脱出です
「カエセ、カエセ、カエセ、カエセ、カエセ。」
どこからともなく、複数の声が聞こえてくる。
それを聞いたフィーは、カミーユを庇うように前に出る。
「またか。さっきから注文が多い奴だな。」
ガタッ。
ほんとだよ。
折角、良い雰囲気だったのにさ。
何者かによる、何度目かの妨害だ。
もはや、苛立ちの方が増してくる。
すると、目の前に四つの何かが浮かび上がる。
「それで、今度は何が来るんだ?」
呆れるフィーの前で、四つの何かが青白く光る。
更に、それらのものが人型へと変わる。
その正体を、カミーユが見切る。
「気をつけて下さい。どれも高密度の存在です。」
「高密度か。要するに、強いって事だな。」
どれもが強力な魔力を持っている。
弱い筈がないだろう。
その青白い何かは、一斉に動き出す。
ガタガタッ
例え強くてもだよっ。
「そうだな。どんな敵であろうともだっ!」
そう叫ぶと同時に、お面の俺を投げるフィー。
そして、迫る青白い何かの前で猫に戻った俺が一体を蹴る。
にゃっ!
おらっ。
そこから更に、ポイントダッシュで全てを蹴り飛ばす。
直後、お面になった俺を後ろから来たフィーが被る。
そこから吹き飛んだ相手へと踏み出し剣を振るう。
「吹き飛べっ!」
吹き飛べっ!
その一撃で、青白い何かが吹き飛ぶ。
しかし、すぐに起き上がる。
まるで、何事も無かったかのように。
「効いていないのか?」
ガタ。
みたいだけど。
起き上がった青白い何かは、すぐにこちらへと迫ってくる。
今度は、起き上がった順番に襲い来る。
「カエセ、カエセ、カエセ、カエセッ。」
「あーもう、しつこいっ。」
まずは、最初の二体を順番に斬る。
次に来るものの腕を剣で受けて流す。
更に、斧に変えた剣でそいつを拾い上げてもう一体へと投げる。
その二体を槍で突き刺すと、剣に戻して斬り飛ばす。
それでも相手は起き上がる。
「何なんだこいつらはっ。」
不死身なの!?
でも、なんか普通とは違う感じがする。
なんど斬っても立ち上がる。
刺した傷も塞がっている。
その違和感を俺達は感じる。
「ただ、何故か生き物を斬ってるような感じがしないんだよな。」
ガタ。
見てる俺も思ったよ。
なんか中身が無い感じ。
そう疑問に思いつつも、迫る青白い何かを斬っていく。
そうしながらも、その感触に疑問を深める。
「にゃんすけも思ったか。森奥の村で見た村人が堕ちた姿に似てるが、あれの中身が無い感じみたいな。」
ガタ。
言われてみれば。
似てるけど、あれみたいに意志が無いよね。
意志がない人型の何か。
ただ操られた人形みたいに、同じ動きを繰り返す。
しかも、不死身なのだ。
「どうしたものか。このまま続ける訳にはいかないぞ。」
こっちの力は有限だからね。
長くは持たないよ。
このまま続ければ、いずれこっちの力が無くなってしまう。
それに比べて、向こうは永遠に動ける。
そうなれば、押し負けてしまうだろう。
すると、フィーの背中にカミーユが触れる。
「大丈夫です。私が支えます。」
「カミーユ。…助かる。」
カミーユの魔力がフィーの中へ。
その力を、鬪気として流す。
すると、違う力もそこに流れる。
「っ! この力は?」
「どうした?」
「いえ、私の魔力にフィーさんの中に浮遊する力の欠片が混ざり込みまして。」
フィーのものでも、カミーユのものでもない。
誰のものでもない不思議な力。
その存在に、フィーが気づく。
「多分だが、心装の時に打ち込んだ魔力核の破片だな。もしそうなら、危険なものじゃない。気にしないでくれ。」
「そうなんですか? 分かりました。」
フィーへと打ち込まれた魔力核。
つまり、フィーの力とは関係がない。
なので、考えられるのはそれぐらいだろう。
そんな事をしている間にも、青白い何かが動き出す。
「ありがとう、下がっててくれ。」
「はい。頑張って下さい。」
魔力の補充が完了した。
これで、まだまだ戦う事が出来る。
そうして、迫る青白い何かを斬った時だった。
青白い何かが真っ二つになる。
「よし。流石、カミーユの魔力だ。」
ガタッ。
助かるね。
それじゃ、このまま他のも斬ってしまおう。
攻撃が通るのなら、遠慮なんかいらない。
残りの相手も、同じように斬っていく。
すると、同じように真っ二つとなる。
「ナゼダ、ナゼダ、ナゼダ、ナゼダ。ワレトオナジチカラノモノシカ、カンヨスルコトハフカノウナハズ。」
「そんなの知った事か。カミーユはこのまま返して貰うぞ。」
ガタッ。
そうだね。
相手にする必要なんかないよ。
向こうの事情など、今は関係がない。
後は、このまま脱出するだけだ。
しかし、また青白い何かが現れる。
「くっ、またか。どうやられだけだろう。」
「いえ、周りを見て下さい。」
「周りだと?」
周り?
あっ!
