大蛇を釣り上げました
「どうしてここに?」
「いやぁ、海にゴブリンが逃げねぇか見張ってたらよぉ。いきなり、山が崩れたのが見えてな。気になって見に来たんだ。」
そりゃあ、気になるよね。
だって、いきなり山が無くなったんだもん。
俺だって気になるよ。
「そしたらだ。金ぴかが出て、さっきの化けもんだぜ? いったい何がどうなってやがる。」
「ほんと驚いちゃったわ。あんなのが近くにいたなんて。」
ミランの奧さんが出てきた。
夫婦で来たのだろう。
「あれが全ての元凶だ。逃げられてしまったがな。」
「何だ? あれを追いかけてぇのか? じゃあ、乗りな。超特急で追いかけてやる」
「良いのか?」
「構わねぇよ。元々、こっちの問題だしな。」
フィーと俺は目を合わせる。
そして、船に乗り込む。
まさか、こんな形でまた乗るなんて。
ゆっくり外を眺めている時間は無さそう。
「おい、ミラン。出してくれ。」
「はーい。」
操舵席から、ミランが現れた。
フィーに向けて手を振る。
「ミラン?」
「どうも、フィーさん。心配で来ちゃいました。今回は私が船を操ります。」
「そうか。船、操れたんだな。」
「まぁ、漁師の娘ですから。では、動かしますね。」
ミランが操舵席に戻っていく。
ミランの父が船を蹴って陸から離す。
船は、大きく蛇行し軌道を変える。
「で、一体あのなげぇのは何なんだ?」
「村の人達を閉じ込めていたゴブリン達が崇めてた物だ。あれの存在の力でいう事を聞かせていたんだ。」
「ひどい話ね。それで、そのゴブリンはどうしたの?」
「偉そうなのは、全員倒した。雑魚の方は、こっちの村人とそちらの村人で減らしている頃だろう。」
凄かったよね。
ゴブリンが一気に減ってた。
おかげで助かったよ。
「要するに、あいつをどうにかすれば一件落着って事だな。」
「そう言うことだ。」
大蛇を退治すれば全てが終わる。
話が分かりやすくて良いよね。
「で、追い付いたらどうするんだ?」
「もちろん斬る。今度こそな。」
そうだね。
今度こそ。
「頼もしいわねぇ。」
「だな。じゃあ、俺達は銛で突くか。お前ら、銛を用意しろっ。」
「任せなっ。ぎらっぎらに磨いておくぜ。」
船員の一人が、奥へと引っ込んだ。
そして、銛を抱えて取り出す。
その銛、先が長いね。
普段、どんな漁をしてんのさ。
「さて、俺も磨くかな。」
ミランの父が、銛を持って銛の先端を見る。
銛の先は長くて細い。
何でも貫けそうだ。
物騒だなっ。
普段、どんな漁をしてるんだろ。
「父さんっ。雷雲っ。」
「ん? 晴れてるじゃねぇか。」
「先、先。」
空は、夜とはいえ星が見える程だ。
雷雲なんて、何処にも見えない。
ミランの言葉に、ミランの父が船首に行く。
フィーと俺も船首に出る。
「ありゃあ、確かに雷雲だ。でも、変だな。」
「確かにな。」
船の向かう先に雲がある。
しかも、一部の範囲だけ。
ゴロゴロと音を鳴らしている。
間違いなく、雷雲だ。
でも、何か小さいけど。
「あんなピンポイントに出来る物なのか?」
「んな訳ねぇだろ。何なんだありゃあ。」
なんでしょうかねぇ。
あ、雷が落ちた。
「父さんどうするの?」
「一旦止めてくれ。」
ミランが、船の動力を止める。
ゆっくりと、船が速度を落として止まる
「もしかして、あそこにいるんじゃないの?」
「そんなまさか。でも、あれは普通の雲じゃねのは確かか。」
「そうよ。これ、魔法で出来た雷雲なんじゃない?」
不自然ということは、普通の雷雲じゃない。
あそこで誰かが作っているって事だね。
「まさか、本当に大蛇が?」
「それしかいないだろうな。嬢ちゃん、あいつ魔法とか使っていたか?」
「いや、使っていなかったが。」
確かに、そんな素振りは無かった。
使えるなら使ってたはずだし。
「まさか、あのゴブリンか? 力を吸収したとでもいうのか。」
あのゴブリンって、食われた奴だよね。
魔法の力を奪ったって事なのかな。
「もしそうならどうするよ。今頃、海の底じゃねぇのか?」
「さすがに、海の中では戦えないな。」
確かにね、海じゃ自由に動けないし。自由に・・・。
あれ、爆発を蹴れば進めるんじゃないかな?
