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猫です。~猫になった男とぽんこつの元お嬢様の放浪旅~  作者: 鍋敷
温泉の街と火山に潜みし魔界の門 ボルシャス王国編
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温泉を堪能しました

 温泉に浸かった瞬間、温泉と一つになる感覚がした。

 それと同時に、疲れが一気に外へと流れる。

 代わりに、心地良い物が体の中へと入っていく。


「くはぁ。」


にゃふぅ。


 あまりの極楽に、つい言葉が出てしまう。

 そのまま温泉に溶けてしまいそうな程に身も心も委ねてしまう。


「やばいなぁ。体に力が入らなくなる。これが極楽か。」


にゃ。


 極楽なりー。


「ふふっ。相当疲れてたのね。満足して貰えてるようでなによりだわ。」

「あぁ、満足だ。動きたくない程だ。」


 満足満足。


 あまりの極楽さに、動く気力が湧かない。

 ただひたすら横になって、身動き一つ取らずにじっとする。

 このまましばらくこうしても良いのだが。


「あら、それじゃあ蒸し料理はもういいのね?」

「蒸し料理!」


 蒸し料理!


 その言葉に、俺達は同時に飛び起きた。

 やはり、食欲には勝てないのだ。

 そんな俺達に笑いつつも、女性がセイロを引き寄せる。


「そろそろ温まったかなっと。」


 女性がセイロの蓋を開けると、フワッとした蒸気が上がる。

 それと同時に、食欲をそそられる匂いが漂う。


「おぉ!」


 にゃおぉ!


 セイロの中には、野菜や肉がところ狭しと並べられていた。

 その上、どの食材も水滴を纏っている。

 そんな俺達へと、女性が細い棒を手渡す。


「食べる時は、それに刺して食べてね?」

「分かった。さっそく頂こうか。にゃんすけ。」


にゃ!


 いただきましょう!


 手渡された棒を二人で分けて手に持つ。

 そして、各々食材へと刺していく。

 それを拾い上げると、一気に口へと運ぶ。


「んむー。みずみずしい!」


 むうー。みずみずしい!


「味もしっかりとついてて最高だ!」


 タレっぽい香ばしさを感じる!


 みずみずしくとも味付けは薄くない。

 むしろ、しっかりとした香ばしさが食感を引き立てる。

 そんな俺達の横で、女性もまた蒸し料理を食べ始める。

 自分の分を食べては、抱えている生き物にも与える。


「しまったわ。食事用の飲み物を用意しとけば良かったわ。」

「あぁ。確か、温泉にはお酒と書かれていたのを見たことがあるな。」

「……言って置くけど、私未成年よ?」

「えっ? そうなのか!?」


 そうなの!?


