夜の村の異変です
「っ! なんだっ。」
何事っ?
目を覚ました俺とフィーが、勢いままに起き上がる。
そして、原因を探るべく辺りを見渡す。
すると、寝ているはずのリアとナンシーの姿が見当たらない。
「いない? 何処に行ったんだ?」
本当だ。
どうしたんだろう。
並べられた布団を見てみる。
すると、掛け布団が雑に放置されている。
まるで、急いで飛び起きたかのように。
「何かあったのか?」
そうとしか考えられないだろう。
しかし、原因を探るには情報が無さすぎる。
一体どうなってんの?
あれ、外が明るい?
考え込んでいると、外の明るさに俺が気づく。
しかし、日の明るさとは別の明るさだ。
それを確認するために、窓を開けてみる。
すると、黒い炎が視界に移る。
これは、炎?
色つきの炎・・・。
聖火だ!
にゃ!
「どうした、にゃんす・・・。聖火だとっ!」
どうやら、フィーも気づいてくれたようだ。
二人の視界の中で、黒い炎が激しく燃え上がっている。
「やはり、聖獣がいたのか。しかし、写真のとは色が違う。」
うん、黄色だったよね。
こんなに黒くなかったよ。
町で見た物とは色が違う。
しかし、色付きである以上聖火なのには間違いない。
ならば、聖獣がこの辺りにいるはずだが。
そう考えている時だった。
「誰かっ、誰かーーーっ。」
どこからか悲鳴が聞こえてきた。
その直後、黒い炎が激しく燃え上がる。
「くそっ、悲鳴だったか。こうしてはいられん。行くぞ、にゃんすけっ!」
にゃん!
急ごう!
早く!
武器を手に取ったフィーは、窓から飛び出した。
その後を、俺が続く。
「間に合えっ!」
武器を腰に下げたフィーを先頭に道へと出る。
そして、辺りを見渡すが何もない。
ただ、村を覆う黒い炎が見えるだけだった。
「くそ。どうなっているんだ。」
にゃ。
分かんないよ。
声のわりには誰もいないし。
「探してみよう。誰かいるはずだ。」
にゃん。
分かったよ。
無事でいてくれっ。
立っているだけでは、何も分からない。
なので、道に沿って駆け出した。
しかし、人一人いない。
「手遅れか。いや、誰かいるはずだ。家に隠れているとか。」
誰もいない事なんてあり得ないだろう。
もしかしたら、家の中に隠れてやり過ごしているかもしれない。
なので、近くの家に上がり込む。
「誰もいない?」
そんなっ。
あっ、布団。
布団を見ると、掛け布団が雑に置かれている。
リアとナンシーと同じように、急いで飛び出したのだろう。
にゃ!
「そうか、ここでもか。ますます、何が起こっているのかが分からんぞ。」
探せば探すほど、謎は深まるばかり。
ただ分かるのは、黒い聖火と村人がいないという事だけだ。
「他にも探してみよう。」
にゃん。
そうだね。
どこかに集まっているのかも。
きっと、どこかに集まって隠れているだけだろう。
そう信じて、探索を再開する。
しかし、いくら探そうが誰も見つからない。
「いないか。襲われたで間違いは無いんだろうけど。」
だよね。
悲鳴もしてたし。
「しかし、亡骸一つ無いのが引っ掛かる。」
襲われたのなら、亡骸の一つぐらいあってもいいはずだ。
しかし、どこを見てもない。
そもそも、襲われたという形跡すら見当たらないのだ。
「仕方ない。一度、家に戻ると・・・。」
「こっち来るなーーーーっ。」
「っ! 行くぞっ!」
にゃん!
行こう!
今度こそ!
叫び声のした方へと走り出す。
今度は間に合うように全力で駆ける。
「あそこだっ。」
目の前には、一軒の家がある。
叫び声は、あそこからだろう。
その場所は近く、すぐに駆けつける事が出来た。
家に着くと、直ぐに中へと上がり込む。
「どこだ、何処にいるっ!」
家の中に入って声を上げる。
すると、奥の部屋から物音が聞こえてくる。
「あそこかっ。」
何かがそこにいるようだ。
急いで、その部屋へと飛び込んだ。
「大丈夫かっ! 今来た・・・。」
フィーの言葉が詰まった。
そして、その部屋の光景に目を見開いた。
同じく見た俺も固まった。
なにこれ。
なんなの?
