フィーとにゃんすけの覚悟です
遠くから爆発音が聞こえてくる。
それと同時に、人間の悲鳴も聞こえてくる。
近くで激しい戦いがしているのが分かる。
しかし、それどころではない。
にゃ?
大丈夫?
横で座るフィーへと声をかける。
しかし、反応は返って来ない。
どうやら、意識が朦朧としているようだ。
そんなフィーを見てると、横にキュリアが現れる。
「やっほー。元気にしてる?」
にゃにゃっ?
あれ、どうしてここに?
キュリアは前線で戦っている筈だ。
それなのに、なぜかここに現れたのだ。
そんなキュリアは、項垂れているフィーを見る。
「まぁまぁ。話したい事はあるけど、先に場所を変えるよ。ここだとうるさいからね。」
そう言いながら、俺達ごとワープで移動する。
次の瞬間、城が大きく見える場所へと景色が変わる。
どうやら、城の近くまで飛んできていたようだ。
「それで、フィーちゃんはどうだい?」
にゃああ。
駄目かな。
反応無しだよ。
首を横に振って意思を伝える俺。
ずると、それが通じたのかキュリアは深く息を吐く。
そうしながらも、フィーの顔を覗き込む。
「なるほどね。カミーユちゃんの件がショックだったのかな? 体の方もダメージが大きいみたいだし。よく頑張った方だよね。」
にゃあ。
そうだね。
よく頑張ったよ。
頑張ったんだけど…。
長期に渡る戦いによる疲労と、激しい体へのダメージ。
それに加えてカミーユが連れ去られた事による衝撃を受けたのだ。
こうして意識を失うのも無理はない。
しかし、このままでという訳にはいかない。
「本当ならこのまま休ませてあげたんだけど、お互いそういう訳にはいかないからね。そういう事で…ほいっ!」
いきなり指を振るキュリア。
すると、フィーの上から冷たい水が降ってくる。
ついでに、俺の上にも降ってくる。
「冷たあっ!?」
にゃっ!?
なんで俺まで!?
あまりの冷たさに、意識が一気に呼び起こされる。
それにより、勢いよくフィーが飛び起きる。
「やぁ。意識は取り戻した。」
「やぁじゃないだろ! もっと、まともな起こし方があるだろ!」
にゃ!
全くだよ!
あまりの冷たさに怒るフィー。
しかし、無事に意識を取り戻したようだ。
それでもキュリアは冷静に返す。
「いやね? 今の君達には、こっちの方が良いと思ってね。こうでもしないと、落ち込んだままだったんじゃない?」
「それは…まぁ。」
普通に起こせば、カミーユの件を引きずったままだったろう。
それを一旦忘れさせる為に、あえて怒るような起こし方をしたのだ。
それを聞いたフィーは、心を落ち着かせる。
「ちなみに、今はどうなっている?」
「押されてるね。思ったより強くて焦ってるよん。」
「なら、カミーユは…。」
「当然まだだよん。オルティが向かってるけど、助けるのは厳しそうかな。」
そうだよね。
だって強かったもん。
戦況は、こちらが圧倒的に不利だ。
これでは、カミーユを助けるどころではない。
それを聞いたフィーが落ち込む。
「私が弱いせいだ。もし力があったら、あの時手が届いてたかもしれないのに。」
そう言いながら、自身の手を見るフィー。
思い浮かべるのは、帝にカミーユが連れ去られた時の事だ。
もし自分に力があれば、助けられたかもしれない。
「いつもそうだ。大事な所で届かない。私では、何も出来ないっ。知っていて何もしてこなかった分が来たんだ。」
にゃあ。
仕方ないよ。
越えられないのが普通なんだ。
そう簡単に強くなれる訳はない。
だから、助けられないのも無理はない。
どうあがいても出来ない事はあるのだ。
すると、それを聞いたキュリアがフィーを見る。
「じゃあさ。強くなりたい?」
「なりたい。当然だろう。」
「なら簡単だよん。強くなれば良いじゃない。」
「は? え?」
にゃにゃっ?
