フィーVSオーディル
「いたた。一体何が。」
激痛に耐えながら起き上がるセイラ。
そして、自分の身に何が起きたのかを思い出す。
「そういえば、いきなり目の前が光ってアイナさんが…。」
最後の記憶は、アイナが上に覆い被さってきた光景だ。
その記憶を辿っていると、横に包帯だらけのアイナが寝ている事に気づく。
「アイナさん、酷い怪我。それじゃ、アイナさんが守ってくれたのね。」
そのアイナの顔を見つめるセイラ。
すると、その周りに他の者が寝ている事に気づく。
「皆、怪我してる。騎士の人達ね。」
怪我をしている事から、戦っていた者達だと気づく。
ここは、負傷者を運んで治す場所のようだ。
「静か。もしかして、戦いは終わったの? フィーさん達は…。」
そう言って、周りの魔力の反応を探る。
すると、あちこちから強力な力の反応を感じる。
その中には、お面を被った時のフィーの力も…。
「いえ。まだ戦いは続いている。フィーさんの反応も。いかなくちゃ。」
痛む体を無理に動かして、簡易テントらしき場所から出る。
しかし、次の瞬間その場で膝を着いてしまう。
「駄目、体が動かない。」
相当なダメージを受けたようだ。
思ったように体が動かない。
「ごめんフィーさん。私、もう何も出来ない。」
心からの謝罪を口に出すセイラ。
この体で向かった所で、足手まといになるだけだ。
その筈だったが…。
「そんな事はないですよ。会長。」
「え?」
突然の声に、それが聞こえた方を見る。
すると、そこには見慣れた生徒会のメンバーがいた。
その真ん中の、大きな袋を抱えた副会長が笑う。
「行きましょう。大事な友を助ける為に。」
そう言って、セイラに笑いかける副会長。
その横で、他のメンバーも笑う。
それを見たセイラが頷く。
「分かったわ。行きましょう。」
メンバーに起こされたセイラは、今だ戦いが続く方を見る。
そして、そちらの方へと生徒会メンバーと共に歩き出す。
その奥で戦う友を助ける為に…。
そんなセイラ達から離れた場所での事。
フィーの剣と、オーディルの剣がぶつかり合う。
「…。」
「フンッ。」
激しくぶつかる両者の剣。
それだけで、周囲の土が吹き荒れる。
それでも、フィーの剣が弾かれる。
「そこだっ。」
「…っ。」
体勢を崩したフィーへと、オーディルの剣が迫る。
しかし、その剣をフィーが振り上げた下駄で受け止める。
「やるな。では、こちらはどうかな?」
オーディルには、もう一本の剣がある。
その剣を、フィーに向かって振るう。
すると、フィーは上げた下駄を下げて剣を踏んづける。
そして、もう片方の下駄で剣を防ぐ。
「どけっ。」
オーディルが踏まれた剣を押し上げる。
それにより、浮いたフィーが後ろへと一回転。
フワッとしながらゆっくり降りる。
すると、フィーの動きに合わせて紫の聖火が散る。
「隙だらけだなっ。」
そんなフィーへと、再びオーディルの剣が迫る。
フィーは降りたばかりで動けない。
そう見せてから、紫の聖火を出しながら横へと回避する。
「…っ。」
そこからの剣を、オーディルへと振るう。
しかし、向こうも同じ考えか全く同じタイミングで剣を振るう。
そうして再びのぶつかり合い。
「…。」
と見せかけて、フィーが相手の剣を上へと逸らす。
そこからの、一回転して下駄での蹴りを出す。
「ふっ。」
それもまた防がれるも、その剣を足場にフワリと跳ぶ。
そして、強力な蹴りをオーディルへと与える。
「ぐううっ。」
受けた相手は大きく後ろへと下がる。
それを見たフィーは、着地と同時に踏み出す。
そのまま相手へと、剣を振るうが…。
「あまいなっ。」
「…っ!」
フィーの剣は、簡単に受け止められてしまう。
そこからの、鍔迫り合いで押し合う。
「纏えているな。よく、成長出来たものだ。しかし、その剣は偽りのもの。芯無き剣では通じまいっ。」
