宝島に上陸です
海を進む船は、宝島へと辿り着く。
その宝島には複数の船が着岸しており、無人ではない事が伺える。
それに並ぶようにフィー達の船も着岸する。
「すまない。まさか、こんな事になるとは。」
「気にすんな、元々来るはずの予定だったんだ。それが早まっただけだ。祝い酒が無いのは残念だけどな。」
頭を下げる船長を男が制す。
どうやら、ここで降りる事にしたようだ。
他の者達も同じで、船長を批判するものはいない。
むしろ、興味深そうに船から降りていく。
「へへっ。さっきの戦いで話が合ってな。一緒に行く事になったんだ。という訳だ。俺達はここで良い。さ、早く、他の客を連れてってやんな。」
「分かった。今回の礼、いつかさせて貰うぞ。」
「覚えてたらな。そん時はありがたく受け入れるよ。」
そう言葉を交わすと、船は島を去っていく。
それを見送った男は、改めて島を見る。
そこにあるのは、見渡す限りの森が待ち受ける。
そんな森の前では、同じく降りてきた者達が談笑している。
「まさか、こんな形で来ようとはな。何が起こるか分かったもんじゃねぇな。」
元々、この島に来る予定だったのだ。
過程はどうあれ、辿り着けたのは幸いだろう。
そう一息ついた男は、横にいる者を見る。
「んで、あんたらは行かなくて良かったのか? 旅人。」
「あぁ。興味が出てな。」
あれだけ話されたらね。
実は、フィーと俺も残る事にしたのだ。
何度も話に出る度に興味が出たのだ。
そんな事よりはと、フィーが聞き返す。
「それよりも、武器は良いのか?」
「問題ねぇよ。船銭も返して貰ったし、新しく買うつもりだ。」
「買う? どこでだ?」
「横にいるだろ? あんたの。」
「横に?」
男に言われたフィーは、言葉通り横を見る。
すると、そこにいた商人の男が見返す。
「まさか、俺の事を忘れてないよな?」
「あぁ。商人のウィルだろ?」
「そうだ。つまり、ここにいる商人と引き合わせろと言いたいだろう。」
「商人? ここに?」
にゃ?
ウィルからじゃなくて?
疑問を持ったフィーと俺は、周りを見回す。
そこにあるのは複数の船だけだ。
「宝島の話は、貴族達も興味があってな。金を出してハンターを雇ってんだ。」
「そうなると、当然俺達の国も黙ってない。貴族の金を求めて商人が集まっている。」
「そうか。では、あんたがここにいるのも?」
「当然だ。その話を聞いて黙っている訳がない。」
需要もあるしお金もある。
そんな夢のような状況を見逃すウィルではない。
だからといって、誰にでも売る訳ではない。
「まぁ、数に限りがあるから誰にでもという訳ではないがな。」
「そんな訳だ。金は出す。紹介してくんないか?」
「良いだろう、契約成立だ。」
ここには、商人のウィルがいる。
同じ商人同士なら、取り引きを優先してくれるだろう。
その為の金を、男が出そうとした時だった。
「お待ちを。そのお金、私が出しましょう。」
「ん?」
二人の話に割り込むように、何処からか何者かが現れる。
その人物は、小綺麗なスーツを正してお辞儀をする。
「あなた方のお話、大変興味深く聞かせていただきました。是非、私が皆様のお金を出しましょう。」
「お金を? という事は貴族か? って、見たままか。」
「えぇ、見たままですよ。」
そのスーツ姿の人物は、不気味な笑みを浮かべてこちらを見る。
そんなスーツ姿の人物を、フィーが興味深そうに見つめる。
「さっき話してたのか?」
「だろうな。しかし、前に契約していた奴らはどうした? ここにあんたがいるって事は契約してたのもいるだろう?」
ここにいるハンターは、全員が雇われている筈だ。
そう考えると、勧誘の為に貴族が来るとは思えない。
つまり、この男にも契約したハンターがいる筈だが。
「死にました。」
「やはりか。」
「死っ!?」
ええっ!?
