愛する者達へ
「これは、ついに来てしもうたか。」
ヴァグナーが顔をしかめている。
何か、知っているようだ。
「なっ、どういう事なんだっ。」
「そういえば、お主は知らんかったのう。どうやって、村人が怪物になるか。」
怪物って、あの布の奴?
見たこと無いけど。
「村人はな、あぁやって聖火を入れられて姿を変える。」
「じゃあ、まさかっ。」
「あぁ、もう手遅れじゃ。」
そんなっ。
どうにも出来ないの?
同期の五人は、苦しむように呻いている。
まるで、何かを押さえ込むように。
「みんなっ、みんなっ!」
「くうっ、逃げ、ろ。体が勝手に。」
「でもっ。」
気を緩めたら、フォリア達を襲ってしまう。
そうしないように、必死に押さえているのだ。
「ぐああっ!」
「ドーセンさんっ!」
「馬鹿っ。来るな!」
苦しむドーセンに、フォリアが駆けつける。
しかし、ドーセンの体が勝手に動き出す。
近づくフォリアに向かって、ドーセンは剣を突き出す。
「くそっ、止まんねぇ!」
「世話がやけるのう!」
剣がフォリアに当たる直前だった。
ヴァグナーがフォリアを押し飛ばす。
「きゃっ。」
「ぐぬうっ。」
その結果、ドーセンの剣はヴァグナーに突き刺さる。
そして、その体に黒い聖火が流し込まれる。
「師匠? ししょーーーーっ!」
「じっちゃん、すまねぇっ。」
ヴァグナーの口から、血と黒い聖火が溢れる。
しかし、ヴァグナーは笑っている。
「師匠と呼べ。全く、最後の最後にどうしようもない孫じゃ。」
「師匠っ、そんなに聖火が流れたらっ。」
当然、抗える訳がない。
じきに、黒い聖火に飲み込まれてしまうだろう。
それなのに、ヴァグナーは笑顔を崩さない。
「手遅れじゃろうな。でも、良いんじゃ。」
ヴァグナーがそう言うと、ドーセンが剣を引き抜く。
そして、もう一度斬ろうと振りかぶる。
「師匠、逃げてくれっ!」
「にゃんすけ!」
にゃん!
させない。
止めるよ!
お面に変わると、フィーが頭にかける。
そして、ドーセンの剣を受け止める。
「すまないな、嬢ちゃん。少しだけ、そのままで。」
「師匠!」
剣から解放されたヴァグナーは、その場に座るように膝をつく。
どうやら、立つのもやっとのようだ。
それを、フォリアが支える。
「師匠、ごめん。」
「良いんじゃよ。これで、ようやく約束を果たせるからな。」
「約束?」
それは、はるか昔の約束。
一人前と認めた時にするはずだった約束。
ヴァグナーが鞘を腰から抜き取る。
「本当は、村が終わる日に渡す予定じゃった。しかし、あの騒動で渡しそびれた。でも、これでようやく渡せるわい。」
「・・・これは?」
それを、フォリアの前に掲げる。
その絆の証を。
仲間の一員の証を。
「おめでとう。お前さんを、立派な剣士だと認める。受け取ってくれ。そして、これであやつらを解放してやってくれ。」
「私はっ。でも、私は。」
その剣を受け取る手が震えている。
嬉しいからではない。
「斬れない。もう、私には斬れないっ。こんな事の為に、剣を教えて貰った訳ではないっ。」
仲間の絆を取り戻したフォリアには、皆を斬る事なんて出来ない。
そのような事、出来るわけが無いのだ。
「斬ってくれ、フォリア。」
「ドーセンさん?」
その背中を押したのはドーセンだ。
フォリアに優しく笑いかける。
「斬ってくれ。いや、斬ってほしい。あんたに。」
「そんなっ。」
このままだと、村人達と同じ目にあってしまう。
「うん。あなたに斬ってほしい。」
「リアさん?」
それならば、いっそ斬られたい。
「君になら、斬られてもいい。」
「イグルさん。」
大事な者を斬りたくないから。
「お前になら、本望だ。」
「エイスさん。」
でも、どうせ斬られるなら。
「あなたの手で、お願いします。」
「ナンシーさんっ。」
大事な人の手で。
「だそうだ。だから、頼んだぜ。」
「ドーセンさん!」
斬られたい。
「フォリア。ワシの大事な弟子よ。お主にしか出来ないんじゃ。」
「うぅっ、私はっ。」
溢れる涙を拭いて剣を取る。
そして、木刀を捨てて剣を引き抜く。
どうやら、決心したようだ。
「斬るよ。私。」
そう言って、剣を構える。
するよ、ヴァグナーも限界が来る。
段々と、右手の黒い聖火が剣の形に変わっていく。
そして、フォリアを斬らないように距離を取る。
「ぐうっ。ワシももう駄目じゃな。」
「うん、ありがとう。ねぇ、あなた。お願いがあるの。」
「私にか?」
「私の代わりに、師匠を止めて。」
「えっ。」
師匠を止めてって。
斬れってこと?