ど、どういう事なの?
そう簡単には強くなれないという話をしていた筈だ。
それなのに、その答えが強くなれば良い。
その答えに、俺達は理解が出来ない。
その反応を見たフィーが笑う。
「良い反応ありがとう。わざわざ来たかいがあったよん。」
「おい。一人で納得してないで説明をしろよっ。」
「あぁ、ごめんごめん。つまりね、にゃんすけちゃんと混ざれば良いんだよ。」
「にゃんすけと? まさか、心装の事か?」
「そうだよん。」
心装?
でも、出来るものなの?
装身の先にある力の事だ。
今すぐに強くなる唯一の方法。
しかし、フィーは否定する。
「心装と言われても、装身ですら半端な力なんだろう? そんな状況で出来るのか?」
「いいや、出来ないよん。だって、君の魔力核は一ミリも動いてないもん。心の源である魔力核が動いてない状況でどうやってくっつけば良いのさ。あははっ。」
楽しそうに笑い出すキュリア。
契約したものを纏うには、心同士が結びつく必要がある。
その心の源とは、魔力核の事。
それが動かなければ、纏いようもない。
それを聞いたフィーが怒る。
「おい! さっきと話が違うじゃないか! それに、私は魔科学道具を動かした事があるんだぞ。魔力核が動いてないと出来ない筈だ。なぁ? にゃんすけ。」
にゃっ。
カンテラの事だね。
確かに、動かしてたよ。
かつて動かしたカンテラの事だ。
本当に魔力核が動いてなければ、作動させる事は出来ない筈だ。
しかしキュリアは否定する。
「残念だけど。それは、フィーちゃんが今までに取り込んできた分の魔力だね。今はもう、使えなくなってる筈だよん。」
「そ、そうなのか?」
「そうだよん。」
そうなんだね。
改めて自分の手を見るフィー。
かつて動かしたのは、自分の魔力でのものじゃない。
それを聞いたフィーが落ち込む。
「しかし、それなら尚更分からん。そんな状況で、どうやって心装になれと言うのだ?」
「そうだね。確かに君の魔力核では不可能だよ。でも、持ってるよね? 他の魔力核。」
「他の魔力核? それって…。」
気づいたフィーが、荷物の中から複数の丸い玉を取り出す。
それらのものは、かつての旅で集めたものだ。
それを見たキュリアが驚く。
「わお。思ったより沢山あるね。びっくりだよ。」
「まぁ色々あってな。それで、これをどうするんだ?」
「えーとね。私がそれを魔法で一つにして、君の中に植え付ける。それで、その魔力核に、にゃんすけちゃんを結び付ける。それで完成だよん。」
自身の魔力核が動かないなら、他の魔力核を用意すれば良い。
つまり、擬似的な魔力核を作りあげるという事だ。
「それで出来るのか?」
「いいや。私がするのは、足りないピースを用意するだけ。あとは、君の…君達の覚悟次第かな。」
「私達の覚悟次第?」
俺達の覚悟次第?
