聖剣VS人工聖剣です
「あくまで足止めだ! 深追いはするな!」
「分かってらぁ!」
そう叫びながら、駆け出すリュノとスターク。
そのまま武器を振るうと、グルマドーナとメイカーラが生身で受ける。
「ナニカシタカイ?」
「チャントコウゲキスルトイイヨ。サァ。」
もはや、向こうは防ぐ事すらしない。
それでも、ダメージ一つ与える事が出来ない。
それどころか、二人の剣に払われてしまう。
「「まだまだぁっ!」」
それでも、すぐに前へと駆け出す二人。
何度も攻撃を与えていく。
その後ろでは、ファウストが光の斬撃を飛ばす。
「動ける者は動けない者を結界の中へ! 急ぐんだ!」
足止めをしている間に、避難をさせているようだ。
動ける騎士が倒れている者を担いで、王都の中へと運んでいく。
それを見送りながらも、再び光の斬撃を飛ばす。
しかし、相手には傷一つつかない。
「ドウシタ? ヤケニショウキョウテキジャナイカ。」
「どうせ何かを企んでいるのだろう。」
「ハハッ。ワルアガキッテヤツカ。ムダナコトヲ。」
先程から同じ事を続けているのだ。
流石に、こちらの作戦に気づきもするだろう。
それでも、武将達の視線は奥へと向かう。
「しかし、逃げられるのは面倒だな。潰すのに手間がかかる。」
「ナラ、ケッカイトヤラヲコワセバイイノデハ?」
「ありだな。あの実験場はもう用済みだ。滅ぼしても良かろう。」
「ハハッ、サンセイダヨ!」
狙いを王都へと変えた武将達が動き出す。
逃げ込む場所ごと破壊する気だろう。
そうして前進を始める武将達に三人が慌て出す。
「まずいな。破壊される訳にはいかないんだが。」
「じゃあ、止めるしかねぇだろっ。」
「同感だよ。何としてでも食い止めるっ。」
王都の中には、まだ多くの者達が残っている。
その中を破壊されれば、多くの犠牲者が出るだろう。
それを阻止するべく、三人が攻勢に出る。
そうして攻撃を与えていくが、どうする事もなく追い込まれていく。
そして、ついには王都の壁まで押し込まれる。
「やべぇ! 王都まで来ちまったぞ!」
「それでも押すんだ! 絶対に通すな!」
だからといって、諦める道理などどこにもない。
押されても、攻撃を与え続けていく。
すると、その後ろからフラリア王が現れる。
「うおおおおおおおおっ!」
「「師匠!?」」
いきなり現れたフラリア王もまた攻撃を与えていく。
ふらつきながらも、大剣を振るっていく。
そんなフラリア王の横にスタークが並ぶ。
「おい! 寝てなくて良いのか?」
「これだけ騒がしいと、おちおち寝てられん。それに、王都のピンチに動かずにはいられ巻まいて。」
「そうかよ。じゃあ、せいぜいきばんな。」
「言われんでもなっ。」
そう言いながら、フラリア王が剣を振るう。
そして、歩いてくるオーディルへと剣を交える。
しかし、すぐに吹き飛ばされてしまう。
それでも、すぐに体勢を立て直す。
「王の名にかけて! ここから先は通さん!」
「ソウカイ。マァ、ムリヤリトオラセテモラケドネッ。」
多少無理して止める四人だが、それでも止まらない。
どれだけ攻撃しても、簡単に弾かれてしまう。
その様子を見ながら、オーディルが剣を構える。
「力を溜める。その間は頼むぞ?」
「マカセナッ。」「マカセルトイイヨ。」
結界を破壊する為だろう。
人工聖剣に強い光が溜まっていく。
それを許す四人ではない。
「無理やり壊す気か! 止めるぞ!」
「おう!」「えぇ!」「あぁ!」
オーディルを止めるべく、四人が駆け出す。
まずは、スタークとフラリア王が駆ける。
