キュリアVSグルマドーナ
「ワープ成功っと。上手く離れれたねー。」
リュノの時と同じく、遠くの王都を眺めるキュリア。
そんなキュリアの後ろに、グルマドーナが現れる。
「ナンダイ。ハナレタダケカイ。テッキリ、ミズノナカニデモホウリナナゲラレルカトオモッタヨ。」
「それでも良かったんだけど、水場は遠すぎるからね。」
グルマドーナは、自身を纏う炎の対策を警戒したようだ。
そうなるとかなりの量が必要だ。
しかし、近くにそんな場所はない。
「そもそも、水なんかでどうにかなるもんでもないでしょ。それ。」
「ヨクワカッテジャナイカ。ソウサ、コノホノオハ、ソコラノミズナンカジャキエナイノサ。」
グルマドーナの炎は、水で消えるようなものではない。
むしろ、触れた水を蒸発させてしまうだろう。
その炎を見ながらキュリアが笑う。
「興味深い力だね。どうやったら消えるの?」
「サテネ。キニナルナラタメセバイイ。ソレマデニ、イノチガアレバノハナシダケドネッ!」
そう言いながら、前へと跳ぶグルマドーナ。
キュリアとの距離を一気に詰める。
そして、複数ある内の一本の剣を振るう。
「ハアッ!」
「よっと。って、あついっ!?」
相手の剣は、仕込み刀で難なく防げた。
しかし、近づいた時の熱気に慌てて逃げる。
それでも、逃がしてくれるような相手ではない。
「オット。ニゲルナンテ、サミシイジャナイカッ。」
「ちょおっ!」
キュリアが離れた瞬間、再び距離を詰めるグルマドーナ。
そうして、六本の腕から生えた剣で順番に斬っていく。
それを受けながら、キュリアは暑さに耐える
「あっつ、あっつあっつ、あっっっついっ!」
「ホラホラ、ニゲナイト、モエツキチャウヨ?」
「逃げても来るんでしょっ? …あれ、それもありかな。」
「アンタ、ヘンタイナノカ?」
「よく言われるよん。っと、あっついっ。」
そう言いつつも、迫る剣と炎の暑さに耐えるキュリア。
たとえ離れようとも、すぐに距離を詰められる。
これでは、いつか限界が来るだろう。
「あーもうっ。氷よっ!」
距離を取った瞬間に、氷の魔法を放つキュリア。
すると、周囲の水分がグルマドーナへと集まり氷と変わる。
それにより、グルマドーナが氷に閉じ込められるが…。
「ハッ、ムダダヨ。アタイノホノオハ、ゼッタイニキエナイノサ!」
ほんの一瞬で、氷が溶けていく。
やはり、この程度の氷では意味がない。
「そうなるよねっ。それじゃ、水よ!」
溶けて蒸発した水を頭上に集めるキュリア。
すると、大きな水の塊が出来上がる。
その塊は、激しく渦巻いて暴れている。
「水で消えないなら、消えるまで浴びせる!」
「ハン、ヤッテミナ!」
「言われなくてもっ。てやっ!」
その塊を投げる動作をするキュリア。
すると、それに合わせて水柱が噴出する。
そのまま、暴れ狂うように走る水柱がグルマドーナを襲う。
「うおおおおおおっ!」
水柱は出続ける。
そして、グルマドーナを襲い続ける。
それでも、その中で相手は立ち続ける。
「ドウシタ。トドキスラシテナイヨ?」
「ぐぬぬ。届く前に蒸発してやがる。」
どれだけ水をぶつけても、その周囲で消えてしまう。
これでは、いくらぶつけても意味がない。
そうして、遂に溜めた水を出し尽くす。
「オワリカイ? ザンネンダッタネェ。」
「いやはや、立派な炎ですこと。」
「トウゼンサ。ソレジャ、コンドハコッチノバンッテコトデッ。」
攻撃が止んだのなら遠慮する必要はない。
再び跳んだグルマドーナがキュリアを襲う。
それを見たキュリアが、慌てて手を突き出す。
「ちょまっ。土よ!」
