魔法の力宿りました
まず先に動いたのはゴブリンだ。
物凄い早さで向かってくる。
それに対して、俺が蹴りかかる。
「遅い。」
なんですと。
俺の蹴りを、さらっとかわしてフィーの下へ。
フィーとゴブリンが剣を打ち合う。
さらに、ゴブリンが連続突き。
フィーは、それを受け止めていく。
「こいつっ。」
手が出ずに、一方的に責められている。
反撃の隙がまったくない。
すると、ゴブリンが強めの突き。
それを待ってたのか、フィーがそれをかわす。
「今だっ。」
「無駄。」
かわしたフィーが、ゴブリンに斬りかかる。
一回転して、剣をゴブリンの首へ。
しかし、それを防がれる。
そのまましばしの、剣の鍔迫り合い。
「くっ、しまった。」
ゴブリンが、力を抜いた事により剣が流される。
その振られた剣の下に潜り込んだゴブリンが、フィーに斬りかかる。
にゃ!
させない!
って、避けられたっ!?
攻撃を止めたゴブリンが後ろへ下がる。
そのせいで、俺の蹴りが空振りに終わる。
それでも、相手のゴブリンがフィーから離れる。
「助かった。にゃんすけ。」
にゃん。
まさか、あれを避けるとはね。
でも、フィーを助けられたから良かったのかな。
「で、次はどう来る?」
やっぱり、今までの奴とは全然違う。
自信満々に出してきただけはあるね。
ゴブリンが更に下がって距離を取る。
再び、お互い構えて睨み合う。
にゃん。
まず、俺が動く。
自由にさせておくと厄介だしね。
ゴブリンに向かって蹴りかかる。
しかし、もちろんの事だけどかわされる。
「そこだっ!」
そこに、フィーが現れて斬りかかる。
しかし、後ろにかわされてしまった。
隙をついても無駄なようだ。
にゃっ。
それならっ。
今度は俺が蹴りかかる。
しかし、横へかわされる。
そのまま、相手の横を通り過ぎてしまった。
「このっ!」
もう一度フィーが斬りかかる。
しかし、かわされる。
にゃっ!
今度こそ!
今度は二人で挟み撃ち。
タイミングを合わせて同時に迫る。
そこで、ゴブリンが一回転。
その時、俺とフィーの攻撃は、剣を当てられいなされてしまった。
「なっ!?」
なっ!?
とっさに、フィーと共に距離を取る。
しかし、距離を詰められ剣で斬りかかられてしまう。
何とかフィーが防いだ。
「早いっ。」
早すぎるっ。
早すぎるせいで攻撃がまったく当たらないよ。
「どうだ。これが、大蛇様から頂いた力。」
「なるほど、大蛇から剣の技術を貰ったって事か。」
「正確には違う。頂いた力を速さに注いだのが正しい。」
つまり、ゲームのステータスに割り振るポイントみたいなものか。
つまり、速さだけであれだけの事をやったのか。
こいつらが強いのは、そのおかげって訳だね。
「飛行力とやらに注いだら翼なんて物も生えたしな。限界を超える事も出来る力を得た我々は、もうゴブリンを超越した存在なのだよ。」
ゴブリンを超えた何かになったと。
なるほど、だからゴブリンと呼ばれる事に怒ったんだね。
ぶっちゃけ、どうでもいけど。
「厄介だな。それでも、やるしかないっ。」
フィーが踏み込んでゴブリンに迫る。
ゴブリンは、それを跳んでかわす。
フィーを飛び越え、後ろへ回り込んだ。
「ちっ。」
後ろを見れば、すぐそこに剣が迫っていた。
とっさにフィーが剣で防ぐ。
そして、剣を振って追い払う。
「ならばっ。」
フィーがカンテラを振って炎の玉を飛ばした。
それでも、かわれてしまう。
「これでっ!」
もう一度、カンテラを振って炎の玉を飛ばす。
今度は三つの炎だ。
それに対して、ゴブリンが前進。
合間をぬって炎の玉をかわすが。
「おっと、かわして良いのかな?」
「なに!?」
フィーが放った炎の玉の一つが上にいるゴブリンへ。
すると、端にいたゴブリンが前に出て弾いた。
「おいこらっ。こっちに攻撃させてんじゃねぇ。」
「すまん。」
「気を付けろよ。私を失えば神殿の結界が解けるのだ。」
「はい。」
無理だったか。
これで警戒されちゃうね。
でも、相変わらずべらべら喋る連中だ。
「良いことを聞いた。上を狙えば良いんだなっ。」
「させんっ。」
「なんてなっ。」
炎を止めようと駆けて来たゴブリンに炎を飛ばす。
とうとう直撃。
「もう一発っ。」
「ふっ。」
次の瞬間、カンテラが砕けた。
炎が飛ぶ直前、ゴブリンがとっさに剣を投げていたのだ。
それが、見事にカンテラにヒット。
「しまったっ。」
頼みのカンテラが無くなってしまった。
これでは、飛び道具は使えない。
余計な事をしやがって。
こうなったら俺がっ。
ガツンっ。
にゃうんっ!?
駆け出そうとしたら頭を殴られたような痛みが。
すると、視界が上へ。
そこには、一つの光の塊が。
何が。
んぐっ。
その光の塊が口の中へ。
思わず飲み込んでしまった。
体がっ、熱いっ!?
体が燃えてる!?