カミーユの言葉に周囲を見る俺達。
すると、そこら中から青白い何かが現れている事に気づく。
しかも、その数は沢山だ。
「数で押して来たか。しかも、どれも姿が違う。」
ほんとだ。
魔族みたいなのも混ざっているね。
その姿は、どれも違うものだ。
先程の人の形のものに加え、魔族や魔物の姿なのもある。
それらのものが、一斉に迫ってくる。
「どうします? フィーさん。」
「いちいち構ってやる必要はない。一気に出口まで駆け抜けよう。」
「分かりました。行きましょう。」
そうだね。
行こー。
この数の相手は、不可能に近い。
ならば、無視をすれば良いだけだ。
そうして、俺達は立ち塞がるものを斬って駆け出す。
「離れるなよ?」
「はい。」
次から次へと現れるものを斬りながら進んでいく。
それでも、一向にいなくなる気配がない。
そのせいか、次第にこちらが押されていく。
「面倒な。どれだけいるんだっ。」
「大丈夫ですか?」
「あぁ。しかし、このまま増えられると。」
斬っても斬っても増えていく。
その数に、終わりはない。
これらを操るものから、俺達をどうしても止めたいという意思を感じる。
でも、焦ってるって事だよね。
それならっ。
それを察した俺は、お面から元の姿へと戻る。
そして、青白い何かに向かって突っ込む。
「にゃんすけ?」
「にゃんすけさん?」
呼ばれる声を無視して、目の前の相手へと飛び込む俺。
そこから、目の前の相手を蹴り飛ばす。
にゃ!
どけっ!
更に、ポイントダッシュでまとめて蹴り飛ばす。
そうして、目の前の道をこじ開ける。
それを確認した俺は、フィー達へと振り向く。
にゃっ!
こっちだよ!
「着いてこいと? 分かった。先導は頼む。行くぞ、カミーユ。」
「はい。お願いしますね。」
こうして、俺が道をこじ開ける。
その後を、フィー達が着いてくる。
時々迫るのは、フィーが斬り飛ばす。
しかし、吹き飛ぶだけだ。
「私の力では、斬れぬか。まぁ、飛ばせるだけ充分か。」
だね。
こうして進めているもんね。
進む速度は、先程よりも早い。
斬れない事ぐらい、たいした問題ではないだろう。
そうして進んでいると、カミーユがつまずいてしまう。
「きゃっ。」
「おっと。」
転びきる寸前に、カミーユを支えるフィー。
そして、カミーユの手を握る。
「すみませんっ。」
「大丈夫だ。私に任せろ。」
そうしてまた走り出す。
今度は、カミーユの手を引きながら。
そのまま、真っ直ぐ道を進んでいく。
「カエセ、ワタシノモノダ。カエセ、カエセ、カエセッ。」
「違う。私の友だ。お前のものじゃないっ。」
どこからか来る声を無視して進んでいく。
カミーユを渡す気など毛頭ない。
「絶対に離すものか。絶対に、一緒に脱出してやる。」
「フィーさん…。」
そのいきだよ。
ここまで来たら、最後までだよっ。
どこまでもどこまでも進んでいく。
止まる事なく進んでいく。
一緒に脱出する為に。
一緒に帰る為に。
そのお陰か、進む先に光る魔法陣が見えてくる。
「出口だ! 飛び込むぞ!」
「はい!」
後少しだよ!
そのまま魔法陣へと飛び込む俺達。
そして、光る道を突き進む。
すると、後ろから沢山の青白い何かの波が迫ってくる。
「マテ。ニガサン。イクナ。」
「まだ来るのかっ。それでもっ。」
ただひたすら駆けていく。
何が来ようが関係はない。
出口に向かって突き進む。
「帰るぞカミーユ! 私達の世界へ!」
「はい! 私達の帰るべき世界へ!」
そうだね!
皆が待ってる世界へ!
次第に視界が明るくなる。
それと共に、体が光に包まれる。
その光が漏れる場所へと突き進む。
そして遂に…。
「戻ってっ、来たぞーーー!」
投げ出されるように、元の世界へと放り出される。
どこを見ても、俺達がいた場所だ。
それを見たオルティが叫ぶ。
「帰ってきたっ。キュリアちゃん!」
「分かってるよん! 反転魔法、始動!」
鎖の上で魔法陣を展開させるキュリア。
すると、巨体の大蛇の体が収まっている魔法陣の色が変わる。
それと共に、巨体の大蛇の首が召喚陣へと吸い込まれていく。
「ありったけをぶちこむよん!」
「ここはあんたの居場所じゃない!」
「とっとと帰っちゃいな!」
キュリアの魔法陣に、オルティとリュノが触れる。
それにより、魔法陣が強く輝く。
すると早い速度で、巨体の大蛇の首が吸い込まれる。
暴れる巨体の大蛇だが、無慈悲にも全ての首が飲み込まれる。
そうして、用が済んだ召喚陣が消えていく。
それを見たオルティが一息をつく。
「はぁ、これにて一件落着ってね。おつかれさん、フィーちゃん。」
腕を降ろしたオルティは下を見る。
そして、そこにある鎖の絨毯に寝転ぶフィーが見返す。
「そうだな。おつかれさまだ。」
こうして、魔族襲撃における一連の事件は終わったのだった。