罠にはめられました
紆余曲折ありながらも、一同は森を駆けていく。
「次の獲物だ!」
「ぶっ潰せ!」
って、もう獲物扱いだよ。
なんだか可哀想に見えてきたよ…。
目の前に魔物が現れるもお構いないだ。
敵ながら同情してしまう程の快進撃。
そんな一同に遅れを取られないようにと、フィーと俺も倒していく。
「ハンターがこんなにいるとっ、こんなに楽とはなっ。だが、何処に向かうのかがっ、分からないとっ、同じ事の繰り返しだぞ?」
「そうだぜ? でも逆に、同じ事が起きない場所をっ、目指せば良いってっ、事になるだろう?」
「ん? どういう事だ?」
行く宛があるの?
剣を振りながらも答えるローグに疑問を持つ俺達。
先程から同じ事の繰り返し。
しかし、狙いがあっての事らしい。
敵を斬り続けながらも説明をする。
「良いか? この島ってのは、かなりの奴らが調べ尽くしてる。っと、つまりだ、人の気配が微塵もない場所なんかっ、行っても意味がねぇだろう?」
「なるほどなっ。つまり、人がいる場所こそがっ、目的地ということだな。」
「正解だっ。おらあっ!」
へー、ちゃんと考えてんだね。
まぁ、考えなしに来るような場所じゃないもんね。
命の危険がある場所でたださ迷えば、すぐに命を落としてしまう。
なので、対策をして挑むのは当然の事だろう。
勿論、一つや二つの策でどうにかなるとも思ってはいない。
「なら、まだ作戦はあるという事で良いんだな?」
「おうよ。宝の場所まで華麗に案内してやらぁ。ま、華麗とは程遠いなりだがな。がははっ!」
「反応に困るが。まぁ、頼りにさせてもらうっ。」
にゃ!
頼んだよ!
自信満々に笑う姿が頼もしい。
それだけの自信があるという事だろう。
そんな事もあり、快進撃を続ける一同だったが。
「おい! 道だ! 道が出来てるぞ!」
「は? 道なんて今までも……本当だ。」
一同の目の前に、所々に出来ている土の壁が現れる。
そして、その壁の合間を縫うように道が整備されている。
明らかに、人の手が加えられているようだ。
その先をフィーが覗き込む。
「人が通ったって事だな。探していたのはこれの事か?」
「そういう事だ。道が作られてるって事は、何度も通るからって事だからな。例えばだが、商人の元に買い出しに行く為…とかな。」
足場が悪ければ自由に歩く事は出来ない。
そうなると、何度も同じ場所を行き来する事は出来ない。
その為の、整備された道なのだろう。
すると、ウィルが壁の向こうへと視線を移す。
「どうやらそのようだな。いるぞ。」
「分かるのか?」
「あぁ。こいつがな。」
そう言って、袖から出てきた蛇を見る。
ウィルと契約している魔物だ。
「こいつは特殊な個体でな。遠くにいる生き物が、なんとなく分かるんだ。」
「人数もか?」
「あぁ。壁の向こうに、そこそこの数がいるみたいだ。」
そう?
よく分かんないけど。
俺も壁の向こうを探ろうとも、人の気配は感じられない。
それでも、断言するからには間違いはないのだろう。
それを聞いたフィーは、横のローグを見る。
「らしいが、どうする?」
「決まってるだろう? お前ら! 前進だ!」
「マジか!?」
マジなのか!?
この先にいるのは、敵か味方か分からない。
そんな状況で進むのは危険なのだろう。
それにも関わらず、一同は遠慮なく道へと入っていく。
それを見て唖然とする俺達の前にウィルが出る。
「マジみたいだな。俺達も行こう。」
「……あぁ。本当に信じて良いのか?」
不安になるよね…。
信じて良いのか悪いのか。
先に心配になるが、着いていくしかないだろう。
そんな事もあり、道を進んで行くが。
「人がいないぞ?」
「あぁ、静かだね。本当にいるの?」
「らしいけど。」
どれだけ進んでも、人がいないのである。
むしろ、魔物すらいなく静かな道が続いていく。
そんな中、ウィルだけが目を細める。
「来る。」
「何が…。」
その言葉の意味を聞こうとした時だった。
「そこのお前ら! 止まれぇーーーーっ!」
どこからか叫ぶような声が聞こえてくる。
その直後だった。
ガシャーーーーンッ!
道を塞ぐように、大量の瓦礫が雪崩れ込む。
「くっ。さ、下がれーーー!」
何かを感じた一同が、すぐさま後ろを向いて駆け出すが。
「されねぇよ!」
その言葉と同時に、来た道を瓦礫が雪崩れ込む。
道の横は土の壁、前後の道には瓦礫。
北方塞がりになってしまう。
「しまったっ。」
「おい、どうなってやがるっ。」
状況を探るように、辺りを見渡す一同。
すると、そんな一同を囲うように土の壁の上に大量の人影が現れる。
「はっはーーっ。ようこそ獲物の皆さん? 我が城によーこそー!」
その中の一人が悪に満ちた顔で一同を見下ろす。
その周りでは、同じくにやけた者達が見下ろしている。
それを見返すローグが顔を歪める。
「しまった。罠だったか。」
「おい! 本当に信じて良いんだよな!?」
にゃにゃっ!?
まんまと引っ掛かってるんですがっ!?