あぁ、それでも戦えるかどうかは別だね。
「そうだ。釣り上げちまえば良いんじゃねぇか?」
「でも、餌が無いわ。」
「そうか。くそっ、せめて針にさえ引っかけちまえばな。」
本当に釣れてしまいそうだね。
でも、無理なものは無理だよね。
餌、針。・・・そうか。、
俺は、船首から離れる。
向かう先は、釣り糸が巻かれた固定リールの場所へ。
「どうするか。あれ、にゃんすけは?」
「あそこにいますよ。」
「あそこ?」
はい、ここにいますよっと。
あっ、やっぱりあった。
最初乗った時に見えたんだよね。
「ちびすけの奴、釣り糸なんて持ってどうするつもりだ?」
「まさか、自分が餌になるつもりか?」
にゃん。
その通り。
出来るのが自分なら、やるしかないでしょ。
「へぇ、いい根性じゃねぇか。いいぜ、やってみな。」
「え、ちょっ、あなた!?」
「危険ですよ。フィーさんも何か言ってあげて。」
「ん、あぁ。良いんじゃないか? やりたがってるし。」
フィーならそう言うと思った。
やる気なら充分だよ。
負ける気がしない。
「あぁもう。危なくなったら戻って来てね?」
にゃん。
心配ご無用。
さぁ、やろう。
「ミラン。真ん中まで行けるか?」
「分かったよ。どうなっても知らないからね。」
「はっはっはっ。狙った獲物は逃さねぇよ。さぁ、行きな。」
操舵席に戻ったミランが船を動かす。
前へ進み、雷雲の下へ。
すると、雷が激しくなった。
「燃えてきたな。嬢ちゃんは、出番まで中にいていいぜ。」
「いや、私も残る。」
誰も中に戻らない。
船の船員達は、リールの近くに集まる。
船は、雷雲の真ん中へ。
そこで、船が止まる。
「よし、今だっ。」
にゃん。
息を吸って、船から飛び降りる。
海の中に潜って爆発を蹴る。
すると、一気に下へ進んだ。
にゃっ。
上手いったね。
爆発が弱いから進み辛いけど。
しばらく、爆発を蹴って下へ潜る。
すると、真っ暗な海底へ。
魔法で辺りを照らす。
これなら見えるかな。
で、どこだ?
照らされた海底を見渡していく。
すると、体を巻き付けて寝ている大蛇の姿があった。
寝てやがる。
いい気なものだねっ。
にゃっ。
爆発を蹴って大蛇に近付く。
ポイントダッシュエアで、ジグザグに進んでいく。
そして、大蛇の顔を蹴飛ばした。
寝てんじゃないよっ。
こっちの気も知らないで。
大蛇が目を覚ます。
しばらくほうけた後、こっちを見る。
次の瞬間、大蛇が突っ込んできた。
それを、寸前でかわす。
にゃっ。
危ないなっ。
寝起きが良すぎるでしょっ。
大蛇は、体をくねらせ突っ込んでくる。
こっちも、爆発を蹴ってかわしていく。
狙いづらい。
にゃん。
今度は、上にかわす。
大蛇が追ってくる。
俺も、さらに上に逃げる。
良いよ。もっと来てっ。
もう少しこっち。
よし、ここっ!
にゃっ。
体を反転して前進。
爆発を蹴って、大蛇に突っ込む。
すると、大蛇が口を開く。
にゃっ。
今だっ。
大蛇の口に突っ込んで、舌から口の上側にポイントダッシュ。
そこを蹴り飛ばして、顔の上下を反転させる。
そして、釣り針を刺す。
にゃ、にゃん。
釣り針を踏んづけてジャンプ。
すると、釣り針がさらに埋まる。
その勢いで俺は上に向かう。
正直息がきついっ。
でもその前に。
途中で釣り糸を踏んでジャンプ。
釣り針をかけたと、知らせるためだ。
踏んづけた事により、糸が引かれる。
「おっ。来たなっ。お前ら、糸を引けっ。」
「「「おうっ。」」」
マッチョが並んで糸を引く。
確かな手応えが、手に伝わる。
「やるじゃねぇか、ちびすけ。よし、もっと引けっ。」
「「「おうっ。」」」
糸を引っ張っていく。
ゆっくりだが、確実に引けている。
すると、俺が海から飛び出た。
フィーの隣に着地。
「やっぱり下にいたんだな。」
にゃん。
いたよっ。
やっぱりこの魔法は奴の仕業なんだね。
マッチョ達が糸を引っ張っていく。
すると、糸が縦横無尽に動き出した。
「暴れだしたか。ミラン、船を出せ。」
「分かった。」
今度は、船の力で引っ張る。
暴れる糸が止まり後ろに流れる。
「もう少しっ。ちびすけがやったんだっ。俺達もやるぞっ。」
段々糸の角度が、水面に対して鋭くなっていく。
雷雲を越えたと同時に、水面に大きな影が浮かび上がる。
「嬢ちゃん。準備は良いか?」
「いつでも良いぞ。」
「良く言ったっ。お前らっ、引っ張れっ。」
最後にマッチョの手で引っ張った。
そして、ついに大蛇の一部の姿が水面から出る。
「うおおぉぉっ。」
さらに強く引っ張る。
その勢いで、大蛇が水面から飛び出した。
大蛇が、空に飛び上がる。
ほんとに釣り上げちゃったよ。
さすが、マッチョ。
「でけぇな。やっぱこうじゃねぇと。」
満足がいったようだ。
落ちた大蛇が、再び水中へ。
マッチョ達が再び引っ張る。
「すまねぇが、俺達はこいつが潜らねぇようにしないといけねぇようだ。嬢ちゃん達で、後はやれるか?」
「当然だ。ここまでしてくれた事に感謝する。」
ミランの父達がいなかったら、どうしようもなかったからね。
なら、それに答えるしかないよね。
「今度こそだ。決めるぞにゃんすけ。」
にゃん。
大蛇は、引っ張られる形で船と並走している。
俺達の最後の戦いが始まる。