帰ってきました
空を見ると、空が晴れて星空が見え出す。
大蛇が死んだ証だ。
それと同時に村が解放された証でもある。
「終わったか。」
にゃん。
終わったね。
最後は、あっさりだった。
大蛇を見る。
力なく海に浮かんでいる。
さっきまで暴れてたとは思えないほど静かだ。
「これ、どうしようか。」
ほっとく訳にはいかないからね。
引っ張って帰るしかないかな。
「取り合えず戻るか。」
銛を持ったフィーが来た道を戻っていく。
その後を、俺が追う。
その先では、マッチョ達が船を氷から掘り出していた。
「おぅ嬢ちゃん。お疲れぃ。」
「お疲れだ。それで、船は大丈夫なのか?」
「あぁ、大丈夫だ。外傷は無さそうだしな。プロペラは凍ってるけど。」
壊れてたら戻れなくなるもんね。
守れて良かった。
「手伝おうか?」
「必要ねぇよ。後は、これでっと。」
勢いよく氷を踏み砕く。
これで、全ての氷が剥がせれたようだ。
「おーし。持ち上げるぞ。」
マッチョ達が船の前後に集まって持ち上げる。
そして、御輿のように水があるところまで運んでいった。
すげー。
あんなに楽に持てるもんなの?
「「「せーのっ。」」」
マッチョ達が、船を水に投げ入れる。
その勢いで、船が揺れる。
無事、船を送れたようだ。
「船は大丈夫、と。後は、プロペラの氷が溶ければ動かせれるな。」
無理矢理剥がせばプロペラに傷がついてしまう。
壊す訳にはいかないので待つしかないのだ。
すると、フィーと俺が船に追いつく。
「こんな大きいものを運ぶとは、流石だな。」
「鍛えてるからな。漁師なら余裕だぜ。」
この世界の漁師限定です。
普通は無理だからね。
「そうだ、嬢ちゃん。あんたの剣を拾おうとしたんだが、どこか飛んでいったらしくてな。」
「別に良いさ。敵から奪った物だしな。そういえば、せっかく貰った包丁を折ってしまった。申し訳無い。」
「別に良いぜ。元々使っていなかった奴だしな。」
そりゃあ、錆びだらけだったし。
ちゃんと使うものだけ持って下さい。
「そういえば、大蛇はどうするんだ?」
「どうしようかと迷っている所だ。放っておく訳にはいかないし。」
「なるほどな。でも、あんだけ大きいと邪魔になるだけだぜ。」
確かに邪魔だよね。
しかも、腐るし。
「大きい。なるほどな。」
「どうした? 嬢ちゃん。」
「食べてしまおう。」
あれ、食べれるの?
そもそも大きいよ?
「食べるって嬢ちゃんが?」
「いや、村人達にだ。あまり、食べてなかったらしいし。」
「良い考えじゃねぇか。じゃ、持って帰るって事で良いんだな?」
「頼む。」
本当に良い考え。
村人達、喜んでくれると良いね。
「父さーん。プロペラの氷、取れたよぉ。」
「おっと、言っている内にだな。お前らぁ、準備しろぉ。」
「「「へーい。」」」
マッチョ達が船に乗り込んでいく。
次にフィーと俺。
最後に、ミラン一家。
「おーし、乗ったな。これから反対側に行って大蛇を引き上げる。そんで、向こうの村まで運んでいく。最後まで気を抜くなよ。」
「父さん。もう出しちゃって良い?」
「おう。頼んだぜ。」
ミランが操舵席へ。
ミラン父が氷を蹴って船を離す。
すると、船が動き出す。
氷に沿って反対側へ。
「ようし、ミラン止めろ。」
船が止まる。
大蛇は、すぐ近くだ。
「お前らぁ、引っ張れぇい。」
「「「うーす。」」」
リールを巻いて、大蛇を引き寄せる。
海水に浮かぶ大蛇は、一度氷の上にあがって再び海へ落ちる。
重さで沈んで再び海面に浮上。
「リール固定よし。ミラン動かしてくれ。」
「はーい。」
再び船が動き出す。
引っ張られる形で大蛇もついて来る。
「そういえば、銛を返す。」
「あんたにやるよ。武器ねぇんだろ?」
こっちも要らないです。
まともなものを持たせるので。
「そうか、なら貰おう。」
って、何で貰っちゃうのさ。
まぁ、使えてた武器だからいいか。
しばらく進むと、山に挟まれた黄金の神殿が近付いてくる。
もうすぐ、村につくようだ。
「皆、無事だと良いけど。」
「大丈夫だろ。俺の仲間もついてるしな。」
「確かにね。」
「あの人達、張り切ってたものねぇ。」
「漁師やってると、どうしても血の気が盛んになるからな。困ったもんだ。」
「あなたもでしょ。」「父さんもでしょ。」
「はっはっはっ。そうだったな。」
ミラン父が、家族に指摘されて照れ笑いしている。
仲が良いね。
この家族。
「そんなものなのなんだな。」
「いつも、魚と戦ってるからな。引っ張ってると、どうしても気分が盛り上がっちまうんだ。」
「でも、いい人達なんだよ。お父さんも皆も。」
「あぁ、知っているさ。」
うん。知ってるよ。
