決戦の始まりです
「ドーセン達は呼ばなくて良いのか?」
「うむ。もしかしたら、姉妹との斬り合いにもなりかねん。そんな場所に、あいつらは呼べんよ。」
弟子達が殺し合う姿を見たくないんだね。
気持ちは分かるよ。
師匠による弟子達への思いやりなのだろう。
しばらく歩くと、大きな道の真ん中で止まる。
大きいと言っても、他の道とはさほど変わりがない。
「着いたぞ。」
「ここに出るのだな? あまり、他の道との違いは見当たらないが。」
至って普通の道だ。
しかし、ここにあのドクロの蜘蛛が現れるらしい。
「ここで合っておるぞ。なにせ、この場所が子供を誤って殺した場所じゃからな。」
「そうか、この場所なんだな。」
この場所が、全ての始まりの場所。
因縁がある場所なんだね。
「ほんと、馬鹿な事をしてしまったもんじゃ。悔いても悔いきれん。」
「師匠は、その場にいたのか?」
ウァグナーが首を横に振る。
しかし、その顔は暗い。
「ワシは弟子と共にいた。だから、その場所にはおらんかった。」
「ならば、師匠は関係無いのでは?」
「いや、そんな事はない。ワシが妹を呼ばなかったらと、今でも思っておるよ。」
「妹を呼んだ?」
呼んだせい?
どういう事なの?
「妹が聖獣の下へ使いに出る日の事じゃ。その朝に、役目が済んだらワシの場所に来るよう言っておった。そして、実際に来た。事件はその間に起きたんじゃ。」
呼ばなかったら、妹が止めていたかもしれない。
だから、妹を呼んだ事を悔いているのだろう。
「呼ばなかったらと、今でも思っておるよ。」
もう起きてしまった事だ。
なので、今さら後悔しても手遅れなのだ。
「もう、遅いけどな。」
その一言から、ウァグナーの悲痛な思いが伝わってくる。
その言葉を、俺達は黙って聞くことしか出来ない。
「いかんいかん、今は未来の事を考えんとな。嬢ちゃん、奴との戦いを覚えているか?」
「あぁ、お腹が弱いんだったな。」
「そうじゃ。しかし、ワシ一人ではどうしようもない。」
昨晩のウァグナーは、弟子達の力を得てひっくり返していた。
しかし、その弟子達はここにいない。
「そこで、私達だな?」
「そうじゃ。ワシらで力を合わせてひっくり返す。」
「そうか。なら、本体の攻撃はにゃんすけに任せた方がいい。」
「ほう。自信があるんじゃな?」
にゃっ!
任せて!
力なら負けないよっ。
力ならいくらでも蓄えられる。
だから、ひっくり返すだけならお安い御用だ。
「うむ、よい返事じゃ。ならば、任せるとしようかの。」
「あぁ、これでドクロは大丈夫。ならば、後は見えない敵なのだが。」
敵は、聖獣のドクロだけではない。
本題は、見えない敵をどうするかだ。
その話に移ろうとした瞬間だった。
黒い聖火が辺りに広がった。
「嬢ちゃん、その話は後じゃ。奴が来るぞ。」
「あぁ、分かっている。」
話を遮るかのように、それは現れた。
辺りに散らばった聖火が一ヶ所に集まる。
そして、小さいドクロへと姿を変えた。
「やはり、来おったな。」
宙に浮くドクロは、黒い聖火をまといながら大きくなっていく。
そして、その下から六本の足が飛び出る。
その姿は、昨日見た蜘蛛の姿だ。
完全に生えきると、地面に落下して着地する。
「ぬっ。」
「ぐぅ。」
着地と同時に迫る黒い聖火を腕で防ぐ。
そして、それが晴れるとドクロの蜘蛛がこちらを見る。
「嬢ちゃん、ちびっこ。今度こそ仕留めるようぞ。」
「勿論だ。」
にゃん。
さぁ、行こう。
ドクロの蜘蛛は、こちらに向かって威嚇のような動きをする。
その直後、こちらに向かって飛び込んできた。
「下がれっ!」
ウァグナーの声で、俺達は後ろへと飛び退く。
すると、そこにドクロの蜘蛛がのしかかる。
「今じゃっ!」
相手の動きが止まると、ウァグナーが叫ぶ。
後ろに着地をした直後に、ウァグナーとフィーが前へと踏み込んだ。
俺もまた、ポイントダッシュエアで四角を描くように迫る。
「狙いはっ!」
「足だっ!」
ウァグナーとフィーが、相手の足を斬る。
それにより、起き上がろうとした相手が地面に落ちる。
「ちびっこ!」
「にゃんすけ!」
にゃん!
