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猫です。~猫になった男とぽんこつの元お嬢様の放浪旅~  作者: 鍋敷
呪われた村と堕ちた聖獣 フラリア王国編

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その戦いは舞うように

「おいっ、どうしたんだ!」


 た、倒れた?

 どしたの急にっ。


 倒れたフォリアにフィーが駆け寄る。

 そして、上半身を起こす。

 その体からは一切の力を感じずに、だらんとしている。


「フォリアっ、いったい何がっ。」


 さっきまで元気だったのに。

 どういう事?


 先程までは、力強く剣を振っていた。

 それなのに、今の顔には生気がまるで感じられない。


「ごめん、な、さ。」

「フォリア? 喋れるのか?」


 ほんのぼそりとだが、フォリアが喋る。

 消えゆくようなか細い声で。


「生命力、聖火に、もう戦え、ない。」

「なっ。生命力を聖火に変えたと言うことか? なんて事をっ。」


 フィーが聞くも、フォリアからの返事はない。

 ただ、生気の無い眼が虚空を見ている。


「後は、貴方に。皆、助け。」

「あぁ、私達が助けるよ。だから、ゆっくり休め。」


 フィーが言うと、フォリアが口元を綻ばせる。

 喜んでいるのだろう。


「聖獣様を、恨ま、ないで。」


 そうして、フォリアが目を閉じる。

 フィーが脈を計るも動かない。


「死んだか。」


 そんなっ。

 何でフォリアが死ななきゃなんないの?


 フィーがそっとフォリアの亡骸を樹の影に隠す。

 そして、離れた剣をフォリアに握らせる。

 皆と共にいられるように。


「私が弱いせいで、いらぬ荷を背負わせてしまった。」


 弱いせい。

 俺も同じだ。


 もっと強ければ、フォリアにこんな事はさせなかった。

 そう思っても、もう意味の無い事だ。

 そんな事をしていると、穴から大きな影が飛び出す。


「聖獣を恨むな、か。」


 助けてじゃなくてね。

 それもあるんだろうけど。


 聖獣からは、二色の聖火が漏れている。

 それに苦しみながらも、しっかりと四足で立つ。

 完全に蘇生されてしまったようだ。


「聖獣は悪くないと伝えたいんだな。何があっても許してくれと。」


 どうしても伝えたかったんだね。

 最後に残すぐらいだし。


 聖獣がフィーを睨み付ける。

 その目を、フィーが見つめ返す。

 その目には、怒りの気持ちはない。


「分かってるさ。だから、後は任せろ。」


 フィーが剣を構える。

 すると、聖獣が前屈みになる。

 そして・・・。


ウオオオオォォォン。

 

