花びら舞う道で見送られました〈完〉
事態が動いたのは、太陽が顔を出した頃。
丁度、辺りが明るくなり始めた時の事だ。
聖獣が地面へと倒れる。
『はぁ、もう動けぬ。楽しいだった。』
動き続けた事により、力尽きたようだ。
しかし、その顔は至福に満ちている。
「呪いはどうなった?」
『もう、完全に払われた。フィーのお陰だ。』
聖獣の呪いの力は、何一つ残っていない。
呪いから、解放されたようだ。
『後は、私の首を跳ねてくれればいい。それで、全てが終わるはずだ。』
「分かった。」
フィーが剣を振り上げる。
そして、紫の聖火を剣先に灯す。
『フィーよ。』
聖獣がにこりと笑う。
『ありがとう。』
フィーが剣を振り下ろす。
その言葉を最後に、聖獣の首が跳ね飛んだ。
「・・・。」
そして、フィーと俺の意識も無くなった。
次に意識を取り戻したのは、どんよりと薄暗い中だった。
空には雲で覆われており、今にも雨が降りそうだ。
その中で、フィーが体を起こす。
「寝てしまったか。」
力尽きたのは、フィーも同じ。
そのまま、気絶するように寝てしまったのだ。
「あれ、聖獣は?」
目の前にいるはずの聖獣がいない。
確かに、ここで首を切り落としたはずなのに。
「どこに?」
やつれた目で、辺りを見渡し聖獣を探す。
その時、異様な景色が目に入る。
「なんだ、これは。」
まず目に入ったのは、枯れ果てた森の樹だ。
葉っぱ一つなく、萎びたように縮んでいる。
かなりの時が、経ったかのように。
「おい。にゃんすけ、起きろ。」
にゃむ?
むにゃ。
なに? どしたの?
「辺りを見ろ。」
えっ、なにこれっ。
タイムワープ?
まさに、時間の跳躍をしたかの様だ。
先程まで茂っていた森の樹は、無惨な姿になっている。
「そうだ。フォリアを埋めてやらないとな。」
にゃん。
そうだね。
野晒しなのは可哀想だし。
死んだフォリアを、埋めてあげないといけない。
しかし、フォリアを隠した場所に行ってもフォリアの姿がない。
「いない。夢でも見てたというのか?」
まるで、今までのが無かったかのようだ。
痕跡らしいものは、何一つとして残っていない。
「村に、行ってみよう。」
にゃん。
ここにいても意味がないもんね。
行ってみよう。
来た道を通り、村へと向かう。
そこを抜けると、畑が見えてきた。
その奥には、村が見える。
「村だ。」
村、あったね。
でも・・・。
村もまた朽ち果てていた。
畑を抜けて村に入る。
そして、近くの家の壁を触る。
すると、簡単に崩れて穴が空いた。
「人が住んでいたとは思えんな。」
もはや廃村だね。
完全に風化しきっちゃってる。
どこの家も、ボロボロにひび割れている。
今にも、崩れてしまいそうな程だ。
そんな中を歩いていると、雨が降ってくる。
「雨か。」
にゃ。
雨だね。
避難できる場所は。
どの家も朽ちているのだ。
雨を防げるような屋根などあるわけがない。
仕方なく、村を歩き続ける。
すると、同期達の思い出の家の前にたどり着く。
「ここは、無事なのか。」
丈夫な造りのこの家は、あまり損傷が少ないようだ。
軒先の辺りは濡れていない。
「ここで雨宿りでも・・・。」
雨を避ける為に、軒先に向かおうとした時だった。
軒先に同期達が笑い合う幻影が見えた。
それが、フィーと俺の足を止める。
「いや、やめよう。」
にゃん。
仕方ないね。
辛くなるだけだし。
首を横に振ったフィーが、最後にチラ見をしてから歩き出す。
ここでの思い出が、くたびれた心にずしりと来るのだ。
そして、出口に向かって歩き出す。
「・・・。」
・・・。
その間は、一言も喋らない。
ただ、雨の音が聞こえてくるだけだ。
服や毛が濡れるも、そちらに意識は向かない。
そうして村の門にたどり着くと、村を振り向く。
「私は、守れなかったんだな。」
にゃん。
そうだね。
でも、それしか無かった。
「守って、やりたかったな。」
うん。
守りたかった。
しばらく村を見つめる。
そして、扉へと向き直す。
寂れた扉をこじ開けて、外へと出る。
「さようなら。」
別れを告げて外の森へと歩き出す。
その時、空が明るく光り出した。
「なんだ?」
なんなの?