「本当なら、師匠も私が斬りたい。でも、師匠には勝てない。だから。」
「そうじゃな。頼む、嬢ちゃんの手で。」
「無茶な事を言う。しかし、分かった。」
フィーが剣を振り払って、ドーセンの剣をどかす。
そして、腹を蹴って吹き飛ばす。
「場所を変えようか。」
「じゃな。お主ら、達者でなっ。」
フィーと、ヴァグナーが走り去る。
残されたのは、フォリアと同期達。
「はっ。死のうとしてる奴に達者もねぇだろっ。ぐふっ。」
ドーセン達も既に限界を迎えている。
自我を持っているだけでも立派だろう。
「フォリア、よく聞け。俺達はもう限界だ。だから、襲い掛かるかもしれねぇ。」
「うん、大丈夫だよ。私に全てを預けて。」
「はっ、だらしない兄貴分ですまねぇな。だから・・・後は。」
ついに、黒い聖火で包まれる。
そして、フォリアが被っていたようなお面を被った姿で現れる。
「タノンダゼ。」
同期達の体が前に傾く。
その直後、黒い聖火が燃え上がる。
そして、フォリアに向かって剣を構える。
「みんなっ。今、助けるからね。」
フォリアもまた剣を構える。
今度は、助ける為に。
大事な仲間に剣を向ける。
「行くよっ。」
フォリアが前に踏み出した。
そして、近くのイグルに突き出す。
その剣は、イグルの剣を弾いた。
「ごめんっ。イグルさん。」
その隙に、踏み込んで胴体を斬ろうと振りかぶる。
しかし、横から来た剣に阻まれる。
「リアさんっ。」
リアの剣と、しばらく押し合う。
踏み込み合っての押し合いが続くが。
「くっ、ナンシーさんっ。」
横から、ナンシーの剣が迫る。
それを後ろに跳んで避けるが。
「エイスさんっ。」
前に出たエイスによる強い突き。
それを、フォリアが後ろに踏み込んで受け止める。
そうしなければ、吹き飛ばされていた所だ。
「あい変わらず強いね。でもっ。」
もう一歩、後ろに踏み込む。
そして、剣を押し込んで上に払う。
その隙に、前に踏み込み剣で突くが。
「ドーセンさんっ。」
後ろによろけたエイスの代わりに、ドーセンが現れる。
そして、フォリアの剣を受け止める。
「あなたはいつも、皆を見ている。それで、皆も私も助けられてる。」
リーダーとして、いつだって皆のサポートをしてきた。
何かがあれば、ドーセンが動く。
チームを繋ぐ、大きな存在だ。
「そして、一番強い!」
ドーセンが踏み込みフォリアの剣を弾く。
更に踏み込み、フォリアに剣を突き出す。
「くっ。」
フォリアが後ろに踏み込みそれを受ける。
と見せかけて、下へと払う。
「来るっ!」
全ては下準備。
更に踏み込んだドーセンは上へと跳んだ。
「はっ!」
それに対して、フォリアが前に飛び込んだ。
そのまま、ドーセンの下を潜る。
すると、上からのドーセンの剣が空を斬る。
「ドーセンさんだけが到達した奥義。初見じゃなかったらやられていた。」
かつての修行で見せてもらった物だ。
だから、来ることが分かった。
避ける事が出来た。
しかし、そこに同期達に囲まれてしまう。
「きついなっ。やっぱり強い。」
相手は五人。
連携されると歯が立たない。
「でも、やらなきゃ。出来るのは、私しかいないんだから。」
仲間を助けられるのは自分だけ。
だから、戦わないといけない。
その思いと共に、剣を構えた時だった。
『ら~~~るる~。』
急な歌声が辺りに響く。
その声に、フォリアがその声の出所を探す。
「この声は、お姉ちゃん?」
聞き覚えのある歌声。
それは、昔よく聞かせてくれた歌。
『る~ららら~~。』
ただの鼻歌のようなもの。
よく、姉が口ずさんでいた歌。
「懐かしいな。よく歌っていたもんね。」
昔の事を思い出す。
それは、なついてくる皆に聞かせていた歌だ。
その歌に、同期の五人がもがき出す。
「皆も覚えてるんだね。そうだよね。忘れる訳がないよね。」
自我を失っても、心に刻み込まれている。
だから、その歌声が届いている。
そして、フォリアの心にも。
「お姉ちゃん、皆。私、やるよ。」
フォリアの剣先から、黄色い聖火が燃え上がる。
