目指せ、巨体の大蛇の中へです
揃った四人は、巨体の大蛇に絡む鎖へと降り立つ。
そして、フィーは目の前に現れたその姿を見る。
「この中にカミーユが…。」
この巨体の中にカミーユがいる。
そこにいるだろうカミーユへと想いを馳せる。
そんなフィーの肩をオルティが掴む。
「すまないね。本当なら、その前に止めて上げたかったんだけどね。」
「いや、捕まったのなら助ければ良いだけだ。その為に、私を連れて来たんだろう?」
「ま、そういう事だね。」
フィーの目的は、カミーユを連れ戻す事だ。
それが無理なら、フィーを連れてくる必要はない。
それでも連れてきたのは、諦めていないという何よりの証拠だ。
「それじゃ、キュリアちゃん。説明しちゃって頂戴な。」
「はいはーい。良いかい? フィーちゃん。私達の目的は、カミーユちゃんを助けてこいつを追い返す事だよん。」
こちらの勝利の条件は二つだ。
一つは、中のカミーユを助ける事。
もう一つは、巨体の大蛇が悪さをする前に追い返す事だ。
「倒さなくて良いのか?」
「そうしたいんだけど。無理なんだよねー。」
「俺達で九人でようやく首一本だからな。」
「ここにいるメンバーでは到底無理かな。」
首が一本無いのは、前の戦いでの戦果だ。
しかし、それだけなのだ。
それ以上となると、この数では不可能だ。
「では、追い返す方法はあるんだな?」
「まあね。幸いにも、こいつは召喚陣から出きって無い。つまり、反転の魔法で弄れば向こうに召喚させれるってわけだよん。」
巨体の大蛇は、こっちに出ようとしている。
ならば、向こうに出るように向きを反転させれば良い。
そうすれば、元いた場所へと召喚されるだろう。
「なら、後はカミーユを助ければ良いだけか。」
「その通りだよん。これの中に入って、カミーユちゃんを連れ戻す。ただ、入れるのは一人だけなんだよね。しかも、カミーユちゃんと深い関わりがある人物がね。」
連れ戻すには、巨体の大蛇の中に入る必要がある。
しかし、誰でも良いという訳でもない。
それには、きちんとした理由がある。
「どうして、深い関わりが必要なんだ?」
「今のカミーユちゃんは、こいつに心を飲まれかけてるだろうからね。だから、それ以上の強い心で引っ張らないといけないんだよん。」
「ユリーシャの時みたいにか?」
「察しが良くて助かるよん。」
あの時は、コロとユリーシャの心を繋いで奪い返した。
つまり、あの時と同じ事をする気のようだ。
だからこそ、それが出来る人物が必要なのだ。
「カミーユちゃんの昔の話は聞いた事があるよん。その上で、フィーちゃんが彼女に固執するのを見てピンと来たね。あの子を助けるには、君の力が必要だってね。出来るかい?」
「その為に立ち上がった。その為にここまで来た。迷いなど無い。」
ガタッ!
俺もいるよ!
「そうだな。私達なら出来るよな。」
助けないのなら、ここまで来る事は無かった。
今更考えると言うのは愚問だろう。
それを聞いたオルティが満足そうに頷いた。
「良い返事だ。なら、私達で全力でサポートだね。」
「言われなくてもだな。」
「きっちりと送って上げるからねー。」
実力者の三人が名乗り出る。
これほど頼りになる事は無いだろう。
その時だった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ。
激しい揺れが、辺りへと広がる。
そして、鎖に捕らわれた筈の巨体の大蛇が動き出す。
それによる振動は、鎖の上のフィー達にも伝わる。
「う、動き出したぞっ。」
「ちょっとまずいかな。止められる?」
「無理! 正直、止めれてるだけでも奇跡だからね?」
これだけの巨体を抑えるには、相当な力が必要だ。
しかし、それが出来るのなら頭を抱えて悩んではいない。
すると、更に鎖が激しく動く。
「これ以上はもたないけどどうする?」
「こうなったら、無理に大人しくさせるしかないな。」
「だねー。これからの事は、戦いながら話すよ。良い?」
「いつでも構わんっ。早く止めるぞ!」
鎖がほどける前にね。
さぁ、行こー。
このままだと、助けるどころではななくなってしまう。
その為、無理にでも止める必要があるだろう。
そうして、四人が一斉に飛び込む。
「一人で相手をするのは無理だからね。合わせて行くよ!」
オルティの言葉に頷いた三人が、一つの首へと飛び込む。
そして、各々が武器を叩き込んでいく。
それでも、通らずに弾かれる。