フィーと俺が空を見上げる。
どうやら、光は村から来ているようだ。
急いで、村を振り向く。
「これは、一体。」
何なんだよっ。
村の空が目映く光っている。
その光が一ヶ所に集まると、爆発するように拡散する。
それが、雨雲ごと吹き飛ばす。
すると、空に複数の光の球が現れた。
「綺麗だ。」
にゃん。
だね。
それは、イルミネーションのような光景だ。
その綺麗さに魅入られて言葉が出ない。
そうして見ていると、黄色い炎が綺麗な光景を彩っていく。
「黄色い炎。聖火? まさかっ!」
そのまさかだよっ!
フィーと俺は、無意識に走り出す。
その前で、黄色の聖火が真ん中に集まり渦を巻く。
すると、中から一人の少女が現れた。
「あれは、フォリアか?」
その少女は、死んだはずのフォリアだ。
しかし、獣耳と尻尾はない。
「フォリア!」
「え、フィーさん? って、何で私、空に浮いてるのっ!?」
フォリアは、自分の状況に気づいたようだ。
その直後、地面に向かって落ちてくる。
「きゃっ!」
「危ないっ!」
落ちちゃう!
地面に落ちる直前、フィーがフォリアを受け止める。
なんとか落ちずにすんだようだ。
「あ、ありがとう。」
「いや、構わないが。フォリア、死んだはずでは?」
「そのはずだよ。全ての生命力を聖火に変換したから。」
フォリアの死は、フィーが確認したはずだ。
しかし、フォリアはこうして生きている。
「どうして無事なんだ?」
『それは、逆の事をしたからだよ。』
「えっ?」
空から声が聞こえてくる。
そちらを見ると、渦巻いた黄色い聖火が動き出す。
それが二つの聖火に分かれると、村中を飛び回る。
ひとしきり空を駆けた聖火は、フォリアとフィーの前に降り立った。
「聖獣!」
「聖獣様っ!」
ほんとだ。
無事だったんだね。
その姿は、間違いなく聖獣の姿をしている。
その傍らには、それを小さくしたのがいる。
「どうして生きているんだ?」
『フィーの聖火のお陰だよ。その聖火の力で、再び聖獣へと生まれ変われたんだ。』
一度は命を落とした聖獣。
その命に、紫の聖火が息吹を与えた。
それにより、再び聖獣へとなれたのだ。
「私を生き返らして下さったのは、聖獣様ですか?」
『いかにも。私の聖火を命に与えて呼び覚ましたのだ。フォリアがした事の逆だな。』
生命力を聖火に変えてしまった事により、フォリアは死んだ。
だから、聖火を与えて生命力に変えたのだ。
『しかし、肉体があったから出来た。肉体なき村人達には、こうするしか出来なかった。』
聖獣が空を見上げた。
正確には、空に浮いた光の球。
これが全て、村人達というのだ。
「皆はどうなったんですか?」
『どうしようも無かった。だから、精霊へと変えたのだ。』
「精霊? これ全てですか?」
『そうだ。勿論、フォリアの家族もな。』
「家族?」
聖獣が見上げると、複数の光の球の中から三つが降りてくる。
それが、フォリアの前に浮いた。
「お母さん?」
一つの球が揺れた。
「お父さん?」
一つの球が揺れた。
「おねえ、ちゃん?」
最後の一つがフォリアに寄り添う。
そして、二つの球もその後に続く。
それを見たフォリアの涙がこぼれ出す。
「良かった。良かったよっ。」
フォリアが地面に座って泣きじゃくる。
そんなフォリアに、家族が身を寄せる。
「良かったな、フォリア。そうなると、まさか皆も・・・あいたっ。」
光の球が、フォリアのおでこにぶつかった。
相当な痛さらしく、フィーがおでこを押さえる。
「お前、ドーセンだな。ちょっとは、自分の大きさを考えろっ。」
フィーに怒られた光の球が、楽しそうに揺れる。
ドーセンで合っているようだ。
すると、他の球がドーセンに突っ込んだ。
