子を思うのは親の愛情
馬を戻して、建物に戻ってきた俺達。
すると、建物の前に人だかりが出来ているのが見えてくる。
その様子を見るフィー。
「何をしているんだ?」
「昼ご飯だよ。外で食べるって事はもしかして…。」
駆け足で、人だかりの中へと向かうココル。
そして、そこで作られているものを見て大きく両手を挙げる。
「平焼きパンだーー!」
嬉しそうにはしゃぎ始めるココル。
よほど嬉しいものが作られているようだ。
「ほら。先に手を洗ってきなさい。」
「はーい。ママ。」
マレーヌの言葉に従い、ココルがどこかへ去っていく。
その間に、俺達もまたたどり着く。
「平焼きパン?」
「平らに焼いたパンの事よ。その上に色々な具材を乗せるの。」
「へー。」
ピザみたいなもの?
そういえば、焼けたチーズの匂いがするような。
石釜の中から、何度も嗅ぎなれた匂いがしている。
その匂いは、紛れもなくチーズの匂いだ。
形からして、ピザで間違い無いだろう。
後ろのウィロも確かめる。
「珍しいですね。貴重なものを使ってるから、あまり作りたくはないと聞きましたが。」
「そうよ。でも、折角だしフィーさん達に牧場の良さを知って欲しくてね。」
この世界のピザは、とても貴重なもののようだ。
だから、そう簡単に出来るようなものではないのだが…。
「私達の為?」
「えぇ、折角だもの。牧場は良い所だって覚えて帰って貰うからね。楽しみにしててよ?」
「そうか。わざわざ済まないな。」
ありがたいね。
こっちの牧場料理、堪能させて貰うよ。
「さ、貴方達も手を洗ってきなさいな。すぐに出来るから。」
「そうだな。じゃあ、行ってくるよ。」
俺達もまた、走り去ったココルの方へと向かう。
それから手を洗い戻って来ると、先程よりも強い匂いが立ち込める。
「良い匂いだな。にゃんすけ。」
にゃふー。
そうだねー。
お腹がすいてくるよ。
チーズの匂いが、空腹を実感させてくれる。
その匂いにつられる俺達に、マレーヌが気づく。
「お帰り。丁度、焼けたわよ。ココル、ウィロさん、これ持っていって。」
「はい。」「はーい。じゃあ行こ。」
マレーヌに渡された盆を持ったココルに着いていく。
そして、少し離れた場所にある木を倒してそこに座る。
「ささ、早く食べよ。まずは、お客さんから。」
「いいのか? では、いただこうか。」
にゃん。
いただきます。
切られたピザのようなものの一切れを掴む。
そして、二人してその端にかじりつく。
すると、食べ慣れたチーズの味が広がる。
「どう? 美味しい?」
「旨いよ。この伸びるやつ。」
旨いねー。
そして懐かしいよ。
久方ぶりの味に満足をする俺。
フィーもまた、チーズの味を楽しんでいる。
そして、更に具材が乗った所も食べ始める。
知ってるピザと違って生地が熱いね。
後、具材も大きい。
これはこれで良いかも。
「あうな。肉と野菜の味が生かされている。これ、何なんだ?」
「さぁ? 配達に向かった先でママが教わったものだからね。私は知らないよ。」
「確か、他の従業員にも教えてないんだっけ。」
そうなんだ。
じゃあ、マレーヌさんだけが作れるものなんだね。
貴重なはずだよ。
作れる人が限られているので貴重なのだ。
そんなピザのようなものの味を楽しみつつも、残りをまとめて食べきる。
「さ、どんどん食べてね。師匠、私達も食べよ。」
「うん。久しぶりの平焼きパンだ。楽しもう。」
ココルとウィロもまた、ピザのようなものを食べ始める。
そして、満足そうな顔をして味を楽しんでいる。
俺達も負けじと、次へ次へと手が伸びる。
よく見ると、広場の従業員達も同じような反応をしながら食べている。
「皆も楽しんでいるな。」
「そりゃあね。人数が人数だから、いつも昨日みたいな簡単な食事だし。あーでも、それが嫌なんじゃないよ?」
「うん、マレーヌさんの料理はどれも美味しいからね。」
「そうそう。って、師匠ってば同じことばっか言ってる。」
「仕方ないだろ? 本当の事なんだし。」
ウィロは自信満々な顔をしている。
好きな人の事だから、何度でも伝えたいのだろう。
しかし、それだからという理由だけではない。
「まぁ、ママのご飯が美味しいのは確かだけどね。ずっと食べてたいぐらい。って、あれ?」
ココルが伸ばした手が空を切る。
盆を見れば、そこにあるはずのものが無くなっている。
「もうないの? 全然物足りなーい!」
「数が数だからね。貰ってきたらどうだい?」
「そうするー。」
立ち上がったココルは、新たな食べ物を求めて歩き出す。
そして、子供達に混ざっておかわりを貰っている。
「元気だな。」
にゃ。
そうだね。
元気というか明るい?
