巫女の舞いを見ました
数百年にも及ぶ、森の王の野望は潰えた。
森の王の最後を見届けたフィーが剣を納める。
そして、俺もお面から元の姿に戻る。
「これで、終わりだな。」
にゃん。
終わりだね。
もう、村も襲われる事も無いよね。
元凶が消えたのだ。
村を襲うリザードラもいなくなるだろう。
「ユリーシャ、お疲れさまだ。」
「はい。フィーさんも、お疲れさっ・・・。」
急にユリーシャがふらついた。
そして、衣が弾かれるように剥がれコロの姿に戻る。
キュリアが倒れるユリーシャを支える。
「ユリーシャっ!」
「大丈夫、ただの魔力切れだよ。頑張ったね。」
「そうか。良かった。」
うん、何事もなくて良かった。
魔力が切れたことにより脱力したのだ。
隣でコロが心配そうに見ている。
「ま、もう大丈夫だからね。ゆっくり休みなさいな。」
「はい。ありがとう、ござい、ます。」
「ありゃ、寝ちゃったかな? おやすみ、ユリーシャ。」
キュリアが、どこからか布を取り出した。
そして、ユリーシャをくるむ。
「便利だな。それ。」
「でしょ? 教えないけどね。そもそも、私にしか出来ないし。」
「別に、教えろとは言ってないさ。」
あったら便利なのは確かだけどね。
食べ物とかに困らないし。
「さて、あとは鏡か。どうしようか。」
「誰かが持って帰るから、ほっといていいと思うよ。私達は私達で帰りましょ。」
「だな。ユリーシャも布団で寝かせたいし。」
「そういう事。じゃあ、お願いね影姫。」
「え? どういう。」
その言葉を言い切る前に、キュリアから出た影に包まれる。
視界が黒に染まるのを最後に意識を失う。
次に感じたのは、誰かに抱えられている感触。
それと、窓からの日の光。
「ぐえっ。」
直後、誰かの呻き声が聞こえてくる。
その声で、意識がぼんやりとだが覚醒する。
「起きたかい?」
えぇと。
どうなってんの?
その声の主はキュリアだ。
どうやら、キュリアに抱えられているようだ。
そして、寝ているフィーの上に座っている。
「起きたからどいてくれないか?」
「ほーい。」
キュリアが立ち上がる。
すると、フィーが起き上がる。
「一体何が。」
「寝てたんだよ。君達。一日丸ごとね。」
「そんなにか?」
いつの間に。
しかも、一日丸ごとなんて。
「君、限界越えて動いてたでしょ。」
「あぁ。しかし、戦ってた時は何とも無かったぞ?」
「まぁね。この子が、失ってた体力を補助してたからね。」
そうなの?
実感無かったけど。
「あれは、あくまで補助。だから、君の体は限界を超えたまま動いていていたんだよ。」
「そうなのか。どうりで、いつもと違う感覚だった訳だな。」
そうなんだ。
無意識だから分かりません。
ってか降ろして。
「まぁ、それで疲れてぐっすりと寝ちゃってた訳だ。勿論、この子もね。」
なるほど。
俺も結構疲れてたし。
「そうか。それで、私達を運んでくれたんだな。」
「ま、そういう事だよん。ちなみに、君の荷物もね。」
「助かる。」
布団の横に荷物があるのを確認する。
それと、鞘に入った剣もある。
すると、その横に宝石が置いてあるのが見える。
「ん? なんだこれは。」
どしたの?
その宝石をフィーが拾い上げる。
それは、見たことのある宝石だ。
「これは、確か大蛇から出たのと同じものか?」
にゃん。
同じだね。
綺麗な宝石。
「これは、一体なんなんだ。」
空の光りに透かせて覗いてみる。
しかし、どこから見てもただの宝石。
「それは、魔力の核だよ。」
「魔力の核?」
「そ。それから出た魔力を使って魔法を使うんだよ。」
魔法に詳しいキュリアには当然の知識。
魔法を使える者にはみんなある物だ。
そうなると、この宝石の持ち主は・・・。
「強ければ強いほど綺麗に光る。つまり、森の王の魔力の核みたいだね。どうせだから拾っておいた。でも、いらないからあげるね。」
「あんたはいらないのか?」
「うん。珍しいほど綺麗なだけだからね。特に興味はそそられないかな?」
全く見てないよ。
本当に興味無さそう。
「本当に興味優先で動くんだな。」
「もちろん。興味を持つ生き物だからこそ、人間は未来へと進化していくのだ。」
「誰の名言だ?」
「私の家の家訓。君達もどうだい?」
「ありがたく断らせて貰う。」
狂人にはなりたくないからね。
ほどほどが一番だよ。
「それは残念。」
「そうは見えないが?」
「まぁね。興味も過ぎれば毒となるから。」
「うん、確かにな。」
呆れたフィーが頷いた。
当の本人が言うのだから説得力がある。
そんな話をしていると、ユリーシャがいない事に気づく。
「そういえば、ユリーシャはどこだ?」
「先に起きて祭りに行ったよ。儀式の準備だってさ。」
「そうか。って事は、無事開催出来るんだな。」
良かったよ。
でも、昨日の今日だしなぁ。
「観客はいるのか?」
「少なかったけどいたね。時間はあるし見てきたら?」
「うん。その方が早いな。起こしてくれてありがとう。」
「どういたしまして。そんじゃ、先に行ってるよ。」
そう言うと、俺を降ろして影の中に消えてしまう。
ワープで移動したのだろう。
俺達も支度を済ませて家を出る。
そして、ゆっくりと広場に向けて歩き出す。
「確かにいるな。」
道には多くの人が歩いている。
中には、見慣れない服の人も混ざっている。
恐らく、逃げ出さずに残ってくれていた人達だろう。
「平和だ。昨日の事が嘘のようだな。」
にゃん。
そうだね。
見慣れた景色だ。
昨日の騒動の直後なのだ。
それでも、いつもと同じ光景がそこにある。
そして、いつものように俺のお腹がなる。
「そういえば、お腹が空いたな。儀式の前に寄ってくか。」
にゃん。
そうだね。
昨日の騒動から何も食べてないし。
広間に向かう前に、広い通路へと向かう。
そこでも、昨日と変わらず屋台が並んでいる。
「ここも変わらないな。」
にゃん。
だね。
昨日の騒動があった場所なのに。
もはや、当たり前のように見慣れた通路。
今日も変わらず食べ物を買う。
「おっ、今日も来てくれたな。今日はどうする?」
「では、まだ食べてない物で。いいよな?」
にゃん。
どうぞ。
何を食べても美味しいからね。
どこに何があるのか分かってしまう。
なので、いつものようにいつもと違うものを買う。
「いつもの日常に戻って来たんだな。」
にゃん。
戻ったね。
見慣れた町の光景。
食べ慣れた食事。
すべてが元通り。
その中に、見たくない姿があった。
「あれは、兵士か。そうか、ここまで大きくなったからな。」
にゃん。
来ない訳が無いよね。
と、なると。
「明日、ここを出る。すまないな、にゃんすけ。」
にゃ。
仕方ないよ。
見つかりたくは無いんでしょ?
