未来を見据えて旅立ちました〈完〉
次の日、俺達は芸術の町を出た。
馬車に揺られながら会話を弾ませる。
その途中、馬車の荷台から外を見る。
「見て下さい。海ですよ。もうすぐ到着です。」
「そうか、遂にか。」
にゃ。
遂にだね。
この大陸から離れるその時が。
目の前に広がる大海原を眺める。
そうしている間にも、馬車は目的地へと走っていく。
それは、この大陸と離れる時が来ている事をあらわす。
「見えてきましたよ。目的地の港です。」
アイナの言葉に、馬車の前を見る俺達。
そこには、複数の建造物が見える。
それと共に、海に浮かぶ複数の船も見えてくる。
そんな場所へと、馬車が入っていく。
そのまま馬車は、馬車を止める場所にて止まる。
「到着しましたよ。」
「ありがとう。」
にゃー。
ありがとー。
アイナにお礼を言って馬車から降りる俺達。
そして、アイナに後の事を任せた俺達は船へと向かう。
「えーと、私達が乗る船はと。」
にゃ。
どれだろうね。
船は沢山あるので、どれに乗るかは分からない。
なので、事前に貰ったチケットを見て確認する。
「もう少し横か。」
チケットを頼りに、歩きながら探す俺達。
乗り場の数字を確認しては歩くを続ける。
そんな俺達へと、カミーユが近づく。
「フィーさん、どうです? 見つかりました?」
「もう少し…お、ここだな。」
ここ?
チケットに書かれた番号と同じ数字の乗り場を見つける。
そして、そこに停まっている船を見る。
「これが今日乗る船か。」
「時間の方は大丈夫ですか?」
「あぁ、まだ余裕はある。」
早くについてしまったのか、出航まで時間はある。
なので、それまで時間を過ごさなくてはならない。
「さて、何をして過ごそうか。」
「なら、一緒にお茶でもいかが?」
「ん?」「え?」
にゃ?
誰?
何処からか聞こえた声に、同時に振り向く俺達。
そこには、オルティが立っていた。
「やっほー。」
そう言いながら、軽く手を振るオルティ。
その振る舞いは、相変わらずの気だるさだ。
それから俺達は、近くの食事処へと案内される。
そんな俺達を、キュリアとリュノが歓迎する。
「おっ、こっちだよーん。」
「やっと、来た、ね。」
席に着いている二人は、落ち着くように椅子に体を預けている。
ここについてから、かなりの時間が経っているのだろう。
「お前達もいたのか。」
「まあね。皆で仲良く会議だよん。ささ、君達も座りなよん。」
キュリアに促されるように座る俺達。
俺達が席に着くと、オルティが続くように座る。
それを見たフィーが話を切り出す。
「お前達、各地の魔法陣を防いでいた筈だろ? ここにいて良いのか?」
「それなら、無事に終わったよ。だから、こうして寛いでるってこった。」
ここにいる三人は、開いた魔界とを繋ぐ魔法陣を防ぎに各地を飛び回っていた。
それが終わってから、この場所に合流したのだろう。
「しかし、どうしてここに? 合流なら王都で良いのでは?」
「そうするつもりだったんだけどね。君達が旅立ったと聞いて追いかけてきたんだよ。」
「私達にか?」
にゃ?
何か用なのかな?
一度は王都へと戻ったようだ。
しかし、俺達を探しに追いかけて来たようだ。
何か用事があるのだろう。
「そうだよ。まぁ、事後報告的な感じかな。君達も関係者なんだし知っておいた方が良いかなって。」
「それはまぁそうだが。」
にゃ。
うん、そうだね。
今回の事件に関わる者として、どう方が付いたのかは知る権利がある。
それを、わざわざ伝えに来たのだろう。
「まずは、消えた武将の屍だけど。残念ながら、見つかんなかったかな。」
「お前達でも見つけられなかったか。」
「そうなんだよね。多分だけど、魔界にでも回収されたかな?」
「もしくは、しぶとく、生き残ってて、逃げ帰ったか、だね。」
こっちにいない以上は、魔界にいると考えるべきだろう。
しかし、生きているのか死んでいるのかは分からない。
どっちにしろ、探しても見つけられる可能性は無いだろう。
「まぁ念のため探索は続けるけど。」
「はい。我々王家も探索をしていくつもりです。」
「それは助かるね。」
万が一の可能性がある。
その為にも、探索を続ける必要がある。
「んじゃ、次は閉じた魔法陣の件かな。」
「閉じたのなら説明する必要はないだろ?」
「それはまぁそうなんだけど。ま、いっか。」
「ん?」
どういう事?