その言葉と共に、剣先の魔力で出来た部分が砕け散る。
どうやら、魔力で作っただけ剣は脆いようだ。
そんなフィーは、再び後ろへとフワッと下がる。
「強くなったのは認めよう。しかし、それではまだ届かない。我の剣を削ぐには至らないっ。」
そう言いながら、前へと跳ぶオーディル。
再び、フィーへと剣を振るう。
それに対して、剣を逆手に持ったフィーが受ける。
「…っ。」「はっ。」
剣と剣がぶつかり合う。
一度離れて、またぶつかり合う。
そうして何度か打ち合う。
そして、離れたと同時にフィーが指を相手に向ける。
「風よ。」
「ぐうっ。」
風の魔法をオーディルにぶつける。
それにより、一時的だが相手の体を固定する。
その隙を狙って、フィーが剣を振るう。
「…っ!」
「ふんっ。」
その剣を、後ろに跳んで避けるオーディル。
それでもフィーは、前へと踏み出す。
風に乗って、一気に詰める。
「…っ!」「はあっ!」
そうしてまた、お互いの剣がぶつかり合う。
次の瞬間、フィーが砕けて氷の欠片が散らばる。
「何っ?」
その正体は、氷に移した姿だったのだ。
しかも、砕けた先にフィーはいない。
すると、オーディルの後ろからフィーが現れる。
「…っ!」
「後ろかっ。」
すぐに気づいたオーディルが剣を後ろに回す。
そうして、フィーの剣を受け止める。
「…。」
剣を止められたフィーは、すぐに後ろへと回転する。
そして、フワッとゆっくり着地したと同時に指を上から下へと振る。
「氷よ。」
フィーの指の動きに合わせて、氷がお互いの間に生まれる。
そうして、オーディルの視界から消えて見せるが…。
「くだらんっ、この程度で目眩ましかっ。」
あっという間に、氷が砕かれてしまう。
しかし、目の前にフィーはいない。
それを見たオーディルが、後ろを振り向く。
「また、同じ手か?」
それでも、後ろからフィーは来ない。
代わりに、あちこちから氷の塊が生まれていく。
その氷には、周りの紫の聖火が綺麗に映る。
「増えた所でだっ。」
目の前の氷を砕いていくオーディル。
増えたのなら、全て壊せば良いだけだ。
それを見たフィーが、どこからか指を向ける。
「雷よ。」
「ん?」
そうして放たれた雷が、オーディルを襲う。
しかし、簡単に払われてしまう。
「あまりにお粗末。自分の居場所を伝えるようなものだ。」
雷を放った方に、フィーがいる。
そちらに向けて駆けるオーディル。
そして、そこにいるフィーへと剣を振るうが…。
「偽物かっ。」
そのフィーも、氷に写った偽物だ。
しかし、その横の氷にフィーが映るのが目に入る。
「なるほど。囮だなっ。」
すぐに振り向いたオーディルが、後ろから来るフィーの剣を受け止める。
そんなフィーは、先程のように後ろにフワッと回って着地する。
そうしてまた、目の前に氷を出して姿を隠す。
「隠れた所で意味などない!」
どうせまたフィーが近づくと、その身が氷に映るだろう。
そう判断し、また氷を見てフィーの場所を探る。
そうして、迫るフィーを見つけるが…。
「ここかっ。いや、違うっ。」
今度は、三ケ所にフィーの姿が映る。
これでは、フィーの場所が分からない。
それでもオーディルは、氷とは別の場所を見る。
「どうせ、違う場所から来るのは分かっているのだっ。」
映っているのなら、そこからフィーは来ない。
つまり、そこを背にすれば問題ない。
そうして、フィーの襲撃を防ぐ。
それでもまた、フィーは氷へと隠れる。
「無駄だっ。対策は見えている。」
いくら隠れても、同じように見つければ良い。
そう思った瞬間、四方の氷にフィーが映る。
「やってくれるっ。」
四方ともなると、背後を待つという戦法は取れない。
これでは、どこから来るかを絞れない。
「ならば、無理矢理絞るまでだっ。」
剣を振るって氷を砕くオーディル。
その先にある氷には、フィーは映っていない。
