堕ちた聖獣です
「さようなら。師匠。」
フォリアが師匠に向けて頭を下げる。
フィーもまた、その後ろで頭を下げる。
「行こう。聖獣様を止めに。」
「そうだな。」
皆のためだからね。
行かなきゃ。
目的の場所へと歩き出す。
その為に、再び畑へと出る。
残されたのは、二人と一匹。
先程の騒ぎは、無かったかのように静まり返っている。
「私達で挑む事になるとはな。」
「うん。戦力的にもかなり厳しい。でも、やらなきゃ。」
「あぁ、終わらせないとな。」
実質、二人でどうこう出来る相手なのだろうか。
それでも、やらなくては村を助ける事は出来ないであろう。
「そういえば、私の事ずっと見てたよな。」
「うん。監視してた。」
そうなの?
気づかなかったよ。
「あなたが、この村に何かをしでかすかもしれないって。本当にしちゃったけどね。」
「余計な事をしたか?」
「そんな事はないよ。ありがとう。」
フィーが村に来た事により、全てが変わった。
それがどうであれ、フォリアにも影響を与えたのは事実だ。
「私ね。あなたが皆といるのを見て、どうして私がそこにいないって思ったの。それで、私がしている事に違和感を持った。」
「それで、師匠の剣で目覚めたと。」
なるほど。
違和感が刺激されたせいなんだね。
「うん。ちなみに、皆もそうだと思う。あなたが改編された記憶を掘り返したから、目が覚めるきっかけを作った。」
「そうか。そういえば、皆の記憶がおかしくなってたからな。」
なってたね。
勘違いばかりだった。
「抜けてたのは、私の家族と聖獣様に関する事。私が現れた事により、その違和感が全て埋まった。そのお陰で皆が記憶を取り戻したの。あなたのお陰よ。」
フィーが与えた違和感は、皆の心に隙間を作った。
そこにフォリアが入り込んだ事によって、記憶を取り戻したのだ。
「そうか。皆の助けになったんだな。」
「うん。皆も感謝してると思う。」
それなら良かったよ。
俺達のお陰で、絆を取り戻せたんならね。
ともあれ、無事に皆と会う事が出来た。
昔の関係を取り戻す事が出来た。
フォリアにとって、とても喜ばしい事だろう。
「あ、そろそろ見えてきたよ。」
前方を見ると、森の入り口が見えてくる。
そこには、鳥居のような物が立っていた。
その先に、山へと続く道が続いている。
「この先に、聖獣がいるんだな?」
「そうだよ。聖獣様が住んでいる建物があるの。」
何だかそれっぽいね。
神聖な場所っぽいけど。
見た目は、神聖な感じがする場所だ。
しかし、奥からは不気味な何かが漏れてきている。
そして、黒い聖火もあちこちで燃えている。
「気をつけて。この奥の力はとても強い。」
「さすが、力の大本なだけはある。しかし、びびってもいられない。進もう。」
「うん。進もう。」
そうだね。
ここまで来たんだからね。
今さら、逃げられないでしょ。
濃い力が俺達を飲み込もうとしている。
それでも、行かなくてはならない。
鳥居のような物を潜って先へと向かう。
「力が強くなっていくな。」
「まだ、入り口だから。聖獣様の所はこんなものじゃないよ。」
そうなの?
この時点で、結構ヤバイけど。
進む度に力が強くなる。
それでも、まだ弱いほうと言うのだ。
元凶の周辺の濃さは相当なものだろう。
その力に耐えていると、前方に黒い聖火が集まってくる。
「気をつけて。来るよ。」
黒い聖火の一部が、こちらに飛んでくる。
それを、二人が下がって避ける。
「どうやら、歓迎してくれるようだな。」
そうだね。
荒々しい歓迎だけど。
目の前に現れた聖火は、固まって大きくなっていく。
それが、複数個出来上がる。
すると、獣の形になっていく。
「どうする?」
「勿論、決まっているだろ?」
決まってるよね。
フィーが剣を抜いて構える。
それを見た、フォリアも構える。
「では、歓迎を受けさせてもらおうかっ。」
「だねっ。」
やっちゃえ!