「あらら、魔法の力は効かないかー。」
「これでも、あの時と比べて相当弱ってんだけどねぇ。」
「確かにね。カミーユちゃんにかけたリミッターがこれにも影響してるのかな?」
カミーユには、取り込む魔力を制御するリミッターがかけられている。
そのカミーユを取り込んだ事により、巨体の大蛇の魔力にも影響しているのだろう。
それでも、この圧倒的な質量を抑えるには至らない。
「小手先は効かないか。じゃあ、ぶん殴るまでだな。」
「右に同じかな。」
「それが一番だよん。一斉にねっ!」
そう言いながら、武器の魔力を火力へと変える実力者の三人。
そうして、一斉にその力を叩き込む。
それと同時に、後ろのフィーへと呼びかける。
「フィーちゃん! 任せたよ!」
「あぁ!」
後ろで見ていたフィーが前に出る。
そうして、一回転して長剣を叩き込む。
それでもびくともしない。
「効いてないっ。固すぎる。」
「そりゃね。固いというかなんというか。」
「質量で押されてるって感じだろ?」
「確かにな。なら、こっちも質量だっ。」
フィーが剣を上に掲げる。
そして、その剣に纏う鬪気を大きくさせていく。
それに合わせて、フィーの剣も大きくなっていく。
「更にここから圧縮っ!」
なにも、大きければ良いものではない。
大きくなった剣の大きさが半分になる。
それでも、その質量は倍になる。
「このまま行くぞ!」
やっちゃえ!
その大きな剣を、巨体の大蛇へと叩き込む。
すると、それを受けた巨体の大蛇が怯む。
しかし、すぐにフィーへと首を振るう。
「くうっ。」
「させねぇよ。ショット!」
横からの、リュノの攻撃が巨体の大蛇の横顔を叩く。
それにより、相手の頭突きが逸れる。
「ほれ、やっちまいな。」
「助かるっ!」
空かした相手の顔へと、大きな剣を叩き込む。
更に、そこから剣を振り上げる。
それにより、その首を奥へと追いやる。
それを見たキュリアが叫ぶ。
「良いよ! そのまま全部怯ませて! そうすれば、あいつの中へと繋げられるからね!」
全ての首を怯ませる事によって、巨体の大蛇の力も弱まる。
そうする事によって、ようやく中へと潜り込めるのだ。
そうしている間にも、もう一つの首が迫ってくる。
「来いっ!」
迫る頭へと剣を振り下ろすフィー。
そうして、剣と頭がぶつかり合う。
それでも、フィーが押されていく。
「ぐううっ。」
頑張れ!
応援をするも、次第に剣が押されていく。
この剣でも、巨体の大蛇との差は埋められない。
すると、それを見たキュリアが動く。
「ほら、プレゼントだよんっ。」
そう言いながら、空中に複数の剣を出現させるキュリア。
その一つ一つが、キュリアが持つ剣と同じものだ。
「受け取ってねっ!」
キュリアが指を鳴らすと同時に、それらの剣が一斉に巨体の大蛇を襲う。
すると、その剣が刺さる度に巨体の大蛇が押され始める。
「ここまでしないと消せないかっ。でもチャンスだよ!」
「分かった!」
相手を押していくフィーは、そのまま相手の首を押しきる。
更に、そこで右からの一振り。
そして、左からの一振り。
最後に、振り上げての一撃で首を奥へと追いやる。
「よし! 次だ!」
二つの首を追いやったフィーへと、もう一つの首が襲いかかる。
すると、その首を横へと受け流す。
「貰った!」
ガタッ!
違う!
上だよ!
「ん?」
俺の声に反応したフィーが上を見上げる。
すると、そこには魔力の塊を口に溜めた首があった。
「しまっ。」
「おっと。よそ見は厳禁でっ。」
飛び込んだオルティが、その首へと鎖を巻く。
そして、下に向けて鎖を引っ張る。
すると、その首が逸らしたばかりの首に直撃。
それにより、二つの首を巻き込む爆発が起きる。
「自分の攻撃にやられるなんて情けないってね。ほら、今だよ!」
「任せろ!」
項垂れる二つの首へと、大きな剣を振るうフィー。
片方の首を振り上げると、もう片方の首にも振り上げる。
そうして持ち上がった首へと一回転。
二つの首を左右に吹き飛ばす。
「やったぞ! こっからどうする!」
「ちょっと待って。今、カミーユちゃんとこれを繋いだ魔方陣をっと。…乗っ取った!」
次の瞬間、フィーの前に魔法陣が現れる。
その奥には、捕まっているカミーユが見える。
どうやら、気を失っているようだ。
「カミーユ! …どうすればいいっ?」
「そのまま飛び込んじゃって!」
「分かった! 行くぞ!」
うんっ。
カミーユの所までっ!