取引先を守るには、割に合ってない事してるし。
「おっと、もうすぐつくぜ。旋回に入ってくれ。」
「はーい。」
船の軌道が横に逸れる。
そして、膨れるように半回転し、横から横に近付けていく。
そして、陸の前で止まる。
「よーし。降りるぞぉ。足下気をつけろよ。」
「おやっさん。大蛇上げとくぜ。」
「おぅ、頼んだぜ。」
ミラン父がロープを持って降りる。
そして、近くの木に結ぶ。
その間に、俺とフィーが降りる。
「ん、じゃあ様子見てくるぜ。」
「あっ、私も行く。」
操舵席から、ミランも降りてくる。
村に行くのは、この三人と一匹に決まる。
「良いよね? フィーさん。」
「行っても何も無いぞ? 村人が拐われたせいで無くなってしまったからな。」
「大丈夫だよ。外の世界を見てみたいの。」
「私は構わないが。」
多い方が楽しいもんね。
一緒に行こう。
「もう危なくねぇから良いんじゃねぇか? じゃ、村に行こうぜ。」
黄金の神殿を避けて、村へと進む。
その先では、マッチョと村人が交流していた。
焚き火を囲んで談笑してる。
「あれ、おやっさん。そっちから来たんだな。」
「色々あってな。そっちはどうなった?」
「ゴブリンが村を襲ってたんでボコっておいたぜ。」
「全部か?」
「いや、結構逃げられたかなぁ。でも、あの様子だと二度と表に出れねぇだろうな。」
トラウマを植え付けられたんだね。
自業自得だけど。
「あの村長です。村を守って頂き感謝します。」
「俺は、嬢ちゃんを送っただけだぜ。感謝なら嬢ちゃんに言いな。」
「使いの人に? それじゃあ大蛇は。」
「あぁ、嬢ちゃんが倒した。」
村人から歓声が上がる。
どの村人も、喜んでいるようだ。
マッチョがそれに混ざって盛り上げている。
「そうでしたか。村を救って頂きありがとうございます。」
「私が勝手にした事だ。気にするな。」
いい話だね。
頑張って良かった。
「フィーお姉ちゃーん。」
「にゃんすけー。」
フィーと俺の所へ双子が来た。
フィーがしゃがんで迎え入れる。
「無事だったか。」
「それこっちの台詞だよ。」
「怪我は無い?」
「あぁ、大丈夫だ。」
俺も大丈夫だよ。
元気では無いけど。
「服濡れてるね。」
「にゃんすけ。体冷たい。」
「海に潜ってたからな。」
お陰で、体が冷え冷えです。
吹雪の中にもいたしね。
「嬢ちゃんの知り合いか? じゃあ、船手伝って来るから休んでな。」
「すまない。」
ミランの父が船に戻る。
様子を見終わったので戻ったのだろう。
「あれ、後ろの人は?」
「フィーお姉ちゃんの知り合い?」
「そうだよ。よろしくね。」
ミランが双子に手を振る。
双子は、頭を下げて返事した。
「それよりフィーさん。私も温まりたいのでいきましょう。」
「そうだな。」
「じゃあ、こっちだよ。」
「だよ。」
双子に引っ張られて、焚き火の場所へ。
開いた場所に座る。
はー、温かい。
疲れた体に染みていく。
「あれ、二人の親は?」
「ゴブリンの後片付けだよ。」
「油かけて燃やしてるよ。」
死骸は、大蛇だけではない。
ゴブリンの死体もまた始末が必要だ。
「あの量を燃やすのか。」
「今、兵士さんを呼んでるらしいです。」
「それまでは自分達でって事らしいです。」
やっぱりそうなるよね。
それが普通だし。
「兵士か。」
「どうしたの?」
「いや、何でもないよ。」
やっぱり、会いたくないんだ。
まだ、町から離れて無いもんね。
「それで、お姉さんは誰?」
「誰?」
「漁師の村で食堂の手伝いしています。」
「じゃあ、漁師なの?」
「いえ、船の操縦専門ですよ。」
「すごーい。海良いなぁ。」
「乗りたいですか? では、もう少し大きくなってからなら良いですよ。」
「ほんと?」
「約束だよ?」
仲良くなるの早いね。
よかった、よかった。
「あふぅ。」
「んー。」
双子が急に黙り混んだ。
目を擦っている。
「あれ、眠いのか。」
「そりゃあ、本来寝てる時間のはずですから。」
「そういえばだな。寝なかったのか?」
「心配だったから。」
「から。」
心配で寝れなかったんだね。
申し訳無い。
「それじゃあ、布団に行こうか。」
「うん。」
「寝る。」
限界そうだ。
今すぐにでも寝たいのだろう。
「じゃあ、私はこの子達を送ってくる。」
「気を付けてね。」
「あぁ。」
双子をつれて、家に向かう。
幸いにも、近くなので直ぐにつく。
中に入って、布団に双子を寝かせる。
「寝るのがもったいないね。」
「ないね。」
「はいはい、もう寝なさい。」
双子を寝付かせる。
布団に入るとあっという間に寝てしまった。
「さぁ、戻るか。」
にゃん。
家を出ると、太陽の光に視界が奪われる。
夜が明け、朝が来たようだ。