拾われました
俺とフィーは、何もない平地を歩いていた。
整地された道に沿って進んでいく。
「何もない。というか、ここは一体どこなんだ…。」
にゃあー。
俺に言われても。
見渡す限り、何も見えない。
町や村といった、場所が特定できる物は何一つない。
本当、何処なんだろう。
なぜこうなったかは、少し前に遡る。
何とか森を抜けれた俺達は、元いた町へと歩き出す。
しかし、出た場所が違ったのか元の町に戻れない。
それでもと、道に沿って歩いた結果がこうである。
「まぁ、これもまた放浪旅か。楽しむしかあるまい。」
にゃー。
だねー。
目的が分からないからこそ、楽しめるものもあるだろう。
そう考えをまとめ、ひたすら道を歩き続ける。
その道中、後ろから車輪の音が聞こえてくる。
「ん? 何だ?」
何だろう。
二人して後ろを振り向く。
すると、一台の馬車が来ているのが見える。
その後ろには、大きな荷台も見える。
「こんな所に馬車が?」
見渡す限り、誰かが住んでいるような場所は見当たらない。
馬車が通るには不自然な道だ。
その馬車が近くに来ると、フィーの側で止まる。
すると、荷台の前に座る女性がフィーを見下ろす。
「あの。このあたりには何もありませんが、ここで何を?」
「旅をしていてな。町か村でも無いものかと探しているんだ。」
どちらかに着けば、宿や飯屋もある。
そこから馬車に乗れば、旅の選択肢も増えるだろう。
しかし、それを聞いた女性は不安そうな顔をする。
「残念ですが、この先にそういったものはありませんよ。」
「そうか。じゃあ、何で馬車はこの先に向かっているんだ?」
「それは、この先に私の牧場があるからですよ。」
「牧場?」
この先には、人の住める場所はない。
しかし、牧場があるなら話は別だ。
馬車が通るのも不思議ではない。
「そうか、困ったな。どうしたものか。」
どうしよう。
このまま進む訳にはいかないし、戻るのもね…。
目的が無ければ、先に向かう必要がない。
だからといって、町に戻ろうにも先は長い。
そもそも、どうやって戻るのかも分からない。
「うーん。それじゃあ、近くの町まで乗っていきますか? 結構、戻る事になりますが。」
「いや、そこまではな。迷惑をかけるつもりはない。」
どうしようか迷っているのは事実。
だからといって、こっちの都合で振り回すつもりはない。
そう悩んでいると、女性の後ろから一人の少女が身を乗り出す。
「じゃあ、一緒に牧場に来たら?」
「牧場に?」
現れるなり、そう提案する少女。
しかし、それを聞いた女性が慌て出す。
「ええっ!? で、でも、客人を呼べるような場所じゃないし。」
「旅人なら大丈夫でしょ。別の町に配達に行く時にでも連れていけば良いと思うよ。それでどう?」
「ん? 事情は分からないが、屋根と壁さえあればそれで構わない。なぁ?」
にゃ。
まあね。
野晒しよりましかな。
どのような環境かは分からない。
でも、このままここで一夜を過ごすよりかはましだろう。
「だってさ。どうする?」
「うーん、そういう事なら。でも、本当に大変ですよ?」
「あぁ。世話になれるのなら、わがままは言わないさ。」
にゃ。
うん、言わないよ。
問題が解決するならそれでいい。
それ以上のわがままは、贅沢だろう。
その返事を聞いた女性が頷いた。
「そういう事なら、一緒に行きましょう。乗って下さい。」
「助かるよ。」
にゃ。
助かります。
お礼を言って、馬車の荷台に乗り込むフィーと俺。
すると、少女が手を振って歓迎する。
「はーい。いらっしゃーい。」
「乗った? じゃあ、出発するから座ってね。」
「あぁ。」