魔力核を準備したからといって、すぐに出来るものではない。
それだけで出来るのなら、誰でも出来てしまうからだ。
必要なのは、なりたいという二人の覚悟だ。
「良いかい? 大事なのは、君達の心が一つになる事だよん。それも、とびきりのね。半端な心じゃくっつけない。でも、君達なら出来る。間違いなくね。それでどうする? やるの? やらないの?」
そう問われて顔を合わせるフィーと俺。
しかし、聞かれずとも答えは決まっている。
お互い頷き合うとキュリアを見る。
「頼む。私達に戦う力をくれ。」
「良い返事だよん。それじゃ、早速始めようか。」
ニヤリと笑うキュリア。
そうして、魔法の為の準備を始める。
「まずは、装身して地面に座ってね。後は、私がするから。」
「分かった。」
キュリアの言葉通りに、お面になった俺をフィーが被る。
そして地面に座ると、フィーを中心に魔法陣が浮かび上がる。
「さて、やるよん。」
その言葉と同時に、複数の魔力核が浮かび上がる。
まずは、これらをくっつけるのだろう。
その下で、フィーが目を瞑る。
「すまないな、にゃんすけ。最後まで情けない契約者で。」
ガタガタッ。
そんな事は無いよ。
誰よりも心強い契約者だよ。
ちょっとドジが過ぎるけどね。
「私では、ここまで来れなかった。全てにゃんすけのお陰だ。」
ガタガタッ。
こっちの台詞だよ。
フィーと一緒だから来れたんだ。
「それでも、守りたいものは沢山ある。どうか力を貸してくれ。」
ガタガタッ。
守りたいのは俺もだよ。
同じ道を歩いて来たもんね。
お互い心を交わす俺達。
考える事は同じ事だ。
同じ旅路を歩いたのだから当然だ。
すると、それを聞いたキュリアが笑う。
「ねぇフィーちゃん。さっき、私では何も出来ないって言ったよね? 本当にそうなのかな?」
「どういう事だ?」
「あははっ。これを聞けば分かるよん。」
そう言いながら、指を振るキュリア。
すると、どこからか声が聞こえてくる。
『こちら大陸の西! 魔物どもが止まりません!』
『こちらもです! 敵が多すぎる!』
それは、戦う者達の悲鳴の声だ。
どこの戦場も苦戦を強いられている。
その声に、フィーが疑問を持つ。
「これは?」
「各地の戦場との連絡だよ。私の魔法で聞き耳立ててるよん。」
これだけの戦場だ。
各地で連絡を取っているのは当然の事だ。
「それは分かったが、どうしてここで?」
「良いから。このまま聞いてて。」
「あ、あぁ。」
どういう事なの?
キュリアに促されるままに連絡を聞く俺達。
すると、その連絡に動きが出る。
『た、大変だ!』
『な、なんだ!』
『マ、マッチョが…マッチョの大群が魔物と戦い始めました!』
『はぁ? なに言ってやがる!』
それは、遠く離れた海に囲まれた場所の事だ。
マッチョの軍勢が、銛で魔物を狩っていく。
「今晩の飯は決まりだな。」
「お父さん、これ、食べるの?」
「まぁ、泳いでるんだから魚だろ。陸か空の違いだろ?」
「「それは違うと思う。」」
そうして再びマッチョが魔物を狩り始める。
その様子を、三人の女の子が眺める。
それを聞いたフィーが驚く。
「マッチョだと? まさか、ミランの父達か?」
きっとそうだよ!
というか、マッチョの村は一つで充分かな?
それは、漁師の村の住人達だ。
知らない筈がない。
その事に驚いていると、更なる動きが起こる。
『大変です!』
『今度はなんだ!』
『ハンターが…巫女を連れたハンターが魔物を狩り始めました!』
『何だと!』
それは、遠く離れた果物の畑に囲まれた場所の事だ。
空を飛ぶハンターが魔物達を狩っていく。
「俺達の縄張りに来るなんて、運が悪かったな。」
「良いぞ! リーダー!」
声援を受けたハンターが、背中の翼をたなびかせる。
その下では、真ん中をつなぎ合わせた銛を持った巫女服の少女が魔物を狩る。
その横には、小さい聖獣が吠える。
「私達も負けてられませんね。」
「気をつけて戦えよ。」
「ありがとうございます。さぁ、行きましょう。」
「ワン!」
そうして、陸と空で再び魔物を狩っていく。
それを聞いたフィーが驚く。
「巫女とハンター? ユリーシャとフォル達か!」
だね!
でも、ユリーシャが戦ってるの?
