豪華な家にお泊まりです
「巫女。君がそうだったのか。」
その言葉に、ユリーシャが静かに頷いた。
やはり、本人で間違いないらしい。
そんなユリーシャに、荷物を持った女性が声をかける。
「あら、ユリーシャちゃん。お帰りなさい。お母さんが呼んでたわよ。」
「ただいまです。報告ありがとうございます。」
ユリーシャに声をかけた女性は、また作業に戻る。
とても、忙しそうだ。
しかも、彼女だけではない。
多くの人が、忙しそうに出入りしている。
「では、ここにいても邪魔になるので入りましょう。どうぞ、中へ。」
「うむ、お邪魔するよ。」
にゃん。
お邪魔します。
ふわーっ、なんか貴族の屋敷みたいっ。
緊張しちゃうね。
玄関を潜るユリーシャに続き俺達も入る。
家の中は、威厳のある光景が広がっている。
緊張してしまうのも仕方ない。
「まずは、お母さんにお会いします。お付き合い下さい。」
「分かった。私も挨拶させて貰うよ。」
お世話になるもんね。
挨拶は大事だよ。
そのまま、目の前に伸びる通路を渡る。
所々に、高価そうな飾りが緊張を高める。
「母親は、どのような人なんだ?」
「お母さんですか? 何と言うか、凄いです。」
「怖いのか?」
「いいえ、優しいですよ。優しくて凄いです。」
いや、分からんて。
具体性が無さすぎるよ。
「まぁ、見れば分かりますよ。」
ユリーシャが扉に手をかける。
いつの間にか着いていたようだ。
そして、扉を開ける。
「お母さん。ただいま、戻りましたよ。」
「あら。お帰りなさい。挨拶回りはどうだった?」
「はい、順調ですよ。」
「そう? なら、本番まで間に合いそうね。」
一人の女性が、ユリーシャの前に立つ。
この人が母親という事だろう。
肩に大きなしゃもじを担いで仁王立ちしている。
身長は高いが、ガタイが良いわけではない。
しかし、なんと言っても圧が凄い。
「あら、そっちの人は?」
「旅人さんですよ。宿が取れないそうなので案内しました。」
「そうなの? 最近は、どこも満杯だからねぇ。まぁ、ユリーシャが良いなら何も言わないわ。ただ、ご覧の通り忙しいから構えないけどね。」
ユリーシャの母親が後ろを見る。
そこには、大きな釜戸があった。
ここは台所らしく、多くの人が調理をしている。
恐らく、屋敷にいる人達に振る舞うのを作っているのだろう。
「あ、あぁ。お気になさらず。世話になるよ。」
に、にゃん。
はっ、お、お世話になります。
あまりの迫力に気を失いかけてた。
「あら、かわいい子ね。ゆっくりしてってね。」
にゃん。
猫です。
どうもです。
ユリーシャの母親が、俺の頭を撫でる。
思ったよりも華奢な手だ。
それに対して、手を上げ返事を返す。
すると、背後から沸騰する音が聞こえてきた。
「かみさん。沸きましたよ。」
「おっと。それじゃ、しっかり案内するのよ? 後で布団、持っていかせるから。」
「うん、ありがとう。お母さんも頑張って。」
釜戸に戻る母親を見送り扉を閉める。
母親も母親で忙しそうだ。
「では、私の部屋に案内しますね。」
「わ、分かった。頼む。」
フィーもフィーで動揺していたのだろう。
引きつった声で返事をする。
それを見て笑ったユリーシャが歩き出す。
「ふふっ。驚いたでしょ? お母さんは、この村で一番高いの。」
「あぁ、確かに高かったな。」
確かに高かった。
でも、驚いた所はそこじゃないよ・・・。
「何というか凄かったな。あの体のどこに、重そうなあれを担ぐ力があるのだろうか。」
「ふふ。お母さんは、ここにいる運営さん達のご飯を作ってるの。そのおかげか、凄い力持ちでもあるんです。」
毎日あんなのを持っているのか。
そりゃ凄いのも頷ける。
「なるほどな。って、運営?」
「はい。私の家は祭りの準備をする場所にもなっているので、運営さんが走り回っているんですよ。」
祭りの運営さんだったか。
まぁ、この村だと準備する場所がなさそうだし。
「そうか。ここで作業をしているんだな。ちなみに父親は?」
「お父さんなら鏡を作っていますよ。今ごろ工房にいると思います。」
「鏡。・・・姿を映すあれか?」
「いいえ。宝玉を埋め込んだ円盤状の物ですよ。儀式で使う物です。」
神器的な奴?