そして、その間をファウストが抜けようとするが…。
「オット。ムシガイッピキ。」
「メザワリダネッ。」
二人を飛ばした二体がファウストへと剣を振るう。
それにより、ファウストが飛び退く。
その代わりに、リュノが前に出る。
「おらっ!」
斧を振って、激しい衝撃波を飛ばす。
しかし、相手を吹き飛ばすにはいられない。
それを見たリュノは、ファウストの横に着地する。
「悪いけど、通してくれないかい?」
「ハッ、トオスワケガナイダロ?」
通せと言われて通す二体ではない。
それでも、数はこちらの方が有利だ。
しかし、それは向こうも察している。
「デモ、サスガニコノカズノサハメンドウダネ。オラ! オマエタチ! チカラヲカセ!」
「サカラウト、ドウナルカワカッテルヨネ!」
二体の武将の声で、上空の魔物達が降りてくる。
数には数をぶつけるようだ。
そうして襲い来るのを、リュノが斧で吹き飛ばす。
「手下任せか、卑怯な奴らだな。」
「ネンニハネンヲサ。スキナダケイウトイイサ。」
実際に、迫る魔物のせいで三人は攻めあぐねている。
効果があるのは間違いない。
しかし、その勝機をファウストは見逃さない。
「もう一度出るっ。協力してくれるかいっ?」
「聞こうかっ。」
「何をすればっ、良いんだっ?」
聞き返さずに乗っかるフラリア王とスターク。
今さら聞き返すような関係ではないのだ。
そんな二人へと説明する。
しかし、その様子に武将達が気づく。
「ナニカスルキカイ? イマサラ、ナニヲシテモムダダヨ。」
「ふっ、それはどうかな?」
その言葉と共に駆け出すファウスト。
それに対し、武将達が立ち向かう。
「ヤブレカブレカイ?」
「そう思ってくれて、結構だよ!」
そう叫ぶと同時に、ファウストの後ろから大量の魔物が現れる。
そして、武将達へと降るように襲いかかる。
「メカクシカ。」
「ナラバ、クルネ。」
その意味を予測した二体の武将は、大量の魔物へと突っ切る。
そして、魔物に隠れて迫って来ていたフラリア王とスタークを襲う。
「なっ。」「んなっ。」
「ザンネン、バレバレサ。」
「フキトビナ。」
二体の武将の攻撃を受けた二人が吹き飛ぶ。
目隠しを利用して近づこうとしたが、見破られてしまったのだ。
しかし、本当の目的には気づいていない。
「オヤ。サッキノケンセイハ?」
「後ろだよ、馬鹿やろう。」
「ナニッ?」
今さら気づいても遅いだろう。
既にファウストは、二体を越している。
そして、オーディルの下へと向かっている。
「聖剣には聖剣を! 覚悟しろ!」
そう言いながら、オーディルへと剣を振るう。
それに対して、オーディルは剣で防ぐ。
聖剣と人工聖剣がぶつかり合う。
「それ以上は溜めさせない。」
「ふん。」
それでも、オーディルは相手の剣を払って斬りつける。
次の瞬間、ファウストの姿が消える。
「残像だっ。貰ったよ!」
残像の向こうから本体が現れる。
そうして斬りかかるも、あっさりと受け止められる。
それでもすぐに、姿を消す。
「どうしたんだい? 力は溜めなくて良いのかい?」
そうして、何度も打ち付けて相手の動きを止める。
その間、相手は人工聖剣に光を溜められない。
それを見た他の武将が向かおうとするが…。
「オーディル! イマイクヨ!」
「させん!」「させねぇよ!」「させない!」
フラリア王とスタークとリュノが後ろから斬りかかる。
それを受け止める二体だが、オーディルの下へと向かえない。
「隙を見せたな。アホが。」
「それを見逃すと思っているのか?」
「ハン。ザコガ。イイキニナルナヨ。」
そうして向き合う三人と二体。
