虚ろな夢、大事な思い出
音の正体は、壊れた扉を直す音だった。
しかも、原因は本人には分からないようだ。
家の主にとっては不思議に見えてしまうだろう。
「いきなり扉が壊れるなんてな。」
「しかも、家の主に気づかれずにね。壊れた時の音も相当なはずなのに。」
「うん。私なら飛び起きちゃうよ。絶対に。」
「それは俺もだよ。そのはずなんだけど。」
扉を壊す音はとても大きいはずだ。
そうなると、目覚めてしまうのは当然の事だろう。
しかし、実際はそうならなかった。
「そもそも誰が壊したんだ?」
「まさか、外の奴らが?」
「いや。それなら、真っ先に家にいる人が襲われているはずだよ。」
「おいおい。怖い事いうなよ。」
犯人が外をうろつく肉食なら、真っ先に人を襲うだろう。
しかし、当の本人は生きている。
ならば違うという事が分かるだろう。
「他に被害は?」
「無し。なーんも無し。ただ、扉が壊れていただけだよ。」
「そうか。それもまた不思議な話だな。」
「だろ? 原因が分からなくてな。対処のしようも無いんだ。」
扉が壊れた原因が分からない。
そうなると、防ぐ方法も分からない。
どうすればいいのか迷っているのだろう。
「取り合えず、俺達でこの辺を見ておくよ。」
「おう、頼むな。」
扉を直す男と別れて歩き出す。
歩いていた道とは違う方へと向かう。
「しゃあない。少し遠回りになるけど良いよな?」
「うん。村を守るのが私達の役目だもんね。」
リアが拳を上げてやる気を見せる。
他の者からも反論はない。
すると、ナンシーが俯いているフィーに気づく。
「フィーさん。あれ、気分悪いですか?」
「・・・いや。眠くなっただけだよ。」
「そう? もしかして、ドーセンがやり過ぎちゃったんじゃ。」
「お前もフィーにかけてただろ。まぁ、眠くなるのは分かるけどな。日に当たって疲れた体を癒すのも仕事の醍醐味だぜ?」
それは分かるけどね。
って、やっぱり気にしてるんだね。
あの夢の出来事が。
昨晩見た夢が、夢では無かったかもしれない。
つまり、同期の五人が命を落としたのも夢ではない事になる。
「あーもう。そんな話をしていたら、私も眠くなってきたー。」
「じゃあ、終わったらいつもの場所で寛ぐか。急いで見て回るぜ。」
それからしばらくは、村の中を見て回る。
他の被害も確認するが、どうやら無いようだ。
それを行った犯人も、どこにもいない。
一通り見回ると、昨日の屋敷へとたどり着く。
「到着か。何も無かったな。」
「そうだね。ますます不思議だよ。」
犯人はフィーだもんね。
見つかる訳は無いよ。
「犯人は無し。ま、どうせ寝ぼけて壊したんだろ?」
「確かにな。それしか考えられん。」
「だよね。人騒がせな人だね。」
寝ぼけて扉を壊した。
そう判断したようだ。
実際、そう考えると辻褄が合ってしまう。
「はぁ、もう休もうぜ。」
「そうね。忘れましょう。疲れを取るのが最優先ね。」
「はい。ちょっと、あの人が可哀想ですけど。」
ドーセンとリアが軒先へと寝転んだ。
そこには、日差しが丁度落ちている。
それが、濡れた体を温める。
「ほら、フィーもこっちに来いよ。日差しが気持ちいいぜ?」
「そうか。なら、私も横になるよ。」
俺も横になるよ。
お邪魔します。
「うん、確かに気持ちいいな。」
「だろ? ここは、この時間になると日が落ちるからな。」
「ドーセンってば、修行が終わるとよく寝てたからね。」
「あったあった。懐かしいな。そんで、だらしないって言われてたっけ。」
「あったわね、そんなこと。あれ、誰が言ってたっけ?」
そう言われ、ドーセンがその時の事を思い出そうとする。
しかし、思い出せないのか首を横に振った。
「覚えてねぇな。まぁ、良いじゃねぇか細かいことは。」
「そうね。あー、日差しを浴びていると考えるのも面倒になるわ。」
体が安らぐと心も安らぐ。
癒される事によって、思考もまっさらになっていく。
すると、他の者も横に寝転ぶ。
「ま、気持ちいいから仕方ないよね。」
「癒されますね。」
「あぁ、同感だ。」
全員が横になって、日差しを堪能している。
その気持ちのよさに、思考だけでもなく意識も消えていく。
そうして、眠りへと落ちていく。
そして、フィーが意識を呼び覚ます。
そこは、寝る前にいた建物の軒先だ。
ここは?
