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猫です。~猫になった男とぽんこつの元お嬢様の放浪旅~  作者: 鍋敷
人魔大陸防衛大戦 フラリア王国編
189/285

大陸のこれからです

「ただいま戻りました。」

「お帰りなさいませですぞ。」「お帰りなさいませ。」

「お帰りなさいませ、お嬢様、フィー様、にゃんすけ様。」


 打ち上げを終えた俺達は、城まで戻ってくる。

 生徒会のメンバーとは、ひとしきり話した後にお別れだ。

 そんな俺達を、アイナとお付きの兵士達が迎える。


「皆さん、お怪我の方はもう大丈夫なのですか?」

「はい。休みをいただいたお陰で、歩ける程度にはなりました。」

「同じくですぞ。」「同じくです。」


 お付きの者達は、帝の雷を直で受けていた。

 その身で受けたダメージは大きかったのだろう。

 それがようやく、歩けるまでに回復したようだ。


「本当なら、お嬢様に付き添いお茶をお出ししたかったのですが。」

「向こうで頂いたので充分ですよ。それより、留守の間に変わりはなかったですか?」

「はい。授与式を無視された王が拗ねられているぐらいですね。」


 主要なメンバーは、授与式に現れなかった。

 その事に動揺をしているようだ。

 それを聞いたフィーが、気まずそうに笑う。


「顔ぐらいは出した方が良かったかな?」


にゃー。


 なんか、申し訳ないね。


「いえ、すぐに立ち直るでしょう。フィーさんが気にする必要はありません。それよりも、立ち話もなんですので場所を変えましょう。アイナ。」

「分かりました。接客の間まで案内します。」


 そんな事もあり、俺達は最初に訪れた時に向かった部屋へと案内される。

 相変わらずの、豪華な装飾で彩られている。

 その部屋にある、同じく豪華な椅子に俺達は座る。


 やっぱり慣れないね。

 深く座るのを遠慮しちゃう。


 遠慮がちに浅く座る俺。

 縁の無かった光景に萎縮してしまう。

 そんな俺やフィーの前にカップが置かれる。


「乾いてはないのでしょうが念のためです。欲しくなったら口にして下さい。」

「ありがとう。頂くよ。」


にゃー。


 ありがとー。


 もしもの為にとの紅茶だろう。

 お礼を言うと、アイナは笑ってお辞儀をする。

 そうして、すぐにカミーユにも同じ物を渡す。

 それと同時に、部屋の扉が叩かれる。


「はい。少々お待ちください。」


 返事を返したアイナが扉へと向かい開く。

 すると、体に包帯を巻いたファウストとアルティスが入ってくる。


「お邪魔する。ここに、お面のお嬢さんと相方の聖獣の子が来たと聞いたのだが。」

「ファウストさん? フィーさんにご用で?」

「うん。どうしてもお礼を言っておきたかったからね。」


 カミーユと話ながら、フィーの対面へと座るファウスト。

 その横に、アルティスが座る。

 そんな二人を、フィーが怪訝そうな目で見る。


「お礼? 言われるような事をした覚えがないが。」

「そんな事はないさ。こいつを取り戻してくれたと聞いたよ。」


 何を?

