卵が割れました
斧使いのゴブリンが飛び上がった。
そして、こっちに向かって斧を振り下ろしながら落ちてくる。
フィーが後ろにかわす。
「いきなりだなっ」
フィーが避けた事によって、斧が地面に衝突。
斧が神殿前の広場を砕く。
「なにをっ。神殿を攻撃してはならんっ。」
「うがぁーーっ。」
再びフィーに向かって斧を振る。
それをかわすと、広間の地面が再び割れる。
「聞いてるのかっ。神殿を傷付けるなっ。」
「うがぁっ。」
何度も何度も斧を振る。
それをかわす度に、広間が割れる。
「どうなっているんだ。」
正気じゃ無いね。
どうしたんだろ。
言葉も通じていないし。
「うがっ。」
「させんっ。」
斧を逸らして横を抜ける。
そして、一回転して背中を斬る。
「うがぁっ。」
「効いてない?」
間違いなく切れている。
しかし、全く動じない。
まるで傷を受けてないかのように。
「うがっ。」
「ちぃっ。」
相手が斧を後ろに振ってきた。
とっさにフィーが下がってかわす。
なにかおかしい。
なんていうか、斧に振り回されている感じがある。
「こいつ。こんなんだったか?」
違うね。
あの時の迫力が無い。
ただその代わり。
「うがぁーっ。」
斧を振り下ろして、階段を更に割る。
フィーがそれを下がってかわす。
もはや階段は、ひびだらけだ。
パワーが上がっている。
結界ごと、いとも簡単に割ってる。
「馬鹿な。頑丈に張ってあるんだぞ。」
そうだよね。
俺のメテオの攻撃を受け止めたぐらいなんだから。
「ふっ。」
そう言って、斧を逸らしたフィーが相手を斬りかかる。
しかし、かわされてしまう。
「うがっ。」
「はっ。」
横振りをかわす。
更に、斜めに二回斧が振り下ろすのをかわす。
その直後に、フィーが踏み込んで相方の胴体を斬る。
「まだまだっ。」
刃の向きを変え、もう一度。
さらに一回転して、勢いよく剣を叩きつける。
「浅いっ。」
フィーが気付いたようだ。
刃は通るが少しだけ。
切れているようで、切れていないのだ。
「ならばっ。」
踏み込んで、首に向かって一突き。
少しだけ刺さったが、それ以上は進まない。
「うがあぁっ。」
斧の横振りが迫ってきたので、フィーが下がってかわす。
着地と同時に剣を構えて集中。
そんなフィーに、斧が迫る。
「はっ。」
まず縱振りをかわす。
横に出て一回転。
相手の腕を斬る。
「ふっ。」
今度は横の振りが来る。
後ろにかわした後、踏み込んで突く。
さらに突いて、もう一度突く。
突いて、突いて、突く。
「うがっ。」
「はっ。」
もう一度、斧が迫る。
しかし、持ち手を突いて止める。
さらに、一回転しながら相手の胴を斬る。
「これでっ。」
吹き飛んで倒れた相手の腕を踏んで固定する。
相手は、もう斧を振れない。
そして、剣で首を刺す。
「うがぁっ。」
剣を押し込んでいく。
すると、剣がだんだん沈んでいく。
相手が空いた手で剣を掴んだら、剣が止まった。
「その手を離せっ。」
にゃん。
今邪魔をしようとしたよね?
お前の相手は俺だっ。
炎の玉を投げる。
相手も投げて相殺される。
「邪魔をするなっ。」
にゃん。
もう一度、お互いが投げて相殺しあう。
早くっ。
今のうちにっ。
「もう少、しっ。」
さらに、剣が沈んでいく。
剣を押さえつけている方の腕が緩んだ時、フィーが蹴り飛ばして離させる。
そして、とうとう剣が貫いた。
「よしっ。」
手応えを感じた次の瞬間だった。
斧使いのゴブリンがフィーを蹴飛ばした。
そのまま、何事も無かったように立ち上がった。
「なにっ!」
なんで生きてんのっ!
斧を引きずりながら、フィーに近付いていく。
そして、斧を振り下ろす。
「不味いっ。」
何とか転がって避ける。
立ち上がって、距離を取る。
「こいつ、不死身なのか?」
「そんな力には振れなかったはずだが。まぁ良い。ならば、使ってやるまで。」
魔法使いのゴブリンの持つ杖が光った。
その光と同じ光が、斧使いのゴブリンを包み込む。
「何をしたっ。」
「操ったのさ。何故か知能が飛んでたからな。ならば、補ってやるまでだ。ついでに、他の力もなぁ。」
光を受けた斧使いのゴブリンが項垂れた。
すると、顔を上げて斧を勢いよく振り回す。
まさか、意識を取り戻した?
