助けられました
「まだいけるな? にゃんすけ。」
にゃん!
当然っ!
まだまだいけるよ!
相手の数は多い。
しかし、そのほとんどが押さえられている。
なので、まとめて相手をする必要はなくなった。
「はっ!」
迫る一匹を俺が蹴飛ばす。
その隙に、そいつの首をフィーが斬る。
「よし。」
「いや、まだじゃ嬢ちゃん。」
「分かっているさっ。」
これぐらいで死ぬような相手ではない。
直ぐ様、体勢を直してフィーに迫る。
しかし、フィーは何度も見てきたものだ。
「よっと。」
相手の攻撃を逸らしてから蹴り飛ばす。
そして、倒れた所に首を突き刺す。
「ほう。やるじゃねぇか嬢ちゃん。こりゃ、負けてらんねぇなっと。」
年老いた男が一気に踏み出した。
そして、その勢いで相手の首を斬る。
すると、それだけで相手は倒れてしまう。
「一撃だと。」
「腰に力いれりゃあこんなもんよ。ほれ、あいつらだって。」
先で戦う者達も、一撃で相手を倒している。
フィーほど早くはなくとも、一撃一撃に力がこもっている。
「凄いな。」
ほんとだね。
でも、俺達も負けてないよっ。
俺が飛び出して一匹に襲撃をかます。
その後に続いたフィーが首を斬る。
「よく分からんが、まともに戦えるだけでも充分だ。にゃんすけ、次にいくぞ!」
にゃん!
任せて!
どんどん蹴っちゃうよ。
他の者達に負けじと、俺とフィーが駆ける。
そのお陰か、次から次へと数が減っていく。
それが数えられる程になった頃、肉食達が逃げ出した。
「へん。思い知ったか。二度と来るんじゃねぇぞ!」
「いや、来なかったら、私達のご飯が取れないでしょ。」
「そういえばそうか。じゃ、次からは程ほどで来いよ!」
激しく、男性が手を振っている。
その傍らで、女性が頭を抱えている。
呆れているのだろう。
「いやぁ、久方ぶりの集団じゃったわい。」
「私がおびき寄せてしまったからか? なんかすまないな。」
「気にすんな。これぐらいでへばるような雑魚に育てとらんわい。」
確かに強かったよね。
もしかして、この人は師匠か何か?
少年少女達を見ると、仲良く元気そうにやり取りをしている。
実際に、へばっている様子は見られない。
その内の一人が、見られている事に気づいて近づいて来る。
「よぉ。あんたら、怪我はないかい?」
「問題ない。お前達のお陰だ。随分と強かったな。」
「そりゃあ、じっちゃんに鍛えられているからな。」
そう言って、笑顔で年老いた男を見る。
この者が、戦い方を教えたという事らしい。
すると、年老いた男がゴホンとわざとらしい咳をした。
「師匠と呼べと、何度も言っておるじゃろう。ほれ、匂いにつられて他のが来る前に運ぶ準備をすませんか。」
「へーい。んじゃな。」
やっぱりそうだったらしい。
本当に年をとった人の動きには見えなかったよ。
その年老いた男の指示で、樹の影から台車を取り出して来た。
そして、倒れた肉食の方へと運んでいく。
この台車に乗せて、何処かに運ぶつもりなのだろう。
「こいつらを何処に運ぶんだ?」
「この先にある村じゃよ。」
「こんな所に村? もしかして、聖獣と共存するという村か。
「聖獣? ・・・聖獣か。」
年老いた男が顎に手を当てて考えている。
しかし、直ぐに頭を横に振る。
「いや、知らんのう。そもそも、聖獣とはなんじゃ?」
「そうか、知らないならいい。忘れてくれ。」
違ったね。
じゃあ、他にも村があるの?
こんな所に?
町で得た情報では、ここに精獣と共存する村があるとの事だ。
しかし、この者達の村ではないらしい。
そうなると、やはり別の村という事になる。
「それにしても、こんな所に村とはな。危なくないのか?」
「意外と住めば快適じゃよ。あやつらだって、毎回こらしめとるからあまり近づこうともせんしな。」
住めば都って奴だね。
本人達がそう決めたなら良いんじゃない?
こんな危険な場所でも、ここにいる者達にとっては住みやすい場所なのだろう。
大事なのは環境ではないという事だ。
そんな話をしていると、台車を押す少年少女達が来る。
「じっちゃん、準備出来たぜ。」
「師匠と呼ばんかい。そんじゃ、嬢ちゃん達も行くぞ。」
「いや、私達は・・・。」
「やめておけ。先程の戦いの血で、この辺りは危険じゃ。村に泊まっていくとええ。」
「そうだな。しばらく様子を見た方がいいぞ。そうしないと、今度こそあいつらの餌だぜ?」
この辺りには、血の匂いが充満している。
それを放っておくほど、肉食は優しくない。
ここから出れば、直ぐにまた追われてしまうだろう。
「そうか。なら、世話になろう。正直、もうヘトヘトだしな。」
同じく。
今すぐベッドに寝転びたいよ。
「んじゃあ行こうぜ。」
「おう。今日は多いからな。しっかり運べよ。」
「言われなくてもっ。」
「うん。・・・頑張る。」
「そういう事だ、じっちゃ・・・師匠。腰を痛めても乗せないからな。」
「わしを歳より扱いすなっ。」
少年少女が、台車を押し始める。
最初はゆっくりだが、段々と勢いがついていく。
その後ろを、年老いた男性が着いていく。
「はぁ、宿屋のお金が無駄になるな。」
仕方ないね。
この中をまた走るのはもう無理だよ。
町に戻るには、荒れる肉食の中を突っ走らないといけない。
しかし、そんな体力はもう残されていない。
前払いで済ませた宿屋に戻るのは不可能だろう。
なので、諦めて追いかけようとした時だった。
ちりーん。
どこからか、鈴の音が聞こえてきた。
ふと、俺とフィーは音のした方を見る。
しかし、そこには何もいない。
「なんだ?」
なんだろう。
気のせいかな?