淡々と交わされる会話に、フィーと俺は驚く。
そんな俺達を放ってスーツ姿の人物が続ける。
「えぇ。それで困り果てた所に皆様の話が聞こえたので声をかけさせていただきました。」
「なるほどな。どうりで。」
俺達の事は完全に無視である。
しかし、黙って聞いている俺達ではない。
「どうりで…じゃないっ! 死んだってどういう事だっ。一体、この島で何が起きてるんだっ。」
「言っただろう? 宝探しってな。」
「それはそうだが…。」
どういう事!?
聞いていたよりも、深刻な話のようだ。
あまりの衝撃に言葉を失う俺達。
そんな俺達を、スーツ姿の人物が訝る。
「知らない? 一体、この方達は?」
「飛び入りだ。だから、何も知らねぇ。そうじゃなかったら、もっとしつこく誘ってたさ。」
「しつこく? そういえば…。」
あっさりと食い下がってたよね。
最初に勧誘された時の事だ。
あの時は、一つ返事で諦めていた。
それは、命に関わる話だったからだ。
「どうしてだ? どうして、命をかけてまで宝を探すんだ?」
「決まっているだろう? ここにあるのは、何でも願いが叶うとされる聖なる宝だぞ? 命ぐらいかけるさ。」
「なっ、何でもだと?」
何でも?
本当に?
どんな願いでも叶える宝。
もしそれが本当なら、命をかけるだけの価値があるだろう。
でもそれは、全員がそうという訳ではない。
「で、どうする? あんたはかけるか? 嫌なら、そのへんの商人に頼めば連れてってくれるだろうよ。」
「その場合、私はお金は払いませんが。」
「ちなみに、紹介料も取るぞ?」
「言われなくても分かってる!」
進むか離れるか、どちらかを選ばなくてはいけない。
と言われても、すぐに判断出来る事ではない。
そんな風に悩んでいると、しびれを切らした仲間が声をかけてくる。
「おーい。まだ話はまとまらないか?」
「おう。もう少しだけ待っていろ。で? どうする?」
「どうと言われても…。」
簡単に決められる事じゃないよね。
興味があるのは間違いない。
しかし、命に関わる事だ。
「他の者は…、聞くまでもないか。」
「当たり前だ。知った上で来てるだろうな。」
「そうか。」
そりゃそうだろうね。
知らないのなら、そもそもここに来ていない。
つまり、全員承知の上という事だ。
それを聞いたフィーは、今一度話をまとめてみる。
「何でも叶う聖なる力。しかし、取るには命懸けになる…か。聖なる力ね。」
「気になるか?」
「まあな。もしかしたら、私達が探している物と関係があるのかもしれん。だよな? にゃんすけ。」
聖獣の始祖…だよね。
同じ聖だもんね。
俺達が知りたいのは聖獣の始祖の場所だ。
同じ聖という字があるのなら、関係があるのかもしれない。
それを聞いた男は、疑問を持ちながらも答える。
「ふうん? まぁ、そうじゃなくても叶えればいい。なにせ、何でも叶えてくれる訳だからな。」
「そう…だよな。」
関係があっても無くても関係がない。
どちらにしろ、望む物は得られるだろうからだ。
悩むフィーは、横で見ている俺を見る。
「どうする? 私は…行っても良いと思う。要は、死ななければ良いだけだからな。」
「あぁ。嫌なら、途中で引き返すのもありだぜ?」
まぁ、そうだよね。
無理にいかなくても良いもんね。
必ずしも宝が必要な訳ではない。
なので、必ずしも行かなくてはいけない訳ではない。
まぁ、無理をしない程度なら。
にゃっ。
いいよっ。
「そうか。分かった。私達も行こう。」
「よし来た。一緒に行くって事で良いよな? んで、そっちの商人は?」
「金さえ入ればそれで良い。」
「だそうだ。」
「ほう? では、契約成立という事で。」
スーツ姿の人物の言葉に頷く一同。
こうして、宝探しに参加する事が決まったのだった。