「え? 驚くところ?」


 指摘された本人もまた驚いている。

 あまりにも上品な振る舞いに、年上の女性に見えていたのだ。

 しかし、違うようだ。 


「そういえばだけど、貴方が言おうとした事って何?」

「言おうとした事?」

「ほら。お腹がなる前の。」

「あぁ、その事か。」


 お腹がなる直前の事だ。

 あれから色々な事があってうやむやになってしまった。

 しかし、女性は覚えていたようだ。


「たいした事ではない。ただ、どうして舞っていたのかって気になったんだ。」

「その事ね。それこそたいした理由じゃないわ。ただのお客さんの歓迎の為よ。それと、鉱山で働く人への労いでもあるわ。」

「鉱山で働く人?」

「えぇ。仕事終わりの人がいる時間帯なの。」


 鉱山で働く人がいたようだ。

 その人達を楽しませる為でもあるらしい。

 そうして、一日の疲れを取ってあげるのだ。


「やはり、現地の人達も入るのだな。」

「知り合いによると、一仕事終えた後の温泉で一杯飲むのが最高! らしいわよ。」

「確かに、これだけ極楽だもんな。そりゃ、疲れたら来るよな。」


 気持ちは分かるよ。

 疲れた体に効くもんね。


 疲れた体に効く温泉がここにあるのだ。

 仕事を終えて疲れた体に丁度良い筈だ。

 入らない理由など無いだろう。


「まぁ、貴方達ほど疲れてる人はいないと思うけどね。鉱山の人よりも疲れてるってよっぽどよ? 普段、何をしているの?」

「旅だよ。旅人だからな。ちょいと、いざこざに巻き込まれたりもするが。」

「そうなの? じゃあ、この国に来たのも?」

「あぁ。旅の途中に寄ったんだ。」


にゃー。


 お邪魔しております。


 温泉に入る人を見慣れた女性ですら驚くほど俺達は疲れていたようだ。

 それもこれも、戦い尽くしの旅ゆえに仕方がないだろう。

 しかし、温泉に入った事でだいぶ回復した筈だ。


「それじゃ、遠い所から遥々よくお越しいただきまして…よね。ゆっくりとしていくといいわ。えーと。あら?」

「ん? どうした?」

「そういえば、名前を聞いてなかったわよね?」

「あー、確かに。」


 すっかり忘れてたよ。


 ここまで交流しているのに、相手の名前さえ知らないのだ。

 むしろ、ここまで交流したからとも言えよう。

 それならばと、先にフィーが名乗り出る。


「私はフィーだ。そして、こっちがにゃんすけだ。」


にゃ。


 猫です。

 よろしくです。


「私はセルジュよ。ちなみに、未成年だからね?」

「う、うむ。承知した。」


にゃー。


 根に持つタイプなのね。


 年齢を間違えた事を根に持っていたようだ。

 俺達の返事にセルジュが満足そうに頷いた。


「分かればよろしい。それで、こっちがポルン。なんと、竜の子なのよ。」


ピー。


 セルジュに呼ばれたポルンが鳴く。

 挨拶のつもりなのだろう。

 そんなポルンをフィーが見つめる。


「竜の子か。知っているのよりも小さいな。」

「あら。流石、旅人さんね。そうなのよ。でも、可愛くていいでしょ?」

「だな。」


ピー!


 嬉しそうに小さな翼を羽ばたかせるポルン。

 その大きさは、子鳥と殆ど変わらない。

 かつて見た竜の子とは明らかに小さすぎるのだ。


「ねぇ。折角だし、私が案内してあげましょうか?」

「良いのか? 忙しいのでは?」

「大丈夫よ。私が舞うのは主に夕方よ。それまでなら、いくらでも案内できるわ。」

「そうか。それならお願いしようかな。」


にゃ!


 これで安心だね。


 現地の人なら、的確な案内をしてくれるだろう。

 これほど、安心できる事はない。

 そうと決まればと、女性が嬉しそうに手を叩く。


「決まりね。明日からよろしくね。」


ピー!


「こちらこそだ。」


にゃー。


 よろしくー。


 これで、明日の予定は決まった。

 しばらくはこの町を堪能出来るだろう。

 すると、セルジュが網状の袋を引き上げる。


「そうと決まれば、最後にこれね。そろそろ出来ている頃かな?」


 袋を開けて中の卵を取り出すセルジュ。

 その卵を片手で持つと、もう片方の手で殻を擦る。

 すると、あっさりと殻が向けてしまう。


「うん。出来ているわね。」

「おぉ。そんな簡単に剥けるものなんだな。」

「コツは穴を開けておくことよ。それじゃいただきましょう。」


 殻を向いた卵を配っていく。

 そして、全員が手に取るとお互いを見やる。


「せーの。」


 その声と同時に、一気に卵を口に入れる。

 すると、ほんわかとした半熟の卵の味が広がる。


「んー、旨いな。」

「んー、旨いわ。」


にゃ!


ピー!


 一斉に声をあげる俺達だった。

 そうして温泉の時間も終わり服を着替える。


 俺達が名残惜しそうにしたのは言うまでもないよね。


ピー。


 布とスカーフを身に付けた俺は、ポルンと共に二人を待つ。

 そうしていると、着替え終えた二人が出てくる。


「さ、出たら当然これよね。我慢して良かったこの一杯。さ、一気に飲んじゃって。」


 手渡された甘い味付けがされた冷たい牛乳を一気に飲み干す。

 そして、同時に口から瓶を離して息を吐く。


「ふぅ。火照った体に来るな。」

「でしょ。食事の時に飲まなくて良かったわ。」


にゃ。


 やっぱり、風呂から出た後に飲まなきゃね。


 冷たい牛乳が火照った体内を冷ましていく。

 でも、その瞬間が最高なのだ。

 そんな体の変化を俺達は堪能する。


「良い? 明日だからね? あと、お腹も空かせておくように。」

「分かってるさ。それじゃ、また明日な。」

「また明日ね。」


にゃ。


 また明日。


ピー!


 約束を確認した俺達は、それぞれの泊まる場所へと分かれるのだった。


 


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