 フィーに向かって、力強く吠える。

 濁りの無い綺麗な声で。

 そして、勢いよく飛び掛かる。


「フォリアの代わりにっ。私がっ。」


 それに対して、フィーが前に踏み出る。

 そして、相手の顔を剣で流して首を斬り上げる。


「救おう!」


 斬られた相手は、勢いよく仰け反った。

 守る聖火はもう無い。

 そのお陰で、剣が相手に通じたようだ。


「私が代わりに、背負ってやるからな。」


がたがた。


 俺もいるよ。

 だから、一緒にだよ。


 お面に触れたフィーが頷いた。

 どうやら、気持ちは通じたようだ。


「さぁ、一緒に止めよう。」


 さぁ、一緒に止めよう。


 聖獣が体勢を戻す。

 その間にも、フィーが踏み出す。

 そして、下に滑って潜り込む。


「はっ。」


 そのまま、上にある首を突き刺す。

 すると、相手が首を振ったので離脱する。


「おらっ。」


 その場で一回転して剣を振る。

 狙うのは、片方の前足だ。

 剣を叩き込んで、足をへし折る。


「倒れろっ。」


 体勢を崩した所に、踏み出たフィーが剣を振る。

 叩き落とすように、剣を振り下ろす。

 その一撃を受けた聖獣が横へと倒れる。


「もう一度っ!」


 その、倒れた相手の首に剣を突き刺す。

 しかし、相手が立ち上がる勢いで首を振る。


「くうっ。」


 飛ばされる前に、剣を抜いたフィーは離脱。

 しかし、そこに相手の牙が迫る。


「追撃かっ。」


 後ろに踏み込んだフィーが、剣を叩き込み横に逸らす。

 それでも相手は、食らいつく。


「ぐっ。」


 フィーもまた、後ろに踏み込んで剣を叩き込み逸らす。

 それでも、相手は諦めずに来る。


「ならばっ。」


 その前に、顔の下へと踏み出た。

 上手く潜り込み一回転。


「はあっ!」


 勢いよく剣を叩き込んで吹き飛ばす。

 しかし、その勢いを利用して相手が一回転。

 尻尾をフィーに叩き込む。


「利用されるとはなっ。」


 それを、何とかフィーが剣で上に流す。

 それにより、フィーが硬直。

 その隙を、相手は見逃さない。


「しまったっ。」


 掬い上げるように、フィーを顔で拾い上げる。

 そして、勢いのままに吹き飛ばす。


「ぐあっ!」


 後ろに飛ばされたフィーが地面に落ちる。

 そこに、相手が飛び込んでくるが。


「させん!」


 起き上がったフィーが前に踏み出す。

 そして、剣を相手に叩き込む。

 すると、お互いが弾かれ吹き飛んだ。


「くうっ、重たいなっ。にゃんすけの力が無ければ、既に吹き飛ばされてたな。」


 力になって何よりだよ。

 でも、一番はあの聖火のお陰だけど。


 斬った箇所はそのままだ。

 折れた前足も折れたままだ。

 黒い聖火を作り出せないせいで修復されないのだろう。

 そのお陰で、相手の一撃の威力は少ない。


「それと、フォリアのお陰だ。しかし、渾身の一撃にはまだ足りないか。」


 そうだね。

 もう少し、重い武器でもあれば良いけど。


 斬ってはいるが、ほんの小さな傷だ。

 相手への影響は少ない。

 そのせいか、体勢を直した相手が突っ込んでくる。


「元気な奴だなっ。」


 フィーもまた、剣を構えて踏み出た。

 そのまま、相手に向かって剣を突き出すが。

 相手が横に跳んだ事により、からぶってしまう。


「なにっ!」


がたがた。


 横から来てるよ!


 横に跳んだ相手の牙がフィーに迫る。

 すると、俺の合図で気づいたフィーが後ろに踏み込む。


「はあっ!」


 剣を振ったフィーが受け流す。

 そして、前に踏み出し剣を突き出すが。


「またかっ。」


 あっさりと避けられてしまう。

 そしてまた、横からの噛みつきが迫る。


「はっ!」


 それでも、フィーが剣を振って受け流す。

 すると、相手が勢いのままにのしかかる。


「おっと。」


 それを、フィーが跳んで避ける。

 ギリギリの回避だ。


「今だっ!」


 相手は無防備だ。

 その隙に、剣を突き出す。

 しかし、相手の横顔で払われ吹き飛んだ。


「うおっと。」


 威力こそ弱かったので受け身が取れた。

 しかし、そこに追撃の牙が迫る。


「ぐっ、素早いっ。」


 そこに、後ろに踏み込んで振った剣を叩き込む。

 それでも、相手の攻撃は終わらない。


「いい加減にっ。」


 迫る顔を構えた剣で受け流す。

 そして、剣を突き出すも再び避けられる。

 そのまま、フィーを中心に円を描くように駆け回る。


「止まってはいられないかっ。」


 そうだね。

 いつまで防げるか分からないもん。


 止まってしまえば、相手から一方的に責められる。

 そうなると、いつか攻撃を受けてしまうだろう。

 