 ってこれ…。


 そう言いながら、机の上に鞘に収まった聖剣を置くファウスト。

 それは、武将の一人に取られていた筈の物だ。


「周囲の魔物を倒した騎士の一人が見つけてね。僕の元に持ってきてくれたんだ。これも全て、君達のお陰だよ。ありがとう。」

「あぁ。無事に戻って良かったな。」


にゃっ。


 そうだね。

 もう手離さないでね。


 ここでお礼を断るのも相手に失礼だろう。

 なので、素直に礼を受け入れる俺達。

 そして、大事そうに聖剣をしまうファウストを見る。


「そうなるとだ。貴方は、騎士団長に戻るんだな?」

「当然さ。そこが僕のいるべき場所だからね。すぐにでも戻…いてっ!?」


 拳を振り上げたと同時に、身体中に激痛が走る。

 元気な姿を見せたかったのだろう。

 そんなファウストをアルティスが呆れた目で見る。


「兄さん、まだ安静が必要って言われてたでしょ。」

「ははっ、そうだったね。ごめんごめん。」

「全くもう。」


 あらら。

 まぁ仲良しそうで何よりだよ。


 まだ傷は直りきってはいないようだ。

 あれ程のダメージを負ったのだから仕方ないだろう。

 そんな二人を見たフィーが笑う。


「ふふっ。早く直して貰わないとな。例の件もある事だし。」

「例の件。武将達の屍が見つからない話の事だね。確かに、ゆっくりしている暇はないんだよね。」


 そうなんだよね。

 あれは驚いちゃったよ。


 どこを見ても、ある筈の武将達の屍が見つからなかったのだ。

 武将達は、間違いなく斬られた筈だ。

 なので、見つからない筈がないのだが…。


「我々王族でも、というより、お姉さまが情報を集めて下さってますが…。」

「収穫は無しと。」

「すみません。」


 武将達の痕跡は、一つ残らず見つかっていない。

 それだけ、綺麗さっぱりと姿を消したようだ。


「まぁ気にするな。キュリア達によると、すぐにどうこう出来るとは思えないらしいしな。」

「でも、戦力は常に維持しときたいんだよね。だと言うのに、肝心のスタークは修行が足りないって何処かに行っちゃってね。あのやろう。」

「あはは…。」


 待つような人じゃないもんね。

 仕方ないよ。


 スタークへと恨みを募らせるファウスト。

 スタークは大人しくするような人ではない。

 しかし、ただファウストに仕事を押し付けた訳ではない。


「まぁ、なんだかんだ困ったら来てくれるだろうからね。今回だって、ちゃんと来てくれたし。」

「信用してるんだな。」

「まあね。長い付き合いだし。」


 流石、お互いの事を分かってるね。


 長い付き合いなだけあって、お互いが考えてる事は分かるのだ。

 だから、ファウストになら任せられると離れたのだろう。

 そんな話をしていると、再び扉が叩かれる。


「はい。今行きます。」


 返事をしたアイナが扉へと向かう。

 すると、今度はフラリア王が入ってくる。

 そんなフラリア王を見てファウスト達が立ち上がろうとするが…。


「構わない。それよりも、思ったより人が多いな。」

「はい。丁度、彼女達にお礼を言いに来た所です。」

「そうだな。今回の立役者だものな。」


 納得をしながらも、カミーユの横に座るフラリア王。

 フラリア王もまた、フィーの事を評価しているようだ。


「本当なら、勲章の授与をもって君の活躍を称えたいんだが。」

「気持ちだけ頂いておきます。正直、邪魔になるだけなので。」

「じゃ、邪魔…。そ、そうか、君がそう言うなら構わないが。」


 まぁ、荷物が増えるだけだしね。

 旅に使えるって訳でも無さそうだし。


 旅では、必要な物だけしか持ち歩く事は出来ない。

 そんな状況で勲章を持たされても邪魔なだけだろう。

 それを聞いたカミーユは、ある事を思い付く。


「では、せめて旅のお手伝い。なんてどうです?」

「お手伝い?」

「はい、フィーさんは他の大陸に向かいたいそうですから。ね?」

「そうなるな。」


にゃ。


 始祖に会いに行くんだもんね。

 必然的にそうなるよね。


 始祖に会うには、大陸の外へ向かう必要がある。

 そうなると、旅に必要なお金も増えるだろう。

 それを聞いたフラリア王がその意図に気づく。


「つまり船のチケットだな?」

「はい。フィーさんの事ですから、行き当たりばったりで何も用意をしていないでしょうから。」

「うっ。察しが良いな。」

「バレバレですよ?」


 読まれてるねー。

 手強い人だよ。


 楽しそうに笑いながら指摘するカミーユ。

 気づかれたフィーは、気まずそうに苦笑いする。

 しかし、これはチャンスと言えるだろう。


「…そうだな。世話になるとしよう。」

「分かった。すぐに手配しよう。行き先はどうする?」

「お任せで頼みます。特にこだわりは無いので。」

「そうか。では、こちらで決めるとしよう。」

「お願いします。」


にゃー。


 お願いします。

 これですぐに旅立てるね。


 旅に必要な足は手に入れた。

 これで、再び旅に出る事が出来る。

 だと言うのに、フィーの顔は暗い。

 そんなフィーに、カミーユが気づく。


「どうしました? フィーさん。」

「…あぁ。本当は、この状況で離れるのが正しいのかと思ってな。」

「」


 今の大陸は、建て直しの真っ最中だ。

 その上、いつ来るか分からない敵に怯えている。


「この大陸が心配なんですか?」

「そうだな。ここには沢山の思い出があるからな。」


 共に出会った友との思い出が詰まった大陸だ。

 そんな大陸の危機を放っておいて良いのかとの思いだ。


「大丈夫ですよ。」

「え?」


 それでも、それを聞いたカミーユは笑う。

 フィーの不安を払拭するように。


「フィーさん、今まで出会った人達の事を思い出して下さい。」

「皆を?」

「はい。皆さんは、どんな顔をしてますか?」


 脳裏に浮かぶのは、出会った友の笑顔だ。

 どの友も、未来という希望を語っていた。

 楽しそうに笑いながら語っている。


「ふっ、そうだったな。友が未来に向けて歩き始めたのだ。同じ友の私が止まる道理はどこにもないな。」

「そうです。信じて下さい。貴方達と出会った者達を。そして、ここにいる者達を。」


 諦めている者などいないだろう。

 絶望している者などいないだろう。

 そんな相手の事を、どうやって心配するというのだろう。

 それを聞いたフラリア王が笑う。


「ふははははっ。カミーユの言う通りだ。今度こそ大陸を守って見せようぞ。この、フラリアの名にかけてな。」


 今回は負けたなら、次で勝てば良い。

 大陸を納める者としての覚悟だ。

 すると、それを聞いたファウストも笑う。


「今度は、あいつよりも強くなるよ。剣が鈍れば研げば良い。どこまでも研いで見せるさ。この王家に捧げた我が身に誓ってね。」


 研げば研ぐほど鋭くなる。

 そしてまた、この大陸を守る剣として守り続けるのだろう。

 すると、それを聞いたアルティスも笑う。


「この間、騎士になる為の本格的な修行に入りました。兄を見守る為でなく、共に大陸を守る剣になる為に。」


 初めは、兄の為に騎士へと目指した。

 しかし今は、横に並ぶ為に目指している。

 そして、それを聞いたカミーユも笑う。


「どうです? 私達だって、まだまだ先へと行けるのです。貴方達が守ってくれた物は、また未来を目指して進むのです。だから、大丈夫なんですよ。フラリアを意味する花のように、強く咲き続けてみせましょう。」


 一度失いかけた物は、また再び立ち上がる。

 前よりも強く固く結束していく。

 だから大丈夫なのだ。

 これからも、この大陸は何をも恐れずに咲き続けるだろう。

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