「うがぁっ。」
そうでは無いらしい。
でもあの動き、前回のと同じっ。
「不味いっ。」
フィーが全力で後ろに飛んだ。
その直後、元いた場所の床が砕け散る。
「そうだ。初めからこうしていたら良かったんだっ。」
再び斧が振り下ろされる。
それをさらに、フィーがかわす。
避けるので精一杯だ。
しかしフィーは、冷静に見ている。
にゃん。
今助けにっ。
って、危なっ。
「させないぞ。」
複数の事をこなすなんてね。
器用な奴だよ。
「大丈夫だ。にゃんすけ。」
フィーが逃げるのを止めて前に出た。
振り下ろされる斧をかわす。
「いま、見切った。」
斧を足で止めて、首の剣を掴む。
そのまま、引き抜いたと同時に、斧を掴む腕を斬る。
その腕は、あっさりと切り落とされた。
「どうやら、ダメージが残ってたようだなっ。しかも、酷使してボロボロだっ。」
「しまったっ。」
片腕を失った斧使いのゴブリンは、空いた手で斧を拾おうとする。
しかし、フィーの剣がそれを止める。
「やらせんっ。」
斬って遠ざかった相手をさらに斬る。
そして、胴体を突く。
何度も斬られた事によるダメージで、剣が胴体を貫く。
そして。
「お前の武器、貰うぞ。」
斧を掴んだフィーが構える。
そして、相手に迫って横に振る。
受けた相手は、真っ二つに切り裂かれた。
「ここまですれば、流石に起きないだろう。」
流石にね。
動けてもどうする事も出来ないだろうけど。
「さて、残りはお前一人なんだが?」
「おのれっ。」
斧を持ったフィーが前に出る。
俺もその前に出る。
魔法使いのゴブリンが後ろに下がっていく。
「悪いけど、進ませて貰う。」
「ならぬ。入らせぬぞっ。」
神殿の入り口を結界で塞いだ。
その結界に、フィーが斧を振り下ろす。
しかし、結界は砕けない。
「他の結界を全てここに集める。」
「往生際の悪い。」
俺も蹴るがびくともしない。
全ての力を注いでいるのか。
フィーが、斧を何度も振り下ろしていく。
しかし、通らない。
「無理だっ。あらゆる魔法の分を集めている。一点集中の結界、そう易々と破らせはせん。」
一点集中、なるほど。
俺達もそれで行こう。
蹴りを止めて神殿とは反対方向へ。
爆発を蹴って高くへ飛ぶ。
「なんだ。逃げる気か。」
「ふっ。私の相棒が逃げるわけ無いだろっ。」
信用してくれてありがとう。
じゃあ、行くよ。
にゃん。
「来いっ。」
点を蹴って神殿へ。
ポイントダッシュメテオで神殿に向かって飛ぶ。
狙いは、振り下ろしたフィーの斧。
「まさかっ。」
蹴りが直撃して、斧を押し込む。
結界にひびが入った。
「くそっ。」
さらに、押し込んでいく。
ひびがだんだん広がっていく。
「砕けろぉっ。」
砕けろぉっ。
ひびが結界全体に広がる。
「やめろぉっ。」
斧が最後まで振り下ろされる。
それと同時に、結界が完全に砕けた。
「やったっ。」
どんなもんだいっ。
俺たち二人に出来ない事は無い。
たぶんっ。
「後は、卵だ。行くぞっ。にゃんすけ。」
にゃん。
魔法使いのゴブリンは、全身が痙攣して動けない。
全力の結界を破られた反動だ。
「入るなぁ。」
なら止めれば?
無理らしいけどね。
二人は、神殿の中へ。
相変わらず、卵が奉られている。
「やるぞっ。」
卵に向かって駆け出した。
その時だった。
卵にひびが入る。
そこから、光が漏れる。
「もしかして。」
しまったっ。
光が神殿中に広がった。
視界が、光で染まった瞬間。
爆風に包まれた。
「にゃんすけ。無事か?」
にゃん。
何とか。
結構飛ばされたけど。
それより卵が。
「遅かったのか。」
卵が崩れていく。
煙に包まれた中で、大きな蛇の頭の影が浮かび上がる。
煙が晴れて、その姿が現れる。