魚の嵐を乗り越えます
叫び声と共に、魚が一斉に駆け出す。
それを見て逃げ惑う者達。
それに対し、仲間を探していた男もまた動く。
「くそっ。お前ら、武器持って何年だっ。腹くくれっ!」
そう言いながら、迫る魚達を受け止める。
すると、それを見た者達も動き出す。
「お、おうっ。続くぞ! お前ら!」
「おーーっ!」
次から次へと、同じように魚を受け止めていく。
それを見ながらも、男は魚を投げ飛ばしながら後ろへと叫ぶ。
「おい、船長! 今のうちに舵取りを!」
「分かった! 俺達も腹をくくろう! 身を挺してでも進行を戻して見せようぞ! さぁ! 帆を張れ! オールを漕げ!」
船長もまた、船員達へと指示を飛ばしていく。
引きずられる速度が上がるも気にしない。
その間にも、魚達が押し返す力が増していく。
「くそっ。武器さえあればっ。」
「無いものは仕方ねぇだろ。意地で踏ん張れ。」
「ぐうっ。やってやるさ。」
押されながらも意地で堪えていく。
それでも、数は相手のが上だ。
このままとはいかないだろうが…。
「ならば、数を減らすのは私達の仕事だなっ!」
にゃ!
あいよっ!
押し返す者達からもれた者は、俺が蹴ってフィーが斬る。
しかし、横から来る魚には対処が遅れてしまう。
「すまない! 斬りやすいように押し留めてくれ!」
「おう、任せたぞ! おら! お前ら、魚ごときにびびってんじゃねぇぞ!」
「いなれなくてもっ!」
男の一喝で、前線を押し返していく。
そのおかげか、何匹かの魚を海へと追い出す事に成功した。
「おっしゃ! この調子だ! いけいけ!」
「いや、また次が来るぞ!」
「なにぃっ!?」
見上げた先には、先程のように大量の魚が迫っている。
相手の数に限りがない。
落としたところで次が来るのだ。
「あ、集まれ! 力を合わせればきっと。」
「いや、私達の出番だっ。にゃんすけ!」
にゃっ!
分かってるよっ!
迫る魚へと飛び込む俺。
ポイントダッシュで撥ね飛ばしていき道を作る。
ほっ、ほっ、ほっと、これでっ。
そうして、数を減らしたところで真正面への飛び蹴り。
更に、魚を集めて集めて集めたところで蹴り散らかす。
にゃー!
フィー!
「任せろ!」
蹴りの勢いで飛び退いた俺の代わりにフィーが前へ。
そのまま散った魚の中に入り込むと同時に、一回転の斬りを叩き込む。
「よし。後ろの被害は?」
「問題ねぇ。ちょっと増えたぐらいだっ。続けてくれ。」
「分かった。このまま行くぞ。にゃんすけ。」
にゃー!
いっちゃうよー!
船に飛び込んでくる魚を斬っていく俺達。
船に乗り込んだ魚は、後ろの者達が船の外へと追い出していく。
「この調子ならっと…。」
「うわーーーっ。助けてくれーーーーっ。」
「っ!? 次へと次へと。今度はなんだっ。」
声をした方へと視線を移す。
そこでは、船員が持つオールから手が生えた魚がよじ登るのが見えた。
「今度は手かっ。こいつら、どんな体をしてるんだっ。」
自由に生えて来るもんなのっ?
器用に掴んだオールへと少しずつ登っていく魚達。
急いで、船員の方へと向かおうとするフィーだが。
「うわっ。増えた!」
「押されるーーーっ!」
フィーが手を止めている間に、魚達は増えていく。
そちらに対処したくても、船員達は放っておけない。
「だーーーっ。どれだけ増えれば気が済むんだっ。」
「おい、旅人! 後ろだ!」
「なっ。」
なっ。
男の声に後ろを向くと、数台の魚が迫っていた。
その距離は近く、対処に間に合わない。
「しまっ。」
それでもと、急いで剣を構えた時だった。
一筋の影が魚達を蹴散らしていく。
「え?」
そして、その影の先。
その先にある、人の影がフィーの前に降り立った。
その人物とは…。
「あんた、果物の村のっ。」
商人!?