フォリアの気持ちが高まった事によるものだ。
「いくよっ!」
再び前に踏み出した。
先程よりも強く。
リアに向かって剣を振るう。
『やっ、一緒に遊ぼ?』
『うんっ。』
一人で遊んでいたフォリアをリアが誘う記憶が浮かぶ。
「リアさん。いつも、一緒に遊んでくれてありがとう。」
気持ちを剣に込める。
そのまま、リアの首を跳ねる。
思いが届くように。
すると、イグルが斬りかかってくる。
『ねぇ、知ってる? この花、食べれるんだよ?』
『ほんとだ。美味しいね。』
イグルが色々な知識を教えてくれる記憶が思い浮かぶ。
「イグルさん。あなたの知識はとても楽しかった。ありがとう。」
イグルの剣を上に向かって弾く。
その隙に、首を剣で突いて跳ねる。
すると、エイスが勢いよく突っ込んでくる。
『重いだろ? 持ってやろう。』
『うわ、軽々と。凄い!』
エイスが、フォリアの持つ藁を持ってくれた記憶が浮かぶ。
「エイスさん。あなたの力に何度も助けられました。ありがとう。」
横に踏み込んでそれを避ける。
そして、そのまま踏み込みエイスの首を跳ねる。
すると、ナンシーが剣を振りながら飛び込んでくる。
『大丈夫? 私が見てあげる。』
『うん、頑張るよ!』
上手くいかずに落ち込むフォリアを励ます記憶が浮かぶ。
「フォリアさん。あなたが見てくれたお陰で、いつも頑張れた。ありがとう。」
後ろに踏み込み、ナンシーの剣を横に弾く。
そして、切り返してナンシーの首を跳ねる。
「皆、笑ってる。斬られてるのに笑ってる。」
相手の顔は、お面のせいで分からない。
それでも伝わるのだ。
自分が斬るときに、皆が笑っている事を。
最後に、ドーセンが斬りかかってくる。
『ほら、来いよ。手を持ってやる。』
『わわっ。』
困った時フォリアの手を、ドーセンが引っ張る記憶が浮かぶ。
「いつも頼りになる手に助けられました。そして。」
ドーセンの剣を受け止めて耐える。
そして、そのお面から覗く目を見る。
「あなたの事が好きでした。」
『でも、俺は。』
「お姉ちゃんの事が好きなんだよね。知ってるよ。」
『そうだ、俺はセフィナさんが好きなんだ。騎士を目指したのもセフィナさんをそばで守りたいからだしな。』
意識がおぼろ気になる。
その中で、ドーセンの声が聞こえてくる気がする。
『でも、お姉ちゃんに格好つけたいからだよね?』
『ばれてたか。勿論、それもある。でも、守りたいのも同じだぜ?』
『それも知ってる。そんなあなたが好きなの。』
二人は剣を打ち合っていく。
相手を斬る為ではない。
思いを伝える為の打ち合い。
『言っておくが、お前も守るつもりだぜ?』
『それも知ってる。でも、置いていくんだよね?』
『はっ。馬鹿だなぁ。俺は、俺達はその剣にずっといるぜ? その為に、お前に俺達を斬らせたんだからな。だって。』
『だって?』
『絆だからな。この剣は。俺達を繋ぐ絆の剣。』
昔誓った絆の剣。
これがある限り、皆は一つだ。
『だから、忘れるな。』
ドーセンが剣を前に出す。
すると、他の同期がそこに重ねていく。
『俺達は一つだ。』
『うん。』
フォリアがそこに剣を重ねる。
これで一つ。
『忘れないよ。』
「皆がいる事をっ!」
フォリアの意識がはっきりとする。
そして、前に踏み出しドーセンの首を跳ねる。
これで全員。
全員が剣を強く持って倒れている。
「やった、皆を助けられた。それなのに。」
フォリアが膝をつく。
その目には、涙が溢れていた。
「涙が止まらない。」
次から次へと溢れてくる。
すると、後ろから誰かが抱きつく。
そして、フォリアの頭を撫でる。
「お姉ちゃん、大丈夫だよ。だって、皆がいるから。」
涙は止まらない。
それでも、剣を握る力は増す。
もう、手放すものかと。
首を跳ねた感触を忘れぬようにと。
「だから、ありがとう。」
それを聞いたセフィナが頷いた。
そして、黄色の聖火に触れて自身を燃やす。
もうフォリアは大丈夫だと。
「じゃあね。」
セフィナが朽ち果てる。
残されたのはフォリア一人。
涙を拭ったフォリアが立ち上がる。




