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猫です。~猫になった男とぽんこつの元お嬢様の放浪旅~  作者: 鍋敷
人魔大陸防衛大戦 フラリア王国編
191/284

旅立ち前のお楽しみです

 崩壊した研究所から出た俺達。

 その際、カミーユが手元の紙を見る。

 そこには、関係者専用と書かれている。


「貰ってしまいましたが、どうしましょう。」

「使うしかないな。どうせ出発は明日なんだし。」

「そうですね。」


 勿体ないもんね。

 気軽に渡せるようなものでもないし。


 本来、関係者に渡される大事なフリーパスだ。

 そのような物を、適当に扱う訳にはいかない。

 かといって、使わないのも勿体ない。

 すると、話を聞いていたアイナが提案する。


「では、お嬢様とフィー様とにゃんすけ様のお三方で楽しんで来て下さい。私達は、先に宿の方で部屋を取りますので。」

「良いんですか?」

「はい。ごゆっくりと。」


 そう言い残し、立ち去る三人の従者達。

 後の事は、俺達に任せるとの事だろう。

 そうして、俺達は残される。


「気を遣わせたでしょうか。」

「そうみたいだな。折角だし、受け入れようか。」

「そうですね。では、ゆっくりと探索しましょうか。」


にゃー。


 アイナさんに感謝だね。

 さぁ行こー。


 カミーユとフィーが一緒にいられる最後の時間だ。

 その時間を作る為の配慮だろう。

 そうして、俺達は芸術の町を歩く事となった。


「とは言いつつも、何処から回りましょうか。」

「その事なら、私達に任せろ。ある程度の場所なら見て回ったからな。」


にゃ。


 そのお陰で詳しくなったよね。


 一通り見た事で、多少の知識ならある。

 その知識なら、カミーユの案内も出来るだろう。


「そうなんですか? では、お願いしますね。」

「任せろっ。」


にゃっ。


 任せてっ。


 自信満々に答える俺達。

 そんな俺達は、カミーユを連れて歩きだす。

 まず向かったのは、町の入り口付近だ。


「凄い、至る所がお洒落です。」


 彩りのある光景に目を輝かせるカミーユ。

 周りを忙しく見渡しながら歩いている。

 その足は、少し弾んで見える。

 そんなカミーユを見たフィーが笑う。


「そんなに周りを見ていると転けるぞ?」

「大丈夫です。もう子供じゃないんですから。」

「ははっ、そうだな。……うん。」


 それがいるんだよね。

 子供じゃないのにこける人が…。


 呆れるようにフィーを見る。

 どうやら、虚無な顔をして遠くを見ているようだ。

 しかし、すぐに戻ったフィーが近くの建物へと向かう。


「カミーユ、ここにある建物は全てお店だ。食事とかもここで買うんだ。」

「え? でも、机とかはありませんが。」

「出店みたいなものだからな。早速、何かつまんでいくか。」

「はい。丁度、お腹が空き始めてたので。」


 同じく。

 もう昼は越えてそうだからね。


 この町に来る間に、昼を過ぎてしまっている。

 お腹の方も、既に空いてしまっている。

 そんな事もあり、お店を求めて歩きだす。


「あ、本当にお店だ。しかも、いろんな種類がある。」

「だろ? 本当なら、そこら中に食べ物を持って歩く人がいるんだが…。」

でしょう。

 その筈なんだけどね。


 前に来た時は、食事をしながら歩く人達がいた。

 しかし、今はほとんど人がいない。


「人がいないですね。」

「例の事件で人が離れているのだろう。仕方あるまい。」


