新たな世界の礎として
地は割れ、草木は死に、水は渇き、空は淀み、何もかもが終わった死の世界で、キトンのような真っ白い衣服に身を包んだひとりの女が悠然と佇んでいる。
女の両手には、黒く禍々しい光を放つ謎の球体が乗せられており、それを眺めてうっとりと微笑む彼女は、まるで女神のような微笑みを浮かべていた。
「あなたには感謝していますよ、百木光夜。現世利益を十分に享受したというのは先程の言葉通りですが、依頼したことに対する報酬は別にお支払いします。きっと、あなたも気に入ってくれると思いますよ」
女は慈しむように黒い球体を撫で、語り掛けるように言葉を続ける。
「あなたの魂は、私の《ワールド・フォーミング》計画のエネルギー源として大いに活用させて頂きます。あなたの力が世界を新しく作り変え、全ての生命の基となるのです。そこにあなたの意思も、自我さえ残っていなくても、あなたの魂はこれから生まれてくる全ての生命に受け継がれ、脈々と続いていきます。素晴らしいでしょう? 元の世界でひたすら自分の殻に閉じこもり、世界を呪いながらただ腐っていくだけだったあなたが、新たな世界の始まりとなれるのですから。この女神アーテノミアに運命を委ねた時から、こうなることは決定付けられていたのです。同じような鬱屈を抱える地球人であれば誰でも良かったのですが、あなたが選ばれたことの幸運を噛み締めて、存分にこの恩寵を享受して下さいね」
愛おしい我が子を見つめる眼差しで、女神アーテノミアは黒い球体に口づけをしたのだった。