曖昧な言い方に疑問を持つ俺達。
しかし、これ以上の説明をするつもりはなさそうだ。
そうして、次の説明に移る。
「そんじゃ、次は大きな蛇の件かな。中にいた何かについて調べてみたけど、特に成果は無し。これに関しては、情報が少なすぎてね。」
「そうか。仕方あるまいな。」
「まぁ、あんだけの規模の召喚陣はそうそう出来ないから安心してな。」
安心と言われてもね。
まだ存在してるのは確かだし。
存在しているのなら、また来る可能性はある。
安心しろと言われても難しいだろう。
「ま、こんな所かな。これで伝えられる事は全部だよ。」
「なんだ、たいした情報は無かったな。」
「ま、要は安心してってこった。君達が安心して旅立てるようにってね。」
問題ないと伝える為の事後報告だろう。
オルティ達もまた、フィーの事を心配していたのだ。
しかし、フィーはもう心配なんてしていない。
「気づかい助かる。しかし、私は皆を信頼する事にしたからな。」
「あらら。杞憂だった訳だね。でも、安心したよ。思ったよりも強いじゃない?」
「一人ではない事に気づいただけさ。頼りになる友がいる事にな。」
そうだね。
友だからこそ分かる事もあるんだよ。
一緒に過ごし、絆を深めたからこそ分かるのだ。
仲良くなった友の皆は、この程度で挫けるような者達ではないと。
ならば、心配する必要など無いだろう。
「良い出会いをしたみたいだね。」
「あぁ。私は恵まれているな。出会った者達に感謝だ。」
絆を深められたのも、出会った者達のお陰だ。
出会いが悪ければ、こう上手くは行かなかっただろう。
そんな良い出会いに感謝をしていると、何処からか鐘の音が聞こえてくる。
「そろそろ時間か。行くとしよう。」
「そうですね。乗り遅れてはいけませんから。」
にゃ。
うん、急ごう。
出航に遅れては、旅に出る事が出来なくなる。
その為にも、早めに向かう方が良いだろう。
そうして、店を出た俺達は乗り場へと向かう。
オルティ達もまた、見送りに来てくれる。
「じゃあね、フィーちゃん。また会おうねー。」
「うん、その時まで、お元気、で。」
「何かあったら、うちらの仲間に頼ると良いからね。フィーちゃんの事は伝えてあるから協力してくれる筈だからね。」
「あぁ。世話になったな。」
にゃー。
なんだかんだ世話になったよね。
ありがとー。
オルティ達もまた、良い出会いの一つだ。
その事に感謝をしつつ別れを済ます。
そして、今度はカミーユを見る。
すると、お付きの者が奥から来る。
「間に合いましたか。私達も見送らせてもらいます。」
「ありがとう。」
「うむ。獣よ、次こそ決着をつけるからな?」
「それまでに腕を磨いておくと良い。」
にゃ。
こっちこそ。
もう何を争ってたか忘れたけどね。
お付きの者と別れを告げる。
短い付き合いだけど、共に戦いを生き抜いた同士だ。
そして、今度こそカミーユと向き合う。
「フィーさん、貴方の旅が良きものになるように祈っています。」
「こっちもだ。頑張れよ、お姫様?」
にゃっ。
頑張ってね。
「はい。この大陸を、必ず良きものにして見せます。」
カミーユと別れを告げる。
その言葉に、偽りなどはない。
必ず、その役目を果たしてくれるだろう。
そうして別れを告げた俺達は船へと向かう。
その際、入り口で並んで止まる。
「良いか? にゃんすけ。同時に乗るぞ?」
にゃ。
良いよ。
一緒にだね。
目の前にあるのは、大陸とのお別れの線だ。
そこを越えれば、後戻りは出来ない。
する必要もない。
そんな線を、俺達は…。
「せーの!」
にゃ!
せーの!
二人同時に乗り越える。
新しい旅への第一歩だ。
それを迎えるように、汽笛の音が響く。
「にゃんすけ、新たな旅だ。楽しみだな。」
にゃっ。
うん。
どんな出会いが待ってるんだろうね。
次の旅へと妄想は膨らむばかりだ。
そんな俺達を乗せた船が動き出す。
すると、カミーユが叫ぶ。
「フィーさん! にゃんすけさん! またいつか! 絶対に!」
「あぁ! その時はまた探検だ! 良いな? 約束だぞ!」
にゃっ!
約束だね!
だから、またいつか!
カミーユ達に見送られながら、船が陸から離れていく。
それが見えなくなった頃、俺達は船が向かう先を見る。
そして、その先にあるものを見据える。
「待ってろ未来。私達は止まらないからな。」
にゃ。
道が続く限りね。
それは、未来という名の道だ。
どこまでも続く先の見えない道。
皆が歩き始めた可能性の道。
「さぁ行こう! 新たな冒険の始まりだ!」
にゃー!
行こー!
未来を見据える俺達は、どこまでも進んでいく。
波に乗って、風に乗って、どこまでも進んでいく。
お付き合い頂きありがとうございます。
これにて、大陸編は終わります。
これからのお話を書くかは未定ですが、その時はまたお付き合いして頂けるなら幸いです。