大陸のこれからです
「ただいま戻りました。」
「お帰りなさいませですぞ。」「お帰りなさいませ。」
「お帰りなさいませ、お嬢様、フィー様、にゃんすけ様。」
打ち上げを終えた俺達は、城まで戻ってくる。
生徒会のメンバーとは、ひとしきり話した後にお別れだ。
そんな俺達を、アイナとお付きの兵士達が迎える。
「皆さん、お怪我の方はもう大丈夫なのですか?」
「はい。休みをいただいたお陰で、歩ける程度にはなりました。」
「同じくですぞ。」「同じくです。」
お付きの者達は、帝の雷を直で受けていた。
その身で受けたダメージは大きかったのだろう。
それがようやく、歩けるまでに回復したようだ。
「本当なら、お嬢様に付き添いお茶をお出ししたかったのですが。」
「向こうで頂いたので充分ですよ。それより、留守の間に変わりはなかったですか?」
「はい。授与式を無視された王が拗ねられているぐらいですね。」
主要なメンバーは、授与式に現れなかった。
その事に動揺をしているようだ。
それを聞いたフィーが、気まずそうに笑う。
「顔ぐらいは出した方が良かったかな?」
にゃー。
なんか、申し訳ないね。
「いえ、すぐに立ち直るでしょう。フィーさんが気にする必要はありません。それよりも、立ち話もなんですので場所を変えましょう。アイナ。」
「分かりました。接客の間まで案内します。」
そんな事もあり、俺達は最初に訪れた時に向かった部屋へと案内される。
相変わらずの、豪華な装飾で彩られている。
その部屋にある、同じく豪華な椅子に俺達は座る。
やっぱり慣れないね。
深く座るのを遠慮しちゃう。
遠慮がちに浅く座る俺。
縁の無かった光景に萎縮してしまう。
そんな俺やフィーの前にカップが置かれる。
「乾いてはないのでしょうが念のためです。欲しくなったら口にして下さい。」
「ありがとう。頂くよ。」
にゃー。
ありがとー。
もしもの為にとの紅茶だろう。
お礼を言うと、アイナは笑ってお辞儀をする。
そうして、すぐにカミーユにも同じ物を渡す。
それと同時に、部屋の扉が叩かれる。
「はい。少々お待ちください。」
返事を返したアイナが扉へと向かい開く。
すると、体に包帯を巻いたファウストとアルティスが入ってくる。
「お邪魔する。ここに、お面のお嬢さんと相方の聖獣の子が来たと聞いたのだが。」
「ファウストさん? フィーさんにご用で?」
「うん。どうしてもお礼を言っておきたかったからね。」
カミーユと話ながら、フィーの対面へと座るファウスト。
その横に、アルティスが座る。
そんな二人を、フィーが怪訝そうな目で見る。
「お礼? 言われるような事をした覚えがないが。」
「そんな事はないさ。こいつを取り戻してくれたと聞いたよ。」
何を?
ってこれ…。
そう言いながら、机の上に鞘に収まった聖剣を置くファウスト。
それは、武将の一人に取られていた筈の物だ。
「周囲の魔物を倒した騎士の一人が見つけてね。僕の元に持ってきてくれたんだ。これも全て、君達のお陰だよ。ありがとう。」
「あぁ。無事に戻って良かったな。」
にゃっ。
そうだね。
もう手離さないでね。
ここでお礼を断るのも相手に失礼だろう。
なので、素直に礼を受け入れる俺達。
そして、大事そうに聖剣をしまうファウストを見る。
「そうなるとだ。貴方は、騎士団長に戻るんだな?」
「当然さ。そこが僕のいるべき場所だからね。すぐにでも戻…いてっ!?」
拳を振り上げたと同時に、身体中に激痛が走る。
元気な姿を見せたかったのだろう。
そんなファウストをアルティスが呆れた目で見る。
「兄さん、まだ安静が必要って言われてたでしょ。」
「ははっ、そうだったね。ごめんごめん。」
「全くもう。」
あらら。
まぁ仲良しそうで何よりだよ。
まだ傷は直りきってはいないようだ。
あれ程のダメージを負ったのだから仕方ないだろう。
そんな二人を見たフィーが笑う。
「ふふっ。早く直して貰わないとな。例の件もある事だし。」
「例の件。武将達の屍が見つからない話の事だね。確かに、ゆっくりしている暇はないんだよね。」
そうなんだよね。
あれは驚いちゃったよ。
どこを見ても、ある筈の武将達の屍が見つからなかったのだ。
武将達は、間違いなく斬られた筈だ。
なので、見つからない筈がないのだが…。
「我々王族でも、というより、お姉さまが情報を集めて下さってますが…。」
「収穫は無しと。」
「すみません。」
武将達の痕跡は、一つ残らず見つかっていない。
それだけ、綺麗さっぱりと姿を消したようだ。
「まぁ気にするな。キュリア達によると、すぐにどうこう出来るとは思えないらしいしな。」
「でも、戦力は常に維持しときたいんだよね。だと言うのに、肝心のスタークは修行が足りないって何処かに行っちゃってね。あのやろう。」
「あはは…。」
待つような人じゃないもんね。
仕方ないよ。
スタークへと恨みを募らせるファウスト。
スタークは大人しくするような人ではない。
しかし、ただファウストに仕事を押し付けた訳ではない。