ゲームでよくあるよね。
「あっ、着きました。私の部屋です。」
話している内に着いたようだ。
ユリーシャが目の前の扉を開く。
「お恥ずかしいですが。どうぞ。」
「お邪魔するよ。」
促されたので中に入る。
そこには、畳まれた布団と机しかない。
意外と質素な部屋になっている。
「何もないな。」
「寝て過ごすだけの所なので何もないんです。」
そう言いながら、ユリーシャが扉を閉めて座布団を置く。
三枚あるそれに座っていく。
「趣味の物とかは無いのか?」
「無いですね。物心が着いた時から、巫女としての修行に明け暮れてましたから。」
趣味を楽しむ時間が無かったんだね。
巫女さんだから仕方ないけど。
「そうか。なんか分かるな、それ。私も似たようなもんだったし。」
「そうなんですか? もしかしてフィーさんも?」
「・・・まぁ、そんな所だ。趣味といっても触れる時間すら無いから何があるかも分からないんだ。」
「それ、そうなんですよ。何が流行ってるかな、同じ位の子は何で遊んでるのかな、とか。」
「あー、分かるな。まさか、話が合う人と合うとは。」
おっと、まさかの貴族トーク。
貴族だからって楽じゃないんだなぁ。
よく知んないけど。
今まで、こうやって話す事が無かったんだろう。
話が合うのが嬉しいのか笑い合っている。
「ふふっ。でも、私はこの仕事に誇りを持っています。巫女で良かったと。そのお陰で、獣の子と会う事が出来ましたし。」
「そうか。良かったな。」
「はい。」
フィーが優しい目でユリーシャを見る。
その目には、どんな気持ちが込められているのだろうか。
「フィーさん? じっと見てどうしたんです? もしかして、何か付いているとか。」
「大丈夫。何も着いていないよ。」
境遇に関しては全く逆の二人。
だからこそ、幸せになって欲しい。
自分が手に入らなかった物を大事にして欲しいと思っているのだ。
「そういえば、獣の子の名前は何なんだ?」
「ええと、コロです。変ですよね。」
「まぁ、変わった名前ではあるな。」
どの口が言ってんの。
にゃんすけも相当だと思うよ?
「でも、どうしていなくなったんだろうな。」
「分かりません。急だった物ですから。」
「そうか。その辺も調べておく必要があるな。」
そうだね。
原因が分かれば、どこに行ったかも分かるはず。
たぶん。
「早速、明日からだな。」
「あっ。えーと、巫女の仕事があるので私は無理なんですが。」
「おっと、そうだったな。調べるのは私に任せてくれ。」
「ご、ごめんなさい。」
「いや。さっきも言ったが、祭りを回るついでだよ。だから、気にしなくてもいい。な、にゃんすけ。」
にゃん。
うん、ついでだからね。
任せてくれたまえ。
向こうが迷惑をかけたく無いのは分かっている。
あくまで、祭りを楽しむついでに探すだけ。
「本当なら祭りも案内したかったんですが。」
「仕事ばかりはな。その分、舞いを楽しませて貰うよ。」
「はい。心を込めて踊らせていただきます。」
それは楽しみだね。
お互いの事が分かった事で、よりそう思えるよ。
ふと、外を見る。
本格的に夜だ。
「そろそろこんな時間か。でも、寝るほどではないか。これから、どうするか。」
「なら、今度はフィーさんの事を教えて下さい。」
「私の?」
「はい。是非教えて下さい。」
「そういう事なら。」
それからは、フィーの過去話を始める。
どんな所を見てきたか。
俺との出会いはどうなのか。
実家の事を避けながら話していく。
時には、今日買った食事をつまみながら。
それは、布団で寝るまで続いた。
「ふぁあ、楽しい話ありがとうございました。」
「いや、こんな話で良ければいつでもしよう。」
寝る準備も済み、後は寝るだけだ。
電気を消して、布団に潜る。
ちなみに俺は、毛布の上で丸くなる。
「少し早いですが、明日も忙しいので。」
「そうだな、お休み。」
「はい、お休みなさい。」
にゃー。
おやすみー。
「ふふっ。にゃんすけも、お休みなさい。」
挨拶を交わすと静まり返る。
有意義な一日だった。
「あの。フィーさん、にゃんすけ。」
「なんだ?」
「明日から、よろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくだ。」
にゃっ。
こちらこそ。
今度こそ静まり返る。
目を閉じて眠りに入る。
そして、次の日が来る。




