その思いは本物です
「うっし。好きに打ってこい。」
それからは、ひたすら剣を打ち合った。
時おり向こうから来るのを返す。
「前だよ、前。」
「上に跳んだら駄目だ。」
そうして、踏み込みの練習を続ける。
しかし、常に上へと跳んでしまう。
上手くいってない。
難しいんだろうね。
「うーむ、どうしても追撃の直前に跳んでしまう。」
「ま、慣れだからな。最初のうちはどうしても力んでしまうもんだ。」
踏み込む威力の調整が大事なのだ。
それから何度も続けて確認をする。
「よし、それまでじゃ。これ以上は、疲れで動けなくなるぞ。」
「そうか、仕方ないな。」
これから戦うもんね。
無理は駄目。
本番はこれからなのだ。
その時、動けなくては意味がない。
フィーは、素直に剣を下ろす。
「んじゃ、帰るまでゆっくりしようぜ。」
「そうじゃな。ゆっくり休むとええ。ゆっくりとな。」
「ん? 言われなくても分かってるよ。」
同期の五人が、建物へと向かう。
フィーも、その後を追いかけようとするが。
「嬢ちゃん。今日は、あやつらの最後の日じゃ。寄り添ってやってくれ。」
「あぁ、分かった。」
そうか。
全部、終わっちゃうもんね。
聖獣を倒せば、それに生かされている者達も終わる。
正真正銘、今日が村人達の最後の日になるのだ。
「おーい、何やってんだ。師匠達も来いよ。」
「分かっておるっ。では、ワシも最後の一時を堪能しようかの。続きは、夜のこの場所で。」
ウァグナーと俺達も建物に向かう。
ウァグナーもまた最後なのだ。
弟子と共に思い出に浸りたいのだろう。
「本当は姉妹も一緒なら良かったんじゃがな。」
ウァグナーの声は、なんだか寂しそうだ。
本当なら、姉妹とも一緒にいたい。
しかし、その姉妹はいない。
「はぁ、今日も一杯動いたわね。」
「そうだね。もうくたくただよ。」
軒先に着いた者から上がり込む。
日は落ちかけており、軒先に影を落としている。
「今日は張り切っちゃいましたね。」
「いい運動になった。」
「フィーとにゃんすけのお陰だな。いい刺激になった。」
こちらこそだよ。
楽しかった。
「ふっ、いい経験が出来た。皆には感謝だ。」
「いや、こっちも助かった。今日、植えたのを食わせられないのが残念だけどな。」
「そうね。自分が育てたのを食べるのも醍醐味なのに。」
よく言うよね。
食べれないのが残念だよ。
本当に。
「興味はあるが、私は旅人だ。いつまでもいられん。」
「そうなると、俺達にはどうしようも出来ない。」
「村の外ですもんね。届ける訳にもいきませんし。」
それ以前の問題だけどね。
でも、嬉しいよ。
俺達の事を思ってくれるの。
「そうだ。騎士になりに行く時に持ってってやるよ。」
「あっ。一人だけでフィーさんと会う気でしょ。ずるい。」
「じゃあ、お前達も来るか? 皆も騎士になろうぜ。」
「だから、ならないってば。」
「えーっ。」
ふてくさてるドーセン。
その姿に、皆が笑う。
「そんなに騎士になりたいのか?」
「あぁ、なりたい。誰かを守れる男になりたいんだ。」
「ほう。良いじゃないか。」
「下心があるだけよ。」
「ほっとけっ。格好つけたって良いじゃねぇか。」
なるほど。
本命はそっちなんだね。
「なら、さぼらずに修行をせんとのう。まだまだ、精進が必要じゃよ。」
「じっちゃんもかよ。分かってるって。見てろよ、絶対に騎士になってやるからな。」
ドーセンが拳を上げる。
騎士への憧れは、誰に言われようが変わらないのだ。
「しかし、なんだかんだ言って誰も馬鹿にはしないんだな。」
「うん。だって、皆あるもんね。将来の夢。」
「当然だ。だから、馬鹿になどするもんか。」
皆が将来を見据えている。
だから、ドーセンの夢を否定しない。
夢は違えど、気持ちは同じなのだから。
「僕はね。魔術師になりたいんだ。」
「俺は、村の畑を立派にする。」
「私は、色々な料理に挑戦したいです。」
「あたしは、この村に外の文化を取り入れたいっ。」
立派な夢だね。
叶わないとか関係ないよ。
だって、確かにここにあるんだから。
各々が持つ将来の夢。
絶対に叶う事のない夢。
だけど、その気持ちは本物なのだ。
「だからフィーさん。またここに来て頂戴。」
「そうだね。夢が叶ってるか見て貰おうよ。」
「証人と言うわけか。良いだろう、また来よう。」
来ようね。
何が起きてもね。
「じゃあ、そん時は俺がここまで連れて来てやるよ。」
「僕だって、強い魔法で守ってあげるよ。」
「おっ、頼もしいな。その時は頼むな。」
また襲われるからね。
森は危ないから。
「では、俺は育てた野菜を食わせてやろうか。」
「料理なら任せて下さい。」
「それまでに、凄い村にしなくちゃね。」
「あぁ、楽しみにしてるよ。」
そうだね。
うん。
そうなったら良かったんだけどね。
「約束だぞ?」
「あぁ、約束だ。忘れないよ、皆の事。」
覚えてるよ、皆がここにいた事を。
こうして並んで夢を語った事を。
未来は無くとも、今はある。
この時間は、永遠に俺達の中にあるのだ。
だから、忘れる事なんてありえない。
「ほほっ。もう、暗い。そろそろ帰るとしようか。」
「そうだな。帰ろうぜ。」
皆が軒先から降りて門を目指す。
そして、家がある方へと向かう。
「明日は出れると良いな。」
「そうだな。」
「じゃあ、また明日な。」
「また明日だ。」
また明日ね。
また会えると良いね。
「じゃあ、フィーさん。帰ろっか。」
「あぁ、帰ろう。」
こうして、最後の一時が終わった。
そのまま帰ると、ご飯を食べて布団に入る。
疲れているのか、今日はこのまま寝るようだ。
「それじゃあ、お休み。」
「お休みなさい。」
「お休みだ。」
にゃん。
お休み。
二人が眠りに入る。
二人の寝息が聞こえたのを確認する。
それから、村が寝静まった頃のこと。
「行こうか、にゃんすけ。」
にゃん。
行こう。
起こさないようにね。
そっと布団から出て家を抜ける。
目指す場所は、昼間の建物だ。
そこにいたウァグナーと合流をする。
「来たな、嬢ちゃん達。準備は良いか?」
「あぁ、いつでも行ける。」
にゃん。
大丈夫だよ。
いつでもどうぞ。
「うむ。では、行こうか。」
ウァグナーを先頭に歩き出す。
全てを終わらせる為に、決戦の場所へと向かっていく。




