義理の親子でした
飛び出したココルは、ピグルンとの距離を詰める。
そして、一番近くのピグルンを殴り飛ばす。
ぷぎっ!?
当然の事ながら、群れのピグルンが気づく。
複数の視線が、ココルへと向かう。
それでも、群れへと怯える事なく両手を大きく挙げるココル。
「おらーっ! 性懲りもなく来やがって! そんなにぶっ飛ばされたいならぶっ飛ばしてやる! かかってこーい!」
そう、ピグルンの群れへと叫んだ。
それを聞いた先頭のピグルンが長い棒を掲げる。
ぷぎーーっ!
その声で、群れが一斉に動く。
それに対して、ココルが拳を構える。
そして…。
「行くよ!」
先に攻撃を与えたのはココルだ。
先頭のピグルンの横顔に一撃。
更に蹴飛ばして、後ろのピグルンごと吹き飛ばす。
ぴぎぃっ!
そのココルの隙を狙って、ピグルンが手に持つ棍棒を振るう。
だが、その前にココルの肘が叩き込まれる。
「はあっ!」
そこから裏拳に繋げ、更に蹴りへと繋ぐ。
その一撃で飛んだピグルンを避けた他の三体がまとめて迫る。
ぷぎゃぎゃ!
先頭の一匹が、棍棒を思いきり振るう。
それを下がって避けたココルが距離を詰めての横顔への一撃。
「はあっ!」
そこから更に、前に出てもう一匹の横顔を殴り飛ばす。
そこに一匹の棍棒が迫るが、ココルが腕の防具で受け止める。
「無駄、だよっ!」
ココルが繰り出した蹴りが、ピグルンの横顔に直撃。
その一撃で怯んだピグルンへと拳を突き出し殴り飛ばす。
「ふーっ。」
一息ついて構え直すココル。
そして、他のピグルンへと襲いかかる。
その一連の戦いを見ていたフィーが感心する。
「ほう、やるじゃないか。」
「えぇ。あれぐらいの魔物なら問題なく倒せるわね。」
確かにすごいよね。
いい動きだ。
ココルは、ピグルンの群れを凪ぎ払う。
その動きは、洗練されたものだ。
「あれは技だな? 戦い方は独学か?」
「いえ、あれは…。」
マレーヌが何かを言おうとした時だった。
空から何かが降ってくる。
それらは、ココルの前へと落ちる。
ずしーーーん!
激しい音と共に、土埃が舞う。
「な、なに!?」
迫る土埃から、手で顔を庇うココル。
すると、土埃の中から一際大きなピグブリンが三体現れる。
それを見たフィーが驚く。
「なんだあれは。あいつもいつものか?」
「いいえ、違うわ。知らない。あんなやつ知らないわ!」
「な、何だと!?」
にゃっ!?
何だって!?
急に現れたそいつは、今まで出会った事のない相手のようだ。
先頭にいるそいつへと、長い棒を持ったピグルンが近づく。
ぴぎぃっ!
ぶるぎゃ?
ピグルンと大きなそいつが、何やら話し合っている。
すると、大きなそいつが前に出る。
「なによ。やる気?」
ココルが構えて迎え撃つ。
それを見た大きなそいつが拳を振り上げる。
ぶるぎゃ!
「来い!」
大きなそいつの拳がココルを襲う。
それを避けたココルは、その下に潜り込む。
「遅いよ!」
そのまま距離を詰めると、大きなそいつのお腹に拳を叩き込む。
しかし、揺らすこと一つ叶わない。
そんなココルへと、そいつがにやりと笑う。
ぷるぎゃ!
そして、突き出した手とは反対の手をココルへと叩き込む。
「ぐうっ!」
「ココル!」
とっさに両手で塞いだが、吹き飛ばされてしまう。
咄嗟に地面に手を着いたココルは、一回転して着地する。
「こいつ。固い。」
相手へのダメージはない。
それどころか、殴った方の手が痛む。
「どうすれば。」
攻撃が効かないと分かり攻めあぐねるココル。
そんな、ココルへと容赦なく拳が迫るが…。
「にゃんすけ!」
にゃん!