「やはりな。」
そこに飛び込んだオーディルは、すぐに後ろを見る。
そして、そこから迫るフィーの剣を受ける。
「その策、やぶれたり。もう隠れる事など出来ないだろう。」
これ以上続けても意味はない。
それでもフィーは、同じように氷に隠れる。
「無駄だと言って…。」
何度隠れても、同じようにすればいい。
そう思ったその時、全ての氷にフィーが映る。
「ぐっ、面倒なっ。」
この場にある全ての氷に映っている。
もはや、対策のしようがない。
ならばと、オーディルが剣を振るう。
「ならば、全ての氷を砕く。それで終わりだっ!」
そう叫びながら、オーディルが聖剣を振るう。
そして、その先から飛び出す斬撃が全ての氷を砕く。
それならば、隠れようなどないだろう。
「いい加減に出てこい!」
砕ける氷の結晶を見ながら叫ぶオーディル。
すると、その頭上からフィーが現れる。
そして、真下のオーディルへと剣を振るう。
「…っ!」
「見つけたぞ!」
迫るフィーの剣を、片方の剣で受ける。
そうして相手の剣を弾くと、もう片方の剣で斬りつける。
「おらっ!」
「…っ。」
それでもフィーは、下駄でその剣を逸らす。
そうして、もう片方の下駄で蹴り跳ばす。
「ぐううっ。まだまだぁ!」
後ろへと滑るオーディルは、地面に剣を刺して静止する。
それと同時に、聖剣の斬撃を複数飛ばす。
「…っ! 火よ!」
それを黙って見るフィーではない。
手元に作った火の塊を握り潰して複数に分ける。
そして、迫る斬撃へと投げて打ち消していく。
そうして爆発が起こる中で、お互いに駆けて剣をぶつけ合う。
「おらぁっ!」
「…っ!」
それでも、押し負けた方のフィーが後ろへと滑る。
やはり、半端な剣で通用するような相手ではない。
「もう策は残っていないだろう。お前の負けだ。」
色々な事を試した。
しかし、どれも通じなかった。
互いの実力の差は、まだまだ開いている。
「では、終わらせようか。少しは楽しめたよ。これで、さようならだ。」
二本の聖剣に力を込めながら、フィーへと突っ込むオーディル。
あの力を直接間近で放つつもりだろう。
それを受ければ、言葉通りフィーは終わりだ。
その時だった。
「まだよ! フィーさん! 受け取って!」
咄嗟の声に、そちらを見るフィー。
すると、そこから二本の剣が飛んでくる。
それを聖火で手繰り寄せる。
そして、その剣を投げ捨てると同時に両手で持ち手を引き抜く。
次の瞬間だった。
キーーーーーーーン。
ぶつかり合う両者の剣。
そうして、その剣をフィーが見る。
一つは、例の長剣だ。
そしてもう一つは…。
「フィーさん! その剣は、折れた貴方の剣と鑑の一部を混ぜたものよ!」
「つまり、今までの収集の力に加えて、吸収の力も宿してるって事!」
「だから、その剣は使う度に強くなります。貴方達に合わせて成長します!」
生徒会のメンバーが説明していく。
剣の収集の力と、鑑の吸収の力を宿した剣。
使う度に、その剣自身が魔力と一つになる。
まさに、成長する剣そのものだ。
更に、その剣には生徒会のメンバーの魔力がこもっている。
「私達の思い。もう一度貴方に託します! だから勝って! フィーさん!」
セイラが叫ぶと、それを聞いたフィーが頷く。
そして、オーディルの剣を上へとはねのける。
「…。」
「ぐっ。やるなっ。」
はねのけられたオーディルは、すぐさま後ろへと跳ぶ。
それを見送ったフィーは、片手に剣を持ちその反対の肩に長剣を担ぐ。
それを見たオーディルは笑う。
「面白い。まだお前はやれると言うのか。ならば、見せてもらおう!」
笑いながら剣を構えるオーディル。
それに答えるように、フィーもまた剣を構える。
その剣は、もう半端な剣ではない。
「…っ!」「行くぞおっ!」
こうして、互いの信念をかけた最後のぶつかり合いが始まる。