〈剣舞〉対〈剣豪〉
フォリアの戦いが始まる同時刻。
俺達は、村に戻ってきた。
戦いを邪魔しない為だ。
しばらく進んで立ち止まる。
「この辺でいいか。意識はあるよな?」
「なんとかのう。結構危ういが。」
「そうじゃ。途中から殺気に変わってひやひやしたぞ。」
「そいつはすまんかったのう。」
ほんとだよ。
結構、きつめの殺気だったよ?
「お主には、世話になったのう。」
「そんな事はない。皆が救われて良かった。」
「じゃな。あやつらが再び揃った。そして、約束も果たせた。思い残す事はないわい。」
嬉しそうだね。
でも、本当に良かったよ。
「じゃあ、後はだな。」
「うむ。もう少し、付き合ってモラオウカノ。」
ヴァグナーが黒い聖火に包まれる。
そして、お面を被った姿で現れる。
手に持つ漆黒の剣の聖火は、更に燃え上がる。
「テカゲンハデキヌ。」
「あぁ、分かった。」
お互いが剣を前に出して重ねる。
戦いの挨拶のようなものだ。
「デシタチニ、エイコウアレ。デハ、サラバダ。」
ヴァグナーの意識が無くなる。
その代わりに、強い殺気に変わる。
「さぁ、始めようかっ。」
お互いが後ろに跳ぶ。
その直後、お互いが前に踏み出した。
それは、一瞬の事だ。
「はっ!」
二本の剣がぶつかり合う。
威力は互角。
そこから、フィーが剣を下に回して弾こうとする。
しかし、向こうも抵抗して上手くいかない。
そのまま、正面からの押し合いに入る。
「上手くはいかないか。」
強敵だからね。
今までの敵とはレベルが違うよ。
しばらくの押し合いが続く。
すると、ヴァグナーが後ろに踏み込んだ。
フィーの剣を下へと払う。
「ぐっ。」
間髪入れずに、ヴァグナーの突きが来る。
しかし、フィーが引いた剣で受け止め斜め上に逸らす。
それでも、再び突きが来る。
「ぐうっ。」
それを逸らしても、更に突きが来る。
そして、それを防ぐ事の繰り返し。
受け止めるのは必ず外側で。
少しでも内側に入れられると弾かれてしまう。
「はあっ。」
それが三回続くと、フィーが剣を突き返す。
しかし、下へと払われる。
その隙を狙ってヴァグナーが突きを出すが。
「そこっ。」
その突きを下から叩いて上に弾く。
そして、その隙を狙ってフィーが剣を振り下ろす。
しかし、ヴァグナーは後ろに跳んで回避する。
「貰った!」
フィーが前に踏み出して、剣を突き出す。
踏み込んだ分、こちらが優勢だろう。
しかし、後ろに踏み込んだヴァグナーに払われてしまう。
「くそっ。」
突っ込んだままの姿勢でフィーが固まる。
そこに、ヴァグナーが剣を振り下ろす。
「させんっ!」
同じく、横に踏み込んだフィーが剣を振り上げる。
そして、相手の剣に当て防ぐ。
そのまま、剣の押し合いに。
「まだまだっ!」
お互いが剣を引いてはまた打ち合う。
そう見せかけて、フィーが剣を下に回し込んで横に払う。
その隙に、相手に向かって飛び込み剣を振る。
「くっ、高いかっ。」
特訓で繰り返して行った技だ。
しかし、上手く前に跳べない。
案の定、相手に防がれてしまう。
「やはり、実践には使えぬかっ。」
もう一度、相手の剣を払うも剣を合わされる。
そのまま剣を落とされ、こちらが逆に押さえ込まれてしまう。
すぐさま飛びのいたフィーだが、そこにヴァグナーが踏み出した。
「ちいっ。」
隙を許してくれる相手ではない。
ヴァグナーの突きに飛ばされぬようにと、剣の外側で逸らす。
そのままお互いが剣を引くと、再び剣を打ち合う。
「ままならないものだな。」
硬直状態だね。
渡り合えてるだけでも凄いけど。
相手は、伊達に剣を教えている訳ではない。
相当な技術を身に付けている。
その振る舞いは、まさに剣豪と言えるだろう。
そんな相手と、渡り合えているだけでも充分なのだが。
「それでも、なんとかしないとなっ!」
強く踏み込んで相手を払う。
すると、相手は簡単に吹き飛んだ。
いや、わざと吹き飛ばされたのだ。
「軽いっ。距離を取ったかっ。」
わざと?
なにか来る?
距離が大事な剣技だ。
なにも、してこない訳はない。
そして、案の定ヴァグナーが踏み出した。
「やらせんっ!」
踏み込まれたら負ける。
なので、フィーが後ろに踏み込み剣を振る。
しかし、剣の範囲に入る直前でヴァグナーが止まる。
「しまっ。」
危ないっ!
こちらに剣を振らせる罠だ。
フィーが剣を振って硬直した隙を狙って、ヴァグナーが踏み込む。
「ぐうあっ!」
フィーは、上半身を捻って剣を振り上げた。
そして、ヴァグナーの剣を叩いて上に流す。
「間に合ったがっ。」
まだ来るよ!