 町を魔物が襲撃し、町の一部を吹き飛ばした。

 それを聞けば、人が離れてしまうのも仕方ない。

 そうしている間にも、フィーがお店で何かを買う。


「だからこそ、私達で買い支えてやろう。」

「分かりました。端から端までまとめて買いましょう!」

「いや、流石に食べられないだろう…。」


 この子も意外と抜けてる所があるよね。


 買ってくれる人がいない。

 ならば、買える俺達で支えてあげれば良い。

 気合いに燃えるカミーユは、手渡された物を一口齧る。


「んむぅー。」


 伸びるそれを、更に伸ばして千切る。

 いきなり千切れたせいで、その反動で頭が跳ねる。

 それを見て、俺達が笑う。

 そして、カミーユ自身も照れたように笑う。

 そんな俺達は、引き続きお店を回っていく。

 すると、町の端を横切る大きな水路へと辿り着く。


「大きい。フィーさん、この水路はどこに続いているんですか?」

「いや、知らんな。ここには来てないからな。」


 そうだね。

 あの時は上の方を目指してたし。


 この水路があるのは、町の入り口の下の方だ。

 宿がある上を目指していた時には、寄るという考えすら無かったのだ。

 それを聞いたカミーユが微笑む。


「では、一緒に探検してみませんか?」

「おっ、面白そうだな。」


にゃっ。


 良いね。

 行こう行こう。


「では、満場一致という事で出発!」

「おー!」


にゃー!


 おー!


 意見が一致した所で歩き出す俺達。

 大きな水路の片側へ向けて歩きだす。

 未知への探検に出発だ。


「見て、船!」

「何か運んでいるのか?」


にゃ?


 人とか荷物とか?


 水路を走る船を見て騒ぐ俺達。

 通り過ぎて行く船を見送る。

 そしてまた探索を続けると…。


にゃっ?


 あれは?


「どうしたんです? にゃんすけさん。…あっ、かわいい。」

「鳥の群れだな。食べるなよ? にゃんすけ。」


にゃにゃっ!


 食べないよ!


「ふふっ。にゃんすけさんは、グルメですもんねー。」


 こんな町にも鳥はいる。

 近づくと羽ばたいていく鳥達を見送る。

 そしてまた、探索を続けると…。


「お? 何か荷物を運んでいる人達がいるが。」

「郵便ですね。町の外から来た荷物をここから運んでるんでしょう。」


にゃっ。


 町を支える大事な場所だね。


 この場所に集められた荷物を、町全体へと送っているのだ。

 ここが無ければ、町が機能しなくなる。

 すると、目の前の大きな水路にある小屋に気づく。


「あっ、船の停船所ですよ。ここから運んでいるんですね。」

「目の前だしそうだろうな。今は動いてないみたいだが。」


にゃあ。


 さっき出たばかりっぽいしね。


「そうなると。この水路の意味もそういう事なんですね。」


 荷物をこの小型船に乗せて各地へと運ぶ。

 その為の大きな水路なのだろう。

 そこにある小型船を、カミーユがじっと見つめる。


「運ぶのは、荷物だけなのでしょうか。」

「乗りたいのか? なら、直接聞けば良いだろう。」

「そうですね。行って見ましょう。」


 人がいればだけどね。

 大丈夫かな?


 大きな水路の小屋へと向かう俺達。

 そうして、そっと小屋の中を覗き込む。

 すると、小型船を整備している男の人を見つける。


「すみません。この船って人は運ばないんですか。乗ってみたいんですが。」

「ん? まぁ運びはするが、この町の公務に就く人だけだね。だから、君達は乗せてあげられないかな。」

  