一気に魔法陣へと飛び込むフィー。
そして、カミーユの下へと一直線に飛んでいく。
しかし、そんなフィーへと黒いもやが集まってくる。
『カエレ。』
「誰だ!」
『カエレ。』
「誰だと聞いているだろう!」
『カエレ。』
質問には答えずに、同じ言葉が返ってくる。
こっちの相手をするつもりは無いようだ。
それならばと、無視して一気に突っ込む。
『カエレ。』
「断る!」
『カエレ。』
誰なの? 一体。
邪魔をしないで!
声が聞こえる度に進めなくなってくる。
黒いもやが邪魔をしているのだ。
それでも、フィーは無理に進んでいく。
その度に、黒いもやも押し返してくる。
『カエレ。カエレ、カエレ、カエレ。』
もやが増えていく度に、声が増えていく。
その声は、フィーを拒むように増えていく。
そして…。
『カエレ!』
その声が聞こえたと同時に、フィーが押される。
それでも、フィーは突き進む。
しかし、後ろへと押されていく。
そんなフィーは、耐えつつもカミーユへと手を伸ばす。
「ぐうっ、カミーユっ。」
手を伸ばすも届かない。
むしろ、その距離が離れていく。
「カミーユっ。」
抵抗するも押されていく。
あまりの強さに、全く歯が立たない。
そして遂に、フィーから俺の仮面が剥がれる。
「カミーユーーーーー!」
心装ではなくなったフィーと俺は、一気に外へと放り出される。
そして、そんな俺達へと無慈悲にも魔力の塊が迫る。
それにより、カミーユの姿が隠れる。
直後、激しい爆発が俺達を襲う。
ドゴーーーーーーン。
激しい爆発音。
立ち込める噴煙。
その中から、長剣を投げ捨て俺を抱えたフィーが現れる。
リュノが構える斧に足をかけて。
「行けるかい?」
「あぁ、おもいっきり頼む!」
「おし。んじゃ、行ってこい!」
リュノが斧を振るう。
すると、その勢いでフィーと俺が飛ぶ。
そのまま一直線に飛んでいく。
その横を、キュリアが並んで飛ぶ。
「まさか、抵抗されるなんてね。でも大丈夫。次は、本気で繋げるからね。」
そう言いながら、止まったキュリアが手を構える。
すると、魔法陣までの間が光に包まれる。
そこへと飛んでいくフィーと俺。
しかし、それを邪魔するように魔力の塊が現れる。
「オルティ!」
「あいよ!」
鎖を束ねてパドルへと変えたオルティが、魔力の塊の前に飛び出す。
そして、放たれた魔力の塊へとパドルを叩き込む。
「こんなのも返せなくて、No.3は名乗れないよねっと!」
そう言いながら、三つの魔力の塊を打ち返す。
すると、それらの魔力の塊が巨体の大蛇の首へと直撃する。
その間にも、再び魔法陣へと迫っていく。
「「「行けっ!」」」
三人の言葉と共に、フィーと俺が魔法陣へと突っ込む。
すると、やはり黒いもやが押し寄せる。
「今度は負けんっ!」
そう言いながら、お面になった俺を頭にかける。
そうして突き進むも、再びもやが押してくる。
しかし、そのもやを光の道が振り払う。
「こんなにも、私を支えてくれる者達がいる。ならば、負ける道理など何処にあるのか。いや、無い!」
ガタッ。
そうだねっ。
俺達には、一緒に戦ってくれる人がいる。
勿論、それだけじゃないよね。
「あぁ、言いたい事は何となく分かる。私達にっ…。」
俺達にっ…。
「出来ない事はないっ!」
出来ない事はないよっ!
そうして、もやを突き抜けながら進んでいく。
それを止められるものはいない。
すると、再び声が聞こえてくる。
「カエレ。」
「カエレ。」
「カエレ。」
「カエレ。」
今度は、声色が違う複数の声だ。
それでも、それを無視して突き進む。
「誰かは知らんが、私達は止まらんぞ。」
絶対にね。
「止まってやるものか。守る者がある限りな!」
そう言いながら、再びカミーユへと手を伸ばす。
今度は邪魔をする者はいない。
そして遂に…。
「今行くぞ! カミーユ!」
そうして、巨体の大蛇の中へと入り込む。
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