「にゃんすけっ。どうしたっ。」
どうしたと言われてもっ。
体が熱いっ。
「ふははははっ、あの獣魔法の火種を飲みおったっ。そのまま焼かれて死ねぇっ。」
猫です。
なんて言ってる場所じゃないっ。
「何だとっ!? にゃんすけ、今すぐ吐くんだっ。」
吐けと言われても。
火種とやらが、体の中に、溶けてっ。
火種が体の中で小さくなって消える感覚。
しばらくすると、体の炎も消えた。
あれ、生きてる?
もう、熱くないけど。
「にゃんすけ?」
「死んだか。」
いや、生きてるよ。
でも、何か変。
喉の奥がむずむずと。
何かが逆流して口の外へ。
口から大量の炎が出た。
「生きてる、だと? 一体どうなっているんだ?」
分からないよっ。
って、今度は胸がむずむずっ。
胸の奥から何かの力が体全体に流れる。
その一部が手の中に。
それは、カンテラで作っていた炎の玉。
「これは、魔法かっ。」
魔法? これが?
確かに、真ん中のゴブリンと似た何かが体の中を流れているけど。
「火種を食べて魔法が使えるなんて聞いた事が無いが。」
「あり得ぬ。あり得ぬぞっ。」
にゃー。
そんな事を言われても。
使えるんだから仕方ないでしょ。
それに、悪い事では無いしね。
「良く分からんがあいつは危険だっ。とっととやってしまえっ。」
「はい。」
ゴブリンが再び動き出した。
こっちに来る。
でも、それがどうしたっ。
にゃん。
手の炎をゴブリンに放つ。
かわされるが、樹にぶつかり拡散。
戻ってこいっ。
増えた炎が戻ってくる。
向かう先は、ゴブリンの背中。
全弾直撃して、爆発する。
「がはっ。」
爆発を受けたゴブリンが吹き飛ばされた。
俺達の目の前で倒れる。
「これ、にゃんすけがやったのか?」
そうだよ。
自分の物になって分かるよ。
この魔法の本当の使い方が。
「まさか本当に使えるようになったのかっ。」
そのまさかだよっ。
もう一度、炎の玉を作る。
それを放つ。
「くそっ。」
ギリギリで起き上がったゴブリンがかわす。
そのゴブリンを炎の球が追いかける。
「来るなっ。」
ゴブリンが、樹に向かって逃げ出した。
その後ろに滑り込んで、炎の玉を防ぐ。
しかし、拡散した炎がゴブリンを襲う。
「くっ。」
ゴブリンが襲いかかる炎をかわしていく。
素早く動いて、樹にぶつけていくが。
爆発っ。
最後の火の玉が爆発。
目の前で爆発したことにより、ゴブリンが吹き飛んだ。
「くそっ。早くしろっ。このままだと魔法を理解しきるぞっ。」
「分かってます。けど。」
もう遅いけどね。
使う度に、どんどん新しい使い方が閃いていっちゃう。
「くそがっ。」
まだ動けるのか。
なら次はっ。
今度は俺自身が向かう。
蹴りかかるがかわされるが。
「そこっ。」
ゴブリンが、後ろにいる俺に斬りかかる。
しかし、そこには誰もいない。
にゃんっ。
俺は、ゴブリンの上にいる。
避けられたと同時に、上に跳んだのだ。
「上かっ。」
しかし、そこにはもういない。
俺は、ゴブリンの後ろにいる。
「この獣っ、空気を蹴って移動しているぞっ。」
「何だとっ。」
ネタばらしが早いよ。
正確には、足下を爆発させて出来た衝撃を蹴ってるんだけどねっ。
更に爆発を蹴って突撃っ。
ゴブリンの背中を蹴り飛ばす。
「くっ。それが分かれば。」
どうするのっと。
反転して、爆発を蹴る。
再び突撃。
かわされるが、もう一度爆発を蹴る。
かわした先に突撃。
「くっ。」
かわされるが、続けて爆発を蹴る。
蹴る、かわす、蹴る、かわす。
「くそっ、くそっ、くそがぁっ。」
なんか荒れてきたね。
さっきまで、まったく喋らなかったのに。
まぁいいけど。
「しつこいっ。」
ゴブリンは、逃げるのを止めて反転。
しびれを切らしたのか斬りかかってきた。
にゃっ。
空中と地面に点。
空中を蹴って攻撃をかわし、地面を蹴って相手の懐に。
「くそっ。」
ポイントダッシュエア。
これが俺の新技だっ!
そのまま、ゴブリンのお腹を蹴り飛ばす。
吹き飛んだゴブリンは、樹に叩きつけられる。
にゃん。
とどめっ。
炎も玉を作って投げるっ。
「くそっ。」
炎は一直線にゴブリンに向かう。
ゴブリンはかわせないが。
「しゃらくせぇっ。」
間に入ったゴブリンが叩き落とす。
さっき炎を落とした奴だ。
「てめぇはよぉ、一体いつまでボール遊びをやってんだ。」
「まさかここまでとは。」
「代われ。ここからは、俺の番だ。」
炎の玉を弾いたゴブリンが前に出た。
肩周りが、他のゴブリンより大きい。
「俺には、そんな魔法通じねぇぜ。なにせ、この体はあらゆる攻撃を弾くんだからよぉ。」
肩を大きく回しながら近付いてくる。
新たなゴブリンとの戦闘が始まる。