芸術の町に戻って来ました
一台の馬車が、芸術に彩られた町に止まる。
すると、その馬車からアイナが降りる。
「到着しました。気をつけて降りて下さい。」
「ありがとうございます。さ、降りましょう。」
アイナに続くように降りるカミーユ。
その後を、フィーと俺が続く。
一気に飛び降りた俺は、地面へと着地する。
よいしょっと。
ナイス着地っ。
上手く降りれた俺は、前へと駆ける。
そして、フィーと共に先に降りたカミーユと合流する。
そんな俺達は、町の景色を眺める。
「戻ってきたな。」
だね。
また来れるとは。
俺達がいるのは、最初に訪れた芸術の町だ。
あの時とは違い、カミーユとその付き人もいる。
しかし、遊びに来た訳ではない。
「荷物の準備は出来ましたぞ。」
「全部持ちましたね。」
「えぇ。確認はしましたよ。」
そう言いながら、袋を持った二人の兵士が現れる。
その袋の中には、布で包まれた棒状の物が沢山入っている。
それを見届けたアイナは、同じような一本の棒状の物を持つ。
「お嬢さま、準備は出来ました。行きましょう。」
「はい。では、案内の程をお願いしますね。」
「あぁ、任せろ。」
にゃっ。
任せて。
慣れた場所だからね。
馬車を預けた俺達は、目的の場所へと向かう。
その目的の場所とは、魔科学道具の研究所があった場所だ。
その場所へと、ぞろぞろと並んで歩いていく。
「付き合わせてしまってごめんなさい。」
「気にするな。むしろ、宿代まで出して貰って申し訳ないな。」
「そんな事はありえませんよ。案内の対価なので。」
今の俺達は、旅に出る為の船がある港へと向かっている最中だ。
なのだが、その前に途中にあるこの町に用を訪れたと言う訳だ。
勿論、ここでの経費は王都もちだ。
そんな話をしながらも、俺達は一段と崩れた場所へと到着する。
「ここが…ですか?」
「そうだ。」
あまりの惨状に、開いた口が塞がらないカミーユ。
もはや、廃墟に近い光景なので仕方ない。
「ここまでなんて…酷いですね。」
「まぁ、中心地で大きく爆発したからな。ここのものは、あらかた吹き飛んだだろう。」
だよね。
あれだけの爆発だったし。
建物を中心に、激しい爆発が包み込んでいた。
それにより、跡形も残らず吹き飛んでしまったのだ。
その光景に驚きながらも、そこにある朽ちた建物跡へと向かう。
すると、複数の白衣の人が瓦礫をあさっているのが見えてくる 。
「ん? 何をしているんだ?」
「さぁ。直接本人達に聞いてみましょう。」
「そうだな。」
にゃ。
賛成だよ。
そっちのが手っ取り早いしね。
当の本人達が目の前にいるのだ。
わざわざ憶測を立てる程の事ではない。
という事で、指示を飛ばしているらしき人物に話しかける。
「あの、すみません。何をしているんです?」
「ん? 見ての通りですよ。無事な魔科学道具を探しているんです。」
研究所の全ての成果は、あの瓦礫の下だ。
そもそも、残っているのも怪しいのだが…。
「それより君は? ここは危ないから、近づかない方が良いよ。」
「いえ、私は王家の代理として来ました。」
「王家の関係者かい? …おや、そこの君達は見た事があるな。」
フィーと俺の姿を見る白衣の男。
見た事があるのは確かだろう。
何故なら、以前白衣の男の授業を受けたからだ。
その事に、白衣の男が気づく。
「そうだ。臨時に入った生徒さんだね。でもどうしてここに? 生徒達は全員王都に戻った筈だけど。」
「少し用事があってな。魔科学武器の人に会いたいんだ。」
「あぁ、そういう事か。彼なら向こうだよ。案内するから着いてきて。」
「そうか、助かる。さ、行こうか。」
にゃー。
行こー。
知り合いがいると、話がスムーズで良いね。
見知った相手なら話は早い。
事情を聞かなくても、話を通してくれる。
そんな事もあり、授業の先生に着いて移動する。
「ちなみに聞くが、あの後研究所はどうなったんだ?」
「あぁ、物の見事に全て吹き飛んでね。でも、無事な物があるかもって一日中探してるんだ。」
「それで、成果の程はどうなんです?」
「あまり、芳しくは無いかな。」
残っている物は一つもない。
それでも、僅かの希望を求めて探しているのだ。
また未来へと歩きだす為に。