「ムダサッ!」
咄嗟に、地面から浮き出させた土で防ぐキュリア。
しかし、六本の剣により一瞬で砕かれてしまう。
「コノテイドデ、フセゲルトデモ?」
「ぐうっ、なーんてね。土よ!」
「ナニッ。」
悔しそうな顔の演技をした直後、再び魔法を唱える。
すると、砕けた土の粉がグルマドーナを襲う。
「ふふっ。炎を消すのは、むしろ砂の方が良い場合もあるんだよん。」
「グッ、ナメタマネヲッ。」
砂の粒が嵐のようにグルマドーナを襲う。
そして、グルマドーナを中心に砂の嵐が渦巻く。
しかし、それでも炎は消えない。
「シツコイネェ。オラッ!」
そう叫ぶと同時に、腕を振るグルマドーナ。
すると、それに合わせて炎が舞って砂嵐を払う。
「へぇ、そんな事も出来るんだねー。」
「ソノトオリサッ。コンナフウニネ!」
今度は腕を縦に振るう。
そうして再び炎を操る。
その炎は、真っ直ぐにキュリアへと向かう。
「当たるとまずいね。風よ!」
その炎を防ぐべく、風を起こして身を守る。
それでも、火力は向こうの方が上だ。
次第に押し負け始める。
「ソンナノデモツノカイ?」
「残念だけど、無理そうかな?」
「ソウカイ、ナラバ、ソノママモエツキナ!」
炎の威力を上げるグルマドーナ。
それにより、更にキュリアが押されていく。
「ぐぬぬっ。」
風の威力を増やすが微々たるものだ。
そうして、遂に炎に飲み込まれてしまう。
「ハッハァ、ドンナモンサ!」
これだけの炎を食らえば、無事ではすまない。
その時、炎の中からキュリアの声が聞こえてくる。
「装身っ!」
「ナニッ!?」
直後、炎の中から空へと何かが跳んでいく。
そして、漆黒のローブに身を包んだキュリアが現れる。
その手には、大きな杖が握られている。
「いやっほーい! 暴れるよんっ!」
そう叫びながら、周囲に炎を浮かべるキュリア。
更に、その炎は自由にキュリアの周りを回る。
「ていっ!」
その言葉と共に、杖を前に突き出す。
すると、それに合わせて炎が飛び出す。
そして、グルマドーナを襲っていく。
「グウッ。」
直撃する度に、大きく燃え上がる。
それでも、相手にはダメージ一つない。
「ホノオニホノオハキカナイヨ!」
「そうでもないよんっ。水よ!」
キュリアの杖に合わせて水の塊が飛んでいく。
それでもすぐに蒸発する。
「ダカラムダダトッ!」
「風よ!」
間髪いれずに風を発生させるキュリア。
そのまま、蒸発した水を魔法で混ぜた風がグルマドーナを襲う。
それにより、あらゆる自然が焼けていくが…。
「クダラナイ! コレガナンダッ。」
かなりの熱を持った風でも、グルマドーナを焼くには至らない。
その体は、どんな熱にも抵抗があるようだ。
そんなグルマドーナは、キュリアに向かって高く飛ぶ。
「チャバンニツキアウノハアキタ! コンドハコッチカライクゾ!」
炎を翼に変えて飛びながら剣を振るうグルマドーナ。
それを、キュリアが杖で受け止める。
「くうっ。」
「マダマダッ!」
衝突により吹き飛び合う両者。
それでもすぐに前に出る。
そうして、何度か打ち合っていく。
「オラアッ!」
「風よ!」
離れた拍子に、炎と高温の風が衝突する。
それでも、押し負けたキュリアが横に避ける。
そんなキュリアを炎が追う。
「ホラホラ! ニゲナイト、ヤイチャウヨ?」
どこに逃げても追いかけてくる。
横に避けようが、上下に逃げようがお構い無し。
それでも、風で押しながらも逃げていく。
それでも、炎がキュリアを追い詰める。
そして遂に、キュリアが逃げるのを止める。
「ハッ、アキラメタノカッ。ナラ、エンリョナク!」