休みなく動き続けられるココル。
それは、ココルの明るい性格によるものだろう。
そのココルは、子供達と楽しそうに笑っている。
「ほんと、分けてほしいわよね。」
「そうだな。って、え?」
急に、後ろから声が聞こえてくる。
そちらを見ると、マレーヌがそこにいた。
その事に、ウィロが驚く。
「マ、マレーヌさん!?」
「どうしたの? そんなに驚いて。」
「い、いやぁ。なんでも…。」
へたれてるねぇ。
相変わらず。
急な登場に慌てたようだ。
そして、狼狽えて縮こまっている。
そんなウィロの代わりにフィーが向き合う。
「忙しいんじゃないのか?」
「そうね。でも、これを届けたくて。はい。」
そう言って、手に持つそれをフィーと俺に手渡す。
それは、器の中で黄色く震えている。
こ、これはまさか!
「卵の蒸し焼き菓子。良いんですか? こんなものまで。」
「えぇ。言ったでしょ? 牧場の良さを知って欲しいって。」
言ってたけど…。
まさか、プリンまで出てくるなんて。
なんか暖かいけど。
その料理は、まごう事なきプリンである。
しかし、知っているプリンと違って暖かい。
それを渡したマレーヌは、ココルが座っていた場所に座る。
そして、ウィロにも同じものを渡す。
「はい。」
「僕にまで。ありがとうございます。」
「どういたしまして。さ、食べて食べて。」
「あぁ、いただくよ。」「いただきますね。」
にゃっ。
いただきますっ。
マレーヌに促され、付属の木べらでプリンのような物を食べる俺達。
暖かく柔らかい卵と砂糖の味が口に広がる。
それ以外の味は無いが、紛れもなきプリンだ。
「んーっ。甘いっ。良いなこれ。」
「そう? 上手く出来たようで何よりだわ。」
まさか、この世界で食べれるなんて。
味は質素だけど嬉しいよ。
元の世界のプリンのような、洗練された味ではない。
しかし、今はこの甘さだけでも充分だろう。
その味を楽しんでいると、フィーがある事に気づく。
「ココルにあげなくてもいいのか?」
「うん、あげようとしたんだけど…。」
「あぁ。」
マレーヌが手に持つもう一つのを軽く振る。
ココルの分だろう。
しかし、ココルがいなくなったので手渡せないようだ。
器を片手に頬杖をつき微笑むマレーヌ。
「ほんと、落ち着きないんだから。あの子。」
「でも楽しそうだが?」
「まあね。世話をかけさせられる程って奴かしら。」
それほど大事なんだね。
本当に親子にしか見えないよ。
世話をかけられる程、可愛いという事だろう。
はしゃぐココルを見つめる目は、母親のそれと同じである。
「そういえば、ココルの親はどこだ? 昨日の口ぶりからしているのだろ?」
「いいえ。いないわよ。」
「え?」
いないの?
どういう事?
昨日の話では、村を失った親子を受け入れたというものだ。
しかし、ココルには親がいないようだ。
「僕がココルを拾った時は一人だったよ。探したけどいなかった。ただ一人で、壊れた家の中でじっと座っていたんだ。」
「死んだのか?」
「生き残りすらいなかったからそうだと思う。」
生き物が一人もいない。
つまり、ココルを除いて村人は全滅したという事だ。
当然ながら、親も生きてはいないだろう。
「巡りが五回来る前だったかしら。あの子が来た時は、ずっと塞ぎこんでたわ。」
「うん。今のような明るさは微塵も無かったね。」
「そんな事が…。」
親がいなくなればそうなるか。
なんか、可哀想だね。
まだ小さい時に親を失ったのだ。
その影響は、大きいものだろう。
塞ぎこむのも仕方がない。
「ままならないものだよ。もっと早くに駆けつけてらって今でも思ってる。」
「じゃあ、彼女に戦いを教えたのは?」
「それしか、してやれる事が無かったからね。いや、ただの自己満足かな。」
ウィロなりに、励まず方法を考えての事だ。
しかし、実際は同じ目に合っても生き残れるようにと願っての事だ。
ウィロの願いを、ココルに押し付けたのだ。
「でも、ああして元気でいてくれてる。それだけで嬉しいの。」
「あの笑顔をみていると、僕たちがしてきた事は間違いじゃないって思えるよ。」
そう言う二人の笑顔からは、嘘を感じられない。
心からの言葉だろう。
「だからこれからも…」「あーっ、お菓子食べてる!」
ウィロの言葉は、ココルにかき消される。
いつのまにか、戻って来ていたようだ。
「はいはい。ココルの分もあるわよ。」
「やった!」
喜ぶココルは、マレーヌの膝の上に座る。
そして、受け取ったプリンのような物を食べ始める。
その顔は、とても笑顔だ。
「そういえば、なに話してたの?」
「ココルのやらかした話よ。」
「ええっ。変な事教えて無いよね?」
「さぁ。それはどうかしら?」
そう言って、笑うマレーヌ。
そんなマレーヌを見て、ココルは頬を膨らませて見ている。
拗ねているだけだろう。
そして、その様子を見てウィロが笑う。
「んー?」
そんな二人を、よく分からないとばかりに見るココル。
それでも、間違いなくある。
子を思う親の愛情がそこにあるのだ。
「変な二人。」
そう言いながら、ココルはプリンのような物を頬張る。
フィーと俺もまた、その様子を暖かく見守る。
どこからどう見ても、仲の良い家族の姿を。
その時、一際強い風が牧場を駆ける。