そんな話をしていると、机を睨む見慣れた人物が見えてくる。
「おーい。お客さんだよ。」
「お客さん? あ! き、君は!」
フィーに気づいた白衣の男が駆け寄ってくる。
その人物は、魔科学武器を見せて貰った人だ。
「無事だったんだね。戦いに参加したと聞いて心配してたんだよ。」
「いや、こっちの台詞なんだが。…受けた傷はもう大丈夫か?」
「あんなのかすり傷だよ。むしろ、聖剣を取られた事の方がきつかったかな。あはは。」
そうなんだ。
でも、なんか辛そうだね。
苦笑いしながら頬をかく白衣の男。
笑ってはいるが、その顔からは疲労が伺える。
人工の聖剣を失った事が、相当来ているのだろう。
その話を聞いたフィーが頷く。
「そうか。なら丁度良い。」
「丁度良いとは?」
「丁度返しに来た所だからな。」
フィーが後ろにいるアイナを見る。
すると、白衣の男に近づいたアイナが棒状の布を差し出す。
それを見た白衣の男の目が見開く。
「これはまさか。いや、間違いない。」
長年の研究成果が分からない訳がない。
それを受け取った白衣の男は、乱暴に布を引き剥がす。
そうして、見慣れた人工の聖剣が姿を現す。
「間違いない、人工聖剣だ。取り戻してくれたんだね。ありがとう!」
「それだけでは無いぞ?」
「え?」
今度は、付き添いの兵士が袋を置く。
すると、人工の聖剣を机に置いた白衣の男が確認する。
「魔科学武器! まさか、こっちまで取り戻してくれるなんて。」
「全てとは、行きませんでしたがな。」
「構わないよ。取り戻してくれただけでもね。」
嬉しそうだね。
本当に、取り戻せて良かったよ。
魔科学武器を嬉しそうに撫でる。
数は少なくとも、その気持ちは変わらない。
それを見たフィーも、嬉しそうに微笑む。
「良かったな。これでまた、魔科学武器の研究が出来るのだろう?」
「……いや、魔科学武器の方は解体するよ。」
「なっ、解体だと?」
それって、壊すって事!?
折角取り戻した魔科学武器を壊すと言うのだ。
こんなに嬉しそうに見ているにも関わらずだ。
しかし、それには深い理由がある。
「魔科学武器に付いているのは魔科学道具だ。つまり、今の研究所では貴重品だ。僕一人で独占は出来ないよ。」
今の研究所は、少しでも多くの物をと掘り出している。
そんな状況では、喉から出るほど貴重な物だろう。
しかし、それを聞いたもう一人の男が驚く。
「良いのかい? あれだけ大事そうにしていたじゃないか。」
「それはそうだけど、僕もまた一人の研究員だよ。貢献ぐらいさせてくれ。」
そう言いながら、魔科学武器が入った袋を託す。
確かに魔科学武器は大事だ。
しかし、彼もまた研究所の一員なのだ。
それを見たもう一人の男は、その袋を掴み取る。
「分かった。君の決意、無駄にしないよ。」
「あぁ、頼む。」
その白衣の男の目には後悔は無い。
今はただ、一人の研究員としてこの場にいるのだ。
「そういう事でね。折角取り戻してくれたのにごめんね。」
「いや、貴方がそう決めたのなら尊重するよ。そもそも、決める権利は貴方にあるからな。」
にゃっ。
そうだね。
折角の決意に水を差す事なんてしないよ。
本人が決めた覚悟に、周りがどうこう言うべきではないだろう。
なので、白衣の男が見せた決意を尊重する事にしたのだ。
それを聞いたカミーユが笑う。
「これでお届けは完了ですね。王家に関わる者として、復興を祈っています。」
「ありがとう。」
頑張ってね。
俺も応援してるよ。
無事に届けられた事で目的は達成だ。
振り向いて、その場から離れようとする。
その時だった。
「あ、待って。」
「え?」
呼び止められた俺達は、再び白衣の男達を見る。
すると、カミーユへと一枚の紙を手渡してくる。
「お礼って訳じゃ無いけど、この町のお店に自由に入れる奴だよ。受け取って欲しい。」
「え? でも、私達は役目を果たしただけで…。」
「いや、まぁあれだ。僕達は使う暇が無くてね。今回分の期限も後少しだし、勿体ないから使ってくれ。」
「そうなんですか? そういう事なら…。」
恐る恐る受け取るカミーユ。
実際に、使う暇が無いのは確かだろう。
「では、楽しんでいってね。」
そう言いながら、白衣の男達は何処かへと消えていく。