更に、複数の光の球が集まっていく。
「皆? 皆なの?」
家族が退くと、フォリアがその球へと向かう。
そして、その真ん中で回転して地面に倒れる。
そのフォリアの顔に、光の球が集まる。
そして、それを見守る一つの球。
「ははっ。あははっ。皆一緒だ! また、一緒に!」
昔のようにまた、皆と一緒に。
『しばらくはその姿だが。その内、フォリアが知る姿になるだろう。』
「ありがとうございます。聖獣様っ。」
『いいや、お礼ならフィーとにゃんすけに。』
聖獣がフィーを見る。
すると、立ち上がったフォリアがフィーに抱きつく。
「ありがとう、フィーさん。貴方のお陰よ。」
「そんな事はない、対した事はしていないさ。」
ふふっ。
でも、嬉しそうだね。
「にゃんすけさんも。ありがとう。」
膝を折ったフォリアが俺に抱きつく。
にゃん。
苦しいです。
でも、本当に良かったね。
その痛さから、フォリアの嬉しさが伝わる。
心からの喜び。
それが、俺とフィーにも移る。
『私と子からもお礼をさせて貰う。ありがとう。』
『ありがとう。また、ママと一緒にいられるよ。』
『そういう事だ。我々は、また一からやり直す事にした。精霊の村としてな。』
一から村人と村を作り直すようだ。
これからは、精霊達の住む村として。
「そうか。もう、暴れるなよ?」
『勿論だ、肝に命じさせて貰うよ。』
「ははっ、お幸せにな。」
ほんとにね。
お幸せに。
村の新たな門出だ。
今度こそ、幸せになって欲しい。
そう心から思えるのだった。
「私もこの村を守るよ。」
『頼んだぞ、フォリア。』
「はい、私に任せて下さい。」
元気よくフォリアが答える。
やる気に満ち溢れているようだ。
「うん、一件落着だな。じゃあ、にゃんすけ。そろそろ行こうか。」
にゃん!
うん、行こう!
ついに、お別れだね。
「フィーさん、また来てくださいね。」
「勿論だ。約束もしてるからな。」
フォリアの後ろで、光の球が揺れている。
大事な友との約束だ。
「それと、これを。」
そう言って、フォリアが鈴が付いた獣の尻尾の飾りを差し出す。
その音からは、ちりんと音がした。
「私が何度も聞いた奴だな。」
「はい、聖獣の力を増す物です。フィーさんの助けになるでしょう。」
聖獣の力を引き出す物。
それが、鈴の音の正体だ。
フィーがそれを受け取る。
「ありがとう。でも、良いのか?」
「私はまた、聖獣様から貰うので。そうですよね?」
『そうだな。それと、私からも贈り物がある。』
フィーの前に、黒い塊が現れる。
魔力核に似ているものだが。
『私の前の体から取り出した力の源だ。物騒だが、役に立つだろう。』
「あぁ、ありがたく貰うよ。」
フィーが腰に飾りを付けて、黒い球を荷物に入れる。
それを確認すると、足を森に向ける。
「では、皆としっかりとな。」
「うん。今度は、私とも話そうね?」
「あぁ、約束だ。じゃあな。」
「じゃあ、気をつけて。」
フィーと俺が歩き出す。
今度は元気に、気持ち明るく歩き出す。
「さようなら。また、会おう!」
にゃん!
またね。
「また、会おうねっ。さようならっ!」
『さようなら。』
『さようならだ。恩人よ。いや、友よ。』
別れを告げて、俺とフィーが森へと歩き出す。
すると、森の樹が黄色に染まっていく。
『これも、私からの贈り物だ。その中なら、外の奴らは近づけぬだろう。』
樹から黄色い花びらが落ちていく。
そして、向かう先を鮮やかに染める。
「ふっ、やってくれるな。」
にゃん。
花びらの道か。
にくい演出だね。
その中を、俺とフィーが歩いていく。
足取りが軽やかになるのを感じながら、次の放浪旅へと旅立った。