「ならば、こちらからもっ!」


 フィーの視界の外からの襲撃。

 その相手の攻撃を受け流しと、踏み出し斬りかかる。

 それを避けられると、向こうも牙で迫る。

 それを受け流すと、斬りかかる。


「まだまだっ。」


 防いでは斬りかかる、襲われては防ぐ。

 その繰り返しが続く。

 舞うように、踊るように。


「ふっ、これでもか。ならば、とことん付き合おうっ。」


 踊りのような戦いは続く。

 相手の攻撃を受け流しては斬り上げる。

 それを避けられては、相手の牙が迫る。

 どちらも引かない攻防が続く。

 それに会わせて、紫の聖火が飛び散る。


「ん? あれは。」



 その途中、相手の変化に気づく。

 よく見ると、所々のヘドロが取れて美しい毛が見えている。

 そこからは、キツネのような姿が見える。


 キツネ?

 っぽいけど。


「美しいな。やはり、聖獣とはそうでなくては。」


 そうだね。

 毛並みは重要だよ。


 汚らしい姿は相応しくない。

 美しく気高い姿こそ聖獣なのだ。


「このまま、全てのを取ってやろう。」


 いいね。

 やっちゃえ!


 こうして戦いは続く。

 相手が動く度に、ヘドロが落ちていく。

 その時だった。


『あぁ。楽しいなぁ。』


 聖獣の方から声が聞こえてくる。


「目覚めたのか?」


 しかし、相手の攻撃は止まない。


『意識だけはな。ただ、体は不自由なままだ。』


 どうやら、意識が戻ったようだ。


「そうか。止まってくれると助かるんだが。」


 そうなると、戦う理由が無くなるからだ。


『すまないな。勝手に動くのだ。それに、止まれば呪いに飲み込まれる。』


 意識を保てるのは、動いている間だけ。

 その間だけ、呪いから逃れられるらしい。

 どうやら、続けるしかないようだ。


「フォリアが心配していたぞ。」


 最後まで、聖獣の事を思っていた。


『あの子には酷いことをした。村人達にも申し訳ない。意識を飲み込まれてたとしてもな。』


 村を襲った時は、既に意識が無かったようだ。


「でも、あなたを恨むなと言っていた。」


 聖獣は悪くないと。


『でも、私のせいで村が滅んだ。それは、変わらない。』


 聖獣もまた後悔をしているのだろう。

 村を襲った事に。

 全てを奪った事に。

 例え、村人のせいでもあったとしても。


『のう、お主達よ。名はなんと言う?』


 敬意を込めて、聖獣が尋ねる。


「フィーだ。そして、お面はにゃんすけだ。」


 にゃんすけです。

 よろしく。


『まことの名は?』


 偽の名は、お見通しのようだ。


「・・・クリスフィア。でも、フィーと呼んで欲しい。」


 それは、捨てた名前だから。


『分かった。フィーよ、お願いがある。』


 改めてそう言った。


「なんだ?」


 寄り添うように、フィーが聞く。


『私を終わらせてくれないか? もう、疲れたのだ。』


 それは、心からの願い。

 もう、全てを終わらせて欲しいのだ。

 呪いも、自分の命でさえも。

 何もかもから解放されたいのだ。


「どうすればいい?」


 断るつもりはない。


『このまま戦ってくれ。』


 戦いを続けて欲しい。


『お主と戦うと、心が燃えるのだ。しかし、悪い物ではない。むしろ、逆だ。』


 その心を動かすのはフィーの才能。


『不謹慎だが楽しいのだ。楽しくて仕方がない。燃える心が、呪いをはねのけている。こんな思いをしたのは何年ぶりだろうか。』


 剣舞の影響で、気持ちが高ぶっているのだ。

 それが、自身の呪いを消していく。

 全てを解き放っていく。

 らしくもなく、心も体も踊ってしまう。


「そうか。では、最後まで付き合うとしようか。」

『あぁ、共に舞おうぞ。』


 こうして、戦いは続く。

 しかし、命のやり取りではない。

 どちらが激しく動けるか。

 どちらが盛り上がれるか。

 その舞いは、日が昇るまで続いた。

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