見つかりたくない。
というより、顔を知られたくない。
事件に関わっている以上、ハンターギルドが知らせるはずだ。
なので、兵士に見つからないようこの場を離れる。
すると、広場の方から大きな声が聞こえてくる。
「その前に、友の活躍を楽しんでもいいよな。」
にゃん。
そうだね。
行こう。
ついに、儀式が始まるようだ。
そこに向かって、俺達は向かう。
「巫女さんだ!」
「おーい。巫女さーん!」
「巫女さん、綺麗だなぁ。」
近づく度に歓声が聞こえてくる。
皆が、舞台のユリーシャに見とれている。
「凄い人気だな。」
にゃん。
そうだね。
皆がみてる。
それでも、ユリーシャは動じない。
ユリーシャは、綺麗な巫女服を着ている。
そして、剣を前に立てて構えている。
取り返した鏡の前で、凛々しく立っている。
「あっ、こっち見た。」
うん、目が合ったね。
フィーを見たユリーシャの顔が一瞬だが綻んだ。
しかし、すぐに真面目な顔に戻る。
「頑張れ、ユリーシャ。」
にゃん。
頑張れ。
俺達が小さな声で応援する。
すると、太鼓の音が鳴った。
そして、鳴り終わると同時にユリーシャが前に出る。
「私はユリーシャ。この村の巫女なり。大地の精、植物の精に舞いを捧げます。そして、村の者達、ここにいる者達、一緒に過ごした大事な友へ祈ります。」
村人達が静まり返る。
そして、その時を待っている。
友達って俺達の事だよね?
視線が集まる中で、ユリーシャが剣を前に突き出す。
その直後、音が鳴り出した。
それに合わせて、ユリーシャが舞い始める。
「始まったな。」
にゃん。
始まったね。
ユリーシャが舞台の上を、右や左に駆けていく。
その度に、剣を大きく振るう。
時には、大きく回って何かを弾くように剣を振る。
「あれって、私の動きか?」
だね。
舞いに入れてくるとは。
でも、嬉しいね。
ユリーシャが舞う姿に、観客が見入っている。
それほどまでに、美しい動きだ。
「今回の旅はひどい目にあったよな。ただ、祭りを楽しみたかっただけなのに。」
とんでもない時に来ちゃったよね。
毎日がお腹一杯だと思ってたのに。
「いきなりの襲撃に、大型の出現。ゆっくりする時間は無かったな。」
ずっと動きっぱなしだったね。
お陰でくたくただよ。
「でも。」
でも?
「この舞いは良いものだな。」
にゃん。
そうだね。
とても綺麗だ。
舞う度に観客から歓声があがる。
それに答えるように剣が輝いていく。
「嫌な事があった分、良い事も沢山あった。ユリーシャとも会えたしな。」
にゃん。
それが一番だよね。
会えて良かった。
辺りが暗くなる。
その度に、剣の輝きがよりいっそう目立つ。
すると、舞台にコロが飛び込んだ。
「魔物?」
「でも、周りは止めないぜ?」
「あぁ。それに、なんだか楽しそうだ。」
我慢できなかったのだろうか。
ユリーシャの舞いに合わせて飛び跳ねる。
その姿もまた美しい。
「ふっ。見ないと思ったらだな。」
ユリーシャと一緒だったんだね。
本当に楽しそう。
「にゃんすけ。色々あったが、ここに来れて良かったよ。」
にゃん。
俺もだよ。
この出会い、嫌だなんて思うものか。
「にゃんすけも同じだと良いんだが。」
にゃん。
同じだよ。
ずっと、同じだった。
舞いの音楽が激しくなる。
それに合わせて、ユリーシャの動きも激しくなる。
音が大きく鳴ったと同時に、ユリーシャが大きく振り上げる。
そして、舞いが終わる。
「大地の精よ、植物の精よ、ここに集まりし力。どうか、受け取って下さい。そして、その祝福を授けたまえ。」
ユリーシャが剣を鏡に当てる。
直後、鏡の文字が光りだした。
そして、鏡全体が光りに包まれる。
「これにて終わります。ありがとうございました。」
そして、観客に向けて頭を下げる。
すると、観客達も拍手で答える。
もちろん俺達も、その姿を心に焼き付けながら拍手をする。