 誰でも運ぶ訳ではない。

 運ぶのは、この町の関係者のみ。

 それを聞いたフィーとカミーユは見合う。

 そして、懐のフリーパスの紙を見せる。


「これでは駄目でしょうか。」

「なんだ、ここの関係者だったのかい。」

「まぁ、そんな所です。」

「ならば大丈夫だよ。準備をしてくれ。」

「はい。」「あぁ。」


にゃ。


 楽しみだね。


 男が寄せた小型船へと乗っていく俺達。

 恐る恐る乗り込むカミーユの手を、先に乗ったフィーが引っ張る。  

 それを見届けた俺もまた乗船。

 最後に男の人が乗って準備は完了だ。


「じゃあ、危ないから座ってくれな。良いなら出発するぞ?」

「大丈夫です。お願いします。」

「そうかい? なら、掴まってくれな。」


 そう言いながら、小型船の魔科学道具を起動する男。

 それと共に、小型船の後ろが激しく波打ちだす。

 その直後、小型船が動き出す。


「わぁ、初めて乗りました。」


 目を輝かせながら、周りを見渡すカミーユ。

 そうしながらも、船の底をそっと撫でる。

 初めての船の感触を楽しんでいるのだろう。


「立つと危ないからね。気をつけてな?」

「はい。分かりました。」


 注意を受けつつも、再び周りの景色を眺めるカミーユ。

 すると、楽しそうに何処かへと指をさす。


「見て下さいっ。あの建物、お洒落です。あ、こっちのも。」

「楽しそうだな。カミーユ。」

「はいっ。こうして、流れるままに進むのも良いものですね。」


にゃ。


 そうだね。

 いろんな所に目移りしちゃうよ。


 船が進む度に、忙しなく景色が変わっていく。

 その光景もまた、好奇心をそそられる。

 そんなカミーユを見た男が笑う。


「ははっ。下から見上げるのも良いものだろう?」

「そうですね。視点が変わるだけで、見える景色も大きく変わりますね。」


 先程とは間違い、建物が大きくそびえ立つように見える。

 それだけで、見える物も変わってくる。


「そうだろう? 本当は、もっと人通りが多い場所なんだがな。」

「それってやはり、研究所の襲撃の件でですか?」

「そうだよ。あれ以降、運ばれる荷物も人も少なくなってしまってね。」


 襲撃がもたらしたものは、人の流れだけではない。

 ここに来る荷物にもまた、大きな影響を及ぼしている。

 そう語る男は、深く溜め息をつく。


「俺の仲間の皆は、話しているよ。もう、この町は終わりなんじゃないかってね。研究所ももう無いし、立て直すなんて不可能だって。」


 町の動力部である研究所はあの様だ。

 そして、町を支える荷物や人も減っている。

 このまま衰退する光景が、誰よりも見えている筈だろう。

 それでも、俺達は微笑みながら振り向く。


「それなら、大丈夫ですよ。」「それなら大丈夫だ。」


にゃ!


 うん、大丈夫だね!


