これからの事です
王都の前に、魔法陣が現れる。
そこから、前線で戦っていた者達が降り立つ。
ワープの魔法で飛んできたのだろう。
それを見たフラリア王が歩いてくる。
「カミーユっ、カミーユっ!」
「お父様!」
歩きから駆け出すように走り出すフラリア王。
そして、同じく駆けるカミーユと抱き合う。
お互いの目からは、涙が流れている。
「無事で良かった。」
再会を喜ぶように、娘を抱きしめ続ける。
それに答えるように、カミーユもまた抱きしめる。
その光景を、他の者達が微笑みながら眺める。
そんな中、無事を確認し終えた二人が離れる。
「怪我はないな?」
「はい。皆さんが助けてくれたので。」
「あぁ、そうだな。」
助けてくれた者達のお陰で、自分は無事にここにいる。
それを聞いたフラリア王は頷く。
そんな二人は、後ろにいる者達を見る。
「娘を助けてくれてありがとう。」
「いや、巻き込むつもりは無かったからね。こっちの不備なんで感謝はいらないかな。」
「そうはいかない。お主達がいなければ、もろともだったからな。」
カミーユが連れ去られたのは、オルティ達が守れなかったから。
しかし、そもそもオルティ達がいなければの話だ。
そんな話をしていると、王都の方が騒がしくなる。
「おっと。他の者達にも伝えないとな。戦いは終わったのだと。」
「だねぇ。早く行ってあげないと。」
「あぁ。それでは、凱旋と行こうか。」
そうして、王都へと戻っていく。
勝利を告げる為に。
帰るべき場所へ帰る為に。
直後、並々ならぬ歓声が王都に響いたのだった。
後日、王都の復興が始まる。
崩壊した建物や失った流通。
そういった物を含めた生活基盤。
建て直すには、するべき事が沢山ある。
「そっち持ってくれ!」
「任せろ!」
至る所で、崩れた地面の瓦礫が運び出される。
このままだと、移動もろくに出来ないからだ。
「道を開けろ! 今日の食事を持ってきたぞ!」
「おう! こっちに止めてくれ!」
整地された道を、食料を乗せた馬車が通る。
王都にいる人の分の、一日分の食料を運んで来ているのだ。
そうして、各地で復興が進んでいる。
「やれやれだ。復興というには先は長いな。」
「それでもやらないとな。」
「あぁ。いつでも皆が戻ってこれるようにしないとな。」
「ははっ、そうだな。」
復興には程遠い。
それでもやるしかないのだ。
元の日常を取り戻す為に。
そんな中、お城にて多くの人が集まる。
「皆のもの。今回の戦い、ご苦労であった。」
ここは、王族が訪れた者と面会する大広間。
多くの視線が集まる中、フラリア王が立ち上がる。
その前にいるのは、騎士や兵士達。
「皆のお陰で王都、いや、この大陸は救われた。これは、絶望に負けずに立ち向かった皆の勇気によるものだ。深く感謝をしたい。後程、我から勲章を贈るので受け取って欲しい。」
死をも恐れずに戦った者達。
その者達の勇姿をフラリア王が称える。
それを受けた者達は、どこか誇らしげだ。
「特に強大な敵と戦い勝利を収めた者達。お主らには、特別な勲章を贈ろうと思う。思うのだが…。」
大広間を見回すフラリア王。
すると、体をワナワナと震わせる。
そして…。
「どうして誰もいないのだーーーーーっ!」
フラリア王の叫びが、大広間に響き渡る。
そんなフラリア王の叫びに平和が戻ったのを人々は確信する。
そんな事があった横の庭では、叫び声を聞いたカミーユが横にいるフィーを見る。
「行かなくて良いんです?」
「あぁ。人目につくのは好きでは無いんでね。」
「そうですか。」
あんなに兵士がいたらね。
行くわけにはいかないよね。
兵士から逃げる身としては、近づきたくはない場所だ。
あれだけの数がいれば、フィーの事を知る者もいるだろう。
そんなフィーは、寛ぐように寝転ぶ。
「それに、私はこうしている方が良いんでな。というか、カミーユこそ行かなくて良いのか?」
「はい。まだ私は、王族の者ではありませんから。」
大陸の民に知られるまでは一人の少女だ。
その状態では、王族の仕事には関われない。
だから、あの場所に出る事は出来ないのだ。
「そうか。なら、カミーユも寛ぐといい。こうして何もしないのも良いものだぞ?」
「そうなんですか? では、少しみっともないですが。」
それが良いよ。
では、俺も失礼してと。
そう言いながら、フィーと同じく寝転ぶカミーユ。
その横で、俺もまた寝転ぶ。
そうして、取り戻した平和を堪能する。
「フィーさん達は…。」
「ん?」