任せて!
一瞬で距離を詰めた俺が、大きなそいつの足元へ。
そこから、地面、腕、顔へのポイントダッシュ。
その一撃で、そいつの上体が反れる。
「いいぞ!」
その隙に追い付いたフィーが、傾いたそいつの背後に迫る。
そのまま、抜いた剣をそいつの首へと叩き込む。
「フィーさん!」
ココルがフィーの名前を呼ぶ。
それに構わず、フィーが剣を掴む手に力を入れる。
しかし、フィーの全力の一撃ですらも通らない。
「固いっ。それなら!」
思いきり足に力を込める。
その力が体を通り腕へと伝う。
「はあぁっ!」
それは、先の村で教わったもの。
達人が極めた、技の基礎。
それが、一撃の威力を高める。
そして…。
ぶるぎゃあっ!
その一撃が、大きなそいつの首をはね飛ばす。
飛んだ首がそのまま地面に落ちると、残った体が崩れ落ちる。
「凄い!」
ぷるぎゃ!?
他の大きなそいつにとって、予想外な出来事だろう。
慌てて数歩下がっていく。
そこへ、フィーが剣を突き出す。
「大丈夫か? ココル。」
「大丈夫だけど。」
そうは言うも、立ち上がろうした拍子に膝から崩れ落ちてしまう。
「いたっ。」
倒れたココルは、足を押さえている。
どうやら、先程の着地の時に足を捻ってしまっていたようだ。
そんなココルへと、マレーヌが駆け寄る。
「ココルっ。大変だわ、足が。馬車に戻りましょう。」
「でもあいつらはっ。」
「そんな事言ったって、その足じゃ戦えないでしょう。」
戦うどころか、立つことすらも出来ない。
このまま戦っても返り討ちにされるだけだ。
そんな事情を察してか、大きなそいつらが動き出す。
ぶるぎゃあっ!
「させん!」
突っ込んでくる一体を、剣で斬り飛ばす。
続いて来る一体も、同じように斬り飛ばす。
その時、最初に斬り飛ばしたほうがココル達へと駆け出す。
「しまった!」
フィーの横を抜けたそいつは、ココル達へと突っ込んでいく。
その前に、その横顔を俺が蹴り飛ばす。
にゃ。
させないよ!
しかし、びくともせずに弾き飛ばされてしまう。
その固さと勢いには、俺の蹴りも通用しない。
そのまま大きなそいつは、ココル達へと拳を振るう。
「きゃっ。」「きゃあっ。」
「止まれっ。ぐうっ。」
駆け出そうとしたフィーに、もう一体が襲い掛かる。
もう止められる者は誰もいない。
その時だった。
「二人にっ。」
ココルとマレーヌの前に、人影が現れる。
「手を出すな!」
その人物は、そう言いながら迫る拳に自身の拳を叩き込む。
その一撃で大きなそいつの拳を押し返すと、胴体に蹴りを与えて吹き飛ばす。
その人物を見て二人が驚く。
「あなたはっ。」
「し、師匠!」
二人が知っている人物のようだ。
師匠と呼ばれた男は、挙げた足を降ろす。
その前で、蹴り飛ばされたそいつが立ち上がる。
「じっくり話を聞きたい所なんだけど。」
そのような時間を作ってくれるような相手では無いだろう。
師匠と呼ばれた男は、ココルと全く同じ構えをとる。
「そこの子。一体任せても?」
「え? あ、あぁ。」
事情が分からないフィー。
それでも一体ならばと、目の前の相手を斬り飛ばす。
そして…。
「はあっ!」「おらっ!」
一体の首を斬り飛ばすフィー。
師匠と呼ばれた男もまた、もう一体の顎に一撃を与える。
それにより、二体のそいつが同時に倒れる。
「よし。討伐完了!」
師匠と呼ばれた男が、満足そうに頷いた。
そんな男へと、マレーヌが駆け寄る。
「ウィロさん!」
「マレーヌさん! ぶっ、無事ですか?」
「えぇ、あなたは?」
「え、えぇ、無事ですとも。ほら。」
マレーヌが心配そうに男を見る。
そんなマレーヌを心配させまいと、元気そうに拳を振るう。
しかし、その動きはぎこちない。
そんな男を、剣を納めたフィーが不思議そうに見つめる。
「誰なんだ?」
「師匠だよ。」
「師匠?」
師匠?