今度は果物の村の巫女とハンター達だ。
その者達もまた、同じくフィーの友だ。
すると、更なる動きが起こる。
『大変です! こ、こっちでも異常が!』
『次は何だっ。』
『数人の剣を持った少年少女が乱入しました!』
『少年少女? 子供か?』
それは、獣が蔓延る森から離れた場所だ。
そこから現れた少年少女が武器を振るう。
「この体が霊体だなんて驚きだよね。」
「でも、戦えるだけで充分だよ。」
「確かに、人の姿になったばかりだからな。」
「うん。お陰で村を守れるね。」
「だな。早いことかたしちまおうぜ。ほら、着いてこれるか?」
そう言って、一人の少年が後ろを向く。
すると、そこにいる少女が反応する。
「大丈夫だよ。って、いつまでも子供扱いしないでよっ!」
「ははっ、すまんすまん。んじゃ、行くぜ! 師匠達が待ってるからな。」
「うん。お姉ちゃんも昼ご飯を用意してるって。」
「お? そりゃ、楽しみだ。」
そう言いながら、圧倒的な剣技で魔物を狩っていく。
それを聞いたフィーが驚く。
「フォリアとドーセン達! 元の姿に戻ったんだな!」
良かった!
これでまた一緒に野菜を食べれるね。
今度は呪いの村で出会った兄弟弟子達だ。
その者達もまた、同じくフィーの友だ。
すると、また新たな動きが起こる。
『大変です! こっちでも援軍が!』
『次はどこのどいつだっ!』
『闘技場の戦士達です! なぜか牧場から来ましたが。』
そこは、大陸有数の大きな牧場がある場所だ。
そこから王都への道に、沢山の戦士達が現れる。
その上空には、大量のドラゴンの子供達が飛んでいる。
「悪いね。わざわざ助けに来てくれて。」
「大事なお得意様だからな。気にするな。それに、闘技場に出す魔物も探していてな。」
「ついでって事? 中々商売が分かって来たね。」
「ココルがそれを言うのか?」
そう言いながらも、牧場を襲う魔物を狩っていく。
その上空では、ドラゴンの子達が魔物を焼いていく。
それを聞いたフィーが驚く。
「バレットか! 牧場という事は、ウィロ達もいるのか?」
たぶんね。
本当なら心強いね!
今度は、共に競い合った戦士達だ。
戦い慣れた動きで、魔物達を狩っていく。
誰もがフィーと出会い友となった者達だ。
その者達が、大陸を襲う魔物達を倒していく。
それを聞いていたキュリアが優しく笑う。
「分かるかい? 皆、君達が助けてきた人達だよね? その人達が、こうして大陸の危機を救っている。これでも、何も出来ないって言うのかい?」
フィーと俺が出会って助けた者達。
そうして、友となった者達だ。
それがなければ、今頃どうなっていたのか分からない。
「君の友は戦っているよん。じゃあ君はどうする?」
「そうだな。皆が戦っているのに、グダグダ言ってる場合じゃ無いな。」
だね。
俺達も続かないとだよね。
友の活躍に勇気が湧いてくる。
自分は一人じゃないと教えてくれる。
そうしている間にも、キュリアが魔力核を完成させる。
「魔力核完成。フィーちゃんとも同調させたよん。後は、これを埋め込むだけ。準備は良いかい?」
「頼む!」
ガタッ!
いつでも良いよ!
魔力核の準備は完了だ。
後は、お互いの覚悟だけ。
「友と一緒に戦い守る。いつだって変わらない。それが私の覚悟だ。にゃんすけ、私と一緒に戦ってくれ!」
ガタッ!
勿論!
一緒にだよね!
今までと変わらない、揺るぎない覚悟。
フィーを動かすのは、いつだって友の存在。
「それじゃ、行ってこいっ!」
そう言って、フィーへと魔力核を埋め込むキュリア。
すると、激しい魔力がフィーの体から溢れ出る。
そして、魔力核がお互いの覚悟を結び付ける。
「カミーユ、あの時の約束を果たす。待っていろ。」
もう一度、自分の手を見るフィー。
今度は、揺るぎない覚悟でそれを見る。
そうして、溢れる魔力が収まっていく。
「そして、今度こそ。」
そして、その手で頭のお面を顔へとずらす。
直後、お面の目が見開き赤い隈が浮かび上がる。