脱力するように、炎へと体を向けるキュリア。
そんなキュリアへと容赦なく炎が迫る。
その時、キュリアが笑う。
「それは…どうかな?」
次の瞬間、キュリアに迫る炎が消える。
それにより、キュリアに炎は届かない。
その光景に驚くグルマドーナ。
「………。…ッ!?」
その口から声は出ない。
正確には、声が周りに届かない。
何故なら…。
(真空の世界にようこそ。)
この空間は真空だ。
だから声が届かない。
だから炎も消えてしまう。
(逃げてる間に、空気の層を作っててね。そして、その中の空間を魔法で隠す。しかも、君の炎も手伝ってくれたお陰で簡単に空気を抜けたよん。ありがとねー。)
炎を消す為の真空だ。
それなのに、炎がそのお手伝いをしてしまった。
なんとも皮肉な結果だろうか。
「……ッ! …………ッ!」
グルマドーナがなにやら叫んでいるようだ。
どうやら、怒っておるようだ。
しかし、声が聞こえないので分からない。
(だから聞こえないって。でも、この状況でも君の炎は消えないんだね。)
真空なので、炎は着かない筈だ。
それでも、グルマドーナが纏う炎は着いたままだ。
どうやら、普通の炎ではないようだ。
(本当に興味深いよ。でも、そろそろお互い息が限界かな? という事で、手っ取り早く終わらせるよん。)
そう言いながら、手元に隠しておいた物を取り出す。
つまり、この空間にあった空気だ。
それを固めた物を、手元に浮かせる。
「……ッ。」
(それじゃ、さようならっ!)
手元の物を投げるキュリア。
それは、一直線にグルマドーナの下へ。
そして、グルマドーナが纏う炎に触れる。
次の瞬間…。
ドゴーーーーーーン!
激しい爆炎がグルマドーナを襲う。
更に、空間全体に広がっていく。
それだけでなく、空間を作る空気層をも破壊する。
そして、キュリアもまた笑いながら巻き込まれる。
そうして広がる爆炎から、二つの何かが地面に落ちる。
「くはあ。あそこまで広がるとはね。」
ここまでの威力になるとは思わなかったようだ。
それでも、その顔は笑っている。
「でも、爆発を受けるというのも良いもんだねぇ。満足だよん。」
あれ程の爆発でも、キュリアにとっては興味の対象だ。
それに自分が巻き込まれるのも、興味の一つでしかない。
思わぬ成果に満足をしているようだ。
しかし、近距離で受けた相手は違う。
「さて、あれを近くで受けたからね。流石に消し飛んだかな?」
そう言いながら、グルマドーナが落ちた方を見る。
どうやら、動きはないようだ。
その時だった。
「ヤッテクレルネ。」
その言葉が、グルマドーナが落ちた方から聞こえてくる。
直後、そこから体のあちこちが削れたグルマドーナが立ち上がる。
「ココマデオイコマレタノハ、ハジメテダヨ。」
「へぇ、よく生きてたね。生きてるか判断はしづらいけどね。」
「…イキテハイナイ。シンデモイナイ。ソレガ、コノカラダ。」
その言葉と共に、欠けた体が戻っていく。
そして、体を纏う炎も戻っていく。
それどころか、その身に集束されていく。
「イマノアタイハ、ホノオノケシン。イノチトイウガイネンナドナイノサ。」
「つまり、不死身って事?」
「ソノトオリ。モチロン、ソレダケデハナイサ。」
その言葉と共に、その身に宿る炎の温度が上がっていく。
次の瞬間、周辺の大地が消えてなくなる。
「チカクニアルモノスベテヲハイニカエル。ソレガ、モエナイモノデアッタトシテモネ。」
その空いた中央に、橙色の何かが浮いている。
その身はもはや、炎そのものだ。
かろうじて、グルマドーナの形をしていると分かる。