見るからに、相手の罠の中だ。
本当に考えがあるのか疑わしい。
それを見た向こうの悪顔の男か笑う。
「仲間割れか? はっ。でも残念。皆まとめておさらばよ。」
「くっ、俺達を殺すのか?」
「いや。皆まとめて海に流すだけさ。あー、なんて優しい俺なんだ。」
「いやいやっ、結局死ぬじゃないかっ。」
「それは知らんよ。興味ねぇからよぉ。」
凄い無責任っ。
いや。元々狙いはそれなのかな?
一同の質問に、悪顔の男が飄々と返す。
海に流せばどうなるかなど、知らない筈もない。
結局、こちらの命は惜しまないという事だ。
それを聞いたフィーが剣を構える。
「させると思うか?」
「この状況を見てそんな事が言えるのかい? へー、ばっかだねぇー。自分の立場ぐらい考えてから言って欲しいねぇ! おい!」
悪顔の男は、更に醜く顔を歪める。
見渡す限り、向こうは武器を持って囲っている。
こちらの状況が不利なのは明らかだ。
「ぐっ、卑怯な。貴様! 何が望みだ!」
「決まってんだろぉ、情報だよ。持ってる情報全部置いてきな!」
どうやら理由があって捕らえているようだ。
それを聞いて疑問を持ったフィーが聞き返す。
「情報だと? 何のだ?」
「はぁ? 宝の情報しかねぇだろうが。そんな事も分からないのかねぇー。本当に馬鹿だねぇ。」
「ぐうっ。いちいち癇に障る野郎だなっ。」
にゃー。
どうどう。
追い込まれてるのは事実なんだしね。
「言わなくても分かってるさ。」
腹が立つ気持ちは充分に分かる。
しかし、不利な状況で下手に相手を怒らせる事は出来ない。
その様子を見た悪顔の男がにやける。
「ははっ。そこの間抜けヅラのおちびちゃんの方がかしこいじゃねぇか。」
猫です(怒)
「まあ良いや。説明してやるよ。島中宝を探してたんだが見つからなくてねぇ。しかも、敵は強いし同業者も強者揃いときたもんだ。そんなんじゃあ情報も探せないってね。そこで思い付いたのがぁ…。」
「この罠って事か。」
「せいかーい。満点をあげちゃうよぉー。」
罠にはめて情報を聞き出す。
そうすれば、わざわざ危険な事をする必要はない。
あまりの卑怯な作戦にフィーが顔を歪ませる。
「卑怯ものめっ。」
「はっ。褒め言葉だよぉ。生きて宝が手に入れば正解なのさ!」
楽しそうに笑う悪顔の男。
周りの者もつられて笑っている。
それ見たフィーは、横のローグを見る。
「おい! 何か抜け出す策は無いのか!」
「おっと無駄だよぉ。この状況で何が出来るというんだい? まんまとノコノコ来やがってさぁ。ほんっっっとーに、馬鹿な奴らだねぇ。」
「お前には聞いていない!」
代わりに答える悪顔の男に怒りをぶつけるフィー。
何も出来ない状況に、一同の冷や汗が止まらない。
そんな中で、当のローグが肩を落として笑う。
「そうだな、本当に馬鹿だな。」
「ローグ!?」
にゃ!?
諦めちゃうの!?
諦めたかのように手を上げて首を横に振る。
打つ手が無いかのように薄く笑っている。
「本当に馬鹿だ。こんな簡単な事、誰だってするさ。誰だって、勿論、俺だって……なぁっ!」
突然、態度を変えたかのようにニヤリと笑う。
それ見た悪顔の男の笑いが崩れる。
「はぁ? 何言って…。」
「お前ら! 作戦、黒だ!」
「「「おう!」」」
そう叫ぶと同時に、懐から小さな玉を取り出す。
そして、同じように一同も同じ物を取り出す。
「ぶちかませーーーーーっ!」
その言葉と共に、小さな玉が地面へと叩きつけられていく。
すると、玉が砕けて煙が飛び出す。
その煙は、辺りに広がり全てを隠す。
「な、何をっ。」
その光景に悪顔の男が驚いて顔を塞いだ直後だった。
「うわっ。」
「うおおっ。」
「ちょっ。」
あちこちから驚きの声が上がる。
しかし、煙で何が起きているかが分からない。
それは、フィーと俺も同じ事。
「一体何だ?」
見えないっ。
煙の発生近くだと、より分からない。
目を凝らして見ても、状況が分からない。
そんな風に戸惑っていると。
「フィー! ウィル! にゃんぼう! 来い!」
「行こう。」
「あ、あぁ。」
にゃんすけです。
って、ちょっと待ってっ。
誘われるままに、声がする方へと向かう。
それからしばらく同じ状況が続き、遂に煙が晴れていく。
そんな中、悪顔の男が目を凝らして周りを見る。
「おいおい。何をしやがっ…。」
そう言いかけて言葉が止まる。
何故なら、獲物の代わりに見知った者達が罠の中にいたからだ。
「おい! どうしたよ! どういう事なんだよ!」
「こういう事だよ!」
「え?」
直後、背中からの痛みと共に前へと吹っ飛ぶ悪顔の男。
そのまま、仲間達が待つ罠の中へと落ちていく。
そんな悪顔の男を見下ろしながらローグがニヤリと笑う。
「形勢逆転だな。お馬鹿さん。」