 こんな状況でも、俺達は悲観しない。

 何故なら、知っているからだ。

 それを聞いた男が疑問を持つ。


「そうなのかい?」

「はい。研究所の皆さんは、誰も諦めていませんでした。」

「一から立て直してやろうと動いていたな。」

「だから、皆さんに伝えて下さい。この町はまだ大丈夫だと。」


 その目には、一つの迷いもない。

 今もなお頑張る研究所の人達を信じているからだ。

 それが伝わったのか、男もまた笑う。


「そうかい。なら、我々も諦める訳にはいかないねぇ。立て直すなら、物資も大量に来る筈だ。忙しくなりそうだ。」

「はい。この町の事、よろしくお願いします。」

「こちらこそだよ。」


 人の気持ちは伝染する。

 これからまた、広まっていくのだろう。

 そうして、この町は続いていくのだろう。

 そんな話をしていると、別の停船所に到着する。


「到着だよ。お疲れさん。」

「ありがとうございます。」「ありがとう。」


にゃっ。


 ありがとうございます。


 船が停まると、そこから降りていく俺達。

 最後に俺が降りると同時に振り向く。

 すると、男が笑って返す。


「気をつけてな。」

「はい、さようなら。」


 元の場所へと戻っていく小型船を手を振って見送る俺達。

 しばらくそうしてから、お互いを見合う。


「では、行きましょうか。探検の続きです。」

「そうだな。行こう。」


にゃっ。


 うん、行こー。


 素敵な経験をした所で、探索の再開だ。

 とりあえず、目に見える道を進んでいく。

 すると、複数のお洒落な建物が見えてくる。


「ここはどこでしょうか?」

「位置的に、来客エリアの筈だが。」

「今日泊まる場所ですね。」


 うん、なんとなく見覚えがあるよ。


 今いる場所は、研究所エリアとは逆の場所。

 宿泊施設が並ぶ、来客エリアだ。

 訪れた俺達を、魔科学の電灯が受け入れる。


「おっと、いつの間にか暗くなってしまったな。」

「そうですね。すぐにこの券で食べれる場所を探しましょう。」

「そうだな。…いや、ここまで来たら、あれを見ないとな。」

「あれですか?」


にゃっ。


 あれだね。


「ほら、こっちだ。」

「えっ、ちょっ、フィーさん!?」


 急に駆け出すフィーを追うように駆け出すカミーユ。

 その後を、カミーユを見張るように俺が追う。

 そうして、電灯で照らされた道を駆けていく。


「一体どこにっ。」

「すぐに分かるさ。」


 目的の場所は目の前だ。

 電灯に沿って走っていく。

 目の前は、一段と明るく光る。

 そこに、飛び込むように入った時だった。


「わぁ。」


 それと同時に、そこの光景が目に飛び込んできた。

 電灯よりも強い光。

 そして、様々な色で染まった光。

 それらが彩る空間に、意識が飲み込まれてしまう。


「どうだ? 凄いだろう。」

「はい。綺麗です。」

「だろ? 私も一度来てみたかったんだ。」


 前回は来れなかったもんね。

 それにしても、綺麗だなー。


 俺達もまた、カミーユのようにこの光景に見惚れてしまう。

 それだけ、この光景が素晴らしいものなのだ。

 すると、カミーユが前へと飛び出す。


「うー、えいっ!」


 前へと出たカミーユは、広場を自由に駆けていく。

 そして、駆けたり回ったりと自由に動く。

 まるで、この光景の中を堪能するかのように。


「フィーさーん、にゃんすけさーん、こっち!」

「あぁ、今行く!」


にゃっ!


 俺達も中へ!


 光に包まれるカミーユを目指して光の中へと飛び込む俺達。

 そんな俺達と合流したカミーユは嬉しそうに一回転。

 しかし、途中で転んだ所でフィーが受け止める。

 そうして、楽しそうに笑い合う。

 その時、フィーがカミーユを立たせるように一回転。

 それを受けたカミーユも、フィーを引っ張り一回転。

 その繰り返しで、不格好な踊りのような何かを舞い続ける。

 まるで、夢の中の世界にいるような感覚だ。

 こうして、ひとしきりはしゃいだ後に広場の池の柵へと倒れ込む。


「フィーさん、時計塔! 綺麗ね。」

「あぁ、時計塔も装飾されてたんだな。」


 照らされ輝く時計塔を見る俺達。

 時計塔にも、文字や針が見えるように装飾されている。

 勿論、時計塔の光もまた芸術的だ。


「ふふっ。こんなに楽しいのは初めてです。」

「私もかもな。やはり、誰かと一緒は楽しいものだ。」

「そうですね。私も同じです。」


にゃっ。


 そうだね。

 誰かと一緒だからこそだね。


 一人では決して体験をする事は出来なかっただろう。

 誰かと一緒だからこそ得られた物だ。

 その余韻を、静かに堪能する。


「やっぱり、世界には楽しいものが沢山ありますね。本当なら、すぐにでも見に行きたいのですが。」

「ここに残るのを後悔しているか?」

「いいえ。…と言ったら嘘になるんでしょうけど、この光景を守るのも大切ですから。」


 作る者と守る者。

 それらがあってあり得る場所だ。

 それに関わるのも必要な事なのだ。


「だから、私の分まで見てきて下さい。そして、また見に来て下さい。その時はまた、一緒に見ましょう。」

「分かった。約束だな。」

「はい、約束です。」


にゃっ!


 約束だね!


 こうして、いつかの約束を交わす俺達。

 いつかまた、今と同じように笑い合う時が来るのだろう。

 その約束と共に、今回の俺達の探検は終わりを告げたのだった。

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