その本体が放つ熱さにキュリアが耐える。
「先程とは桁違いの熱さだね。近づいただけで消滅しちゃうかな。」
「アンシンシナ。アツサナド、カンジルヒマモナクケシトブカラネ。」
流石のキュリアでも、近づくだけで消えてしまうだろう。
実際に、グルマドーナが持っていた剣は跡形もなく消えている。
それ程の温度を宿しているという事だ。
「サァ、アンタハブジニ、イキノコレルカナッ。」
そう言いながら、その場で手を振るうグルマドーナ。
すると、その先の地面が消し飛ぶ。
更に、その先にいるキュリアが横に避ける。
「危なっ。」
直後、避ける前にいた場所が消えて無くなる。
少しでも遅れていれば、同じような目に合っていただろう。
それでも、グルマドーナ攻撃は続く。
「サァニゲロ。ヨインヲアジワウコトナク、キエテクレルナヨ!」
手を振る度に、地面が消し飛んでいく。
それに巻き込まれないように、キュリアが駆けていく。
「そう簡単にはなくならないよん。って、言いたいところだけどっ。」
そう言いながら、魔法を放っていくキュリア。
様々な属性の魔法を投げていくも、当たる直前で消し飛んでしまう。
すると、キュリアが向かう先にグルマドーナが腕を振るう。
「ソコダッ!」
「ちょっ。」
キュリアが通ろうとしていた場所が消えてなくなる。
しかし、キュリアは急いで下がったので無事だ。
それでも、下がった場所へと相手が腕を振るう。
「ちょっ、まっ、うおっと。」
そこから飛び退いて避けるキュリア。
それでもそこに振るわれる攻撃を避ける。
そして、最後には空へと逃げる。
「あーぶなっと。当たったらどうするつもりだい? …あれ、でもちょっとぐらいなら良いかな? とか思っちゃったり。」
「ヤハリヘンタイカ。ソレナラ、オノゾミドオリニシテヤルサッ。」
そうして、今度は上空にいるキュリアを追うグルマドーナ。
そうして一気に接近されるも、キュリアは横に飛び退いて避ける。
「ストーップ! その状態で来るのは卑怯じゃない?」
「ドウシタ? ウケテミタイノダロウ?」
「それはそうだけど…さっ。」
受けてはみたい。
しかし、受けたらそれで終わりだ。
そう簡単には受けられない。
「このままだとまずいかな。仕方ない、あれやるか。」
そう言いながら、一度攻撃を避けてから地面に降りる。
すると、それを見たグルマドーナも降りてくる。
「ドウシタ? アキラメタノカ?」
「いーや、こっからだよ! 行くよ、影姫!」
そう叫ぶと同時に、前に杖を突き出すキュリア。
それを見たグルマドーナは、念の為に身を守る。
しかし、何も起きない。
「ナンナンダイ?」
「えーと、ちょっと待ってね。おーい、影姫ーっ。」
不審がるグルマドーナをよそに、キュリアが自身の影を杖で叩く。
そうしながら何度も呼ぶが返事はない。
「おーーーーい。起きろーーーっ。寝てるのは分かってるんだぞーーー。」
今度は叫びながら影を叩く。
やはり反応はない。
そう思い始めた時だった。
「我の眠りを妨げるのは誰ぞ。」
どこからか、冷たい声が聞こえてくる。
すると、キュリアの影から着物を着た若い女性が現れる。
そして、その身なりはどこか暗い。
「私だよん。ってか、結構煩くしたのに良く寝れてるね。」
「お主か。影の奥に音など来まい。して、何ようぞ。また上手い飯かえ?」
「戦・闘・中! そんな暇は無いよんっ。ほら、あれやるよ。あれ。」
「そうかえ。それは、やる気が出ないのう。」
「おーーーい。」
なにやら、いきなり騒ぎ出すキュリア。
眠そうな女性の影を必死に揺らす。