「フィーさん達は、これからどうするんです?」
これからとは、全てが終わってからの事だ。
いつまでも、王都にいる訳にはいかない。
しかし、答えはもう決まっている。
「当然、旅に出る。」
にゃ。
だね。
ずっと、そうして来たもんね。
ここにいるのも、旅の途中の事だ。
用が済めばまた旅立つ。
今までと、何も変わらない。
「どこか行きたい所があるんです?」
「特にはない。…筈だったが、行きたい所が出来た。」
「行きたい所ですか?」
「そうだ。聖獣の始祖。そいつがいる場所にな。」
今までは、自由気ままに行きたい場所へと行っていた。
しかし、今は明らかな目標が出来た。
それが、聖獣の始祖がいる場所だ。
「聖獣の始祖。聖獣達の生みの親ですね。」
「あぁ。そして、にゃんすけを産んだ親でもある。」
そうなんだよね。
実感は無いけど。
俺の産みの親。
正確には、この体を産んだ者だ。
それが、聖獣の始祖だ。
「キュリア達から聞いたよ。普通、始祖が聖獣を生む時は、己の力を分け与えるのだと。」
「はい。私もそういう風に学びました。」
「でも、にゃんすけは文字通り体から産んだらしい。」
「体から? つまり、生き物と同じように産んだ?」
「そうらしい。」
よく分かんないけどね。
だって、覚えてないし。
当の本人である俺は、残念ながら覚えていない。
それでも、普通とは違う方法で生まれたのは間違いないようだ。
しかし、覚えてないので実感はやはりない。
「精霊とは霊体の存在。その上位の始祖も同じ。いくら獣の姿でも、体から子を産むなんてありえない筈なんですが。」
「その辺の事は知らん。キュリア達も出会う前に起きた事らしいからな。」
全ての事は、出会う前に起きた事だ。
なので、知らない事も当然多い。
今のままでは、情報が足りなさ過ぎるのだ。
「だから、直接聞いてみたいと思ってな。一体、にゃんすけを産んだ時に何が起きたのかをな。」
「そうですか。気になりますよね。」
にゃ。
気になるよね。
自分の事だし。
情報は一つもない。
しかし、当の本人である始祖なら知っている筈だ。
そんな事もあって、会いに行く事にしたのだ。
「では、目的は始祖に会う事ですね。場所は分かってるんです?」
「知らん。」
「え?」
「聞いてないから知らん。」
にゃ。
うん。
何一つ知らないね。
目的は決まった。
それでも、場所は分からない。
そもそも、聞いてすらいない。
「でも、場所が分からなければ着きませんよね? どうやって向かうんです?」
「それも知らん。まぁ、何とかなるだろう。」
にゃっ。
なるだろうね。
分かんないけど。
場所は分からなくても問題はない。
何故なら、旅を続ければいつかは着くだろうからだ。
それを聞いたカミーユが笑う。
「ふふっ。フィーさん、変わりませんね。あの時のままです。」
「そうか?」
「そうですよ。」
「そうなのか。」
「はい。そうですね。」
そう言い合いながら笑い出す二人。
口調は違えど、姿も違えど、あの時と同じ光景がそこにある。
あの時と、お互い何も変わっていない。
「なぁ、カミーユも来るか? と言いたい所だが、忙しくなるんだよな?」
「はい。これから私の正体を明かして、一人の姫として国政を担う事になると思います。」
そうなんだね。
確かに、この大陸の姫様なんだもんね。
旅に出る時間は無いのか。
カミーユは、この大陸の王族の一員だ。
これからは、この大陸の為に働くのだろう。
そうなってしまえば、旅なんて出来ないだろう。
「そうか。折角、約束を果たせると思ったのだが。」
「すみません。こればかりは、仕方無いんです。」
「そうだな。私と違って、いるべき場所があるからな。」
フィー達は、居場所が無いから旅をしている。
王族のカミーユを、巻き込む訳にはいかない。
そんな話をしていると、どこかから声が聞こえてくる。
「フィーさーん! にゃんすけさーん! カミーユ様ー! どこなのー?」
「ん? セイラか。打ち上げの準備が出来たんだな。おーい! こっちだ!」
「庭の方ね。今行くわ。」
呼び掛けるセイラへと返事を返すフィー。
すると、向こうから足音が近づいてくる。
その方を見るフィーの横顔を見たカミーユが笑う。
「今はまだ、その時では無いですもんね。でも、いつかは…。」
「ん? 何か言ったか?」
「いえ。打ち上げ楽しみですね。」
「あぁ、そうだな。別れの時まで存分に楽しもう。」
お互い目を合わせて微笑み合う。
いつか訪れる別れの時。
それまでに、思い出を増やそうと心に決める。