そこでは、体を布で覆った何かがいた。
その布からは、青白い手足が出ている。
「お前達はなんだっ!」
フィーが叫ぶと、それらが振り向いた。
その顔は、全面が木で出来ている。
しかし、顔のような三つの穴が中心に空いているだけだ。
「くっ、お前達が村人をっ・・・。」
そう言って、フィーが剣を抜いた。
すると、そいつらが顔の穴から黒い聖火を溢しながら襲い掛かってくる。
「くっ、ここでは戦えんっ。」
剣を振ろうにも、狭くて降れない。
なので、相手を避けるように空いていた窓を突き破って飛び出した。
その直後、フィーの首に鎌のような物が迫る。
にゃっ!
危ないっ!
「ちぃっ!」
フィーが剣先を突き出し、側面で受ける。
そして、流すように上に向かって逸らす。
「はっ!」
そのまま剣で斬りかかるが、避けられてしまう。
当たる直前、逸らした勢いに負けて後ろに倒れたからだ。
「軽いっ。本当に人か?」
紙みたいだったよね。
あれだけで吹き飛んじゃうなんて。
そいつらは、ふらふらと揺れている。
まるで、体の軸が定まってないような感じだ。
次の瞬間、二人がこちらに向かって突っ込んでくる。
「させんっ!」
そいつらは、手に持った鎌を振ってくる。
しかし、フィーが剣で逸らしていく。
すると、相手は振った勢いで地面にこける。
「弱い? いや、素人との動きか。」
だよね。
横から見てもそうだもん。
相手はただ鎌を振ってるだけだ。
そこには、技術も威力もない。
まるで、一般人のように振り回しているだけだ。
「まさか、村人か? いや、そんなはずは。」
相手は突っ込んで鎌を振るう。
それを、フィーは逸らす。
「くっ、私には斬れん。」
俺もだよ。
村人かもしれないのに。
そいつらは、村人なのかもしれない。
その判断が、相手を斬る手を止める。
フィーには、相手の攻撃を逸らす事しか出来ない。
「にゃんすけ、逃げるぞっ!」
にゃん。
分かったよ。
それが一番だ。
俺達は、相手に背を向けて走り出す。
攻撃出来ないのだから、そうするしか出来ない。
その途中に後ろをみると、ゆっくりとこちらを追ってくる。
「これなら逃げれそうだな。」
にゃん。
そうだね。
相手が遅くて助かったよ。
のろのろ追いかけてくるお陰で、距離は離れていく。
どうやら、追い付かれる気配はないようだ。
そのまま角を曲がって、相手から姿を消す。
そして、しばらく走って立ち止まる。
「はぁ、また走らせられるとはな。」
ほんとだよ。
今日は走ってばっかだね。
疲労は回復しきっていない。
すぐに走っただけで息切れだ。
「すまない、このまま休もう。」
にゃん。
そうだね。
追っても来なさそうだし。
膝に手を当て息を整える。
敵もいないのでゆっくりと休めるだろう。
そう思った直後だった。
がさ、がさがさがさがさっ。
村の奥の方から物音が聞こえてきた。
複数の足音のような物がこちらに来る。
「なんだ?」
にゃ。
なんだろう。
こっちに来てる?
音がするのは道の先だ。
その音は、段々と大きくなっていく。
その方角を見ていると何かが道に飛び出してきた。
「今度はなんだっ。」
苛立つように、フィーが息を吐いて剣を構える。
それは、白いなにかだ。
そこから、六本の虫の足のような物が出ている。
「あれは・・・、蜘蛛か?」
蜘蛛だ。
異世界にもいるんだね。
見た目は、一見蜘蛛のようだ。
それがこっちに向かって走り出す。
その度に、大きくなっていく。
「こっちに来ているな。しかし、村人ではないのなら。」
にゃ。
戦えるね。
気持ち悪いけど。
なるべく蜘蛛に触りたくはない。
しかし、村人のような相手と戦うよりかはましだろう。
その蜘蛛は、更に大きくなっていく。
どんどん大きくなっていく。
「いや、大き過ぎだろっ!」
でかっ。
しかも、蜘蛛じゃない?
よくよく見ると、胴体はドクロのような物だ。
そこから、蜘蛛の足が生えている。
そして、家を潰せる程の大きさをしている。
「無理だっ。逃げるぞ!」
にゃん。
ですよねー。
あんなの無理でしょっ。
人間では太刀打ちできないほどの大きさだ。
戦えないと判断して、俺達は逃げ出す。
こうして、再びの追いかけっこが始まった。




