎の拘束から逃れたジャクリーンが地面にくずおれる。彼女に怪我が無いことを素早く確認して、俺はまだ立っている他の奴らに向き直った。
「こ、こいつ!」
「謀反人だ、斬れ! 斬れ!!」
残っていた兵士たちが、いきり立って武器を構えこちらに殺到してくる。バカが、さっきので実力差を学びもしなかったのか?
俺は繰り出される剣をやすやすと掻い潜り、間合いに踏み込んではがら空きになった胴に拳を突き入れる。兵士たちはいずれも革鎧で防御を固めていたが、俺の力の前ではまるで用をなさない。ひとり、またひとりと着実に仕留めてゆく。人数分、きっちりとそれを繰り返した。
あっという間に、制圧は終わった。
「ふう、こんなもんか」
辺りに伸びているクソッタレ共を見下ろして、俺は一息ついた。
「おいジャクリーン、大丈夫か?」
「は、はい……。光夜さん、ありがとうございます」
俺はジャクリーンに手を差し伸べ、彼女を引き起こしてやった。
ジャクリーンは俺に頭を下げた後、地面に散らばっている有象無象どもに視線を向けた。
「……殺しちゃった、んですか?」
「いいや、流石にそこまではしちゃいないさ。殺したら引っ込みがつかなくなるしな」
これがネットの中なら、敵対行為をした時点でどうのこうのと言い出すヤツがいるだろうが(俺自身もそのひとりだ)、生憎とこれは現実だ。殺したら取り返しがつかなくなることくらい、ガキでも分かる。生かしておけば、やりよう次第で波風立てない終わり方にすることも出来るのだ。そして俺の脳内では、その為の手段がいくつか既にシュミレートされている。冴えてるぜ。チート補正はIQ数値にも及んでますってか?
「やった……! 光夜がやったぞ! ざまあみやがれ、役人どもめ!」
遠巻きに見ていた村人たちが歓呼の声を上げる。興奮冷めやらぬというように、倒れている連中に駆け寄ってここぞとばかりに石を投げつけていた。
やれやれ。ま、普段から圧政に苦しめられてちゃ無理もないか。俺だってムカついたんだ。
「あ、あの! もう全員気絶しちゃってるんですから、これ以上の暴力は……!」
優しいジャクリーンが彼らを制止しようとするも、誰も大人しく聞き入れる気配は無かった。
「ん……?」
突然、村人の何人かが動きを止めた。あのブタ野郎、オバルに群がってた奴らだ。
「お、おい……! なんか変だぞ!」
そのうちのひとりが、倒れたオバルの近くにしゃがみ込む。
「どうした?」
不思議に思った俺は、そっちの方へ近寄った。
「……死んでる。こいつ、死んでるぞ……!」
「え……?」
思考が、一瞬の内に固まった。