寝てしまってたか。
『見てくれ、・・・ねぇちゃん。』
ん? ドーセン?
それにしては小さいが。
『あら、かっこいい剣ね。』
『だろ?』
小さいドーセンが指で頬を擦っている。
なにやら、少し頬が赤い。
その姿を、知らない女性が見ている。
この人は?
『ねぇ、私にも貸してよ。』
私? 違う。
フィーではない。
知らない人の目線だ。
『駄目だ。危ないからな。』
『ちぇっ、けちっ。ねぇ、師匠。私にも作って?』
『そうじゃのう。ワシの修行をこなしたらな。』
『えーっ。それっていつになるの?』
『さぁのう。』
ウァグナー?
ウァグナーも若いな。
『もー。お勤めがあるから、あまり修行出来ないって知ってるよね?』
『それでもじゃ、免許皆伝出来てない者には渡せぬな。』
『えーーーっ。』
フィーの視線の人物は、軒先に足を放り出しバタバタと揺らしている。
どうやら、拗ねているようだ。
『こら、・・・。ワガママ言わないの。』
『だって、おねぇちゃん。』
おねぇちゃん?
姉妹なのか?
見上げると、女性がこっちを見ている。
しかし、怒っている様子はない。
優しく諭しているようだ。
すると、フィーの視線の人物の横に小さいリアが座る。
『大丈夫だよ。・・・にもちゃんとくれるって。』
『本当?』
『うん、本当だよ。』
拗ねている人物を励ましているようだ。
すると、エイスとイグルとナンシーが前に立つ。
『うむ、その通り。何故ならこの剣は証だからな。』
『そうだよ。僕達の仲を表す大事な証。』
『だから、・・・にも必ず。ね?』
同期の五人がその人物に笑いかける。
大事なその仲間へと。
すると、フィーの視線の人物は頷いた。
『うん、分かった。一杯修行を頑張るよ。それで、私も貰う。』
『そのいきだ。そんときは、一緒に誓おう。俺達の絆を。』
『約束だよ?』
『あぁ、約束だ!』
ドーセンが、フィーの視線の人物を撫でる。
すると、その人物が笑うのがフィーに伝わる。
『じゃあ、早速修行やるよ。』
『おう。俺達で見てやるよ。』
そうして、フィーの視線の人物が軒先から飛び降りた。
そして、それと同時にちりんと鈴がなる。
聞いた事のある鈴の音が。
「はっ。」
フィーが目を覚ます。
そして、上体を起こして辺りを見渡す。
「何なんだ? 一体。」
意識を失う前と同じく、同期の五人に挟まれている。
あの時の光景と違って大きいままだ。
どうやら、寝ているらしい。
「こんどこそ夢か。」
フィーは、自分の手を見て確かめる。
間違いなく自分の手だ。
にゃん?
どしたの?
「にゃんすけ、夢を見たか?」
にゃーあ。
見てないよ。
ぐっすり、寝ちゃってたね。
気持ちよかったから。
俺は寝ていたが、夢は見ていない。
ただ、意識を失っていただけだ。
フィーの言っている事が分からない。
「・・・夢を見たんだ。」
にゃ?
フィーが軒先から降りる。
そして、庭へと向かう。
「みんなが子供の頃の夢だ。何故だか分からないがな。」
にゃん?
どんな夢?
「みんなが剣を振っていた。それと、知らない二人もいた。姉妹らしいが。」
「姉妹と言ったか?」
「え?」
急な声に驚いて、聞こえた方を見る。
そこには、ウァグナーが立っていた。
「姉妹を見たと言ったな?」
「あぁ。正確には、妹の視線だったから姉しか見ていないがな。知っているのか?」
「知っているもなにも。妹の方はワシの弟子じゃ。」
「そうか。師匠って言ってたもんな。」
どうやら、ウァグナーは知っているらしい。
その姉妹の存在の事を。
皆に大切にされてた者達の事を。
「といっても、思い出したのは昨晩じゃがの。」
「昨晩、やはり夢では無かったか。」
「そうじゃ。あれは現実じゃよ。間違いなくな。」
やっぱりそうだったんだ。
だから、扉が壊れたままだったんだね。
「しかし、五人は生きているぞ?」
「・・・そうじゃのう。そうだと良かったんじゃが。」
「どういう事だ?」
違うの?
じゃあ、どういう事なの?
聞いてみるが、その必要は無いだろう。
すでに答えは出ているからだ。
ウァグナーが、同期の五人を見る。
「すでに死んでおるんじゃよ。あやつら、いや、この村の皆すべてがな。」
その事実に、頭の中が真っ白になる。
「え?」
え?
声を出そうにも出ない。
そして、気味の悪い汗がフィーの頬を撫でた。