「まぁ、なんだかんだ困ったら来てくれるだろうからね。今回だって、ちゃんと来てくれたし。」
「信用してるんだな。」
「まあね。長い付き合いだし。」
流石、お互いの事を分かってるね。
長い付き合いなだけあって、お互いが考えてる事は分かるのだ。
だから、ファウストになら任せられると離れたのだろう。
そんな話をしていると、再び扉が叩かれる。
「はい。今行きます。」
返事をしたアイナが扉へと向かう。
すると、今度はフラリア王が入ってくる。
そんなフラリア王を見てファウスト達が立ち上がろうとするが…。
「構わない。それよりも、思ったより人が多いな。」
「はい。丁度、彼女達にお礼を言いに来た所です。」
「そうだな。今回の立役者だものな。」
納得をしながらも、カミーユの横に座るフラリア王。
フラリア王もまた、フィーの事を評価しているようだ。
「本当なら、勲章の授与をもって君の活躍を称えたいんだが。」
「気持ちだけ頂いておきます。正直、邪魔になるだけなので。」
「じゃ、邪魔…。そ、そうか、君がそう言うなら構わないが。」
まぁ、荷物が増えるだけだしね。
旅に使えるって訳でも無さそうだし。
旅では、必要な物だけしか持ち歩く事は出来ない。
そんな状況で勲章を持たされても邪魔なだけだろう。
それを聞いたカミーユは、ある事を思い付く。
「では、せめて旅のお手伝い。なんてどうです?」
「お手伝い?」
「はい、フィーさんは他の大陸に向かいたいそうですから。ね?」
「そうなるな。」
にゃ。
始祖に会いに行くんだもんね。
必然的にそうなるよね。
始祖に会うには、大陸の外へ向かう必要がある。
そうなると、旅に必要なお金も増えるだろう。
それを聞いたフラリア王がその意図に気づく。
「つまり船のチケットだな?」
「はい。フィーさんの事ですから、行き当たりばったりで何も用意をしていないでしょうから。」
「うっ。察しが良いな。」
「バレバレですよ?」
読まれてるねー。
手強い人だよ。
楽しそうに笑いながら指摘するカミーユ。
気づかれたフィーは、気まずそうに苦笑いする。
しかし、これはチャンスと言えるだろう。
「…そうだな。世話になるとしよう。」
「分かった。すぐに手配しよう。行き先はどうする?」
「お任せで頼みます。特にこだわりは無いので。」
「そうか。では、こちらで決めるとしよう。」
「お願いします。」
にゃー。
お願いします。
これですぐに旅立てるね。
旅に必要な足は手に入れた。
これで、再び旅に出る事が出来る。
だと言うのに、フィーの顔は暗い。
そんなフィーに、カミーユが気づく。
「どうしました? フィーさん。」
「…あぁ。本当は、この状況で離れるのが正しいのかと思ってな。」
「」
今の大陸は、建て直しの真っ最中だ。
その上、いつ来るか分からない敵に怯えている。
「この大陸が心配なんですか?」
「そうだな。ここには沢山の思い出があるからな。」
共に出会った友との思い出が詰まった大陸だ。
そんな大陸の危機を放っておいて良いのかとの思いだ。
「大丈夫ですよ。」
「え?」
それでも、それを聞いたカミーユは笑う。
フィーの不安を払拭するように。
「フィーさん、今まで出会った人達の事を思い出して下さい。」
「皆を?」
「はい。皆さんは、どんな顔をしてますか?」
脳裏に浮かぶのは、出会った友の笑顔だ。
どの友も、未来という希望を語っていた。
楽しそうに笑いながら語っている。
「ふっ、そうだったな。友が未来に向けて歩き始めたのだ。同じ友の私が止まる道理はどこにもないな。」
「そうです。信じて下さい。貴方達と出会った者達を。そして、ここにいる者達を。」
諦めている者などいないだろう。
絶望している者などいないだろう。
そんな相手の事を、どうやって心配するというのだろう。
それを聞いたフラリア王が笑う。
「ふははははっ。カミーユの言う通りだ。今度こそ大陸を守って見せようぞ。この、フラリアの名にかけてな。」
今回は負けたなら、次で勝てば良い。
大陸を納める者としての覚悟だ。
すると、それを聞いたファウストも笑う。
「今度は、あいつよりも強くなるよ。剣が鈍れば研げば良い。どこまでも研いで見せるさ。この王家に捧げた我が身に誓ってね。」
研げば研ぐほど鋭くなる。
そしてまた、この大陸を守る剣として守り続けるのだろう。
すると、それを聞いたアルティスも笑う。
「この間、騎士になる為の本格的な修行に入りました。兄を見守る為でなく、共に大陸を守る剣になる為に。」
初めは、兄の為に騎士へと目指した。
しかし今は、横に並ぶ為に目指している。
そして、それを聞いたカミーユも笑う。
「どうです? 私達だって、まだまだ先へと行けるのです。貴方達が守ってくれた物は、また未来を目指して進むのです。だから、大丈夫なんですよ。フラリアを意味する花のように、強く咲き続けてみせましょう。」
一度失いかけた物は、また再び立ち上がる。
前よりも強く固く結束していく。
だから大丈夫なのだ。
これからも、この大陸は何をも恐れずに咲き続けるだろう。