漆黒の獣が走り出す。
それに対して、フィーとフォリアが踏み出した。
「何が来てもっ!」
「恐れるに足らず!」
迫る漆黒の獣を剣で突き刺す。
すると、それだけで消え失せる。
「ふっ!」
休みをせずに、次の獣へ。
踏み込んだフォリアが斬る。
「はっ!」
そこに迫る獣をフィーが斬る。
すると、そこに他の獣が来る。
「やっ。」
そいつをフォリアが斬る。
すると、今度は二匹が来る。
「はっ!」
「はっ!」
フォリアが近い方を斬る。
そして、フィーが後から来た方を斬る。
更に、再び並んで前に踏み出す。
「獣に触れると聖火が移ります。」
前の一匹をフォリアが斬ると、隙からもう一匹。
それに対して、後ろに踏み込んだフォリアが斬り払う。
「私達が無事なのは、聖獣の加護があるからかっ。」
フィーが獣を掻い潜りながら進んでいく。
そうして引き付けた所で一回転。
複数をまとめて斬り飛ばす。
「そうです。だから、その状態を維持してっ。」
フォリアが迫る獣を待ち受ける。
そして、来る度に後ろに踏み込み斬り落とす。
「了解したっ。」
フィーは、フォリアの向かう獣を斬っていく。
そして、周りの数を減らしていく。
すると、黒い聖火が合体して大きな獣が現れる。
「随分な歓迎だなっ!」
迫る大きな獣の噛みつきを、上に構えた剣で流す。
そして、顎を突いて怯ませる。
「全くだねっ!」
その隙に、フォリアが大きな獣を挟んだ反対側に入る
そして、二人並んで剣を振る。
「はあっ!」「はあっ!」
大きな獣は、両側から斬られて消滅する。
すると、今度は小さいのが来る。
「面倒だな。数が多い。」
「斬ってすぐに復活してるんだよ。」
「埒が明かないなっ。」
実際に、斬って散り散りになった黒い聖火が再び集まっている。
そして、それが倒したはずの獣に戻っている。
「このままだと、体力を消耗されるだけ。」
「ならば、先に進んでしまおう!」
フィーとフォリアが見合って頷く。
二人とも同じ意見のようだ。
邪魔な獣だけ斬って走り出す。
「ついでにっ。」
「食らっとけっ。」
走り去る前に、聖火を撒いて壁を作る。
そして、そのまま走り出す。
「ふふっ。私達、意外と息が合ってるかも。」
「師匠の技のお陰かな。」
「そうだね。私達の師匠は最高だよ。」
楽しそう。
でも、本当に息が合ってるよ。
さすが、師匠だね。
順調に進んでいく二人。
漆黒の獣を振り切り奥へと向かう。
すると、目の前に大きな穴が見えてきた。
「あれ? あそこに家があった筈なのに。」
「行ってみよう。」
そこは、山に面した場所だ。
フォリアによると、そこに建物があるはずだ。
しかし、建物の様なものはなく穴が開いているだけだ。
そこにたどり着くと穴を覗く。
「っ! これはっ。」
「聖獣・・・様?」
嘘でしょっ!?
その穴の中の光景に、俺達は驚愕する。
何故なら、そこにあるのはとても大きな獣の骨だからだ。
「これが、聖獣か? もしかして、死んでいる。そんな訳は無いか。」
「はい。黒い聖火は、間違いなく聖獣様のもの。」
じゃあ、どういう事なの?
骨のまま生きてるって事?
既に、聖獣の肉体は無い。
しかし、聖獣が死んでいるのなら黒い聖火など湧かないはずだ。
そう悩んでいると、直ぐに答えが飛んでくる。
「上を見て!」
「黒い聖火が集まっている?」
地上に散らばる黒い聖火が、聖獣の屍の上に集まっていく。
それが大きな塊になると、聖獣の屍に落ちる。
そして、屍全体を包み込む。
その直後だった。
「うわっ。」「きゃっ。」
凄い力っ。
急に、黒い聖火が吹き上がった。
それは、まるで火山の噴火のようだ。
そして、黒い聖火の中で何かが蠢いている。
「何かがいる?」
「聖獣様だっ。」
その正体は、聖獣の屍だ。
吹き荒れる黒い聖火の中で起き上がる。
そして、聖獣の屍を中心に黒いヘドロの様なものが沸き上がる。
ウオオオオオオォォォォン。
ヘドロの中から、生き物の雄叫びのようなもの。
というより、呻き声のような物が聞こえてくる。
すると、黒い聖火に覆われた黒いヘドロの獣の上体が飛び出した。
グウウウウオオオォォォォォォン。
それは、怒り、憎しみといった全ての負の感情が混ざりあったもの。
全てを呪い殺そうとする、とてつもない負の気そのもの。
「・・・・・・ぐうっ。」
「・・・・・はぁ、はぁっ。」
それを見た二人が震え上がる。
全身の血の気が引き、心の底から恐怖が湧き上がる。
そして、全身を気味の悪いものがまとわりつく感覚に襲われる。
もはや、意識など保てる訳がない。
目を見開いて、そのヘドロを見ているだけだ。
がたがた。
おーい。
駄目だ、意識がないよ。
俺は何とか踏みとどまれた。
お面のせいか、それとも聖獣だからか。
しかし、それでは意味がない。
どうしよう。
俺が戻るとなにが起きるか分からないし。
お面のお陰と考えると、戻る訳にはいかない。
すると、黒いヘドロがこちらに向かって振ってくる。
やばい。
潰されちゃう!
ヘドロが二人に向けて落ちてくる。
しかし、二人にはそれを認識する事は出来ない。
そんな二人に、容赦なく落ちてくる。
その時だった。
「きゃっ、何?」
「なんだっ。」
どしたの。
って、これはっ!
フォリア剣先から、黄色い聖火が燃え上がる。
それが、黒いヘドロを押し戻す。
「・・・そうだね。私には皆がいるんだもん。だから、怖くないっ!」
フォリアが意識を取り戻す。
そして、黄色い聖火の火力を上げる。
がたがた。
フィーも行くよ!
「そうだな。すまない、にゃんすけ。恐れている場合では無いなっ!」
フィーもまた、紫の聖火の火力を上げる。
そして、黒いヘドロにぶつける。
二人とも、完全復活だ。
そうして、完全に押し戻すと聖火の火力を収める。
「聖獣様っ、私です、フォリアですっ。」
フォリアが聖獣に呼び掛ける。
しかし、返事はない。
「駄目だ。意識が無いんだ。」
「なら、叩き起こすしか無いな。」
「うん。聖獣様、無礼をお許し下さい。」
負の感情に、意識を飲まれているのだろう。
もはや、戦うしか方法はない。
二人が剣を構える。
すると、聖獣も体勢を戻す。
もう、その姿を恐れない。
「行くぞ!」
「行こう!」
ついに、最後の戦いだ。
堕ちた聖獣との戦いが始まる。