任せて!
落ちる直前、加速した状態で下に潜り込む。
そして、地面のポイントを蹴ってから相手の下を蹴り飛ばす。
その一撃で、相手は垂直に傾いた。
にゃ!
火の玉だっ!
ついでに喰らっとけっ!
ドクロの蜘蛛に複数の火の玉を飛ばしていく。
それが当たる度に、更に相手は傾いていく。
「思っていた以上じゃっ。嬢ちゃん!」
「任せろ!」
ここまで上がれば、跳ね上げる必要はない。
なので、速攻でドクロの蜘蛛を登ろうとする。
その瞬間、フィーに影が落ちる。
「っ!」
その影に、フィーが飛び退いた。
しかし、そこには何もいない。
「どうしたっ、嬢ちゃん!」
「何かいるっ!」
「なんじゃと!?」
目の前には何もいない。
しかし、そこの地面には影がある。
追撃を止めた俺達は、咄嗟に後ろへと下がる。
「まさか、もう来たのかっ。」
「だろうな。」
姿が見えない敵。
つまり、同期の五人を襲った敵だ。
「しかし、影なんて今まで無かったぞ?」
「そうだな。影があるならば、私も昨晩に気づいていた。」
にゃん。
俺もだよ。
でも
無かったよね。
昨日は気が動転していた。
しかし、地面の影に気づかない程ではない。
あれば、気づく事が出来た筈だ。
「しかし、今はそれで良いっ。見えるなら叩くだけじゃ!」
「だな、私も続こう!」
にゃっ!
場所が分かればこっちのもんだよっ!
俺達が同時に、そこにある影に向かう。
見えないのなら、恐れる必要はないからだ。
しかし、突然その影が消えてしまう。
「ぐっ。横に飛ぶんじゃ!」
「っ!」
にゃ!
ちょっ!
影が消えた事により、責めるのを中断して回避に専念する。
すると、すぐ横をひゅんと音が通り抜けた。
どうやら、こちらに攻撃を仕掛けていたようだ。
「ぐっ、どうにか避けれたがっ。」
「場所が分からぬな。折角の機会を失ってしまったか。」
見えないっ。
どこにいるんだ。
影が見えなければ、相手の場所も分からない。
結局、振り出しに戻ってしまったのだ。
しかも、それだけでは終わらない。
どすーーーーん。
持ち上がっていたドクロの蜘蛛が前に落ちる。
どうやら、体勢を取り戻したようだ。
「こいつもいたか。」
「同時に戦うのは、厳しいのう。」
せめて、相手の場所さえ分かれば良いんだけど。
無理だよね、やっぱり。
一気に形勢が逆転した。
それでも、相手は止まらない。
ドクロの蜘蛛と見えない敵。
「ぐうっ。いざとなれば、お主らだけでも。」
「断る。」
「なっ。」
普通ならば、諦めるのが賢明だ。
それでも、フィーは剣を構える。
諦める気は、全くない。
「言っただろ? この村を助けると。」
そうだね。
それでこそフィーだよ。
「友を救うのに、迷いはない!」
そう言って、フィーが何もない場所へと剣を振った。