立ったままだと危ないので、少女の横に座る。
それと同時に、馬車が走り出す。
すると、少女の手が俺の頭に触れる。
「もふもふだ。触っていい?」
にゃー。
いいですよー。
って、もう触ってるけどね。
答える前に、少女に頭をもふられる俺。
気持ちいいのか、その手つきは激しい。
「良いもふもふ。うちの動物とはまた別の感触ー。」
お目が高い。
誉められたのが嬉しいので、黙ってそのまま撫でられる。
手つきが激しくても気にしない。
「あまり迷惑をかけちゃ駄目よ?」
「分かってるよ。ママ。」
女性に言われて、ほんの少し手つきが優しくなる。
その代わり、後ろからぬいぐるみを持つように抱えられる。
その際、少女の腕に嵌められている物にフィーが気づく。
「鎧か。戦えるのか? えーと。」
「ココルだよ。この辺りにも、魔物がいるからね。自分達で守らないと、配達なんて出来ないんだよ。」
「フィーとにゃんすけだ。どうりでな。」
なるほどね。
どうりで、さっきから鉄の物が頭に当たる訳だ。
軽装だが、胸と腕と足に鎧が着いている。
動きを取られない程だが、力を乗せられる程の大きさはあるだろう。
「だが、護衛ならハンターに任せたらどうなんだ?」
「そんなお金は無いよ。それに、わざわざ着いてきて貰うってのもね。場所が場所だし。」
人里離れた場所に、牧場はある。
着いてきて貰うとすれば、牧場に一泊となるだろう。
そこまでしてもらうつもりはないようだ。
「それに、私だってそこそこやるんだよ? ねぇ、ママ?」
「そうね、いつも助かってるわ。ちなみに私はマレーヌよ。よろしくね。」
「あぁ、よろしく。」
よろしくね。
マレーヌに誉められたココルは、満足そうな顔をしている。
誉められて嬉しいのだろう。
「あ、でも、時々一人だけ安い値で護衛してくれる人がいるんだよね。ね? ママ?」
「え? えぇ、そうね。その人がいる町の時に…って、どうして私に聞くのよ。」
「いーや、なんでもなーい。ふんふふーん。」
何やら楽しそうに鼻歌を歌うココル。
その体も、鼻歌に合わせて揺れている。
「では、今いないのは、その町に寄ってないからか?」
「そーだよ? 確か次はいつだっけー?」
「そろそろよ。って、だから何で私に聞くのよっ。」
慌てるマレーヌだが、ココルは相変わらずだ。
いたずらっぽく笑っているだけで答えない。
なんだか、さっきから楽しそうだね。
何かあるのかな?
「そんなこんなで、その人のお陰で危険な道もやれているんだ。」
「へぇ。世の中、そんな人もいるんだな。」
「うん、いい人だよ。それに、私に戦いかたを…っと!?」
ココルが言いかけた所で、荷台が大きく揺れる。
馬車が止まった事による揺れだ。
それにより、フィーがマレーヌを見る。
「どうしたんだ?」
「もしかして、いつもの?」
「えぇ。前を見て。」
マレーヌの言葉に、前を見る俺達。
そこには、魔物の群れが前の道を塞いでいた。
何やら、長い棒を振り回しながら歩いている。
「ピグルン。あいつら、性懲りもなく。」
「ピグルン?」
「うちの牧場を狙ってる奴。何度もこらしめてるのに来ちゃうの。」
どうやら、見知った相手のようだ。
その容姿は、豚の鼻が着いた二足歩行の魔物だ。
群れの先頭にいるのが、地面に鼻を近づけ嗅いでいる。
「狙いは牧場ね。ここで止めるよ。」
「お願いね。」
「私も戦おうか?」
戦おうと立ち上がるフィー。
しかし、そんなフィーをココルが手で制す。
「大丈夫だよ。」
代わりに前に出たココルが、腕の鎧を確かめる。
「私で充分だから!」
顔を両手で叩いたココルは、荷台から飛び降りる。
そして、ピグルンの群れへと突っ込んでいく。