しかし、それで勝てる訳ではない。
それでも、足止めには充分だろう。
その間にも、ファウストとオーディルが打ち合う。
「どこ見てんだい? 僕はこっちだよ。」
斬られては消えるの繰り返し。
時には反撃に出るも防がれる。
それでも動きを封じている。
「案外たいした事ないね。この程度で動けないなんてさ。」
「よかろう。そんなに斬られたいならっ。」
そう言いながら、何もない空間へと剣を振るうオーディル。
すると、いきなり姿を現したファウストが後ろへと滑る。
「斬ってやる。」
ファウストは、堪えたままで動けない。
その隙を狙って前に出るオーディル。
しかし、それを見たファウストは笑う。
次の瞬間、オーディルの体が複数の斬撃で斬られたのだった。
「ぬうっ。」
ファウストが剣を振った素振りはなかった。
それでも、間違いなく斬られている。
その隙を狙ったファウストが前に出る。
「これが聖剣の応用の力。作った斬撃は残せるさっ。」
「ぐっ。」
そう言いながら、オーディルの胴体へと聖剣を叩きつける。
それを受けたオーディルは、後ろへと下がっていく。
それを見た者達が叫ぶ。
「「オーディル!」」
「おっしゃあ! やるじゃねぇか。」
「そのまま斬ってしまえ!」
その結果に、それぞれ感情を表に出す。
なにせ、ようやく浴びせた攻撃なのだ。
それでもオーディルは笑う。
「あはは、あはははっ、あはははははっ。」
笑って笑って笑い続ける。
そして、消えるように笑い終える。
「やはり、貴様らは面白い。」
「驚いたな。怒らないのかい?」
「言った筈だ、そんなのは当に削ぎ落としたと。」
斬られても尚、余裕を崩さない。
むしろ何事も無かったように立つ。
その目は、懐かしむように空を見る。
「かつての私の住んでいた所は滅ぼされた。とある強力な魔物にな。そして、そいつへと復讐する為に私は剣を振り始めた。よくある話だ。」
住みかを滅ぼされた。
だから復讐する。
単純な話だ。
「当然、初めは憎しみで剣を振っていたさ。だがな、振る度にどうでもよくなった。一振の度に、邪な考えが消えていったのだ。まるで、その振りに削ぎ落とされるようにな。そして、全ての邪な感情が削ぎ落とされた時、私は帝と呼ばれる程の力を得た。」
その一振の度に、かつて抱いた憎しみが無くなっていったのだろう。
それと引き換えに、とてつもない剣の才能に目覚めたようだ。
そう昔の話を語ったオーディルは、剣の持ち手を変える。
「楽しませて貰ったお礼だ。そうして手に入れた力を見せてやろう。」
「へぇ、それじゃ僕も本気で行こうかな。」
そう言いながら、ファウストが駆け出す。
そのまま、姿を消して剣を振るう。
それを見たオーディルは、ただ剣を振り上げる。
「そうすると良い。でなければ…。」
次の瞬間、ファウストの体を叩き斬る。
「一瞬で終わってしまうからな。」
それを受けたファウストは、地面へと膝をつく。
体から、大量の血を吹き出しながら。
それを見たフラリア王とスタークが叫ぶ。
「ファウストっ!」「ファウストーーーーっ!」
そう呼ばれたファウストは、口を開けて固まっている。
そんなファウストをオーディルが見下す。
「やはり、人は儚い。これでは、斬る余韻すらない。私はただ、剣の道の行き着く先を見たいだけなのに。」
そう言いながら、剣でファウストを拾い上げる。
そして、そのまま遠くへと振り投げる。
そんなファウストに、フラリア王とスタークが駆け寄る。
「ファウスト! しっかりせい!」
「おい! 無事か! 聞こえてるなら返事をしろ!」
斬られたファウストは、口を開けたまま失神している。