しかし、グルマドーナは別の所に着目する。
「ショウキ。アンタ、コッチガワノソンザイダネ?」
「誰ぞ? いきなり。まぁ、答えるならそうじゃ。我は魔界の精霊にして女王なり。」
その身からは、瘴気が溢れている。
魔界の住人である証拠だ。
すると、それを聞いたグルマドーナが睨む。
「ナラドウシテ、ニンゲンナンカニツイテイル。」
「我が誰と組もうと勝手じゃろう。」
「イヤ、カンケイハアル。ワレラヘノウラギリソノモノダ。」
「契約もしていないのに裏切りとな。失礼な奴じゃの。」
同じ魔界の住人同士なのに、話が交わる事はない。
睨むグルマドーナの前で、女性は暇そうに欠伸をしている。
それを見たグルマドーナは、更に怒りを強める。
「ウラギリモノニハシヲ。オマエモ、ソイツトモドモケシサッテヤルヨ。」
「ほう、我とやる気かえ。良いじゃろう。お主、あれをやるぞ。」
「うん、そうだね。そのつもりで呼んだんだけどねー。相変わらず、自分の道を歩む子だよ。まぁ良いか。」
女性に呆れながらも、グルマドーナを見るキュリア。
すると、そんなキュリアの背中に女性がもたれつく。
そして、女性の体が溶けていく。
「「心装。」」
その言葉と共に、女性が漆黒のローブと同化する。
すると、そのローブが鎧と化していく。
それと共に、杖が一本の剣へと変わる。
そして最後に、頭の帽子を鎧に変える。
「心装、イオール・チャカス。」
キュリアの心装。
全身を身に包んだキュリアが剣を構える。
その姿を見たグルマドーナが笑う。
「ハンッ、ヨロイヲキタダケジャナイカッ!」
そう言いながら、腕を振るうグルマドーナ。
そうして、キュリアへと消滅の力が迫るが…。
「そう思うかい?」
そう言いながら、キュリアが剣を振るう。
それだけで、キュリアを襲う消滅の力が消し飛ぶ。
「ナ、ナニヲシタッ!」
「君と同じ事をしただけだよん。」
その言葉と共に、キュリアが駆ける。
そんなキュリアへと、グルマドーナが腕を振るう。
しかも、何度もだ。
「ワケガッ、ワカラナイッ、コトヲッ!」
「言ってる通りだよん。」
複数の迫る消滅の力を斬っていくキュリア。
それだけで、消滅の力が消えていく。
そして、そのままグルマドーナへと迫る。
「クルナッ!」
咄嗟に後ろへと逃げるグルマドーナ。
その後を、キュリアが追う。
そんなキュリアへと、消滅の力を放つが…。
「良いよ。さぁもっと。」
その力を消しながら迫るキュリア。
そうして、一定の距離で迫ってくる。
そして、その顔をグルマドーナが見る。
「ワラッテヤガル。タノシンデイルノカッ。コノジョウキョウヲッ。」
笑いながら、キュリアは近づいてくる。
まるで、追いかけっこを楽しんでいるかのように。
しかし、それは違う事に気づく。
「イヤ、チガウ。サイショカラダ、ズットコイツハワラッテイタ。サイショカラ、タタカイヲタノシンデヤガッタンダ!」
追い込まれた時も追い込んだ時も、ずっとキュリアは笑っていた。
最初から、楽しむ為に戦っていたのだ。
しかし、戦い自体が楽しい訳ではない。
「アタイノチカラヲタメシテタンダ。マルデ、ジッケンドウブツをミテイルカノヨウニ。」
戦っている振りをして、グルマドーナの力を試していたのだ。
どうすれば消えるのか、どうすれば威力が上がるか。
そして、戦いの最初の言葉を思い出す。
(興味深いね。どうやったら消えるの?)
グルマドーナの力を見て発した言葉だ。
あの言葉こそが、キュリアが戦う理由そのものだ。
そして、その後の言葉も思い出す。
(モエツキチマイナ!)
(…あれ? それもありかな?)