不可解な現象に、辺りを見渡す。
しかし、探しても何もない。
「嬢ちゃん。どした?」
「何でもない。」
最後に一度、音の方を見る。
そして、何もない事を確認して走り出す。
「・・・。」
その姿を、一つの影が見送った。
「すまない。遅れた。」
フィーが台車へと合流する。
少年少女は、頑張って台車を押している。
「あぁ、重い。」
「重いって言うなっ。本当に重く感じてきたでしょうが。」
「ほれ、これも修行じゃ。しゃんと運びなさい。」
「分かってるよー。」
たいへんそう。
山積みだもんね。
台車の上に乗っている肉食は、見上げるように高い。
相当な重さになっているだろう。
「手伝おうか?」
「いや、あんた疲れてんだろ? 無理すんな。」
無理してるのはそっちだと思うけど。
まぁ、実際疲れているしお言葉に甘えよう。
台車を押しながら一行は進み続ける。
何だかんだ言って、台車の速度は落ちる気配がない。
すると、台車を押す一人が声をかけてくる。
「そもそも、なんでこんな所にいたんだ?」
「探し物をしていてな。森に入ったはいいが、奴の親玉に絡まれてな。戦っている内に群れに囲まれてしまったんだ。」
「へぇ。んじゃ、親玉を倒したのか。凄いじゃねぇか。」
「うんうん。普通、一人で倒すような相手じゃないよ。って、一人じゃないか。」
俺もいるよ。
そんなにヤバイ相手だったんだね。
「しかし、この辺りには肉食が多いぞ。次からは、一人で入らないようにな。」
「あぁ、肝に命じておくよ。ここまで大変だとはな。」
ほんとだよ。
安全な場所なんて無かったんだね。
少なくとも、肉食がいない場所を選んで入ったはずだった。
しかし、肉食が蔓延る場所に安全な場所は無かったという事だ。
こんな目に合えば、嫌でも思い知らされただろう。
「そんで、えーと。あんたと連れの名前を聞いていなかったな。」
「私か? 私はフィーだ。それで、こっちは相棒のにゃんすけ。」
にゃん。
にゃんすけです。
よろしくー。
「そうか、ちなみに俺はドーセンだ。んで、こいつらは。」
「リアよ。」
「イグルだよ。」
「エイス。」
「ナンシー、です。」
「俺達は、そこの師匠の弟子なんだぜ。」
台車を押しながら、次々に自己紹介をしていく。
年老いた男とは、全員が師弟関係のようだ。
「ちなみに、わしはウァグナーじゃ。師匠と呼んでくれてもよいぞ?」
「どんだけ言われたいんだか。ちなみに、ドーセンのお爺さんだよ。」
「どうだっ、凄いだろ?。」
「何がどうだじゃ。孫なら孫らしくだな。」
「はいはい。ちゃんとやりますよっと。」
情けないぞと、ウァグナーが孫のドーセンの説教を始める。
しかし、当の本人は軽く受け流している。
すると、リアがフィーに声をかける。
「いつもこんななのよね。仲がいいんだか悪いんだか。」
「本当に悪かったら、何度も言い合いなんてしないさ。」
「だよね。何だかんだで肩を組んで笑ってるし。」
本当に仲が悪い相手とは、会話すら起こさない。
それを、フィーが一番分かっているのだ。
案の定、何があったか二人揃って笑いだす。
「全く、暑苦しいのよね。その点、フィーちゃんは大人しそうね。」
「そうか、そう言われるのは初めてだ。」
ポンコツですけどね。
その人。
「私達の村って、女の子なんて私とナンシーしかいなくてね。あまり、話が合わないのよ。だから、フィーちゃんが来てくれて良かった。ね、ナンシー。」
「はい。歓迎しますね。」
静かに台車を押すナンシーが、こちらを見てにこりと笑った。
女子が二人だけなら、出来る話も多くはないだろう。
そんな話をしていると、森を抜け日差しが降り注ぐ。
「お、村が見えてきたぞ。」
樹がなくなり視界が開けたその先。
そこにある、村の入り口が見えてくる。
「やっとか、早く運んでしまおう。」
「うん。こいつらも急いで解体しないといけないからね。」
村が見えると、台車の速度が上がる。
そうして、新たな村へとたどり着くのであった。