「そうだよ。私に戦いを教えてくれた人。」
いつのまにか、後ろにいたココルが答える。
師匠なら、知り合っててもおかしくはないだろう。
「あの人もハンターか。もしかして、さっき言っていた人って。」
「うん。護衛をしてくれる人だよ。よく牧場の手伝いもしてくれるの。」
「へぇ、仲が良いんだな。それにしては…。」
何だかよそよそしいよね。
実際、緊張した感じでマレーヌさんと接しているし。
「うん、緊張してるって言いたいんだよね? ここだけの話なんだけどね、師匠ってママの事が好きなんだ。」
「へぇ。って、既婚者だろ? 良いのか?」
「え? ううん。ママは結婚してないよ。」
「え、え?」
そ、そうなの?
ママって言っているけど。
いきなりの事で動揺するフィーと俺。
子供がいるなら、父親がいると思うのは普通だろう。
驚く俺達を見て、何かを閃いたような顔をするココル。
「あぁ、言ってなかったっけ。私はママに拾われた孤児だったの。」
「血が繋がって無いのか?」
「うん。一人でいた所を拾ってくれたの。その時の事、覚えてないけどね。でも、大切な家族だよ。」
なるほどね。
義理の親子って事か。
拾われたから実の親子ではない。
それでも、思いは家族のそれと同じなのだ。
そんな話をしていると、ウィロがこちらへと来る。
「話は聞いたよ、君が助けてくれたんだろ? ありがとう。」
「いや。私では二人を助けられなかった。」
「そんな事はないよ。足止めしてくれたから僕は間に合った。君のお陰だ。」
優しい笑顔でフィーを見る。
その笑顔からは、嘘を感じない。
心からの言葉だろう。
「それより師匠。どうしてここに?」
「それなんだけど、最近大物の獲物が活発でね。もしかしたらと思ったら。」
そう言って、倒れている大きなそいつを見る。
嫌な予感がして来てみれば、その通りの事が起きていたのだ。
「さっすが師匠だね。あれ。そういえばちっこいのは?」
「ちっこいの?」
「ほら。長い棒を持ったやつ。」
「あぁ…そういえばいたな。」
確かにいたね。
どこ行ったんだろう。
先頭を歩いていた奴が見当たらない。
間違いなく、大きなそいつと話していたはずだ。
倒していない筈なので、いるはずなのだが。
「僕が来たときはいなかったよ。逃げたんじゃないか?」
「ぐぬぬ、あのやろう。」
「まぁ、いいんじゃないか? 一体だけなら悪さはしないだろう。」
「それはそうなんだけど。悔しいなぁ。」
悔しそうに、逃げた先であろう場所を恨めしく見るココル。
しかし、それどころでは無かったのだから仕方がない。
そんなココルの肩に、マレーヌが手を置く。
「それよりも、あなたは治療でしょ。早く牧場に戻りましょう。」
「はーい。そういえば、師匠も来るの?」
「うん。そのつもりは無かったんだけど、さっきのを見たらね。」
どうやら、着いて来るようだ。
あのような大物がもう来ないとは限らない。
そう思うと、放っておく事は出来ない。
「さ、皆、馬車に乗って。牧場へと帰るわよ。」
そんな事もあって、皆が乗り込んだ馬車が牧場を目指す。