「む? あんたか。」
かつて果物の村で出会い、共に戦った商人の男だ。
あの時のように笠を深く被り直す。
「騒がしいと思い、外に出てみればだな。まさか、思わぬ出合いだ。」
「お互い様だ。どうしてここに?」
などと世間話をしていると、後ろから悲鳴が上がる。
どうやら、オールに捕まる魚が船の手すりまで来たようだ。
それによる悲鳴を聞いた瞬間、商人の男が腕を振るう。
「ふっ。」
それにより放たれたのは、ナイフを咥えた蛇だ。
その蛇が真っ直ぐと伸びていくと、手すりを掴む魚達を貫いていく。
「どうやら、ゆっくりしている暇はなさそうだな。手を貸そう。」
「助かる。」
その言葉と共に背を向けあった二人は、己の役目の場所へと飛び込んでいく。
飛び込んでくる魚はフィーが斬っていき、登ってくる魚は商人が斬っていく。
それを見て、魚達と押し合う者達の士気も上がる。
「こっちも負けてられねぇぞ!」
「「「おおおおおおっ!」」」
迫る魚を何とか凌いでいく。
しかし、そんな一同を笑うように船は波に逆らい進んでいく。
だからといって諦めるような者達ではない。
「そっちに沢山行ったぞ!」
「ならば、こっちも数だ! 一斉に突っ込むぞ!」
武器が無くとも意地で張り合う者達。
「おいっ! また乗って来るぞ!」
「させはせんっ!」
にゃ!
負けないよ!
収まる事のない魚の嵐に負けじと戦い続ける俺とフィー。
「駄目だ! 登ってくる!」
「気にするな。続けろっ。」
「ありがたい! さぁ、堪えろ! 船の舵を決めるのは俺達だ!」
手が震えようとも、オールを掴み続ける船員達。
そして、帆を引っ張る船長が海を見て目を細める。
「波が変わった! じきに抜ける! 続けよ!」
段々と船を引き寄せる力が減っている。
そして、遂にその時が来る。
「「「抜けろーーーーーーーーっ!」」」
抜けろーーーーーーーーっ!
大きな波と共に、船が跳ね上がる。
そうして宙に浮いた船は勢いよく着水する。
それと共に、魚達が引いていく。
飛び込んでくる魚達もいなくなる。
「魚どもが引いていく。やったか?」
「あぁ、間違いないとも。嵐は抜けた。波も元に戻っている。」
船長の前に映る光景は、巻き込まれる前と変わらぬ海の姿だ。
それを聞いた者達は、体を震わせる。
「って事はだ。」
「俺達の勝利って事だ!」
「「「うおおおおおおおおっ!」」」
船上に歓喜の声が上がる。
あれだけ苦労して耐え抜いたのだ。
無理はないだろう。
そんな中で、剣を納めたフィーが甲板に腰をつける。
「ひどい嵐だったな。」
にゃー。
全くだよ。
魚の嵐なんて聞いた事がないよ。
ほんとにさ。
あまりの出来事に、全身がくたびれている。
そんな風に座り混んでいると、仲間を探していた男が横に座る。
「助かったぜ。あんたら、なかなかやるじゃねぇか。」
「そっちこそ。良い気迫だったぞ。」
座ったままの二人は、お互いの手の甲を打ち付け合う。
そうして、お互いの健闘を称え合う。
それは、二人だけではない。
共に戦った者達が、戦い抜いた事を祝いあっている。
すると、一人の男が船の先端へと駆ける。
「おい! 陸地だ!」
「おっ、ようやく着いたか。くたびれたぜ。ったくよう。」
「だな。着いたら早速飲みに行くか。」
「そうだね。って、まだ昼だよ?」
「良いじゃねぇか。今日ぐらいはさ。」
健闘を終えてこれからの事で盛り上がる者達。
今の出来事を考えると、それぐらいの事は許されるだろう。
そして、フィーと俺もまた船先へと向かう。
「さて、私達も宿探しが済んだら早速ご飯に…でも…。」
何かを言いかけたフィーが突然黙り込む。
その目は、先の大陸を見ているが。
にゃ?
どしたの?
「あぁ、なんか、小さくないか? 何て言うか、大陸より島と言うか。」
島?
フィーの言葉通り、先にある陸地は小さい。
大陸というには、見合わない程の大きさだ。
それを聞いた船長が駆け寄ってくる。
「島だと? まさか。今の方角はどっちだ?」
慌てて取り出したコンパスらしき物を確認する。
そして、先程のように目を細める。
「まずいな。思ったよりもずれている。」
「なに? では、あの先に見えるのは目的地では無いのか?」
「あぁ、違う。目的地は、間違いなく大陸の筈だからな。」
進路がずれている以上、目の前にあるのは目的地ではない。
しかし、間違いなく目の前には陸地がある。
そうなると、疑問を持つのは当然だろう。
「では、あそこにあるのは何なんだ?」
「あぁ、それは…。」
船長が何かを言おうとした時だった。
「宝島、だな。」
「宝島?」
それって例の?
代わりに、いつの間にか近くにいた商人が答える。
その正体は、何度も噂されていた宝があるとされる島。
「あれが、宝島…か。」
そう呟いたフィーは、再び船が向かう島を見つめる。