相手の攻撃は終わりではない。
ヴァグナーが後ろに踏み込み剣を振る。
それに対して、フィーは無防備だ。
「おらっ。」
フィーが勢いよく、上半身を捻る。
その際、頭上の剣を半円を描くように降ろして振り上げる。
そのお陰で、斬られる前に相手の剣を受け止める。
「おおおおぉぉぉっ!」
そのまま、お互いが両手で持っての押し合い。
さらに、お互いが踏み込んで力を込める。
「はあっ。」
しかし、体勢はフィーが不利だ。
そのまま、押され始める。
「なんて力だっ。」
これが本家の踏み込みか。
がんばれ!
相手の押し込む力は、上がっていく。
このまま押されてしまう。
その時だった。
『る~らら~。』
どこからか、歌が聞こえてきた。
「なんだ? この歌は。」
どこから?
どこの誰かの歌かは分からない。
しかし、この歌がヴァグナーに変化をもたらせる。
「師匠の力が。」
弱くなってるよ。
ヴァグナーの押し込みが弱くなったのだ。
その隙に、相手の剣を横に流して一回転。
そのまま、横を抜けた相手の首に剣を落とすが。
「そこっ!」
ヴァグナーが前に踏み込み、上半身を捻る。
更に、手を上げ剣を下向きに構えて受け止める。
「無理っ、だよなっ。」
流石だね。
こんな小細工が通用する相手ではない。
一度、剣を払い合って打ち合う。
「しかし、この歌は。」
その歌は、とても優しい歌声だ。
ヴァグナーの手が震えている。
「思い入れのある歌なんだな。」
届いてるんだね。
意識は無いはずなのに。
ヴァグナーは答えない。
しかし、答えを聞くまでもないだろう。
「邪魔をするような無粋な事はしたくないのだが。」
そうだね。
聞かせてあげたいけど。
フィーが剣先を回して、相手の剣の下に潜らせる。
そして、勢いのまま払い上げる。
「譲れぬ戦いゆえ、勘弁してほしい!」
これは、負けることが許されぬ戦いなのだ。
剣を払った隙に、フィーが相手の胴体に容赦なく剣を振る。
「どうだ!」
ここにきてようやくの一撃。
しかし、吹き飛んだ相手は立ち上がる。
「まだ動けるのか。」
聖火の力か。
凄いね。
黒い聖火が傷を修復しているのだ。
やはり、浅い傷では効果は薄い。
「ならば、渾身の一撃をいれるまで!」
フィーが先に踏み出す。
すると、向こうも踏み出す。
勢いつけての一撃が交わる。
その直後だった。
「なっ。」
ヴァグナーが横へと踏み出した。
そして、横からフィーに斬りかかる。
「ぐっ。」
すぐさま、フィーが剣で受け止める。
今度はフィーが踏み込み剣で突く。
しかし、当然それは払われるが。
「そこっ。」
踏み込む先に剣を出す。
そして、乗った相手の足を掬い上げる。
「今のうちにっ!」
体勢を崩した相手の首に向かって剣を突き出す。
しかし、その直前に上へと払われる。
「それでもっ。」
無理にでも剣を振るが防がれる。
すると、相手がその勢いで後ろに下がる。
「来るかっ。」
来るよ!
下がったという事は、次の一撃に備えるためだ。
着地したヴァグナーが踏み出した。
「同じ手は食らわんぞ!」
また先程の攻撃だろう。
そうはさせないと、今度は剣を突き出す。
「違うっ! 居合いじゃない!」
「何っ!」
急な声がフィーに届く。
しかし、もう遅い。
気づいた時には、剣が下に払われる。
「なにがっ。」
「上だよっ!」
それは、ヴァグナーの剣の奥義の準備。
ヴァグナーが上へと跳んだ。
「上っ!」
声に従い剣を振り上げる。
すると、ヴァグナーの剣とかち合った。
「そういう事かっ。」
フィーが剣を振ってヴァグナーを吹き飛ばす。
すると、ヴァグナーが地面に着地する。
そこに向かって、フィーが踏み出した。
「もう、終わりにするぞっ。」
してあげよう。
相手は体勢を崩している。
この戦いで見せた二回目の隙だ。
これ以上は、許してくれないかもしれない。
「ここっ。」
ヴァグナーの足を払って体勢を崩す。
そのまま剣を振り上げ、ヴァグナーの剣を弾く。
そこに向かって、フィーが踏み込んだ。
「上に跳ぶのはまだ早い、だったなっ!」
上ではなく前に跳ぶ。
全ての力を足に乗せて。
「終わりだっ!」
そして、ヴァグナーの胴体に突き刺した。
一緒に、紫の炎を流し込む。
「アリ、ガトウ。」
ヴァグナーがそう言った。
どうやら、意識だけでも戻したようだ。
「私だけの力ではない。そうだろう? フォリア。」
そうだね。
声をかけてくれた人が。
フィーが呼ぶと、その後ろからフォリアが現れる。
先程、声をかけてくれたのはフォリアだ。
「師匠。」
「フォリア・・・カ。」
力なくヴァグナーがその名を呼ぶ。
それに答えて、フォリアが頷く。
「アヤツラハ、サキニイッタカ。」
「ううん。いるよ、私の剣に。師匠がくれた剣に。」
「ソウカ。ヨカッタノウ。」
ヴァグナーが紫の聖火に包まれる。
そして、体が朽ちていく。
「モウ、ヒトリジャナインジャナ?」
「はい。」
すると、お面が落ちる。
そこにある顔は、笑顔だった。
そして、笑顔で朽ち果てる。
大事な弟子達に見送られながら。