燃え尽きろと言われて発した言葉だ。
その言葉は、冗談でも何でもない。
「ハッ、ホントウニウケタカッタダケカ。アンタハホントウニ、ヘンタイノクソヤロウダヨッ。」
キュリアにとって、全てが興味の対象だ。
その興味に、付き合わされただけなのだ。
そう思い至ると、怒りが奥底から湧いてくる。
「コンナヤツニッ。コンナヤツニーーーーッ!」
この自分が、人間ごときに弄ばれた。
そんな事を許すようなグルマドーナではない。
その気持ちが、グルマドーナを前進させる。
「キサマナンカニッ。スキニサレテタマルカイッ!」
そう言いながら、前へと踏み出すグルマドーナ。
そうして、迫るキュリアへと立ち向かう。
キュリアに向かって、消滅の力を放つ。
「アタイハツヨイッ。コンナヤツナンカニマケナイヨ!」
そうして、消滅の力を放っていくグルマドーナ。
しかし、非情にもキュリアの笑顔が目の前に迫る。
「ようやく近づけたね。」
「ナッ。」
直後、グルマドーナの視界が無くなる。
辺り一面が、暗闇の世界。
その光景に、グルマドーナが咄嗟に目を覆う。
「ナ、ナンダッ。イッタイナニガッ!」
「言ったじゃん。君と同じ事をしたって。君の力は消滅。そして、私の力も消滅。と言っても、熱量で消滅させる君と違って、私の消滅は隠しただけなんだけどね。」
消滅した訳ではなく隠しただけ。
それにより、グルマドーナの力と視界を消し去ったのだ。
「グッ。ナニモミエナイッ。」
「まぁ、視界を隠したからね。でも大丈夫。すぐに見えるようになるよん。」
「ナニッ?」
その直後だった。
グルマドーナの視界に彩りが戻っていく。
ただし、普通の景色ではない。
まるで、絵のような彩りが絨毯のように引かれていく。
天地の全てが絵の彩りに染まっていく。
「ナンダ、コレハッ。」
「君の世界だよん。ほらっ。」
何処からか、再びその力を叩き込まれる。
それにより、グルマドーナが纏う炎が消滅する。
代わりに、天に顔の着いた太陽が浮かぶ。
その顔は笑っており、口から笑い声が聞こえてくる。
更に、その笑い声は口の着いた火の塊へと変わっていく。
「コレガワタシノセカイ? バカニシテルノカッ!」
「してないよん。正真正銘、君から奪った力を具現化したものだよん。」
生まれた火の玉が、絵の絨毯の上を楽しそうに走り回る。
そんな火の玉の様子を、太陽が笑顔で見守っている。
「でも安心して。消せるのは概念だけ。実物は消せやしない。そして、消せるのは剣と剣を持つ者が触れたものだけ。」
何でも消せる訳ではない。
その力には、制約が多いのだ。
それでも、充分過ぎる力だろう。
そうして、今度は相手の体力を消滅させる。
「グアッ。クソッ、カラ…ダ…ガッ…。」
その場に倒れるグルマドーナ。
その体は動かない。
指一本動かせない。
口もまた動かなくなる。
代わりに、絨毯に生えていた草がピョコンと飛び出る。
その草は、棒のような手足で動き出す。
「動かないでしょ。動かす力を隠したからね。」
「……ッ! ………ーーーーーーッ!」
「おっと、まだ口が動くんだね。まぁ、良いか。」
もはや、声を出す体力もない。
そんなグルマドーナは、口を何度も開閉するだけだ。
それでも、声は出ない。
代わりに、背景がリズム良く動き出す。
雲や花が楽しそうに揺れる。
そんな世界の中心にキュリアが現れる。
「さぁ。ようこそ、混沌な世界へ。あははははっ。」
あらゆるものが楽しく動く世界の中心でキュリアが笑う。
そんなキュリアに合わせて、周りのものも楽しく動く。
「どうだい? 君は今、どんな世界にいるんだい? 楽しい世界かい? 悲しい世界かい? どんな混沌とした世界だい?」
興味深そうに質問をし続けるキュリア。
それでも相手は喋れない。
その様子を見たキュリアは笑う。
「それじゃ、そのまま混沌の中へごしょーたーい。」
そう言いながら、倒れているグルマドーナへと剣を突き刺す。
そうして、最後に本体の意識を消滅させる。
「では、良い旅を。」
口に指を当て呟くキュリア。
こうして、グルマドーナとの勝負に勝ったのだった。