そして、その体は冷たくなっていく。
「ファウスト! 起きろ!」
「まずいな。こうなると、キュリアちゃんじゃなきゃ直せない。やっぱり、一人で任せるべきではなかったか。」
寄り添いながら、ファウストへと魔力を注ぐリュノ。
そうしながら呼び掛けるも反応はない。
そして、その声に騎士に運ばれているアルティスが目を覚ます。
「兄…さん?」
自分の兄が呼ばれているのに気づいたのだろう。
自身を担ぐ騎士の人を振り払う。
「兄さん!」
「お、おい!」
やつれた体で駆け出す。
そのまま、結界の外へと飛び出す。
そして、抱えられている自分の兄の姿を見る。
「兄さーーーん!」
そう叫びながら、自分の兄へと抱きつく。
そして、その体の冷たさに気づく。
「兄さん! 目を覚まして!」
そう叫ぶも、やはりファウストの反応はない。
その体が冷たくなり続けるだけだ。
その様子を無視したオーディルは、地面に落ちた本物の聖剣を拾う。
「ついでだ。これも貰っておこうか。」
そう言いながら、掲げた二本の聖剣を重ねるオーディル。
こうして、二本の聖剣がオーディルの手に渡ったのだった。
そんなオーディルへと、他の武将達が駆け寄る。
「スマナイ、オーディル。トオシチマッタ。」
「構わん。こうして、面白いものも手に入ったしな。」
見せびらかすように、奪った聖剣を見せつける。
そうしている間にも、人工聖剣の力が溜まった事に気づく。
「丁度良い。お前達、下がれ。準備が出来た。」
横に避ける武将達の間を抜けて前に出るオーディル。
そうして、光り輝く人工聖剣を天へと掲げる。
「さぁ、終わりにしようか。お前達もすぐに、そいつと同じ場所に送ってやろう。」
「くそっ。もう、終わりなのか?」
対抗手段はもうない。
このまま受けるしか無いのだろう。
そしてついに、人工聖剣が振るわれる。
「さらばだ。我を本気にさせた誉れと共に散れ。」
その言葉と共に、人工聖剣が振り下ろされる。
それと共に、辺りを破壊の光が包み込む。
「くそおおおおっ!」
そう叫ぶも、破壊が生む無音にかき消される。
音が無くなり、姿も無くなる。
その時だった。
紫の聖火が、その光を受け止める。
無音の代わりに鳴る激しい爆発音。
吹き飛んでいく大地。
その中で、スターク達は自分達が生きている事に気づく。
「生きてるのか?」
立ち込める煙の中で、自分の無事を確かめる。
そして、武将達もまた気づく。
「イキテヤガルッ!」
「オイオイ! ドウナッテンダイ!」
「……。」
驚いて、その光景を見る一同。
すると、その視界の端で紫の聖火が走る。
その聖火は、辺りを囲うように燃え広がる。
その聖火に、スターク達が気づく。
「こいつは嬢ちゃんの?」
「聖火か。こんな濃い色は初めてだ。」
「どうやら、間に合ったようだな。」
その聖火は、フィーが剣に宿していたものだ。
その紫の聖火を見ていると、どこからか音がする。
カラン、カラン、カラン、カラン。
それは、木で石を叩いた時の音だ。
まるで足音のように、その音が近づいてくる。
その音は、王都の方から聞こえてくる。
すると、その音を聞いた武将が叫ぶ。
「ダレダ! デテコイ!」
そう叫ぶと同時に、音が聞こえてくる方を見る。
そして、スターク達もまたそちらを見る。
すると、そこから人の影が現れる。
その者は、足に下駄を履いている。
その体には、紫の大きな羽織を纏っている。
そして、赤い隈が入った猫の仮面が顔の半分を覆っている。
その下に見える口は、変わる事なく閉じたままだ。
その人物は、結界の外に出て立ち止まる。